ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第七話 ザッカリア剣術大会~②

 

 

 

 ザッカリア教会の《時告げの鐘》が高らかに鳴ると同時に、観客席からひときわ大きな歓声が轟いた。

 

 拍手とケムリ草の破裂音が降り注ぐ中、五十七人の大会参加者は二列になって試合会場に歩いていく。途中で西ブロックの選手と東ブロックの選手に分かれ、舞台上に立った。

 

「これから、剣術大会を始める。ここに集まった勇敢な諸君よ。思う存分自らの力を振るいたまえ。諸君の活躍を心から祈っている」

 

 ザッカリアの現領主であるケルガム・ザッカライトが開会宣言をすると再び試合会場は大きな歓声に包まれる。

 

 大会本番といっても、今から行われるのは予選だ。くじで決まった順番通りに、東西で一人ずつ舞台に上がり指定された剣技の《型》を披露していく。

 

 ラテンはもともと剣道をやっていたため、型などは簡単に覚えることができた。だが、そこから東西合わせて十六人が選ばれ、トーナメント方式の勝ち抜き戦を行うのがこの大会の醍醐味であり、おそらく観客のほとんどはその勝ち抜き戦を楽しみにしている。つまり、予選である《型》の披露はこの大会を盛り上げるものの一部にすぎず、一番きれいな型でも本選で勝たなければ意味がないということだ。

 

 少しばかり型の順番を整理していると、ラテンの番号が呼び出される。緊張感のない足取りで舞台上に立つと、大きく一礼をする。そしてすぐさま支給された剣を抜剣した。

 一つ一つ、お手本通りにきっちりこなすと、ひときわ大きな歓声と拍手が会場に響き渡る。

手応え的には予選を通過できたような気がする。観覧席や審査員席にもう一度礼をすると舞台を降りた。

 

「さすがだな、ラテン。お前とは決勝で当たりそうな気がするぜ」

 

「……案外初戦かもしれないぜ?」

 

 キリトとラテン。この二人はまるでもう予選突破が決まったかのような口ぶりで一言かわした。

 予選はさらに一時間ほど続き、午後二時の鐘が鳴ると同時に終了した。選手が再び整列し、審査員の代表者が本戦出場者の名前と番号を読み上げていく。

ユージオもキリトもラテンも名前が呼ばれ、本選に進むことが許された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後三時の鐘が鳴るのと同時に、客席の一角に並ぶ楽団が勇壮な行進曲を響かせ、本選の開始を告げる。

 ラテン、キリト、ユージオの三人は待機所の椅子から勢いよく立ち上がると、お互いの拳をぶつけた。

 ここまで来たら、決勝に行くしかない。

 ラテンは一歩一歩踏みしめて、西の舞台に上がっていく。一人の衛兵が巨大な常用紙が貼られた立て板を審査員用天幕の隣に運び出した。そこには、勝ち抜き式本戦の組み合わせが汎用文字で記されている。

 

 ラテンは自分の名前とキリトの名前を確認した瞬間、少々安堵する。組み合わせ的に二人は決勝でしか当たらないのだ。

 本戦参加者が大きく一礼すると、一回戦の一試合目人物がその場に残る。もちろん、ラテンは第一試合なのでその場に残った。

 

 ラテンの第一試合の相手はなかなかの巨漢な男で、手に持っているクラス10の剣がオモチャに見えるのはラテンだけではないかもしれない。

 だが、剣技というのは体の大きさで勝敗が左右するものではない。多少は有利不利があるかもしれないが、その分は他で補えばいい。例えばラテンの場合、剣の威力が相手よりも弱かったときその剣を速く振れば加速分が威力に変わり、不利な状況を打破できる。

 ラテンは抜剣し剣尖を地面すれすれまで落とした。観覧席や審査員席から少しのどよめきが聞こえてくる。それもそうだ。ラテンの構え方は明らかに試合を放棄したかのようだったからだ。

 巨漢の男がふっと一瞬笑うと、剣を構える。審査員が「始めっ!」と叫んだ瞬間、巨漢の男が地を蹴った。

 

「やああああああ!!!」

 

 審査員が息をのむ。

もちろん奇襲による寸止めは、ルール違反ではない。あまり褒められた行為でもないが。

 巨漢の男がラテンと一メートルほどの距離に差し掛かった瞬間、笑みを浮かべる。それは勝利を確信する笑みだ。ラテンもそれを笑みで返す。

 巨漢の男の剣がラテンの元へ振り下ろされた瞬間、会場全体がシーンと静まり返るのがわかった。自分の命運がかかっているというのに、まだ始まっていない東ブロックの第一試合の選手たちも息をのんで見守っているのがわかる。

 

