ピーガガガ・・・
『あー・・・テス、テス・・・』
ぴんぽんぱんぽーん・・・
その放送があったのは、掲示板にあの掲示物が張られた5日後の事だった。
『全校の生徒、教員の皆様こんにちは。定篠高校生徒会です』
なんだなんだと、自分を含めたクラスメートが視線を上げる。
『さて、先日夕月会長が勝手に発案しやがっ・・・失礼。勝手に・・・ごほん、彼女の独断専行によって発表されやがっ・・・えー発表される事になった、助け鬼のルールを発表します』
バサバサ、と紙が擦れる音がする。
あぁ、すっごく色々溜まってるんだなぁと、ちょっと同情した。
『参加者は学校関係者全員です。ただし、足腰の弱い方、心臓の弱い方、妊娠中の方は見学、もしくは審判に回って行っていただきたいと思います。その他は、原則参加となります』
バサリ、と紙のめくる音がした。
『昨日の朝礼で各クラスに配布した資料にある通り、男子は鎧ですが・・・自校には、200ほどしかありません。不足分は、近所のとある鉄鋼所と被服店が共同で作ってくれることになりました。なお、費用は発案者が全額負担するそうなので、皆さんは自分の病院費だけ気にしてください。一応、あまりに高額であれば一部負担いたします』
・・・はい?
今、ものすごく物騒な事を言われた気がした。
『助け鬼と言いますが、普通のとはルールが違います。助けるのは、十二単を着た女子です。彼女達を全て自分の陣地に連れて行けば勝ちです。なお、十二単はレンタルなので、100しか準備できません。ですから、鬼の陣地でそれを着ている女子を助け、十二単を脱いでから一緒に逃げてください。鎧は脱いじゃ駄目です。ちゃんと実物より軽いから大丈夫です。十二単も本当に重ねているわけじゃなくて、襟だけ重ねたように見せているので重くないですから安心してください』
バサリ、とまた紙が擦れる音がした。
『陣地は範囲内なら、何ヶ所作ってもかまいません。ただし、行動範囲は、この学校と大通り商店街まで。看板を立てて置きますが、くれぐれも一般市民に危害を加えないよう。あと、備品などを破壊しないように。壊れたら、その代金プラス迷惑料を請求します』
バサ・・・と、書類を投げる音がした。
『えー・・・テスト明けで疲れていると思いますが、くれぐれもケガには気をつけてください。あと、最近商店街で万引きや痴漢が多発しています』
ピン・・・と、クラスの空気が張り詰める。
『見つけしだい、警官に通報。もしくは、集団で囲んでください。警察と学校から、金一封がでます。ただし、相手にケガをさせない事。それと、自分の身を守る事を第一にするように』
『あ、ちなみに副賞でランチのタダ券でるよー』
付け加えられた、別の人物の声を聞いて。
クラスが、というか全校が湧いた。
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そうして、テストも終わった五月の末日頃。
鎧を着た、異様な集団が校庭に集まった。
『野郎ども!!食堂のランチ半額券が欲しいかー!!』
うおおおぉぉー!!
雄叫びを上げる彼らに、満足気に瑠那が笑う。
『ルールは簡単!!自軍の姫・・・あぁ女子の事ね?彼女達を陣地に連れて行けば勝ち!!ただし!各自、鎧についている印を叩かれたら戦闘不能って事で離脱する事!』
『離脱したら、体育館に集合してください。それと、女子にケガさせたら退場です。ついでに一週間の強制校内清掃ですからあしからず』
『各自、ケガと器物破損に気をつけてやること。いーい?』
はいっ!!
揃った声に、にやりと彼女が笑う。
『スタートは一時間半後!!では・・・各自解散!!』
わっ・・・と、クモの子を散らすように生徒が散らばる。
それを眺め、マイクのスイッチを切った。
「さて、俺達も行くか」
「頑張って!」
「お前もだよ!」
校内を他の審判達に任せ、外で審判をするために笑顔の瑠那の襟首を掴み、商店街へと向かった。
「えー・・・初めてましての方もいらっしゃるので、自己紹介をしたいと思います」
一礼。
それに、初顔の面々がまばらに頭を下げる。
「はじめまして。定篠高校生徒会の蘇芳です。で、こいつが今回の騒ぎの元凶の夕月です」
「いやー・・・また今年もやったねぇ・・・」
「まぁ、大人しい方か?範囲も狭いみたいだしね」
「ほんっっとうにすみません。何かありましたら、全額弁償させます」
真顔の自分に、顔見知りな面々が苦笑した。
その横で、訳の分からない顔をする者がちらほら。
「ほんとはもうちょっと広くするはずだったんだけどねー・・・陣営だって、二つじゃなくて5つにするはずだったのにー」
「全校生徒がいったい何人いると思っているんだ・・・!!範囲を絞って、被害を最小限にするために色んな場所に許可を取りに行くのにどれだけ大変だったと思って・・・!!」
「どうどう、落ち着いてストッパー」
「そうだよ、ストッパー・・・今から大変なんだから」
「ここで疲れたらだめだよ、ストッパー」
「今から頑張るんだよ、現役ま・・・」
「言わせねぇよ!?俺は現役じゃないっ!!」
ちょっと泣きが入った俺に、半笑いが返ってくる。
今からもう帰りたい。
「一応、ただの助け鬼・・・のはずなんで、被害はないと思いますが。後、痴漢や万引きの犯人は見つけ次第捕まえます」
「あぁ、頼んだよ」
「まっかせて!!」
胸を張る瑠那に苦笑して、商店街の者達が店へ戻って行く。
きっと、自分達の事を聞いているんだろう。
時々、驚愕の声が聞こえてくる。
「さーて・・・金一封のためにも、頑張ろ」
「街の治安のためだろ」
「それはついで!だって、面白いこと優先だもの!!」
「それがメインだ愉快犯!!」
一応ツッコミを入れて、開始時間が近いのに気づき、その場をはなれた。