平和を愛するリタイヤ組達   作:愬月

7 / 11
今さら章管理に気づいて編集しました。
今回の話は、中年勇者じゃない人達のお話。


卵達の日常
4月は出会いの季節ですね


「そーくん、どうしたの?黄昏てるみたいだけど」

書類を握りつつ、机に突っ伏していた俺にそんな声がかかって、首だけそっちを向く。

「しーさん、女難を払うにはどうしたらいいですか?」

「あぁ、うん。神殿行ったら?」

「神官長に鼻で嗤われました。ついでにイケメン死すべしとか言われました」

「未成年に辛辣な・・・で、何で女難?」

「瑠那の奇行のせいで降りかかる災難をどうにかしたくて・・・」

「うん、諦めろ」

「早っ!?何で!?」

思わず身を起こして叫ぶ。

「あの子、勇者の卵。お前、次期魔王」

「・・・・・・ちくしょう!知りたくなかったよ、そんな情報!!」

思いっきり振り下ろした拳がテーブルを割った。

泣きたい。

「まぁ・・・がんば。色々フォローはするから」

「何で引退したんですか。どうしてもう少し、せめて俺らが成人するまでネバってくれないんですか現役組―!!」

「いやいや、もう現役じゃなかったからな?託宣持ってても、体力とかは衰えるから。後進の育成が始まる次期だから」

「よりによって、何でアイツなんですか。そして何で俺なんですか」

「いいじゃん、神様ざまぁで」

いい笑顔の身内である現役魔王に、いい笑顔でサムズアップされて、彼の術で直ったテーブルに再び突っ伏した。

 

「準備できたー?」

「そっちこそ」

「私は完璧」

「そうか」

「楽しみよね~」

胸を張る彼女に、本気でかなりの不安を抱いた。

「いいな?小中学生時代に起こしたような騒動は止めろよ?」

「え?何かしたっけ?」

あぁ、したよ。伝説になるような事をたくさんな。

小・中学校で彼女の名前を知らない奴はいない。

実家も有名だが、彼女自身も有名だ。

理由?まぁ、一番有名なのは

[放送室占拠事件]

とか、

[教育委員長ズラ事件]

とか、

[真夜中の肝だめし大会]

辺りだろう。

教員に怒られるくらいではへこたれず、己の目的をやり遂げた彼女に最後は拍手喝采だった。ストレスマッハで、病院に運ばれた教員へのフォローは主に俺が行って何とかなった・・・はず。うん、あれからもう来るなと涙ながらに言われたこと以外何もない。

卒業式では本気で万歳して、涙を流していた彼らに本気で謝り倒したのはそう遠くない昔だ。

「・・・・・・とにかく、大人しくすること。あと、真面目に新入生の挨拶をすること…分かったか?」

「イエッサー」

おどけたように敬礼をする彼女に、どうしても不安が拭いされなかった。

「遅刻するぞー」

奥から聞こえた彼女の母親の声に、置いていた鞄を肩にかける。

「行ってきます」

「行ってきまーす!!」

「はい、行ってらっしゃい」

入学式の前にあるオリエンテーションのために、親より先に学園へと向かった。

「おはよー」

「おぅ」

「おはよう、二人とも…今度はあんまり騒動を起こすなよ?」

「待て。俺は被害者だ」

「またまた~」

冗談ばっかり、と笑う彼女に引きつる。

「みんな知ってるよ?二人が仲良しなのは」

「えぇ、実は十年前のあの日…私達、永遠の愛を…」

バカな事を言い出した彼女の頭をぶん殴った。

一応、手加減はしている。

「いった~・・・蒼弥酷い」

「黙れ、トラブルメーカー」

「いや~・・・仲がいいねぇ・・・」

「どこをどう見たらそんな・・・いえ、もういいです」

頭を押さえて睨む彼女を黙殺して、八百屋の店主に一礼すると、足早にその場を去った。

急がないと、電車に乗り遅れる。

通学定期を自動改札に通して、学園前までの電車に乗った。

「ほんと、性別違ってもシノさんと、サダくん見てるみたい」

「あー・・・確かに」

「シノさんがツッコミで、サダさんがボケだったもんねー」

「それが今じゃ、サダくんも立派な警官・・・そろそろ、警部だっけ?」

「警視まで行きそうよねー」

楽しみだと笑いあう商店街の人々の声は、当人へ届けられる事は、今は、ない。

 

 

 

***************************************

 

 

 

入学式が始まった。

厳粛な雰囲気の中、生徒がクラス順に、静かに入ってくる。

校長の祝辞など、一通り終わった頃、瑠那が呼ばれた。

この学校は少々変わっているらしく、新入生代表は男女一人ずつで、その二人がそのまま次の生徒会のメンバーに入るのだ。まぁ、言うなれば生徒会長候補である。

うっかり、瑠那と同点首位になってしまい、俺の名前も呼ばれた。

正直な話、バックレたいが前に出るしかない。

互いに、新入生代表の挨拶を終えると、一呼吸置いて瑠那がマイクを持ち直した。

それに、嫌な予感がして止めようとした。

「私、夕月瑠那は、在学中の祭りという祭りを面白おかしくすることを、ここに誓います!!」

のだが、遅すぎた。

「ですから皆様、ご協力を宜しくお願いしますねっ!!」

するな、そんな誓い。

てか、それをここで言うんじゃない。

思わず殴り倒そうとしたが、破れんばかりの拍手と歓声に脱力した。

「楽しみにしてるぞー!!」

「全力で協力するからなー!!」

「中学時代を再現してくれー!!」

「期待してるわー!!」

信じたくないが、この高校の在校生はみんな彼女を知っていて、あまつさえ騒動を起こすのを期待している。

教師陣は・・・あぁ、頭を抱えているな。

中でも、一際教頭の顔が蒼い。新任なんだろう。

神経性胃炎にでもならなければいいが・・・

まぁ・・・禿げる、ということはないだろう。

だって、その頭には、もう何も残ってはいないのだから。

ライトが汗に反射して眩しい。

とりあえず胃に穴があかないよう、祈っておこう。

上機嫌の瑠那を促して、壇上から降りる。

どうしよう。本気で今すぐ帰りたい。

「楽しみだねー」

「・・・そうか」

「うん!」

輝かんばかりの笑顔に、諦めが勝った。

何だかんだとあったが、こうして入学式が終わった。

明日から新学期だ。

期待と楽しみが半分、瑠那の尻拭いというか、後始末…いや、後処理か。

それに苦労するんだろうという、諦めにも似た、予想というか、予感というか…

そんな微妙かつ、言葉では言い表せない感情を抱えて、自分の新しい教室へと向かった。




勇者達がいるのは本土の方。
彼らがいる島は、船で片道1時間ちょっとのところにあります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。