ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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今回は、サブタイトルの通り74層のボス戦です。

戦闘シーンをうまく書けるか不安ですが頑張りたいと思います。

では、本編へどうぞ!!


だいぶ修正しました!


第三話 The Gleameyes

 

 

 安全エリアから出て三十分。

 ようやく最上部にたどり着いた俺たちを待っていたのは、目的の《軍》のやつらではなく、トカゲの集団だった。

 特別急いでいるわけではないのだが、ゆったりしている暇もない俺たちにとって、リザードマンたちは非常に厄介だった。

 

「ひょっとして、もうアイテムで帰っちまったんじゃね?」

 

 クラインが最後の一匹にカタナを叩き付けると、おどけたように言った。

 できればそうしてくれるの助かるのだが、あの中佐殿のことだ。キリトが懸念していたことを実行しかねない。

 

「その方が助かるんだけどな…………まあ、行くだけ行ってみようぜ。俺も見てみたいし、この層のボスを」

「まあ、そうだな」

 

 これ以上うだうだ言ってても仕方がないと感じたのか、クラインはゆっくりと納刀しながら答える。

 再び歩め始めた俺たちを止めたのは、ボス部屋まであと半ばの回廊内だった。

 

「ああああああああ………」

 

 かすかだが、間違いなく男性の悲鳴。

 ラテンたちは顔を見合わせると一斉に駆け出す。どうやらコーバッツは一番最悪な選択肢を選んでしまったらしい。

 

「バカッ……!」

 

 アスナが悲痛の叫びを上げると、さらにスピードを上げた。ラテンとキリトも追随する。

 システムアシストぎりぎりの速度で走っているため、『走っている』というよりは『飛んでいる』ような感覚だ。

 扉の手前で急ブレーキをかけ、火花を散らしながら停止する。

 

「おい!大丈夫か!」

 

 叫びながら扉内部を見てみると、そこは文字通り地獄絵図だった。

 長方形のボス部屋の床には、一面青白い炎が噴き上げている。その中央で背を向けながら立っているのは、全身を盛り上がっている筋肉で包んでいる巨人だった。否。正確には人間ではない。頭部は角の生えた山羊だ。

 禍々しいのその姿はまさしく悪魔。

 名は《The Gleameyes》。

 

 見るからに巨大で獰猛なそれは、本当に倒すことができるのか、という疑問を思わず持ってしまうほどの敵だった。

 すでに軍の奴らが戦闘を開始していたはずなのだが、ザ・グリームアイズのHPバーは三割も減っていない。見るからに疲労がたまっていた軍の連中だが、装備している装備はどれも最前線で通用するレベルの物だった気がする。それに加え連携も取れていそうな感じだった。

 悪くない条件がそろっているのも関わらず、十五分近く戦闘して減らしたHPが三割に満たないというのはボスが強敵である証拠だ。

 もちろん通常四十八人の連結(レイド)パーティで挑むところをたった十二人で戦っているため、相応の差があるのかもしれないが。

 

 グリームアイズは、斬馬刀のような巨大な剣をを縦横に振り回していた。その向こう側で逃げ惑うのは、無謀な戦いを挑んだ軍の部隊だ。グリームアイズに比べてあまりにも小さく見える彼らを良く数えてみれば人数が二人ほど足りない。

 転移結晶で離脱したか、もしくは。

 嫌な記憶が頭によぎり、転移結晶で脱出していることを祈りながら、逃げ惑っている影に向かって叫ぶ。

 

「何してんだ!速く転移結晶を使え!」

 

 一人の男が絶望の表情で叫び返してきた。

 

「だ、だめだ!クッ……クリスタルが使えない!」

 

 その言葉を聞いて、思わず絶句する。

 次いで《結晶無効化空間》という言葉が頭の中で浮かび上がった。

 迷宮区で非常に稀に見るそのトラップでは、あらゆる結晶を使用することができない。たださえ回復手段が少ないというのに、それがボス部屋で起こるとは予想もしなかった。

 このSAOには主な回復手段が二つある。

 アイテムによる回復と戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルのよる回復の二つだ。探せば他にもあるのかもしれないが九割以上のプレイヤーがこの二つに該当するだろう。

