とある提督の日記   作:Yuupon

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ちょっと間が空きました。
実は新しいゲームを買いまして、ハマっていたり。
それから夏に向けて賞へ出す小説も書かねば(大賞ではなくプロの意見を聞きたいがため)



26 後半戦(三人称)②

 

 

 

 18

 

 

 

 

 朝から志島鎮守府はてんてこ舞いだった。

 

「理沙提督! 鎮守府の修理のための資材が足りません!」

「理沙提督! 大変です、本部への連絡機器が一部を残して破損しています!」

「理沙提督! 一大事です! 九条提督が消えました!」

「あーもう! 連絡は一人ずつ言え! 私は聖徳太子じゃないんだぜ!?」

 

 これでもか、と舞い降りる事案についつい叫び返す。というかこれほどの問題が起こっていることに逆に恐怖すら浮かんだ。

 理沙提督はうっとおしさを感じつつ、それでも的確な指示を各自に飛ばす。

 

「資材はドックに緊急用のがあるからそれを使え、連絡機器は持参したのがあるだろ? 無けりゃ九条提督のか冬夜のを借りろ! んで九条提督が消えた……?」

 

 と、ここで指示を出す声が止まる。

 ギョッとしたとも言えた。

 

「あー……どっかにいるんだろ。もしくは寝てるとか」

「隅々まで探しましたが見当たりません! 代わりにこのような手紙が……」

 

 言われて、手紙を受け取る。クマさんのシールが付けられた封筒だった。取り出すと差出人には、『九条日向』とやけに達筆で書かれており、『後任の提督さんへ』となっている時点で嫌な予感がしてきた。というかクマさんのシールが某弾丸で論破するヤツの『モノクマ』のシールであることにこれ以上ない悪意すら感じてしまう。

 

 ちなみに手紙には、

 

『拝啓、後任の提督様。

さて、恐らくあなたがこの手紙を見ている頃、私は静寂島にいると思います。

実は知り合いがその静寂島にいるらしく、安否を確かめたいのです。

とりあえず、鎮守府の引き継ぎやら何やらは全て権限を譲りますのでよろしくお願いします。それと、私の考えですが恐らく敵の残党が静寂島にいる可能性もございますので、その確証も見つけてまいります。

ご迷惑をお掛けしますが、何卒よろしくお願いします』

 

 腹が立つほどの達筆で書かれていた。

 そして手紙の最後には可愛らしいキャラクターっぽいのが「よろしくお願いします」と言っている絵が描かれていた。

 理沙提督は黙り込んで、

 

「って黙れるかこれえええええっ!?」

 

 叫んだ。もう、なんか駄目だった。

 我慢出来ないとかではなく、意味不明だった。

 

「ちょっと待て、この手紙通りならあのバカ静寂島に居んの!? というかまだあそこの深海棲艦の掃討してないのに何考えてんだアイツ!? ぃゃ、落ち着け桐谷理沙。敵が居るかもと考えているなら駆逐艦達を連れて行って……」

「うわぁっ! 完全に寝てしまったのです、ゴメンなさい提督さんーっ!!」

「ふぁあ……朝か。とりあえず二時間は寝たし働かないとって誰ですか?」

「………………、」

 

 居た。いやがった。

 そのことに理沙提督は驚愕を禁じえない。というか一瞬、死にたがり野郎なのか? と考えてしまう。

 それともマゾヒスト、と考えたところでハッ!! と理沙提督は現実に戻ってきた。

 

「ぁ、ぁぁああああッ!!」

 

 慌てて叫んで、取り乱しながら理沙提督は叫ぶように命令を下す。

 

「第二艦隊! それからそっちの二人。静寂島へ出撃するぞ!! 九条提督の命がガチでマッハでヤバい!?」

 

 

 

 

 

 19

 

 

 

 

 噂の彼。九条日向は、朝日が射す静寂島の上に立っていた。

 朝、ここへ来ることを決意してそれから何事もなく島へは辿り着けてしまったことに拍子抜けした九条なのだが、島の惨状を見てそんな考えが粉々に砕け散る。

 

 その小さな島は、不自然なほど静まり返っていた。島の一部が抉り取られたように破壊されていることもあるが、それ以上に『何があった?』という疑問が大きい。惨状を眺めながら、九条は切れ切れの言葉で疑問をぶつけた。

 島の抉り取られた一部には海水が侵入し、湖のようになっているほどだった。特に目を引き付けるのは、島にあった標高一〇〇m程度の山。そこに大穴が開けられていることで土砂が流れている。

