ソードアート・オンライン~神速の剣帝~   作:エンジ

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第二話 絆固き牛

<ニブルヘイム>に突入してからすでに二十分が経っていた。だが、道中での雑魚モンスターとのエンカウントはほぼゼロ。おまけに、中ボスもほとんどいなかった。

それは大変喜ばしいことなのだが、フロアボスはきっちり居残っていて、その強さはほぼ反則級なのだ。

俺達は、どうにか第一層フロアボスの単眼巨人型モンスターを倒し、今現在第二層のフロアボスと戦闘している最中だ。

 

「やばいよお兄ちゃん、金色の方、物理耐性が高すぎる」

 

「・・・・ボス、強すぎね?」

 

「衝撃波攻撃二秒前!一、ゼロ!」

 

ユイが、叫ぶと同時に俺は右へ回避する。

俺と後方支援のアスナ以外は攻撃を避けきれず、HPがレッド手前のイエローゾーンまで減る。アスナがすかさずヒール魔法を使うが、長くはもたないだろう。

今回のパーティー編成は、七人パーティー+俺。このゲームはよくわからないが、七人一組のパーティー構成になっている。レイドの場合は、七人パーティー×七の四十九人だ。当然ながら、人数が増えるごとに回復系の魔法の消費が多くなる。なので、パーティーから外れている俺は極力ダメージを受けないようにしていたのだが・・・

 

「キリト君、今のペースだと、あと百五十秒でMPが切れる!」

 

この耐久戦で、ヒーラーのMPが無くなるということは、パーティー壊滅、すなわち<ワイプ>することになる。ワイプした場合、央都アルンのセーブポイントからやり直しになる。

だが、あまりクエスト時間も残っていないはずだ。

 

「メダリオン、もう七割以上黒くなってる。時間はもうなさそう」

 

「解った」

 

キリトは目を閉じ、大きく息を吸うと、何かを行う決心がついたようで、目を見開く。

もし、旧アインクラッドでこの状況に立たされたら間違いなく撤退を指示するだろう。あの世界では、<可能性に賭ける>という選択肢はなかったからだ。だが、今はもうデスゲームではない。俺達は、<ゲームを楽しむ>。ただそれだけでいい。それなら、大きな賭けをしても問題はないだろう。

 

「みんな、こうなったら、できることは一つだ!」

 

キリトは、黒いミノタウロスと金色のミノタウロスを、見て叫ぶ。

 

「一か八か、金色をソードスキルで倒し切るしかない!」

 

<ソードスキル>。あの世界では、俺達の生死を左右する能力だった。今月のアップデートで、運営はソードスキルシステムを導入した。

しかし、それに大きくメリットを追加した。それは<属性ダメージの追加>だ。現在の上級ソードスキルには、地水火風闇聖の魔法属性を備えている。ゆえに、物理耐性の高い金色のミノタウロスに大きくダメージが通るはずだ。

 

「うっしゃァ!その一言を待ってたぜキリの字!」

 

「シリカ、カウントでバブル攻撃を頼む!   二、一、今!」

 

「ピナ、<バブルブレス>!」

 

シリカの命令通り、彼女の上空を舞う小竜は、虹色の泡を発射する。

魔法耐性の低い金色のミノタウロスは一瞬の幻惑効果にとらわれ、動きを止めた。

 

「ゴー!」

 

キリトの合図で、アスナ以外の全員が駆けだす。

キリトと俺とアスナ以外の全員がソードスキルを叩き込む。金色のミノタウロスのHPが一本ほど減る。

キリトが、二刀を装備すると、硬直している仲間の前に立ち、ソードスキルを放つ。

八連撃ソードスキル<ハウリング・オクターブ>だ。

八連撃ソードスキルは、間違いなくこの世界で大技だ。当然、技後の硬直、スキルディレイも長い。

だが、今度はキリトの左手の剣が輝きだした。そしてそのままソードスキルを放つ。

交互に、合計四回ソードスキルを繰り出すと、キリトがスキルディレイにより停止した。金色のミノタウロスのHPは、最後の一本ほどだ。一人でボスモンスターのHPゲージを一本削るなんて、やはりあいつは化け物だ、とつくづく思う。

 

「キリト、あとは俺に任せろ!」

 

俺は、納刀していた鞘を腰から外す。その瞬間、俺の鞘が、水色、真紅、黄色、紫色と交互に輝きだした。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