 剣が振り下ろされた。もっとも、寸止めをしなければいけないのがルールだが巨漢の男は寸止めをしなかった。いや。できなかった(、、、、、、)のだ。代わりに巨漢の 男の首筋に剣が向けられている。巨漢の男は持っていた剣を落とした。それと同時に、会場が少しのどよめきの後、大きな歓声と拍手に包まれる。審判の人はまだ何が起きたのか整理できていなかったようだ。

 

「審判の人。ジャッジお願いできますか?」

 

「えっ?あ、ああ。い、一回戦、勝者。サイリス村出身のラテン!」

 

 ラテンは一礼すると舞台を降りた。キリトの隣に並ぶとキリトが小声で声をかけてくる。

 

「お前、あいつを油断させて剣の軌道をわかりやすくするために、あんな風に構えただろ?」

 

「ご名答。最初から勝利を確信して油断してる奴なんて、俺にとっては朝飯前だ」

 

 

 それから二回戦が始まったが、ラテンはこれもあっさり勝ってしまうと三回戦、つまり決勝戦にコマを進めた。

 キリトの相手はというと二回戦に戦ったやつが不正をして、剣のランクが5も高い剣を使っていたようだが、その剣もキリトの二連撃技<スネークバイト>によっていとも簡単に折れてしまった。

 

(ランクが5も違うというのによくやるよな、あいつ)

 

 そして、三回戦。ラテンとキリトが対峙した。泣いても笑ってもこれでザッカリア衛兵隊に入る者が決まる。東ブロックはついさっき終わったようで、見事にユージオが東ブロックを制覇した。

 

「お前と戦うのはこれで二回目だな。まあ、今回も勝たせてもらうけど」

 

「悪いがそれはできないぜ。今回は片手剣勝負だからな」

 

「いっとけ」

 

 ラテンがふっと笑うと抜剣し今度はしっかりと構える。少しでも油断していたら、負けるからだ。それはキリトも思っていたのか、キリトもALOの時とまったく同じように構える。

 

 会場全体が息をのんだ。審査員たちもこの試合の結果が気になるようで、腰が少しばかり浮いている。

 審判が二人の顔を見て、準備が整ったと察したのか大きく息を吸った。

 

「西ブロック決勝戦、始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は同時に地を蹴ると剣を振るう。ラテンは斜め上から、キリトは斜め下から振った剣は空中でぶつかり合い、火花と共に甲高い金属音が会場に鳴り響いた。

 

 ラテンは右回りをし、回転の勢いを使って水平切りをする。キリトに勝つ方法。それは、寸止めみたいな遊びのような方法ではダメだ。相手に当てるつもりで剣を振るわなければならない。それこそ、キリトの持っている剣が吹き飛ぶほどに。

 

 キリトはその斬撃を力いっぱい受け止めると、そのまま鍔迫り合いに持ち出した。ラテンとキリトの剣からキリキリと金属がこすれ合う音が聞こえてくる。

 

「……さすがに今のじゃ無理か」

 

「惜しかったけど、なっ!」

 

 キリトが思い切り押し出し、体勢が崩れたラテンに斬りかかる。ラテンはそれを防御しながら反撃のチャンスをうかがっていた。二人がソードスキルを使わないのは、二人が持っている剣では連撃数が多い大技を出せないということと、お互いにレベルが低いソードスキルに関しては軌道がわかっているということがあるからだ。

 

 もはや、型を使った攻防がしばらく変わらないセオリーのような戦い方ではなく、剣士同士あるいは騎士同士が戦場で戦っているようだった。観客はこんなハイレベルな戦いを待ち望んでいたのか、歓声が今までにないくらい大きくなっていく。

 審査員も衛士ではない二人がここまでの試合をするとは思っていなく、固唾をのんで見守っていた。

 

「しかし、片手剣しか使っちゃいけないなんて。……ルールを変えてほしいぜまったく」

 

「鞘を使う気か?残念ながら、今の俺達には鞘なんてないぜ?」

 

 大会のルールには支給された片手剣以外は使ってはならないと書いてある。そこで疑問に思うのは<鞘は武器に含まれるのか>ということだ。もし仮に鞘が武器にカウントされないのであればラテンは思う存分鞘を有効活用しただろう。まあ、鞘が武器なのか武器ではないかという以前に、鞘なんて支給さえされていないから考えても無駄なのだが……。

 

 ラテンは思い切り押し返すと、大きくバックステップをとった。二人とも上がり切った呼吸を整える。

 

 このまま続けば間違いなく負けるのはラテンだ。もちろん速さではラテンが優っている。だが、反応速度ではキリトの方が上だ。それでお互いの長所が相殺されるとなると

勝敗を決するのは剣の技術になる。もっと砕いて言うと<片手剣の技術>だ。

 

