目を開けると視界に映ったのは見たことのない空間だった。辺りを見渡すと、地面が水になっている。それ以外何もない。
「ここは……どこだ?」
もちろんラテンの問いに答えてくれる者はいない。仕方なく歩いていると、不意に後ろに何かが出現する気配が感じられた。とっさに後ろを振り向くと、そこにいたのは刀だった。正確に言うとラテンの刀だ。
警戒しながらその刀に近づいていくと、透明感のある高い声が耳に入りこんだ。
『お前がおれっちの主か?』
「……へっ?」
声の主を探すためにもう一度辺りを見渡すが、相変わらず何もない。ということはラテンの前にいる刀がしゃべったということになる。
「……お前はだれだ?」
『……はあ、これだから素人は。おれっちはお前の武器だ。正確に言うとお前の武器になったものだ』
「お前が俺の……武器?」
『そうだ。ところでお前の名前はなんだ?』
「お、おれ?俺の名前は……ラテンだ」
一瞬現実世界の名前を出そうかと思ったが、おそらくここはゲームの中なので、プレイヤーネームの方がいいだろう。だが、信じられるだろうか。目の前にあるさっきまで自分の手にあった武器がいきなりしゃべりだすなんてことを。
『じゃあ話を進めるぞ。ここは―――』
「ちょ、ちょっと待って。なんで俺がこんなところにお前と一緒にいるんだ?というか、さっき結構失礼なことを言われた気がするんだけど」
『気にするな。というかそのお前お前って言うの止めろ。おれっちにはちゃんとした名前がある。』
「ふーん。なんていうんだ?」
『おれっちの名前は……』
「………」
『………』
「………」
『……ジョージ二十三世』
「無理しなくていいよ!?というかジョージ二十三世て。かっこいいのを考えてたつもりなのかもしれないけど、全然かっこよくないよ!?」
目の前にいるこいつはラテンと同じくバカなのかもしれない。案外気が合いそうな気がしないでもないラテンであった。
『う、うるしゃい!い、今のはあだ名だ!おれっちにはもっとこうかっこいい名前が』
ジョージ二十三世があだ名の時点で突っ込みたいのだが、このままでは延々に続くだろう。早く本題に入らなければならない。
「わ、わかったって。そんなことよりここは一体どこなんだ?」
『…ここはおれっちの精神世界だ』
「精神世界?」
『そうだ。この場にはおれっちとお前しかいない』
「さっきも聞いたけど、なんで俺がお前とここにいるんだ?」
『お前の耳は節穴か?それはおれっちの主がお前に決まったからだって』
「ほかの武器もこんなことできるのか?」
『いやできない。おれっちとお前が特別なだけ』
「なんで俺が選ばれたんだよ」
『創世の神ステイシア様が選んだんだ。何故かは知らないけど』
「ここの世界ってゲームの中だよね?」
『げーむ?なんだそれ。おいしいのか?』
「人によってはおいしいだろうな」
なんとか誤魔化した。それにしても、一つわかったことがある。それは、目の前にいるこいつがこの世界をゲームの中だと認識していない、すなわちゲームの仕様である可能性が高い。ならば、ラテンは運が良かったのかもしれない。
「なあ、お前を知っている人っているのか?」
『おれっちのことを知っているのはステイシア様とお前だけだ。ほかの人間はおれっちのことは知らない』
ラテンとステイシア様しか知らない。つまり、この世界の管理者はこの武器を知らないということになる。となると、ステイシア様がこの世界の管理者なのか。だが、ステイシア様はこの世界の住人にとっての神で、存在するかどうかも怪しい。まったく、訳が分からない。だが、
(考えても仕方がない、か)
「なあ、とりあえず俺をここから出してくれ」
『わかった。……でもこれだけは言っておくぞ。ステイシア様はお前を選んだ。おれっちもだ。しかし、もしもおれっちにとってお前が主として相応しくないと思えば、おれっちはお前を見捨てるからな』
「……了解」
『じゃあ、またな』
ラテンは渋々了解すると、透明感のある高い声が返された。そしてそれと同時にラテンの視界が白に染まっていく。それが、すべてを覆い尽くすとラテンの視界が真っ暗になった。
「………ン……」
「ラ…ン…!」
「ラテン!」
「うわっ!?」
「ぐふぉ!」
慌てて頭をあげると同時におでこに鋭い痛みが発生する。思わず両手で押さえると、隣で同じく両手でおでこをおさえて悶絶している黒髪の少年が視界に映った。それに加え、その隣から安堵の声が聞こえる。
「大丈夫かい、ラテン」
「あ、ああ。ユージオとキリトか」
辺りを見渡すとさっきまでの空間と違い、見慣れた家具が置いてあった。そう。ここはラテンの自室だ。おそらく、倒れてからここに運び出されたのだろう。
しばらくぼーっとしていると、何かに気が付いたようにラテンが辺りを見渡す。刀を探しているのだ。自分の周りにないことを確認すると、ユージオに口を開いた。
