ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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更新遅くなりました、すいません!
ちょっといろいろ、ありまして…。
これからは、普通に更新できると思います。





第十四話 幸運の先

三月十七日。

 

天理は倉橋先生からの呼び出しによって、横浜港北総合病院に足を運んでいた。

 

ユウキとの結婚から、すでに三日が経過している。

ホワイトデーに結婚したラテンとユウキは、次の日にいつものメンバーに報告をしたのだが、その時は予想通り騒然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ィ!?けっこんんんん!?」

 

「どっ、どういうことォォォォ!?

 

二十二層にあるキリトとアスナのログハウス。その場は、いろいろな意味で盛り上がっていた。

今、この場にいるのは、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、リーファというお馴染みのメンバーに加え、スリーピングナイツのギルドメンバーが訪れていた。

 

ラテンとユウキの結婚報告が終わるや否や、ほぼ同時に取り乱したのは、武士道を貫く刀使いのクライン、そしてラテンの妹であるコトネだ。

 

「いや、どうもこうも、俺達<結婚>したんだって。これで三回目だぞ。同じセリフ言うの」

 

「うわああああああああ」

 

ラテンの言葉を聞くな否や、フライの膝に泣き崩れるコトネ。その頭をフライが撫でている。

そもそも、そこまで取り乱す必要はないのでは?と思うラテンであったが、琴音のほかにも曲者は存在する。

 

「ラテンよ~、ラテン語よ~。なんでだよ~。俺達ぁ、あの日誓い合ったじゃねぇかよ~」

 

「いや、誓い合ってねぇし!てか、名前を言い直すな~!」

 

ラテンの腰にしがみつくクラインの頬を両手で引っぱりはじめる。

対するクラインは「なにお~」と言って、負けじとラテンの頬を引っぱり始めた。

 

くだらない争いをしている、ラテンにあきれた様子のリズが声をかけた。

 

「あんたら、ホモなの?」

 

「ちゃうわ!」

 

「ラテン語~!!」

 

「お前はいい加減に離れろ!」

 

「はぁ~」

 

リズは未だに止めないラテンとクラインの頭にチョップをかますと、づるづるとソファーの前に引きずり込んだ。

 

一方アスナたちは、ラテンとクラインを気にも留めずに、ユウキに祝福の言葉をかけている。

 

「おめでとうユウキ」

 

「ありがとうアスナ!」

 

「まだゲーム内だけど、あの時のことが現実になりそうだね♪」

 

「ふぇ!?」

 

「あの時のこと?いったい何なのユウキ。教えてくれない?」

 

「えーと、その……」

 

アスナの言葉に気が動転するユウキは、顔を真っ赤にしている。

もちろん、内心腹黒そうな、スリーピングナイツのメンバー、水妖精族のシウネーが、気にならないわけがなく、さらにユウキは顔を赤らめる。

そんなユウキにアスナや、シウネーが耳元でごにょごにょ何かを囁くと、ぼんっ、と音を立てて上半身がふらふらし始める。

時々ラテンの顔を見るが、瞬時に顔を背け、顔を手で覆い隠している。

取り乱しているユウキにかまわず、ラテンはまた襲ってきたクラインに応戦し始めた。

 

一方、ラテン、クライン以外の男子組は、気にせずに料理をほおばっている。

他人の祝い事に出された料理を躊躇なく……。

 

「なんで、ただ結婚報告しただけなのに、こんなに騒がしくなるんだ!」

 

「「「あんたのせいだろ!!」」」

 

「へっ?」

 

ラテンとユウキ以外が盛大に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、なんか恥ずかしくなっていた……」

 

「どうかしたのかい?」

 

「うわ!?……あ、倉橋先生。こ、こんにちわ」

 

倉橋先生は一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべたが、「こんにちわ」と天理のあいさつを返すと、天理と共に階段を登りはじめた。

しかし、こんな忙しい休日に天理を呼ぶということは、重要なことがあるかもしれない。

天理は頭に浮かんだ、疑問を倉橋先生に投げかける。

 

