とある提督の日記   作:Yuupon

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一話完結。

原点回帰という事で日記風に。
本来は大和さんの4話目をやろうと思っていましたが、金剛とかぶるので止めました。
次は恐らく駆逐艦の島風か電のどちらかを書いて、エピローグ(恐らく文量がヤバイ)を書く予定です。




18 深海・棲姫日記

 かつて沈んだ艦はどう思うのか。

 異常に直面してどう感じたのか。

 これは、深海に棲む一人の姫の日記。

 

 

 

 

 ○月?日、

 

 

 横須賀鎮守府へと久々に向かった。

 本当に久し振りだ。かれこれ数年ぶりか。

 話を盗み聞いた限りでは"アイツ"も元気にしているらしい。かつて"アイツ"と一緒に深海棲艦を倒していた横須賀鎮守府は今では、別の提督が着任していた。

 

 そう言えば、変な奴にであった。

 九条日向(くじょうひなた)と名乗っていた。

 今、私が書いている日記もその九条という男がくれた。

 人間の癖に私、深海棲姫を見ても驚きすらしない。フレンドリーに接してくれた。

 それからその様子を駆逐艦、電がコッソリ盗み見ていた。恐らくは私と話していた九条を気遣っていたのだろう。

 

 だが。

 ……どうしてだろうな。

 人間の筈なのに、何故か"勝てない"と思ったのは。

 

 とにかく、九条という男が気になった。

 これからも何かあったらこの日記を書くとしよう。

 

 

 

 

 ○月+日、

 

 

 5日くらい日が空いた。

 最近は少し海が荒れている。私の周りに集まっている平和主義の深海棲艦達も何故か、好戦的になっていた。

 その原因を探る日々なのだが、どうにも足が掴めない。

 もしかしたらどこかの姫クラスの深海棲艦が何かを企てているのか?

 まぁ、それはともかくとして九条と会った時の様子を書くことにする。

 

 九条という男が気になった私は横須賀鎮守府へ訪れた。

 海から顔を出して、探してみると堤防辺りにその男は居た。

 

「最近海の動きが変だけど深海棲姫さんは大丈夫だった?」

 

 ニコニコと。

 当たり前のように尋ねてきた九条。

 その情報を掴んでいる事にも驚いたが、彼の言葉の真意は何だったのか。私には分からなかった。私だってある程度の威圧はしているのだ。人間なら誰でも深海棲艦、それも姫であることが分かる。

 それをもろともしない九条は何なのだろうか。

 ……私にはヤツが人間だとは思えなかった。寧ろ、艦娘。もしくは深海棲艦のような……。

 

 それから九条はこう続けた。

 

「疲れているのか? 俺で良かったら愚痴を聞くぞ」

 

 そう聞いてくれた九条の表情は優しさに包まれていた、

 ずっと昔に、人間には弱みを見せないと誓った筈なのに、何故だか九条と、アイツの姿が重なって。

 古い、古い過去を思い出した。

 私が最も幸せだった頃の事を。

 気がつけば、私は九条に愚痴を話していた。

 人類と深海棲艦の戦争の理由や、私の知る全てを。

 

 恐らく、私が話した事は人間に広まるのだろう。もしかしたら人間だけではなく全ての深海棲艦が私の敵になるかもしれない。

 でも、もういいや。と思った。

 何故だか分からないが、どう足掻いたところで目の前の男には勝てる気がしなかった。

 それこそ、深海棲艦全てを結集しても。

 

 九条は間宮アイスをくれた。懐かしい味だった。

 深海棲姫の私とはいえ、舌はかつてのまま。

 本当に美味しかった。多分、これが人生最後に食べる甘いものなのだろうな。

 

 

 

 

 (解読不能)結果

 

 

 10日以上たった。

 依然として深海棲艦達が敵にまわる様子は無い。

 人間達にも私が話した事は広まっていないようだった。

 何故、話さなかったのか。気になった私は九条を探した。それが三日前の事だ。

 

 九条は提督になっていた。

 恐らく深海棲艦にとって最悪のニュースと言ってもいい。彼の指揮は以前彼の指揮する艦娘と戦い、生き残った深海棲艦から聞いた。

 

「アノマエニタッテイキノコレルノハキセキダ」

 

 あの前に立って生き残れるのは奇跡。

 そうと言わしめるまでの圧倒的な指揮。駆逐艦4隻に大部隊が壊滅させられたという話も聞いた。

 『深海棲艦の天敵』

 それも、努力すれば。とか数があれば勝てる天敵ではなく、決して勝てない相手。

 私も彼と話したから分かる。

 彼は、基本的に優しい。たとえ相手が私のような深海棲艦にだって優しく接してくれる。

 でも、敵に対しては別だ。

 明確な敵であれば、彼はそれこそ狂気的に変わる。その戦いはまさしく一方的に相手を虐殺する(ワンサイドゲーム)だ。

 