「なあ、俺の刀はどこだ?」
「この部屋に持ってきたよ。ラテンの刀…だと思うけど」
ユージオがそう言いながらラテンの頭の上を指さす。ラテンはきょとんとしながら右手を頭の上に移動すると、何か柔らかいものに触れた感触がした。
「なんだ…これ?」
ラテンは頭の上にあったものを掴み、目の前に持ってくる。そこにあったのは、手のひらサイズの黄金色の丸いボディに四本の手足。顔は十字架で、おでこのあたりに角が生えている。天使のような翼を持ち、巻き毛のようなしっぽを持った生物。この生物はなんかの動物に例えるとするならば、と言われれば答えることができない。それぐらい奇妙な生物なのだ。
「ラテンがリーバンテイン修剣士との立ち合いの後倒れたでしょ?その時に、刀が光を発してこの姿に変形したんだよ」
「……まじかよ」
手のひらにいる謎の生物。だが、さわり心地はよく思わず強く握ってみたら、スライムみたいに形が変化するが手を放すと元通りになる。しばらくそれをやっていると、急に体の二倍ぐらいある天使の翼をはばたかせ、ラテンの手から逃れると今度はユージオの頭の上に乗った。
それと同時にようやく痛みが取れたのか、キリトが顔をあげ口を開く。
「まあ、なにがともあれラテンに私用の剣ができたんだ。よかったじゃん」
「まあな。でも、こいつ一体何者なんだよ…」
『おれっちのことをもう忘れたのか。これだから素人は』
「「「!?」」」
三人の視線が謎の生物に集中する。ユージオに至っては、謎の生物が視界に入ってはいないが。
「おい……今しゃべったか?」
『ほんと忘れたのか?おれっちだよ、おれっち!』
「……ラテン、知り合いか?」
「……この声はどこかで聞いたことがある。……あっ!」
そう。この透明感のある高い声。これは先ほどラテンがいた空間で喋っていた刀の声と同じものだった。
『まったく。失礼なやつー』
「お前なんでここに?」
『だから、言ったじゃんかよー。おれっちはお前の武器だって』
「………」
どうやら、あの空間でラテンの刀が言っていたことは本当のことったらしい。まあ、でもそんなことよりも気になることがあるのだが。
「……なあ、お前って刀になれんの?」
『当たり前じゃん!』
謎の生物はそう言って再びラテンの手のひらの上に着地した。そして、次の瞬間その生物が光を発しながら形を形成していく。それが、どんどん細長くなり光が消え去るとラテンの手の上には、リーバンテイン修剣士との立ち合いで出現した刀が出てきた。銀の装飾に黒い鞘。ラテンはそこから、刀を抜刀する。
鞘から現れたのは、あの時と同じような金色の刀身を持った刀だった。その刀身にはエメラルドグリーンの光をわずかに発しながら文字が刻まれている。
キリトとユージオの二人からは「おお」という感嘆の声が漏れた。
「……あれ?ラテン、刀身に文字が刻まれてるよ」
「え、まじ?……本当だ」
「うーん。見たところ神聖文字っぽくないな」
キリトが難しい顔で文字をのぞき込む。だが、わからないらしい。これについてはパッと見ラテンにもわからない。ということは優等生のユージオに頼むしかなさそうだ。
「ユージオ、読めるか?」
「…これ、古代の神聖文字だよ。だから、キリトにもラテンにも読めないんだと思う」
「「古代の神聖文字?」」
「そう。この文字は今ではもう使われてないから、めったに見られないんだ。前に本で見たことがあるけど、読めるかなあ」
ユージオは再び一文字ずつじっと見始めた。ラテンとキリトは固唾をのんで見守っている。やがて、ユージオが「たぶんわかった」と言った瞬間、ユージオに顔を向ける。キリトはなんて書いてあるか楽しみなようで、ユージオに口を開いた。
「それで、なんて書いてあるんだ?」
「えーっと、こっち側には『悪を見極め正義を救済せよ』。反対側には『正義を見極め悪を救済せよ』って書いてあるよ」
「……矛盾してない?」
「確かに」
これでは正義を救済すればいいのか、悪を救済すればいいのかわからない。とりあえず納刀すると、刀が再び謎の生物に変形した。
『お前おれっちの主なのにこんなこともわかんないのー?』
「……わるかったな」
『しょうがねえなー。…その意味は簡単に言うと、《何事でも最善の結果になるように見極めろ》ってことだ。』
「わかりやすい説明どうも」
謎の生物はどこかドヤ顔をしているようにも見える。そんな中、キリトが口を開いた。
「なあ、そういえばこいつの名前ってなんなんだ?」
「それがさ、こいつには名前がないんだよ」
「じゃあ、今からつける?僕は手伝うよ」
「おもしろそうだし俺も手伝ってやるよ」
「本当か?助かるよ」
三人は考え始める。
(うーん。可愛い名前の方がいいのか?それともかっこいいの?)
