「はあ~」
俺は、思わず座り込む。一方キリトは俺の隣で寝そべっていた。俺達の精神力は底をついていた。無理もない。たった二人で、ボス攻略をするために完全装備したレイド、四十九人を相手にしたのだ。死ななかったことが奇跡だろう。実際、戦闘が終わったときのHP残量は一割あるかないかほどだった。そのHPもポーションを飲んで全回復している。
「なあ、キリト。俺はもう戦う気はねぇぞ」
「・・・・俺もだ。そろそろ、また戻ってくるだろうし、帰るか?」
「そうだな。それに、たぶんアスナたちは打ち上げやるだろう。多少食事とか用意するか?」
「ああ、そうしよう。でも俺は料理スキルあげてないぜ」
「安心しろ、俺は少し上げてる」
「まじかよ。お前案外家庭的なんだな」
「お前もやれば?アスナが喜ぶぜ」
「料理は、アスナが作ってくれるから遠慮しとく」
「そうか。んじゃ、行くか?」
「ああ」
俺とキリトは立ち上がり、食料の買い込みのために街へ向かった。
「なあ、ラテン。お前何が作れるんだ?」
「チャーハンとかシチューとかかな。まあ、そのへんだ」
「へえ~」
俺達がいるロンバールの中央広場には、たくさんのプレイヤーとNPCが道を行きかっていた。俺とキリトは、一通り材料を買い込む。それを終えた俺達は、二十二層のキリトとアスナの家に行こうとしたが、視界に入った宝石店が気になったので入り込む。
「そういえば、お前指輪とかまだ買ってないんだろう?」
「ああ、最近はいろいろと消費しててな、買えてない」
「今買えば?さっきの奴らとの戦闘報酬で金もたまってるだろうし」
「それもそうだけど、買いたい指輪があるんだよな~。それが、結構高いんだよ」
「へえ~、どうせ指輪の裏とかに言葉とか名前を刻めるやつだろ?あれは、高級店にしかない仕様だからな。・・・・お前もしゃれたことするんだな」
「ほっとけ!」
俺は、縦三センチ横二センチのひし形の形をしたネックレスを手に取る。色は水色をしている。だが、このネックレスにはなかなかおもしろい仕様がされてあり、日にちが変わるごとに、赤色、緑色、オレンジ色、ピンク色、白色、黄色、黒色、水色、紫色の半透明、全九色に変わるらしい。商品棚の札には<世界に一個の限定品!>と書かれている。
「誰かにあげるのか?」
「いや、ここに限定品って書いてあるから買っておこうかなっと思ってな」
俺は会計をするためにNPCの店員に手渡す。
「こちら、百八十万ユルドになります」
「!?・・・・百八十万!?」
俺は、とっさに所持金を確認する。俺は、ユルドを銀行みたいなところに預けていないので手持ちに持っているユルドが俺の全財産だ。
<1820500>
何とか、足りそうだが金欠になってしまう。武器を研ぐだけでも五万はかかるというのに・・・・。
俺は、少しの間迷ったが意を決して購入する。
「ああぁ、俺の所持金が・・・・」
「・・・これからは、迷宮のマッピングを率先してやることになるな」
「・・・・・」
キリトは、茶化してくるが実際そうしなければ安定した所持金を持つことはできない。これからが大変になるな・・・・。
俺は、買い物をした後キリトの家に向かう。結構時間がたってしまったため、ボス攻略は終わっているかもしれない。
俺達は、急いで二十二層のログハウスに向かった。
アスナたちと別れて、四十分が経過した。俺は、すぐさまキリトの家の台所を借りシチューを作り始める。
「なあ、ラテン。これからどうするんだ?」
「俺か?とりあえず次の層に上って、モンスター狩りをしようと思ってる」
「そうか」
「・・・・・?」
俺は、シチューを作り終えると鍋をテーブルの上に置く。キリトはすでに、食器を並べていたらしくソファーに寝そべっていた。そろそろ一時間がたつ。
「んじゃあ、キリト。俺は行くぜ」
「ああ、ありがとうな。付き合ってくれて」
「気にすんなって」
俺は、ログハウスを出ていった。
あれからすでに三日が経っていた。俺は学校を終え<横浜港北総合病院>に来ていた。何故かというと、ここ二年海外に行っていた横浜港北総合病院の院長である、俺のお祖母さんが戻ってきたからである。そして、なぜか呼ばれた。
「あれ、天理君?」
俺は、院長室に向かう途中に声をかけられた。振り返ると白衣を着、縁の丸い眼鏡をかけている男性医師が立っていた。
「倉橋先生、お久しぶりです」
「会うのは、リハビリの時以来かな?」
「はい」
「天理君は、江里子院長に会いに来たの?」
「はい、いきなり呼ばれまして」
俺は、軽く笑うと倉橋先生も笑みを浮かべる。
「僕も呼ばれているんだ。まあ、ここじゃなんだからとりあえず入ろうか」
「はい」