 危険地帯、という言葉が九条の頭をよぎった。

 

「……深海棲艦に襲われたってのか? それとも戦艦棲姫(せんかんせいき)

 

 口に出された言葉には、つい先日の接触による実体験が存在する。

 

「いや、言ってても仕方ない。ともかく何があったのか調べないと」

 

 頭を横に振って、乗ってきた船から装備を取り出す。『戦うため』ではなく『逃げるため』の装備を。妖精さんに必要最低限、と頼んだので渡された装備に不要なモノは無いはずだ。ついでに使用法も全て事前に調べてあるので頭に入っている。

 九条は辺りを見渡して、

 

(やっぱり、深海棲艦の残党がここに? でも何で『深海棲艦』が陸上に拠点を持とうとしたんだ? ……、人間を全滅させるためなら『本土』を直接狙った方が早いのに)

 

 浮かぶのは疑問。

 

(本来ならさっさと逃げ帰るのが正解なんだろうし、俺自身逃げたいが……駄目だ。ここには深海棲姫さんが居るって話を聞いたし、知っている以上見捨てちゃ駄目だ。例え(仮)だとしても俺は提督なんだし……。だから)

 

 九条は顔を上げる。

 それからあちこちを見回すと、やがて一点に向けて走り出した。

 

 

 

 

 20

 

 

 

 (たちばな)提督は武蔵野鎮守府を訪れていた。

 事前にアポは取っていないが、門にいた艦娘に身分証明書を提示して『……横須賀鎮守府の橘だ。武蔵野鎮守府の柴田提督に火急の要件がある』と、真剣さを孕んだ声で開けさせたのだ。今は案内役の艦娘に案内されているので、おそらく武蔵野提督には会うことが出来るだろう。

 残してきた理沙提督が気になるがそちらに意識を割いても仕方ない。

 

 橘提督は通路の角を曲がり、廊下の先を見た。

 窓から入る光が反射し、自然の光を最大限に取り入れた気持ちの良い直線通路は、鎮守府のモノにしてはやけに小綺麗で、美しい。機能的には良いと思うが、海に近い鎮守府としては少々……というか珍しい造りだった。

 

「あの、横須賀提督殿」

「ん、なんだ?」

 

 唐突に話しかけられた橘提督が聞き返す。

 すると案内役の艦娘が、

 

柴田(武蔵野)提督には何のご用件でしょうか?」

「……ちょっとした問題がな」

 

 意味深なニュアンスではぐらかすと、艦娘の方は疑いを向けた視線を橘提督に向けてきた。

 実を言うと、話す内容は決めていた。が、それをここで口にすることは出来ない。実際、今も緊張で心臓はバクバクいっているし、今こうしている瞬間も無茶苦茶勇気が必要だった。

 だが、それでも疑問に思ったことを聞かずには居られない。

 

『武蔵野提督が何を考えているのか。何故深海棲艦を煽るような行動を起こしたのか。氷桜が何故ああまでアッサリと敗れたのか……、本当に武蔵野提督は人類の味方(、、、、、)なのか?』

 

 必要最低限まで絞っても、これだけ武蔵野提督には尋ねたい。そもそも最初の敗れ方の時点でどこか陰謀めいているのだ。深夜だからこそ外への注意は強めに行われているというのに。

 

(……疑問点をここで解消する必要がある。そうじゃなきゃ、俺は。横須賀鎮守府の提督として失格だ。現在(いま)の海軍で何が起こっているのか。それが分からなきゃ提督として居ていいわけがない)

 

 橘提督には夢、というか目標がある。

 それは、守る(、、)ことだ。

 自分の鎮守府を、家族を、世界を、自分に関わる人々を。

 日常を過ごせば過ごすほど、彼が守りたい人達は増えていった。艦娘は勿論のこと、自分の家族や知り合い。友達に先輩に。

 

 橘提督は嫌だ。

 自分の知らないところで誰かが苦しむのが。

 苦しんでいるのに何も言わないまま潰されていくのが。

 

 だからこそ、知る必要(、、、、)があった。

 

(……海軍に入ったのもそれが理由だったっけな)

 

 注意しながら辺りを見渡して安全を確認しながらも、相変わらずいつバレるか気が気ではない。ズラリと並ぶドアの奥、直角に曲がる通路の死角、そういう所に橘提督がここに来た理由を知っている誰かが潜んでいるような錯覚を感じた。

