今回の話は、中年勇者じゃない人達のお話。
4月は出会いの季節ですね
「そーくん、どうしたの?黄昏てるみたいだけど」
書類を握りつつ、机に突っ伏していた俺にそんな声がかかって、首だけそっちを向く。
「しーさん、女難を払うにはどうしたらいいですか?」
「あぁ、うん。神殿行ったら?」
「神官長に鼻で嗤われました。ついでにイケメン死すべしとか言われました」
「未成年に辛辣な・・・で、何で女難?」
「瑠那の奇行のせいで降りかかる災難をどうにかしたくて・・・」
「うん、諦めろ」
「早っ!?何で!?」
思わず身を起こして叫ぶ。
「あの子、勇者の卵。お前、次期魔王」
「・・・・・・ちくしょう!知りたくなかったよ、そんな情報!!」
思いっきり振り下ろした拳がテーブルを割った。
泣きたい。
「まぁ・・・がんば。色々フォローはするから」
「何で引退したんですか。どうしてもう少し、せめて俺らが成人するまでネバってくれないんですか現役組―!!」
「いやいや、もう現役じゃなかったからな?託宣持ってても、体力とかは衰えるから。後進の育成が始まる次期だから」
「よりによって、何でアイツなんですか。そして何で俺なんですか」
「いいじゃん、神様ざまぁで」
いい笑顔の身内である現役魔王に、いい笑顔でサムズアップされて、彼の術で直ったテーブルに再び突っ伏した。
「準備できたー?」
「そっちこそ」
「私は完璧」
「そうか」
「楽しみよね~」
胸を張る彼女に、本気でかなりの不安を抱いた。
「いいな?小中学生時代に起こしたような騒動は止めろよ?」
「え?何かしたっけ?」
あぁ、したよ。伝説になるような事をたくさんな。
小・中学校で彼女の名前を知らない奴はいない。
実家も有名だが、彼女自身も有名だ。
理由?まぁ、一番有名なのは
[放送室占拠事件]
とか、
[教育委員長ズラ事件]
とか、
[真夜中の肝だめし大会]
辺りだろう。
教員に怒られるくらいではへこたれず、己の目的をやり遂げた彼女に最後は拍手喝采だった。ストレスマッハで、病院に運ばれた教員へのフォローは主に俺が行って何とかなった・・・はず。うん、あれからもう来るなと涙ながらに言われたこと以外何もない。
卒業式では本気で万歳して、涙を流していた彼らに本気で謝り倒したのはそう遠くない昔だ。
「・・・・・・とにかく、大人しくすること。あと、真面目に新入生の挨拶をすること…分かったか?」
「イエッサー」
おどけたように敬礼をする彼女に、どうしても不安が拭いされなかった。
「遅刻するぞー」
奥から聞こえた彼女の母親の声に、置いていた鞄を肩にかける。
「行ってきます」
「行ってきまーす!!」
「はい、行ってらっしゃい」
入学式の前にあるオリエンテーションのために、親より先に学園へと向かった。
「おはよー」
「おぅ」
「おはよう、二人とも…今度はあんまり騒動を起こすなよ?」
「待て。俺は被害者だ」
「またまた~」
冗談ばっかり、と笑う彼女に引きつる。
「みんな知ってるよ?二人が仲良しなのは」
「えぇ、実は十年前のあの日…私達、永遠の愛を…」
バカな事を言い出した彼女の頭をぶん殴った。
一応、手加減はしている。
「いった~・・・蒼弥酷い」
「黙れ、トラブルメーカー」
「いや~・・・仲がいいねぇ・・・」
「どこをどう見たらそんな・・・いえ、もういいです」
頭を押さえて睨む彼女を黙殺して、八百屋の店主に一礼すると、足早にその場を去った。
急がないと、電車に乗り遅れる。
通学定期を自動改札に通して、学園前までの電車に乗った。
「ほんと、性別違ってもシノさんと、サダくん見てるみたい」
「あー・・・確かに」
「シノさんがツッコミで、サダさんがボケだったもんねー」
「それが今じゃ、サダくんも立派な警官・・・そろそろ、警部だっけ?」
「警視まで行きそうよねー」
楽しみだと笑いあう商店街の人々の声は、当人へ届けられる事は、今は、ない。
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入学式が始まった。
厳粛な雰囲気の中、生徒がクラス順に、静かに入ってくる。
校長の祝辞など、一通り終わった頃、瑠那が呼ばれた。
この学校は少々変わっているらしく、新入生代表は男女一人ずつで、その二人がそのまま次の生徒会のメンバーに入るのだ。まぁ、言うなれば生徒会長候補である。
うっかり、瑠那と同点首位になってしまい、俺の名前も呼ばれた。
正直な話、バックレたいが前に出るしかない。
互いに、新入生代表の挨拶を終えると、一呼吸置いて瑠那がマイクを持ち直した。
それに、嫌な予感がして止めようとした。
「私、夕月瑠那は、在学中の祭りという祭りを面白おかしくすることを、ここに誓います!!」
のだが、遅すぎた。
「ですから皆様、ご協力を宜しくお願いしますねっ!!」
するな、そんな誓い。
てか、それをここで言うんじゃない。
思わず殴り倒そうとしたが、破れんばかりの拍手と歓声に脱力した。
「楽しみにしてるぞー!!」
「全力で協力するからなー!!」
「中学時代を再現してくれー!!」
「期待してるわー!!」
信じたくないが、この高校の在校生はみんな彼女を知っていて、あまつさえ騒動を起こすのを期待している。
教師陣は・・・あぁ、頭を抱えているな。
中でも、一際教頭の顔が蒼い。新任なんだろう。
神経性胃炎にでもならなければいいが・・・
まぁ・・・禿げる、ということはないだろう。
だって、その頭には、もう何も残ってはいないのだから。
ライトが汗に反射して眩しい。
とりあえず胃に穴があかないよう、祈っておこう。
上機嫌の瑠那を促して、壇上から降りる。
どうしよう。本気で今すぐ帰りたい。
「楽しみだねー」
「・・・そうか」
「うん!」
輝かんばかりの笑顔に、諦めが勝った。
何だかんだとあったが、こうして入学式が終わった。
明日から新学期だ。
期待と楽しみが半分、瑠那の尻拭いというか、後始末…いや、後処理か。
それに苦労するんだろうという、諦めにも似た、予想というか、予感というか…
そんな微妙かつ、言葉では言い表せない感情を抱えて、自分の新しい教室へと向かった。
勇者達がいるのは本土の方。
彼らがいる島は、船で片道1時間ちょっとのところにあります。