 後者はレベルに応じて回復する量が変わるが、最前線で戦っている攻略組のほとんどは十秒間に800程度しか回復しないだろう。つまり、おまけ程度の回復量なのだ。そのおまけでも、デスゲームとなった今では非常にありがたいスキルだが。

 問題は前者だ。

 アイテムによる回復は、これも分かれるが、ほとんどが回復結晶による回復か、ポーションによる回復だ。

 三割、五割、八割、十割などの割合回復である回復結晶と違って、ポーションは戦闘時回復スキル同様少しずつ回復していくものだ。

 もちろん瞬時に回復できる回復結晶のほうが高価で、特に長期戦が想定されるボス戦で非常に重宝されるものなのだが、この《結晶無効化空間》ではゴミ同然の代物になってしまう。

 それでも通常の連結パーティであれば、ポーションだけでも安定して回復ができるのだが、十二人で挑んだ彼らには交代できるほどの人数がいない。

 そして現状。

 十二人いたはずの部隊は十人に減り、残った連中のHPもレッドゾーンに届きそうだ。

 いなくなった二人は、どうなったか想像しなくても分かる。

 そんな中、脱出を試みようとした男たちにコーバッツが怒号を上げた。

 

「何を言うか!……我々に<撤退>の二文字はありえない!! 戦え! 戦うんだ!!」

「馬鹿野郎……!!」

 

 キリトが思わずつぶやいた。ラテンも内心で全く同じ気持ちだった。

 この世界でのゲームオーバーは現実世界での<死>に直結する。プレイヤーが何より優先するべきものは生きることであり、あいつは部下に対して死ねを命令しているに等しい。

 コーバッツに対し、大きな憤りを感じていると、ようやくクラインたち6人がやってきた。キリトが簡潔に説明する。

 

「俺たちが斬り込めば、退路は開けるかもしれない」

 

 キリトの言う通り、今自分たちが斬りこめば軍の奴らを脱出させることができる。

 だがそれでは、こちら側に死者がでない保証はない。

 自分の命と他人の命。

 どちらを優先すべきか。

 そんなの決まっている。

 あの日から。

 

「全員……突撃…!」

「ふざけんな、コーバッツ!!」

「ラテン!? 待て!!」

 

 キリトの制止はは聞かずにラテンは地を蹴った。

 隊列もクソもなく突っ込んだ軍とグリームアイズの間に割って入る。

 質量を感じさせないほどの速さで振り下ろされた斬馬刀を両手持ちで受け止めた。

 

「ぐっ……!?」

 

 だが、愛刀と斬馬刀が触れた瞬間、今まで感じたことがないような重みが体にのしかかり、片膝をつく。

 

「早く行け!! 長くは持たない!」

 

 背を向けたまま、あらん限りの声で叫んだ。

 ほとんどの者が俺に従って入口の方向へ走っていく。全員が撤退できればあとは、俺だけだ。生憎グリームアイズに力で負けれど速さでは負けない。この巨大な剣を振り切って全力疾走すればいい。

 だが、現実はそううまくはいかないものだ。

 

「俺は……俺は退かんぞ!!」

 

 後方から何かを背負っているかのように絞り出した声が聞こえてきた。

 コーバッツだ。

 

「今回はあきらめろ! レイドを組んでまた挑めばいい!」

 

 受け止めているとはいえ完全に押し負けているラテンは、愛刀を肩に食い込ませながら再び叫ぶ。正直に言って、これ以上は持たない。

 しかし、ラテンの思いは無情にもコーバッツには届かなかった。

 

「うおおおおおおおおお!!!!!!!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 横を通り過ぎたコーバッツは体重を乗せた一撃をグリームアイズにお見舞いする。しかし渾身の一撃もグリームアイズのHPをわずかに減少させただけであった。