キリトの合計十六連撃によってディレイが発生していた金色のミノタウロスに、鞘が水色に輝いた瞬間抜刀する。単発抜刀術<天地開闢>。水五割、物理三割、風二割。

あの世界で愛用していた技だ。俺は、金色のミノタウロスの右腕を切り落とすと、今度は刀が真紅に輝き始める。

四連撃ソードスキル<スクエア・グリスター>。火四割、物理四割、風二割。ミノタウロスのHPがガウンと減る。だが、まだ終わらない。

スクエア・グリスターが終わると同時に、刀が黄色に輝き始める。

六連撃ソードスキル<フラッシング・メテオ>。聖四割、物理三割、風三割。

俺は、閃光の如くミノタウロスの脚に斬りつける。斬撃が終わると奴のHPは、三割を切っていた。刀が、今度は紫色に輝き始める。

七連撃ソードスキル<ダークネス・エンタイス>。闇六割、物理三割、風一割。

俺は、これで削り切れると思ったが、技が未完成だったせいか、金色のミノタウロスのHPはぎりぎり残った。俺に、スキルディレイが発生する。

金色のミノタウロスは、ディレイが無くなった瞬間。左手に持っていた巨剣を俺に振りかざす。

これを食らったら、間違いなく即死だ。俺は、思わず目をつぶるが、斬撃は俺に届かなかった。

目を開けるとアスナがいつの間にか細剣を装備して、ミノタウロスにソードスキルを放っていた。奴のHPは、消滅し、金色のミノタウロスは無数のポリゴン片となって消えた。

後方にいた、黒いミノタウロスがHPを全回復したらしく、大斧を持って、今助けに行くぞ相棒と言わんばかりに、こちらに大斧を向けた。だが、金色のミノタウロスが消えた瞬間その動作が止まる。

 

・・・・・・え?

 

何が起きたかわからない黒いミノタウロスと、そいつに笑顔を向ける俺達。

 

「・・・・おーし、牛野郎、そこで正座」

 

硬直が解けた俺達は、一斉に黒いミノタウロスへ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵アバターが爆散した地点にたくさんのドロップアイテムが出現した中、クラインが俺とキリトに顔を向け叫んだ。

 

「おらキリ公!ラテン語!オメエらなんだよさっきのは!?」

 

ラテン語ってなんだよ・・・・。俺は、意味不明な発言をしたクラインに顔を向ける。キリトもめんどくさそうに顔を向ける。

 

「・・・・言わなきゃダメか?」

 

「・・・」

 

「ったりめえだ!見たことねぇぞあんなの!」

 

「・・・・システム外スキルだよ。<スキルコネクト>」

 

おー、という声がリズやシリカ、シノンの口からもれた。

 

「じゃ、じゃあ、ラテン語のは!」

 

「ラテン語ってなんだよ・・・・。俺のは、<スキルオーバーラップ>だ。ソードスキルを一つに重複させると、スキルとスキルの間の時間がほぼ無くなり、一つの連撃のように繰り出せるんだ。この刀を強化して追加された能力だ。・・・・まあ、あれはまだ未完成だけどな」

 

「あれで未完成かよ!?・・・・どんだけ強いんだ・・・・」

 

「う・・・・・なんかわたし今、すごいデジャブったよ・・・・・」

 

「気のせいだろ」

 

キリトはアスナの背中を、ポンとたたくと、声を張り上げた。

 

「さあ、のんびりしてる暇はないぜ。リーファ、残り時間はどのくらいだ?」

 

「今のペースだと、一時間あっても二時間なさそう」

 

「そうか。ユイ、このダンジョンは全四層構造だったよな?」

 

「ええ、三層のエリアは二層の七割程度、四層はほとんどボス部屋だけです」

 

「ありがとう」

 

キリトは、ユイの頭をなでると何かを考え始めた。おそらく、この後の時間配分を考えているのだろう。

 

「・・・・こうなったら、邪神の王様だか何だか知らないけど、どーんと当たって<砕く>だけよ!」

 

リズベットは、キリトの背中をどーんと叩き、そう叫ぶと、俺達も「おう!」と応じた。

 

「よし、全員、HPMP全快したな。そんじゃ、三層はさくっと片づけようぜ!」

 

もう一度声を合わせ、俺達は床を蹴ると、ボス部屋のある氷の下り階段目掛けて走り始めた。

 

 

 

 




今回は、牛野郎との戦闘でした。次回が、キャリバー編最後だと思います。
ところで、キリトは、素でスターバストストリームが出せるってことは、素でジ・イクリプスも出せるんですかね?ソードスキルでジ・イクリプスが実装されたら、ゲームバランスが崩れますよね(笑)
そんなわけで、これからもよろしくお願いします!!

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