俺は今二十四層主街区からちょっと北にある大きな樹の根元に来ていた。
現在時刻は七時半、アスナたちと別れて一時間半が経過していた。午後の七時半に何もないただの樹の下に来るもの好きは、やはりいなく真っ暗だった。俺は、闇妖精族、インプであるため多少夜目が効くが・・・・。
なぜここに来たかというと、もしかしたら<絶剣>がいるかもしれないと思ったからである。まあ、見るからにいそうにないが。
俺は、樹の根っこに座り込むとアイテムストレージを開く。
取り出したのは、普通の片手用直剣よりも細めの片手剣だ。
白く、半透明な剣身が月明かりに反射してきらきらと輝いているように見える。
この片手剣の名称は<クラリティー>。この剣は水晶でできているため、おそらくその宝石の意味からとった名称だろう。
なぜ刀を使っている俺が、片手剣を持っているかというと両刃で、剣尖がとがっているためである。突き技は刀よりも片手剣のほうが、力を伝えやすい。
先日リズに頼んだ時に、なぜ片手剣を使うのか疑問にもたれたが、何とかはぐらかすことに成功した。
俺は、月光刀を右手に、クラリティーを左手に持つ。俺は、二本の刀に意識を集中させる。今この周辺には人影がない。いい練習場所だ。二本の剣が、光に包まれていく。
「はあああああああ!!!!!」
俺はそのまま斬撃を繰り出していく。その速さは、ソードスキルにほど近いものだった。だが、途中で剣からの光が途絶えてしまう。
「くそっ、もう一回」
俺は、何度も何度も斬撃を繰り返す。一つ一つの斬撃に意識を集中させて。
「はあ、はあ、はあ」
練習を始めてから、一時間近く経過しただろうか。俺は、樹の根っこに座り込む。
「・・・・あともうちょっとなんだけどな」
俺は、夜空を見上げる。この樹の周りが暗いせいか、星がよく見える。俺は、夜空を見ながら、ぼーっとしていると、声が聞こえてきた。
「誰かいるの・・・?」
俺は、すぐさまクラリティーをアイテムストレージにしまうと声のした方向を向く。
そこには、パープルブラックの髪に真っ赤なヘアバンド、紫色の装備をした小柄な少女が立っていた。目の色は、よくは見えないがアメジストの色をしているように見える。
「あ、ああ。悪いな、隠蔽スキルを使って」
「・・・・」
少女は黙ったまんまだ。俺は、肩をすくめると再び夜空を見上げる。
そろそろ夕飯だ、早く戻らないとな。などと考えていると、先ほどの少女が俺に近づいてきた。だが、少しばかり警戒しているようだ。
無理もない。こんな人けのないところで、隠蔽スキルを使用し、ただ一人だけで夜空を見上げている俺は、はっきり言って変人に見えるだろう。まあ、実際にはOSSを開発していたのだが・・・・・。
俺は、なんとなく気まずくなり立ち上がろうとした。
「・・・・ここから見える星ってきれいだよね」
「え?・・・・・ああ、そうだな。俺はここにあまり来たことないけど」
「じゃあ、何しに来たの?」
「え?えーと、その・・・・・あれだよ、あれ。もしかしたら<絶剣>てやつに会えるかなぁ、なんて」
俺は、慌てて返すと意外なほど冷静に淡々と少女は答える。なんか、元気がなさそうに見える。
「お兄さんは絶剣と戦いたいの?それなら・・・・」
「午後三時にここに来れば・・・だろ?」
少女は頷く。絶剣を知っているということは観戦したのか、もしくは戦ったことがあるのかもしれない。俺は、絶剣の情報をあまり持っていない。もしかしたら教えてくれるかもしれないと思い少女に尋ねる。
「お嬢さんは絶剣と戦ったことある?もしくは観戦したとか」
「え?・・・・」
少女は、何を言えばいいか迷っているようだった。それはそうだろう。見ず知らずの相手にいきなり質問されると誰だって困惑する。
「・・・突然訪ねて悪かった」
「・・・・うん」
「「・・・・・」」
会話が途切れる。やはり俺は立ち去ったほうが彼女のためになるだろう。
俺は、立ち上がる。
「じゃ、じゃあ、俺は行くよ。邪魔して悪かった」
「ね、ねぇ、お兄さん!」
「ん?」
「お兄さんは、ワンパーティーだけでボスを攻略するのは、ばかげてると思う?」
「・・・・いいんじゃないか?ワンパーティーだけでボス攻略すれば石碑にパーティー全員の名前が刻まれるからな。いい思い出になると思うぜ」
「そ、そうだよね、ありがとうお兄さん。おかげで元気が出てきたよ」
「そうか。それはよかった。お嬢さんには笑顔が似合うよ」
「え?」
我ながらくさいセリフを言ってしまった。
絶対引かれただろ今の!と後悔し急いでその場を離れる。その場に残された少女は、ぽかんと口を開けていた。
俺は、約束通り午後二時半にキリトとアスナのログハウスに行くと外に俺以外のメンバーが集まっていた。俺が到着すると、俺達は早速噂の絶剣がいる場所へ飛び立つ。