 攻撃の対象を俺からコーバッツに変更したグリームアイズは、ラテンから斬馬刀を離すとそのまま横なぎに振るう。

 頭ではわかっていた。

 斬馬刀がどのような軌道を描き、コーバッツに到達するか。

 だが、自分の体重よりはるかに重い一撃を耐えていた両足は、まるで休憩させてくれと言わんばかりに動かない。

 動け、動けよ。

 必死に命令するラテンの瞳の中で、一人の男が吹き飛んだ。

 

 どさっ、という音が鮮明に聞こえてきた。いや、それは脳が勝手に補完したのかもしれない。

 着地点にゆっくりと顔を向けてみれば、入口の目の前でキリトたちが倒れている男に目を見開いていた。

 

「ありえない……」

 

 確かにそうつぶやいたその男は、数秒後、無数のポリゴン片となって爆散した。

 この光景を見るのはいつ以来だろうか。 

 目の前で、人が死ぬのはいつ以来だろうか。

 

「助けられなかった……また……」

 

 小さく呟いた言葉は、燃え盛る青白い炎にかき消される。

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 グリームアイズがラテンに向かって咆哮をする。

 目の前にいるというのに、不思議とうるさくはなかった。

 神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 この感覚は初めてではない。

 このデスゲームが始まって以来、何度か経験している。

 すべてが解るのだ。

 地面の揺れ。微細な音。

 それらによって、頭の中で先ほどまで見ていた光景とまったく同じものが組み上がる。

 

「ラテン!!」

 

 ドガァァァン!

 キリトの叫びと同時にグリームアイズの斬馬刀が地面を揺らした。

 空気が震え、周りを囲んでいる青白い炎が大きく揺れる。

 誰もが、目を瞑りたくなる光景が目の前で広がっているだろう。だが、残念ながらグリームアイズが斬馬刀を振り下ろしてくることは、解っていた(・・・・・)

 

「こっちだ。デカブツ」

 

 グリームアイズの横で静かに呟く。

 悪魔がこちらを向くのとほぼ同時に、納刀されたカタナが水色の光を帯びる。

 抜刀術ソードスキル《星砕き》。

 

 超高速の一閃がグリームアイズの右腕を切り落とした。

 ラテンはそのまま大きくバックステップを取る。

 

「スイッチ!!」

 

 背中から新たな影が叫びながら出現した。

 その男の右手には漆黒の、左手には純白の剣が握られている。

 キリトだ。

 もちろんこの男がとび出してきたのは、グリームアイズの一撃を避けた時に知っていた。そして、この男がしようとしていることも。

 

「うおおおおおおあああ!!」  

 

 キリトの咆哮が流星のごとく連撃と共にグリームアイズに降りかかる。

 怒涛の十六連撃はまさしく神速だ。次々の振り抜かれる水色の閃光は、このゲームに定められたシステム速度の限界ぎりぎりだろう。

 

「………ぁぁぁあああああああ!!」

 

 雄叫びと共に放った最後の一撃がグリームアイズの胸の中央を貫く。

 

「ゴァァァアアアアアアアアア!!」

 

 巨大な悪魔は一際大きな咆哮を放つと、まるで時間が止まったかのように一瞬だけ硬直する。

 そして、膨大な青いポリゴン片へ姿を変えた。

 部屋中にキラキラと光の粒が降り注ぐ。

 数秒後、キリトが糸がぷっつり切れたかのように仰向けに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリトくん! キリト君ってば!!」

 

 悲鳴にも似たアスナの叫びに、キリトが意識を取り戻す。アスナはそんなキリトの口にハイポーションを突っ込み、強く抱きしめた。

 キリトのHPは殴ればたちまちあの悪魔と同じようにポリゴン片になるであろう程しか残っていなかった。

 

「悪い。最後まで任しちまって」

 

 下手したら死んでしまっていたかもしれないのだ。無理にでも間に入って加勢するべきだったのかもしれない。

 だが、キリトはラテンが考えていることがわかったのか笑いながら答える。

 

「……いや、気にすんな。それだけお前に信用されてるってことだからな」

「ばーか、死んだら意味ねぇだろ。 ……まあ、生きててよかったよ」

 