 これが刀の技術ならラテンが勝っているはずだ。なぜならキリトは一回も刀を使ったことがないからだ。しかし、今のラテンが片手剣のスペシャリストともいえるキリトと互角に戦えるのは、持ち前の速さもそうだが、少なからず片手剣を使ったことがあるからである。

 

 だがそれは長く続くほどラテンが不利になってくる。なぜなら、完全には慣れていない片手剣の攻撃選択数は限られているからである。攻撃範囲はその武器を熟知し、使いこなすほど広がってくる。その結果、たくさんの攻撃パターンが生まれるのだ。その範囲が狭いラテンは、剣を交わすほどクセを見抜かれ反撃される。キリトというプレイヤーはそういうプレイヤーなのだ。相手のくせがわかった瞬間ほど、自分が有利に立ったという気持ちにならないだろう。まあ、ユウキのようにゲーム内の限界スピードを超えるような、ありえない反応速度を持つプレイヤーは例外だが。

 

 結論を言うと、反撃覚悟で多少望みがあるソードスキルを使うということしか勝ち目がないということだ。

 

「……しょーがないか」

 

「………!」

 

 キリトはラテンが何をやろうとしているのか理解したらしい。目で「こいよ」と誘っている。ラテンは少々イラッときたが、「見てろよ」と言っているかのような視線をキリトに向ける。キリトが笑みを浮かべると、ラテンもそれを返すように笑みを浮かべた。

 会場の歓声が途切れた瞬間、二人は同時に地を蹴る。

 

「「うおおおおおお!!!!」」

 

 ラテンの剣が緑色の光を放つ。片手剣突進技<ソニックリープ>。

 同時にキリトの剣が水色の光を放った。片手剣突進技<レイジスパイク>。

 

 力の量はほぼ同じでも、力の伝え方はキリトの方がうまい。すなわちキリトはラテンの剣をはじいて、そのままとどめを刺すつもりだ。

 だが、ラテンもそう簡単に負けるわけにはいかない。振り下ろされる剣の柄にそっと左手を添える。両手になるだけでも、威力違ってくるだろう。

 

 緑の閃光と水色の閃光。観客も審査員も、そして審判までもがこの戦いの結末を固唾をのんで見守っていた。

 ラテンとキリトの剣がぶつかる。キィン!!という澄んだ音が、試合会場の壁を越えてザッカリア市街の隅々まで届かんばかりに響き渡った。

 

 ラテンとキリトがほぼ同時にお互いの体に寸止めで剣を止める。だが、二人の剣は鍔から十センチほどしかない。二人が目を見開くのと同時に、二つの剣の刀身が地面に突き刺さった。そう。二人の技に剣が耐え切れず、折れてしまったのだ。

 

 会場がシーンと静まり返る。審判もそれを見た瞬間どうジャッジすればいいか、困っているようだ。観客にどよめきが走る。折れたのはほぼ同時。その差を見られるものは、それこそ神だけだろう。

 ラテンもキリトもとりあえず剣を下ろし、審査員の方へ視線を向けている。

ここまで来たら、後は運任せかもしれない。

 ラテンはふとそう思ってしまう。審査員たちは真剣に話していると、ついに何かを決めたように、二人に顔を向ける。すると、ザッカリア現領主であるケルガム・ザッカライトが大きく息を吸い込み、口を開いた。

 

「ザッカリアの民よ、並びにここに来てくださった皆様。ただいまの試合結果を発表します。ただいまの試合は大変異例ですが、引き分けとさせていただきます。このことに関しては前例があるため、西ブロック決勝で戦った二人は同時優勝にさせていただき、今年ザッカリア衛兵隊に配属されるのは、ルーリッド村のユージオ、同じくルーリッド村のキリト、そしてサイリス村のラテンの三人とさせていただきます!」

 

 領主が言い終えると会場中から盛大な拍手と歓声が響き渡った。口笛もいくつか聞こえてくる。

 

「……まあ、今回はちゃんとした剣でやってたら俺の負けかもな」

 

「そうか?お前最後、反撃する気満々だったじゃん」

 

「あれははじかれなかったからだよっと」

 

 二人は拳をぶつけ合う。結果は引き分けに終わったが、これで二人、ユージオを入れた三人はザッカリア衛兵隊に入団できる。

 

 神様は俺達に味方してくれたんだろうか、と不覚にも思ってしまう。

 

 

 

ラテンやキリト、そしてユージオの三人の物語はまだまだ続いていく。

 

 

 

 

 

 






なんか最後、最終回っぽい終わり方になってしまいましたが、全然最終回ではありません(笑)

まあ簡単に言えば節目ですかね?

意見や感想があったらどんどんください!待ってます!

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