「倉橋先生。今日、俺を呼んだってことは……」

 

「うん、君が思っている通りだよ。木綿季くんに抗生剤のことを話す」

 

「そうですか……」

 

数日前に帰ってきたばかりの祖母に呼ばれた天理。その話の中に、<薬剤耐性型のAIDS>の抗生剤を開発したというものがあった。

この、数日間患者には極秘で投与していたのだ。その患者が紺野木綿季。

これから、抗生剤のことを話すために、この場に天理を呼んだのだ。

しかし、天理には少し気になることがあった。

それは、木綿季の<容態>だ。

 

「倉橋先生。木綿季の容態はどうなんですか」

 

「……順調に回復しているよ。本人は、ほとんどこっちの世界に戻ってはこないし、ましてや現実世界の体に意識を戻していないから、まだ知らないはずだけどね」

 

倉橋先生は少し微笑んだ。

その微笑みからは、本気で木綿季がよくなってよかった、という言葉が感じられた。

 

それから少しすると厳重にされた扉が現れ、何枚かくぐると黒いガラスが見えてきた。相変わらず中の様子はわからない。だが、木綿季はここにいる。

倉橋先生がガラスの隣にあるパネルを操作すると、大きな扉のロックが音を立てて解除される。

 

中には、おびただしい数の機械があり、その中央にはベットが置いてある。

倉橋先生はベットの横に移動すると、天理も後に続く。

すると、機械に埋め尽くされた大きな部屋に、声が響いた。

 

『倉橋先生?それにラテンも……』

 

「木綿季くん、ちょうどよかった。時間をいただけるかな?」

 

『は、はい』

 

何が何だかわからない様子のユウキであったが、倉橋先生と天理が一緒に来たので、すぐに動揺を立て直す。

 

「今からね、木綿季くんにとって、とても大事なことを言わなければならないんだ」

 

『………』

 

ユウキは倉橋先生の言葉に無言で返した。おそらく、自分の残された時間について伝えられると思ったのだろう。

この部屋に緊張が張り詰めた。

 

「実は木綿季くんには、黙っていたことがあったんだ」

 

『はい』

 

「君の病気……AIDSのことなんだけどね、院長が帰って来てから数日間君に、薬を投与していたんだ」

 

『くすり……?』

 

「そう。その薬のが、<薬剤耐性型AIDS>の<抗生剤>なんだ}

 

『……え?それって……』

 

「そう、君が思っている通りだよ。君の病気は徐々に回復している。このままいけば、四月には、リハビリに入れると思うよ」

 

「よかったな。木綿季」

 

『……え………あ………そ……』

 

倉橋先生はゆっくりと話すと、天理は木綿季に声をかける。

対して、ユウキは何を言えばわからないようだった。先ほどから言葉にならない声を上げている。

無理もない。

この十五年間、治る見込みがない病気と苦しみながら無我夢中で戦い続け、そして、その戦いにピリオドが打たれたのだ。木綿季の勝利という形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?ユウキ」

 

『うん。ありがとうラテン』

 

先ほどの出来事から、すでに十分が経過していた。

倉橋先生から、快復の宣告をされた後のユウキは大声でただひたすらに泣き続けた。

それは、ホールにいる人たちに聞こえるのではないか?と思うくらいのものであった。

 

倉橋先生はユウキに告げるべきことを告げた後、天理を残して、この部屋を出た。おそらく、ユウキと天理に対して配慮したのだろう。

 

ようやく落ち着いたユウキに、天理が声をかける。

 

「ユウキ。いきなりなんだけど、お前の退院後の件なんだけどな」

 

『え?……うん』

 

「ユウキはさ、今年で高校生だろ?」

 

『うん』

 

「それでさ、高校のことなんだけど……俺の母親が校長やってる学校に入学できるように頼もうと思ってるんだ」

 

『……え?』

 

ユウキは今年で十六つまり、高校一年生と同い年になる。本来なら、ユウキは受験を終え、卒業式も終え、春休みの真っ只中だ。

だが、ユウキは、三年間ずっと病院にいて、受験も受けていない。

学力のほうは、アスナがずいぶん前から教えていたようで、地域の二番手、三番手程度の高校へ入ることができるほどの学力がある。

 