 拳を差し出せば、同じように拳が返ってくる。

 そのままアスナを優しく抱き返すキリトにクラインが声をかけた。

 

「生き残った軍の連中の回復は済ませたが、コーバッツとあと二人死んだ……」

「……そうか。ボス攻略で犠牲者が出たのは、六十七層以来だな……」

「こんなのがボス攻略って言えるかよ。コーバッツの馬鹿野郎が……。死んじまったら何もなんねぇだろうが……」

 

 もしコーバッツが生きていたら、ラテンはその顔を思わず殴っていただろう。クラインが言うように、死んでしまったら意味がないのだ。何もかも。

 数秒間沈黙が続くくと、クランが首を左右を振り、気分を切り替えるように口を開いた。

 

「そりゃあそうと、オメエら何だよさっきのは!?」

「……言わなきゃダメか?」

「ったりめぇだ! 見たことねぇぞあんなの!」

 

 アスナ以外の全員が、キリトの次の言葉を待つ。

 そして、堪忍したようにゆっくりと口を開いた。

 

「……エクストラスキルだよ。《二刀流》」

「しゅ、出現条件は」

「解ってりゃもう公開してる」

 

 おお……というどよめきの後、ああ……と生き残った軍や風林火山のメンバーが残念がった。

 通常、様々な武器スキルは系統だった修行によって段階的に習得することができる。他えば、片手用直剣なら、その熟練度を上げれば《細剣》や《両手剣》が習得可能になる。

 だがそれだけでは出現しない武器スキルというものも存在する。

 それがエクストラスキルだ。

 ラテンやクラインが使っている《カタナ》もそれに該当するが、これは曲刀をしつこく修行すれば手に入れることができるため、エクストラスキルの中でも出現条件が優しい。

 大概エクストラスキルは、どれも最低でも十人以上が習得に成功しているが、キリトの《二刀流》は違う。

 《二刀流》のことを本人から聞いて、すでに一年ほどが経過しているが、他に《二刀流》スキルを習得した者はいない。

 結局、おそらく一人しか習得することができない《ユニークスキル》の類なのではないかという結論に至った。それは俺が持っているスキルも同じだ。

 

「っつうことは、ラテンのも……?」

「ああ、俺のは《神速》。ソードスキル使ったとき硬直がほぼなかったのはこのスキルのおかげなんだ」

「そうか……」

 

 同じ《カタナ》のスキルだった分、ユニークスキルと知ったクラインの落ち込み具合は半端ない。

 

「……ったく、俺も頑張らないとな! もしかしたら俺も専用のスキルが手に入るかもしれないし」

 

 この男のいいところはこんなところだろう。マイナスをプラスに変えることができる人間は少ない。

 

「まあ、いろんな意味で妬み嫉みがあるだろうが…………苦労も修行のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

 クラインはキリトを見ながらにやにや笑う。もちろん『いろんな意味』とは今のキリトの光景のことを指しているのだろう。

 

「まあこれを機に、ですな」

「うむうむ。今後が楽しみでござるな」

「お前ら……」

 

 ムヒョヒョと笑うラテンとクラインにキリトは意味ありげな視線を送ってくる。

 そんなキリトにウインクをして踵を返した。

 

「んじゃあ俺はひとまず先に七十五層を拝ませていただくぜ。それともMVPのお前が行くか? キリト」

「いや、任せるよ。俺はもうヘトヘトだ」

「りょうかい」

 

 短く返すと、ラテンはクラインたちと共に次の層への階段をのぼった。

 

 

 




バトルシーン・・・一瞬でしたね。ごめんなさい。m(_ _)m

キリトの二刀流はかっこいいですよね!アニメのスターバーストストリームには興奮

しました(笑)次はヒースクリフとの対決今回より戦闘描写を細かく書きたいと思いま

す。ですがうまく書けるか不安です(笑)次回は今回よりも短くなると思いますが、目

に通していただければ幸いです。次回もよろしくお願いします!



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