 

 それから急な階段を使って上に向かう。

 二階部分の通路は、一面に窓が並んでいた。それから小さな部屋……恐らく艦娘達が使用しているであろう部屋が見える。ドアには艦娘が書いた可愛らしい文字のパネルが付けられていた。

 一階部分が来客用などの部屋や会議室が多いのに対し、二階は小さな部屋を多く作っているようだ。

 

「……ん?」

 

 と、橘提督は何気なく窓の外へ視線を投げた。

 案内役の艦娘が、

 

「何か?」

「ぃゃ、あそこでやってるのは演習かなって?」

 

 指をさした先には、大きな演習場で鍛錬に励む艦娘の姿。正確な狙いで射撃し、素早く動き回る様子はまさに圧巻と言うべきか。とてもではないが、橘提督の艦隊はここまでの練度に達していないと言い切れる。

 塔の上から景色を見下ろすような感じだが、眼下に広がるものは本当に素晴らしいものだった。

 

「あれが、武蔵野提督の第一艦隊か……」

「全員ではありませんが。あそこの四人は第一艦隊ですね」

 

 指差された方を見ると、扶桑(ふそう)姉妹と古鷹、それから睦月の姿が見える。

 

「レベルの差が知りたくねぇ……。やっぱ大将ともなるとレベルが段違いだな」

 

 それを指揮でひっくり返せる九条は化け物だ、と断定して橘提督はため息を吐く。

 それから再び長い廊下を歩いていると、最深部に内観に似合わない鋼鉄のドアがあった。

 堅牢、という言葉が似合いそうなドアだ。少なからずドアを壊すより壁を壊した方が侵入しやすそうな。「こちらです」、という艦娘の声に頷いて、橘提督はコンコンとドアをノックしてみる。

 返事はすぐに返ってきた。

 

「ーーーーどなたかな?」

「横須賀鎮守府の橘提督です、武蔵野提督に要件があり参りました」

 

 正直に答えて、橘提督は直立不動する。心臓がバクバクと鳴り止まず、全身から嫌な汗がびっしょりと浮かぶ。

 そのまま固まっていた橘提督はゴクリと唾液を飲み込んだ。

 それから数秒。

 

「ーーーー誰も近付けぬようにしなさい。それと横須賀提督を中へ」

「はい、承りました。では許可が出ましたので」

「あ、あぁ」

 

 軽く腕を引っ張られた橘提督は少し動揺する。

 と、重苦しい音を立てて鋼鉄のドアが開いた。ギギギギギィ……と音を立てて開く様は、開かずの間を開けたような感覚がする。

 そして中へ入れられたと同時に案内役の艦娘によってドアが閉められた。

 

 そして部屋の中に入ってから橘提督は気付く。

 

 

「ようこそ、と言っておこうか。横須賀提督」

 

 低い、それでいて突き刺すような男の声。

 そして。そうして。ゆっくりと顔を上げた橘提督の前には、腕を組んだ大男が立っていたーーーー否、橘提督の方へ歩いてきた。

 

「……っ」

 

 思わず身構えそうになって、止まる。海軍の服装に身を包んだ貫禄ある大男。彼が(まと)う覇気はおよそ普通の人間のものではないが、それはあくまで自分自身が勝手に威圧されていると感じているに過ぎない。

 武蔵野鎮守府の、柴田提督とはそういう男なのだ。

 故に、橘提督は怖気付いてはならない。

 

「聞きたいことが、あって来ました」

「要件、だな。重要案件なのだな?」

 

 振り絞るように言い切った言葉に武蔵野提督が聞き返す。それに対して、橘提督は額に汗を浮かべながら頷いた。

 

「……はい、凄く。それこそ海軍自体が大幅に変わってしまうかもしれないくらいに」

「成る程。聞く価値はあるらしい。で、何用かな?」

 

 そう言ってから「座りたまえ」、と武蔵野提督が席を勧める。頷いてから、座った。

 そして覚悟を決めて、言う。

 

 

「武蔵野、提督。あなたは何を考えてこのような行動に出たのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「一言」九条の犯罪歴が意外に多い件。

①不法侵入
②軍のモノを勝手に使用する
③艦娘へのセクハラ(電ちゃんへのおんぶ)
④恐喝(交渉の際などに無意識で)
⑤器物破損(何千万は軽くいきます)
⑥命令無視(言わずもがな……)

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