俺と倉橋先生は、ノックした後、院長室の扉を開けた。中央に大きめのテーブルがありその周りに黒い大きなソファーが置いてあった。テーブルの先には、これまた大きな机があり、その上に<宮園江里子 院長>という札が置いてあり、大きなパソコンや書類が重ねられていた。
「失礼します。院長、用件とは何ですか?」
「まあ、二人とも、ここに座って」
俺は促されるまま、倉橋先生とともに黒いソファーに座る。祖母は俺達の向かい側に座ると、パソコンを開きながら口を開いた。
「倉橋先生。私が送った抗生剤は効いているの?」
「はい、徐々に容体が回復しています。このままいけば、一か月後には、ほぼ完治していると思います」
「抗生剤?」
「あ、天理君はまだ、知らなかったんだね。院長がこの二年間海外、アメリカに行っていたのは研究するためだったんだ」
「研究?俺は、出張としか聞いていなかったので・・・。どんな研究をしてたんですか?」
「院長は、後天性免疫不全症候群・・・・つまりエイズの研究をしていたんだよ。そして、一か月前にアメリカの研究チームとともに<薬剤耐性型」>のエイズの抗生物質を作り出すことに成功したんだ。そしてそれが認められて今世界中に送っているんだ。ここにもね」
「本当ですか!?すごいな、ばあちゃん」
「うふふ」
祖母は笑い出す。だが、俺には少々疑問があった。それは、ここにもエイズの抗生剤が送られていることだ。もちろん、ここは日本でも大きい病院だ。しかし、そんなに早く抗生剤が届くということは、この病院にもエイズの患者がいるということだろうか。
俺は、倉橋先生にそれを尋ねようと口を開こうとしたときに病院内にアナウンスが流れた。
<倉橋先生。倉橋先生。第二内科に来てください>
「では、僕は行くよ。またね天理君」
「はい」
倉橋先生は、「失礼しました」というと第二内科に向かった。俺は、しばらく扉を見た後祖母に俺を呼んだ用件を尋ねる。
「ばあちゃんは、なんで俺を呼んだの?」
「・・・・天理。彼女さんはできた?」
「はい!?」
俺は、思わず叫ぶ。それもそうだ、久しぶりの会話で最初の話が<俺の彼女>についてなのだ。はっきり言って意味不明だ。
「そのようすじゃ、まだできてないみたいね」
「いきなりなぜ・・・・・?」
「早くひ孫が見たいからよ」
「・・・・俺まだ、十八なんだけど」
「あら、日本は男性が十八、女性は十六歳で結婚できる法律があるのよ」
「だからって、いきなり・・・」
祖母は「おっほっほっほっ」と笑い出す。もう何が何だかわからなくなってきた。もしかして、このご老体はそれだけのために俺を呼んだのだろうか。
「琴音は元気にしてる?あの子昔は病弱だったから心配なんだけれど」
「ああ、元気にしてるよ。それも、居候とイチャイチャしながらな」
「あらあら、青春ね~」
「こっちは精神的にきついけどね・・・」
しばらく雑談していると、祖母は急に話題を変えてきた。
「さっきの抗生剤の話なんだけれどもね」
「突然なに・・・・?」
「実は、本人には伝えていないの」
「え?・・・・なんで?」
「実は、その抗生剤は使用者の精神状態によって効き目が左右されるのよ」
「え・・・と、つまりどういうこと?」
「もちろん、効き目はあるのだけれど安心して治せるのは症状が初期から中期までの状態だけ。それが、末期にとなるとね百%とはまだ言い切れないの。医師としては、あいまいなことは伝えてはならない。だから、末期の患者には伝えないことが世界中で決められたのよ」
「・・・・なんか、悲しい話だな。抗生剤ができても完治できるかわからないなんて」
「それが、この世界なのよ」
「・・・・・」
時刻を見るとすでに、一時間が経とうとしていた。そろそれ病院も夜間に変わるので忙しくなるだろう。俺は、立ち上がる。
「ばあちゃん、その人を助けてくれよ。人の命は平等だ。例え難病を抱えていても生きる権利がある。その手助けをしてあげてくれ」
「あんたも言うようになったじゃないの」
「・・・・あの世界で命の重みを知ったからね」
「そう・・・・・じゃあまたね天理。琴音にもよろしく言っといて」
「はいよ」
俺は、院長室を出た。改めて命の重みを感じる、その人には生きていてほしいと思う。俺には何もできないけど、願うことはできる。
神様なんて普段信じないが、このときは神様に祈りながら家路についた。
・・・・なんか、重い話になりました。輸血でエイズにかかるのは何十万分の一なのに、その一に紺野家が該当してしまったことを思うととても悲しくなります。
だが、今作は抗生剤を使うという設定にしました。
内容がめちゃくちゃですが、これからもこの作品をよろしくお願いします!