ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第五話 放課後の夕日

一月十二日、午後十二時五十分、食堂。

 

午前の授業が終わり、昼休みの真っ最中だ。俺は、友人と食事をしていた。だが、その話の内容は恋愛のことばっかりなので、最近では学校でも家でも安らぎの場がなくなりかけている。

 

「天理~、お前彼女作らねぇの?」

 

「はあ?なんでだよ」

 

「彼女はいいぞ~、どんな時でも元気になれる!」

 

「お前が元気じゃないところなんて見たことないんだけど・・・」

 

「それはそれ、これはこれ。・・・・うひょ~、やっぱりかつ丼はうめぇな。俺も明日かつ丼にしようかな」

 

「おい、俺のかつ、食べるなよ!・・・・お返しだ!」

 

俺は隣に座っている友人のカレーにタバスコを少しかける。こうすれば、奴のカレーの辛さは倍増し、この昼休みヒーヒー言いながら飯を食べることになるだろう。

ニヤニヤしていると向かい側に座っていた友人が俺に声をかけた。

 

「天理、陣は辛いの大好きだぞ」

 

「・・・・まじで?」

 

「残念だったな天理、俺から奪うものなんて何一つないぜ」

 

「くそ・・・・!」

 

俺以外の三人は笑い出す。俺もなんだかおかしくなり、釣られて笑い出した。

 

「・・・・そういえば天理。今日アスナさんが見学人が来るとか言ってなかったか。お前の知り合いか?」

 

「ああ、言ってたな。でも俺は知らないぜ。たぶんアスナの友達じゃなあいか?」

 

「そうか~。美人の女性だといいな!」

 

「はいはい、お前は浮気すんのか。さんざん自慢したくせに!」

 

「あでっ・・・・それはそれ、これはこれだ」

 

こいつは、何が言われても最後にはそれで流すのだろう。まあ、それがおもしろいのだが。

俺達は、しばらく談笑した後、昼休み終了まで残り十分になったので教室に移動する。教室に着くとアスナの周りの席にたくさんの生徒が集まっていた。アスナの隣の席に俺の席があるため、完全に呑み込まれてしまっている。

 

「あっ、天理じゃんか、お前も自己紹介しろよ。みんな終わったぜ」

 

「・・・・見学人かがもう来てるのか?」

 

俺は、人込みをかき分けてアスナの前に移動する。しかし、アスナの席にはアスナしか座っていなく、そのアスナの右肩にはこの前、和人が作っていたカメラが置いてあった。

 

「あっ、天理君。紹介するね、紺野木綿季。もう顔は合わせてるでしょ?」

 

『あぁ!お兄さんは、アスナと同じ学校なの!?』

 

「え?・・・・・」

 

アスナの肩から、聞き覚えのある声がした。そう、それは大きな樹の下にいた少女の声そのものだった。

 

「・・・・絶剣?」

 

『もう!絶剣じゃなくてユウキだよ!』

 

「えええええええええええ!!!!!!!」

 

俺の叫び声は、授業が始まるチャイムの音によってかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、授業が終わり休み時間。俺はなぜ絶剣・・・・・ユウキがいるのかアスナに聞いてみた。

 

「・・・・なんで、木綿季さんがいんの?」

 

「ユウキがね学校に行きたいって言ったから、キリト君に頼んで学校に連れてきたの」

 

『それより、お兄さんの名前は?ボクお兄さんの名前知らないよ』

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は、大空天理。プレイヤーネームはラテンだ」

 

『ラテン・・・・さん』

 

「ラテンでいいぜ。まあ、呼びやすいほうで呼んでくれ」

 

『ボクもユウキでいいよ。よろしくね、ラテン!』

 

「ああ」

 

俺はその時初めて、木の下で出会った少女の名前がユウキだと知った。

その日の放課後、ユウキが「行きたい場所がある」と言って俺とアスナを連れだした。俺がなぜついてきたかというと、アスナに頼まれたからだ。この辺の地形は、あまり家から出ないアスナに比べて俺のほうが知っているからだろう。

俺達は、ユウキに促されるまま到着した場所には、周りと比べて少し小さめの白い家があった。だが、その分庭が広く、芝生の上には白木のベンチ付きのテーブルが置かれてあり、その奥には赤いレンガに囲まれた大きな花壇が設けられていた。

 

「ここが・・・ユウキの、お家なんだね」

 

『うん。・・・・・もういちど、見られるとは思ってなかったよ・・・』

 

「ここがユウキの家だったのか。長い間空き家だったから俺も知らなかったよ」

 

『ありがとう、アスナ、ラテン。ボクをここまで連れてきてくれて・・・・』

 

「・・・・中に入ってみるか?」

 

『ううん、これで充分。さ・・・早く帰らないと、遅くなっちゃうよ、二人とも』

 

「まだ・・・もうしばらくなら大丈夫だよ」

 

「俺もだ。か弱い二人の女の子をこんな暗闇に残すなんて性に合わないからな」

 

「ラテン君は、頼もしいね」

 

「いや、和人でも言いそうな気がする・・・・」

 

「それもそうだね」

 

アスナはくすくす笑い出す。それにつられて俺とユウキも笑い出す。この場の空気が和やかになったが、ユウキが静かに口を開いた。

 

『この家で暮らしたのは、ほんの一年足らずだったけどね・・・・。でもあの頃の一日一日は、すごく良く覚えてる。前はマンション住まいだったから、庭があるのがとっても嬉しくてさ。ママは感染症を心配していい顔をしなかったけど、いつも姉ちゃんと走り回って遊んでた・・・・。あのベンチでバーベキューしたり、パパと本棚作ったりもしたよ。楽しかった・・・』

