「続け―――!!!」
「敵は目の前じゃー!!」
「ケガしたくなかったら道をあけな!!」
「勝利は我にありぃ!!」
「姫を助けろー!!」
うお―――!!
そこかしこから雄叫びが上がる。
「ここから、先には行かせん!!」
「ぐっ!?」
「先輩!!」
「いけっ!俺の屍を超えていけぇ!!」
「せんぱーい!!」
「冷たっ!?ちょ、冷水飛ばしたの誰だ!?」
「ふははは!!この日のために改良した、ウォーターガンを喰らえ!!」
「と、飛び道具は卑怯だろう!?」
「これが私の武器だ!!」
「た、竹筒もってなにかと思えば・・・」
「飛距離は風の魔術で伸ばす!温度は水の魔術で変える!私に死角はない!!」
「魔術は使用禁止だろうが!!」
「甘い!人に使用してはいけないが、道具に使用する許可は出ている!」
「何ぃ!?」
「・・・あ、ほんとだ書いてある」
「ふははは!これで我らの勝ちだ!」
「くっくっく・・・圧倒的ではないか我が軍は!」
盛り上がってるなー・・・
監視場所から眺めつつ、定刻近くになったので
双眼鏡を片手に、ホイッスルを加えて拡声器を構える。
ピー----!!!
『南区で戦闘中の生徒は、幼稚園のバスが通るので戦闘を中断し、道をあけてください!!』
「おっと」
「おーい!全員戦闘止めー!」
「道開けろー」
ばらばらと武器(ゴム製の刀)を仕舞って、彼らが距離をとる。
バスの中から外を見て泣いている子がいるのを発見。
先生らしき女性が慰めているが、泣きやむ気配がない。
・・・あれは後で、何かしらの詫びを持っていこう。
そして、それを見て何人か落ち込んで慰められている。
まぁ・・・うん、こっちもフォローしておくかな?
と、ここで商店街にサイレンが鳴った。
「どうした?」
『万引き犯発見!!』
「人数は?」
『2人。一人そっちに逃走中!服装は・・・』
特徴を聞いて、周囲を探すと・・・いた。
どうやらこれだけ生徒がいるにもかからわずやったらしい。
馬鹿というか、何というか・・・まぁ、好都合だけど。
拡声機のスイッチを入れる。
『南区戦闘中の生徒諸君!!万引き犯がそっちへ逃走中!!服装は青のキャップをかぶり、紺色のトレーナーとだぶだぶのコートを着用している!』
告げると、一瞬戦場が静まりかえり。
『いたぞー!!』
『こっちだ、青軍が見つけたぞ!!』
『逃がすな金一封―――!!』
『かこめー!!』
『ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ!!!!』
元気なことだ。
『残りはどれくらいー?』
「ざっと半分か・・・そっちは?」
『同じく。そろそろ時間ねー』
『東区、青軍の勝利で終了です』
『北区は赤軍の勝利』
「おー・・・」
『あと二つ…あら、青軍が勝ったわ』
『蒼弥君のところは?』
「・・・・・・・・・・・・終わったよ」
双眼鏡で目を凝らす。
どうやら、犯人を確保して縛り上げると戦闘が始まったらしい。
乱戦模様の中心部から離れた場所で、赤軍がしっかりと姫を救出。
ピストルを構えて、上空に終了の合図を放った。
〔 鎧を着ての本格助け鬼 〕
結果、引き分け。
となったのだけど、そんな事を彼らが納得するはずがない。
勝負は大将戦となった。
「まさかこうやって、貴様と戦うことになるとは思わなかったぞ・・・」
「それは私のセリフだ」
青と赤の兜を被った武者が向かい合う。
「では」
「いざ」
「尋常に・・・」
「正々堂々と・・・」
「「食堂のタダ券をかけて勝負!!」」
ほとんどの前触れもなく、赤い武者が右の上段回し蹴りを打った。
しっかりとした重心から、コンパクトに打ち出す鋭い蹴りだ。
「ぬっ!?」
「なんのっ!」
それを地面に伏せるようにして、青い武者がかわす。
軽いとはいえ、それなりの重量をまとっているというのに元気なことだ。
そうして、伏せたような姿勢から、青い武者が足払いの蹴りを放った。
「はっ!」
「ふん!!」
「何っ!?」
「もらったぁ!!」
「っ、甘いわっ!!」
その足払いを赤い武者が拳で殴って止める。
拳と蹴りがぶつかったのに、打ち負けたのは青い武者だ。
そんなムチャクチャな防御に青い武者が驚愕するが、すぐさま後方に跳んでから立ち上がり、すかさず右の後ろ回し蹴りを繰り出した。
その反射的な行動は素晴らしいが、それも赤い武者は予想通りだったらしい。
慌てることもなく、その蹴りを赤い武者は平然とブロックし、彼は反撃の下段蹴りを放って、残った青い武者の足を刈った。
「がっ!?」
「もらった!!」
バランスを崩されて、青い武者は思いっきりひっくり返ってしまう。
そこに、赤い武者からとどめの手刀が振り下ろされた。
ピー!!
「はい、そこまで!!勝者、赤軍大将!!」
引き分けなので、広いグラウンドの中央で代表の一騎討ちとなり・・・
結果、赤軍の勝利となった。
いやー・・・最後は古武術をやっている大将同士、まさにガチの殴り合いでした。
回りも手に汗握る激戦。今や拍手と歓声の嵐だ。
一応、拳を守るグローブ着用とはいえ・・・この二人、骨折れてないよな。
「さすがだ・・・だが!次は負けん!」
「あぁ、挑戦を待っている・・・だが!次に勝つのはまた俺だ!!」
笑顔で握手を交わす二人を、沈みかけた夕陽が照らす。
・・・熱い漢の友情か。
狼と虎の獣人である彼らはいわゆる脳筋と呼ばれる分類であり、運動部特待生なので大将になったのだ。それがまさか、こんな熱い戦いを繰り広げるとは・・・
開始時間は、午前九時。終了時間は、午後六時。
長い一日が、ようやく・・・
「って・・・まだ終わりじゃねぇな」
「えー?」
『只今から、商店街及び校庭の清掃を行います』
使ったら片付ける。汚したら綺麗にする。
まぁ当たり前の事だ。
『なお、このクレーターがあきまくった校庭は大将が責任をもって埋める事』
「魔術使っていいですかー?」
『かまいませんが、元の形を著しく変えることはしないでください。あと、商店街での使用はその周辺店舗の許可をもらってからにしてください。原則は禁止です』
「はーい!」
「じゃあ、俺らは南に行こうぜ」
「各々、陣地近くでいいんじゃね?」
「だな」
「私たちはどうする?」
「私達も陣地ごとに分かれようか」
「だねー」
「生徒会は各場所の監督と、お礼回りだからな」
「はーい」
「了解!」
こうして、5月が終わった。
余談だが、犯罪者抑制に繋がる上、一部の運動不足と闘争本能を適度に刺激する素晴らしいものだとなぜか絶賛され、来年以降の毎年恒例のイベントとなった。
この判断を下した大人に言いたい。
何でだ!!
ちゃんと一騎打ちは熱い戦いになっただろうか・・・