 ちょっと挑んでみよう、なんて思えない。

 彼は最強ではなく、無敵なのだ。少なくともそう感じた。それは、初めて会ったあの日。覗いていた駆逐艦、電に脅しを入れるように睨んだ時にこちらを見た目だ。

 

 狂気、絶望。そんなものが生温いくらい。いや、冷水にも感じる程壊れた目。それが、私を見ていた。

 全てを見透かされたかのような、命が握られているかのような。そんな恐怖を感じた。

 

 あんなの、人間じゃない。生きている者が出来る目では、して良い目ではない。

 勝とう、じゃなくて勝てないのだ。

 現に、私は彼と戦う気はない。戦えば死ぬからだ。それこそ、身体をズタズタにされた方がマシであるような殺され方で。

 

 『人間』。そんな言葉合わない。

 彼はそれこそ、挑戦しようと思うことがおこがましいくらいの。戦う事を選べば全てが壊されてしまう。そんな無敵の存在。

 ただし、敵に対しては。という言葉が付くが。

 

 私は明日彼と会う。

 敵ではなく、友人として。私を慕ってくれる深海棲艦達を守る為に。

 

 

 海の調査結果

 

 

 最近の海が荒れている原因が分かった。

 原因は戦艦棲姫。彼女は未だに九条と会った事が無いから、彼が危険である事を理解出来なかったらしい。

 九条の直ぐ近くの鎮守府を襲い、そこへ救援を送った九条の鎮守府を落とす。という策を行おうとしているようだ。

 私はどう動くべきだろうか。

 九条に味方するか、戦艦棲姫に味方するか。

 単純に考えれば九条に味方するのは以ての外だ。だが、だからと言って戦艦棲姫に味方しても轟沈させられてしまう恐れもある。

 ……私はーーーー。

 

 

 

 

 ☆月☆日、

 

 

 九条の鎮守府。神無鎮守府を訪れた。

 九条は堤防に居て、私を見つけると鎮守府内から飲み物などを持ってきてくれた。

 その途中で面白い駆逐艦達にも会った。

 軽い世間話をしながら、情報交換をする。彼が着任してからまだそこまで経っていないのにも関わらず見た所防御機能は完成していた。

 大した事ではないといっていたが、この速度でそこまで揃えるのは異常だ。明らかにおかしい。

 

 しかし性欲が、とか言っていたところを見ると、どうも人間っぽさがあっておかしな気分になった。

 とりあえず、海が荒れている事をボソリと呟いて、私は基本的に傍観に徹するつもりだ。

 戦艦棲姫に我が家。静寂島の内部を壊されると困るので、引きこもっておこう。勝てる気がしないから。

 

 とにかく、どうなるか。

 私としては楽しみだ。

 

 

 

 ☆月H日、

 

 

 戦艦棲姫の作戦は順調なようだ。これ以上ない程、と言っていた。

 しかし志島鎮守府の提督の行方は分からないらしい。

 まだ、人間側は動いていないが果たしてどうなるか。

 

 私としてはやり過ぎないようにして欲しい。

 

 

 

 ☆月J日、

 

 

 人間側が動き出した。

 志島鎮守府は既に占拠する事に成功したようだが、全ての艦娘及び提督。それから妖精に逃げられたそうだ。

 この話だけで既にキナ臭いのだが、どうやら戦艦棲姫はそれに気付いていないらしい。

 根っからの深海棲艦はそんなものか? いや、私がおかしいだけなのだろう。

 

 とにかく近いうちに敵が来る。備えておこう。

 

 

 

 ☆月K日、

 

 

 九条を殺した。戦艦棲姫がそう言っていた。

 駆逐艦の艦娘を乗せ、高速船で移動していたところを狙撃したらしい。

 九条は駆逐艦を庇い、心臓に弾丸が命中したと聞いた。

 船ごと吹き飛ばしたらしい。

 

 ………………、何でだろうか。

 死んだ、と聞いても信じられない。

 

 あの男ならば、心臓に弾丸が突き刺さっても蘇るような、そんな気がした。

 

 

 

 2ページ目。

 

 

 それから志島鎮守府を奪い返されたらしい。

 それも戦艦棲姫が居なかった僅かな時間の間に。たった、駆逐艦2隻に。

 恐らく九条からの命令書を持っていたんだろう、と戦艦棲姫は言っていたが……。

 

 彼女は近海で再度立ち上がるべく、深海棲艦達を集めるそうだ。

 拠点探しをすると言っていたが、何処に行くのだろうか。ここらにはこの島しか無いと言うのに……。

 

 

 

 

 ☆月L日、

 

 

 私はこの日を決して忘れない。

 かつて、私が沈んだあの日のように。絶対に忘れない。

 

 戦いは……終わった。


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