謎の生物はかっこいい名前のほうがいいとおもっているようだが、あの容姿じゃどちらかというと可愛いに分類する。
(リン…違うな……イズミ……ピン子……)
後半は誰かの名前だった気がするが気にしないでおこう。
もうしばらく考えてると、急に頭に一つの名前が浮かび上がった。
「ジャビ……じゃだめか?」
「ジャビ?どうしてだい?」
「正義のjusutice(ジャスティス)と悪のvillain(ヴィラン)の頭をとってジャヴィ。でも、なんか言いにくいからジャビだ。どうだ?」
「なんか後半適当だな」
「そこは気にするなって」
「正義と悪って、ジャスティスとヴィランっていうのかい?」
「あ、いや。これは俺達の故郷の言葉なんだ。な、なあ、キリト?」
「そ、そう。俺達の故郷の言葉だ。アインクラッド流の極意でもあるから覚えておけよ?」
うそつけ!と突っ込みそうになったが、これ以上続けたらこちらがどんどん不利になっていく。そして、何故かユージオはそれを疑いもしないで納得してしまった。普段はまじめだが時々天然なところがあって本当に助かる。
するとジャビが嬉しそうな声色で、声を発した。
『ジャビか。気に入った!おれっちのことはジャビって呼んでくれ』
「これからよろしくなジャビ」
「「よろしく」」
「おう!」
ジャビは元気よく口を開いた。気に入ってくれたようなのでよしとしよう。だが、ラテンにはまだ疑問に思うことがある。
「ジャビ、もう一度刀になってくれないか?」
ジャビはラテンの指示を聞くと、再び光を発しながら刀の姿に変形する。刀になったジャビに右手の指二本でモーション・コマンドを入力。刀の柄頭をタップすると、鈴のような音と共にプロパティ・ウインドウが浮き上がる。
表示されている優先度は―――〖Class 49〗
「えーと、クラス四十…九……」
「「………」」
しばらくの沈黙、それを破ったのはラテンだった。
「四十九!!?」
「「ええええええ!!?」」」
ランク四十九。それは青薔薇の剣よりも4、キリトの剣よりも3高いランクの武器だ。すなわち、ラテンの武器もまた神器だということだ。仮にランク40以上の武器が神器だとすると、ラテンの刀は上位に分類されるほど高いものだ。
『お前らおれっちをなんだと思ってたわけ?』
いつの間に変形していたのか、ジャビがあきれたような声音で声を発した。ラテンは唖然としながら、ジャビの方へ顔を向ける。
「いや、でもさすがに四十九とは思わねえよ」
「……ラテンはアズリカ女史のところへ行くの?」
「ああ。だって学院則違反はしたくねえからな。二人とも、今日はありがとうな」
「気にすんなって。俺とお前の仲だろ?」
「僕はいつでも力になるよ」
ラテンは二人に微笑みかけると「ジャビ、行くぞ」と言って部屋を出ていった。
絶対一回目の方ができがいいです。この二倍以上は確実にいいです。
実はこれは二回目なんですよ。四時間かけて書いたのにエラってすべて消えてしまいました。発狂しそうになりましたよ(笑)
ラテンの武器の設定説明します。優先度は今回が第四十九話目でしたのでそのままぶっこみました。
ラテンの刀《???》/謎の生物《ジャビ》
優先度/49
金色の刀身を持ち、その周りを銀色の刃と峰が覆っている。刀身には『悪を見極め正義を救済せよ』、『正義を見極め悪を救済せよ』と刻まれている。ジャビ曰く、『何事にも最善の結果になるように見極めろ』という意味らしい。
この刀の性能はラテンの思いに左右される。
ラテンがそいつを殺したいと思えば、刀の刃はそいつを殺すことができる。ラテンがそいつを殺したいと思わなければ、刀の刃はそいつを殺すことができない。ただし天命は減る。
まだこんな感じですかね。もちっと能力があるのでそれは作中に出てからあとがきで説明したいと思います。
ちなみにジャビに容姿はディーグレイマンのティムキャンピーみたいな感じです。ティムキャンピーだと思ってくれていいです(笑)