 

「いいなー。わたし、そんなことしたことないよ」

 

「俺もだ。親は家にあまり帰ってこないからな、そんな経験はしてない。ユウキがうらやましいよ」

 

だが、俺は一つ引っかかっていた。それはさっきユウキが言ってた<感染症>だ。この家が長い間空き家だったということはユウキの家族は全員感染症の患者だということになる。この辺には感染症を専門の一つに入れている大きな病院がある。俺が昨日行った<横浜港北総合病院>だ。だとするとユウキはそこにいる可能性が高い。

俺がそこまで考えているとユウキが明るい口調で話し始めた。

 

『じゃあ、今度二十二層のアスナの家で、バーベキューパーティーやろうよ』

 

「それいいな、やろうぜアスナ!」

 

「うん!・・・・ぜったい、約束だよ。私の友達も、シウネーたちもみんな呼んで・・・」

 

『うひゃ、なら、お肉すごい用意しといたほうがいいよー。ジュンとタルケンが、むっちゃくちゃ食べるから』

 

「ええ?そんなイメージじゃないけどなー。ラテン君は結構食べるけど」

 

「一言余計だな・・・・」

 

あははは、ユウキとアスナが笑い出す。俺も笑い出し、視線を家に向ける。

 

『今ね・・・・、この家のせいで、親戚中が大揉めらしいんだ』

 

「大揉めって・・・・・?」

 

『取り壊してコンビニにするとか、更地にして売るとか、このまま貸家にするとか・・・・みんないろんなことを言ってるみたい。こないだなんか、パパのお姉さんって人が、フルダイブしてまでボクに会いに来たんだよ。病気のこと知ってから、リアルじゃすごい避けてたくせにさ・・・・。ボクに・・・・遺言を書けって・・・』

 

「「・・・・・」」

 

『あ、ごめんね、変な愚痴言っちゃって』

 

「ううん、いいよ。・・・すっきりするまで、もっと言っちゃいなよ」

 

『じゃ、言っちゃう。でね・・・・こう答えてやったんだ。現実世界じゃボク、ペン持てないしハンコも押せないけど、どうやって書くんですか?って。叔母さん、口パクパクしてたよ』

 

ユウキが笑みを漏らす。つられてアスナも少し微笑むが、俺は依然と無表情で家を見つめていた。

 

『でね、その時に、この家はそのまま残してほしい、ってお願いしたんだけどね。管理費なら、パパの遺産で十年分ぐらいは出せるはずだからさ。でもね・・・やっぱ、ダメみたい。多分、取り壊されちゃうことになると思う。だから、その前に、もう一度見たいと思ったんだ・・・・』

 

「じゃあ・・・・こうすればいいと思うよ」

 

『え・・・?』

 

「ユウキ、今、十五だよね。十六になったら、好きな人と結婚するの。そうすれば、その人がずっとこの家を守ってくれるよ・・・・」

 

ユウキは一瞬沈黙した後、あはははははと大声で笑った。

 

『ア、アスナ、すごいこと考えるねぇ!なるほどそれは思いつかなかったよー。うーんそっか、いい考えかも。婚姻届けなら、頑張って書こうって気になるしね!・・・・でも、残念だけど、相手がいないかなー』

 

「そ、そう・・・・?ジュンとか、いい雰囲気だったじゃない」

 

『あーだめだめ、あんなお子様じゃ!そうだねえ・・・・えーと・・・・』

 

お前も充分お子様じゃね?と言いたくなるのをおさえる。後から何されるかわからないからだ。すると、ユウキが急にいたずらっぽい響きを混ぜて口を開く。

 

『ね、ラテン・・・・ボクと結婚しない?』

 

「・・・・・・・いいぜ」

 

「『・・・・・え?』」

 

「え?・・・・・・あっ、やっ、ち、違う!いや、違わないけど、あっ、そっ、そうだよ!あれだよ、あれ、冗談ていうかなんて言うかともかくあれだよ、あれ、な?」

 

俺は、慌てて弁解するとアスナとユウキが大声で笑いだした。俺は、思わず二人から視線を逸らす。

 

『ごめんごめん、冗談。ラテンにはもう大事な人がいるんでしょ?その年なら』

 

「・・・・え?いないけど・・・・」

 

「「『・・・・・』」」

 

その場に沈黙が流れる。

 

「・・・・・もう暗いし送るよ」

 

「うん」

 

俺とアスナとユウキは、駅に向かった。もう夜の八時すぎだ。駅には家路につく学生や会社員の人たちであふれかえっていた。俺達はユウキに別れを告げると駅の改札口の前に止まった。

 

「じゃあ、アスナ。また明日な」

 

「うん、今日はありがとう。・・・・ユウキも内心じゃ喜んでいたと思うよ」

 

「冗談はよせって、俺とユウキはそんなに会話とかしてないぜ?」

 

「ラテン君は人を引き寄せる力があるんだよ」

 

そう言ってアスナは、改札口を通って人込みの中に消えていった。俺は、しばらく呆然としていたがようやく意識を取り戻し踵を返す。

 

 そんな力、俺にあるのか・・・・?

 

俺は、いまだ整理のつかない頭の中をぐるぐるしながら家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーンが微塵もねぇ・・・・。すいませんまだこの状態が続くかもしれないしれませんが、いざ書くときは書きますんで楽しみにしていてください。

これからもこの作品をよろしくお願いします!!

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