幸い、天理の母親が校長をやっている高校は部活動が熱心で、毎年全国や関東の大会に行く部活が多い。

その結果、部活動及び運動を第一にしており、学力には問題はない。

つまり、天理が無理を承知で母親にお願いすれば、ユウキが高校に通学することは可能だ。

 

『でも、それじゃあ、今年受験で落ちた人に申し訳がないよ』

 

「安心しろ、今年は定員割れで逆に、入学者を募集しているところだ。まあ、試験はあるけどお前なら簡単に突破できるさ」

 

『本当に……?』

 

「ああ、本当だ」

 

確かにユウキの言う通り、個人のエゴで高校に入学するのは不可能だ。だが、幸運なことに、天理の母親の高校は定員が割れていたのだ。

これなら、法律的にも人道的にも違反していないし、誰からにも責められる必要はない。

 

ユウキは天理の言葉を聞くや否や、今度は大声ではしゃぎ始めた。まだ、入学が決まったわけでもないのに……。

 

「まだ入学が決まったわけじゃないぜ?」

 

『わかってる。でも、ボクに学校へ行けるチャンスが与えられたんだよ!?ラテンも応援してよね♪』

 

「ああ、頑張れよ」

 

天理は木綿季の手を握ると、心を込めてつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四月二日

 

二十二層にあるキリトとアスナのログハウスでは、先日に行われた、結婚祝賀会に続き更なるパーティーが開催されていた。

 

「「「ユウキ、合格おめでとう!!!」」」

 

「ありがとう!」

 

この家には、キリト、アスナなどのいつものメンバーが集まっていた。残念ながらスリーピングナイツは三月二十日に解散してしまい、メンバーそれぞれがまた再開できるように頑張っている。

 

一方ユウキは無事、薬剤耐性型のAIDSを克服し、ラテンの母親の高校の二次入試にも合格して、現在リハビリ中だ。

やはり三年間のブランクは本人にとっても、非常に大きく、かなり苦戦しているようだが、高校に通学できるように、この足で思い切り走れるように精一杯頑張っている。

ラテンも可能な限り、横浜港北総合病院に行き、ユウキのリハビリを手伝っている。

 

「それにしても、ラテン君とユウキはいいことが起こりまくりだね♪」

 

「ああ、でも、たぶん長くは続かないと思う………俺が」

 

確かにラテンとユウキはとても幸運だった、特にラテンが。

だが、元から不幸体質のラテンの幸運も長くは続くはずなく、そろそろ何かが起きるのかもしれない。

 

「これでユウキさんも高校生ですね。後輩さんができてうれしいです!……あっ!」

 

―――ほら来たよ

 

シリカは嬉しそうに呟きながら、ユウキの元へ向かう途中で、躓き、持っていたオレンジジュースの入っているコップが、宙に舞う。

 

ばしゃぁぁぁん!

 

そして、コップが降下するとともに、中身のオレンジジュースが、シリカの進行方向にいたラテンの頭にすべて降りかかった。

 

「あわわわ、ご、ごめんなさい、ラテンさん!」

 

「…いいって、気にすんな。今に始まったことじゃないし……」

 

「「あはははは」」

 

その場に笑い声が漏れる。

相変わらずの不幸だったが、でもまあ、数少ない幸運を目の前で笑う無邪気な少女のために起きたなら、それがラテンにとって本当の幸運なのかもしれない。

 

「ったく、そんなに笑うことないだろ!?」

 

彼らの生活はまだまだ続いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりの投稿。
待ちわびた方、本当にすいませんでした。m(_ _)m

これで、マザーズロザリオ編を終わりにさせていただきます。

次回は、アリシゼーション編に入りたいと思っていますので、よかったらご覧になってください。

まだ投稿はしていませんが、第二作東京レイヴンズもよろしくお願いいたします。

これからもこの作品をよろしくお願いします!!

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