大きな樹の根元に到着するころにはすでにほかのプレイヤーたちが集まっていた。挑戦者よりも観戦者のほうが多いだろう。
俺達が着陸すると同時に、上空から喚き声とともに一人のプレイヤーが落下してきた。見たところサラマンダーらしき剣士は地面から頭を抜き取ると、大声で喚く。
「参った!降参!リザイン!」
デュエル終了のファンファーレが宙に響いた。大きな拍手と歓声がこの場を包む。
「すげえ、これで六十七人抜きだぜ、誰か止める奴はいないのかよ」
賞賛とともにそんなボヤキが聞こえてきた。午後三時からそんなに経っていないはずだ、それなのにもう六十七人抜きを達成しているということは相当強いはずだ。
俺は、上空から降りてくる勝者を確認するため目を細める。太陽の光でシルエットしか見えないが、想像していた巨漢のイメージはすぐさま崩れ去る。筋肉もりもりどころか、華奢で小柄な体型をしている。
地面に近づくにつれて細部が徐々に見えてくる。
特徴的なインプの肌。パープルブラックのストレートに長く伸びた髪。胸部分を覆う黒曜石のアーマーは少しの丸みを帯び、その下にチュニックと青紫のロングスカート。腰には黒く細い鞘。
そのプレイヤーが地上に降り立つと、お芝居のような仕草で礼をする。そして、満面の笑みを浮かべVサインを作った。周りからは、盛大な歓声と口笛に包まれている。
その姿には、見覚えがある。というか、ないわけないだろう。
目の前にいるのは昨日会った・・・・・。
「ええええええええええ!!!!????」
俺の叫びが大空に響いた。
「あれ?お兄さんは昨日の・・・」
「き、気のせいだと思うよ!きっと気のせい!」
俺は、慌てて話を逸らす。それもそうだ。昨日あんなくさいセリフを残して逃げたのだ。今なら恥ずかしくて死ねるだろう。
「え?そ、そう」
「と、ところでこのお姉さんが君とデュエルしたいらしいよ」
「ちょ、ちょっと!ラテン君!?」
俺は、アスナの背中を押し前に出す。アスナは転びそうになるが何とか体勢を立て直し少女と対峙する。
「あ、お姉さん、やる?」
「え、えーと・・・・じゃあ、やろうかな」
「おっけー!」
少女はそう言うとウインドウを操作し始める。隣から、「バーサークヒーラーやっちまえ!」「月例大会の表彰台常連の実力見せてやれ!」「なぜウンディーネを選んだ!?」などと歓声が上がる。
種族は・・・・ねぇ・・・・。
俺も正直、SAOサバイバーでありかなりの実力者であるアスナが支援系の種族、ウンディーネを選んだ理由がよくわからない。まあ、そこは個人の選択だから他人がどうこう言う権利などないが。
そうこう考えているうちにデュエルが始まった。
見ている感じだと少女のほうが優勢だ。体勢が崩れてほぼ回避不可能というのに、アスナの四連撃ソードスキルを異常な速さではじき、カウンターソードスキルを放つ。
アスナはそれをまともに受けるが、そのままやられるわけもなくアスナが開発した五連撃のOSSを繰り出す。しかし、少女の方のソードスキルはまだ終わっておらずさらに五連撃を繰り出す。お互いにHPを削り、少女のHPは残り四割、それに対してアスナは残り一割ほどになった。だが、少女のソードスキルはまだ終わっていない。最後と思われる一撃がアスナに向かう。
「これが、十一連撃・・・・」
思わず声に出して呟いた。その技は、圧倒的なスピードと威力、そして何よりとても美しい技だった。
少女の一撃は、アスナを襲うことなく、胸の前でぴたりと停止する。
アスナは、え?、という表情をする。
すると、少女は剣をしまいアスナの手を握った。
「うーん、すっごい、いいね!お姉さんに決めた!!」
「な・・・・ええ・・・・?」
「ずっと、ぴぴっとくる人を探してたんだ。ようやく見つけた!ね、お姉さん、まだ時間大丈夫?」
「う・・・・うん。平気だけど・・・・」
「じゃ、ちょっとボクに付き合って!」
少女はアスナの手を握ったまま、大きく翅を開く。
「お兄さん、ごめんね。また今度デュエルしよー!」
「え?あ、ああ」
「後で連絡するね!みんな!」
少女はアスナを連れて空に飛び立ってしまった。俺は、キリトのほうへ顔を向ける。キリトは、笑顔だった。
「なあ、キリト。いいのか?」
「いいさ、経験は大事だ。それよりお前はいいのか?」
「俺か?俺はデュエルしてくれるなら別にいつでもいいけどな」
「そうか」
俺達は、アスナと少女が飛び立った空を見つめていた。
イチャイチャシーンはどうやって書けばいいですかね?よくわからないです。
ラテンはユウキとまだ戦わないことにしました。これからが楽しみです!
これからもよろしくお願いします!!