無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

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小人

 

 朝になった。

 

 夜の間は寝るには寝るが、やはり長時間の睡眠というものができない。だから、ずっとイメージトレーニングをしながら朝になるのを今か今かと待っていた。

 

 短時間睡眠は行動できる時間が増えるので嬉しい。ただ、俺はまだ弱いので夜には行動できずにどうしても暇になる。

 

 前世では普段からスマホをいじっていたので、どうも何かをしていないと暇のせいで精神がおかしくなりそうだ。これが近年問題となっているスマホ依存というやつなのだろうか。

 

 何にせよ、今は狩りへと出かけるのに集中したい。夜の暇な時間を利用したお陰でイメージはバッチリ掴めているのだ。

 

 

(獲物はどうするかな。アプトノスだけだと流石に大人しすぎるから戦闘の経験は積めないだろうし。そうなると、ランポスとかジャギィあたりも見つけられればいいんだけど……)

 

 

 ただ、やはり油断は命取りになるだろう。ボス級モンスター以外のモンスターが『気』を扱えないという保証がないからだ。

 

 もしかしたら古龍を倒すことができるほど強いジャギィがいるかもしれない。

 森の支配者がランポスであるかもしれない。

 

 ありえない事、イレギュラーな事態、例外的な存在、全ての可能性を考える必要がある。

 

 もちろんある程度は妥協する。なるべく死にたくはないが、生物は死ぬ時には死ぬ。どんな状況になっても諦めるつもりは毛頭ない。だが、死ぬ可能性が高い以上覚悟だけは決めておきたい。

 

 

(いつまでも考え事ばかりしてないでそろそろ狩りに行くか。人間、じゃなくてガララアジャラでもいつか死ぬ時が来る。問題はどれだけ後悔の残らない生を送れるかだ)

 

 

 前世で生に対する執着がかなり強かったのも手伝ってか、今まで俺は死なないことばかりを考えていた。でも、冷静に考えてみて改めて気持ちの整理がついた。

 

 俺は、死なないために生きるのではなく、悔いなく生を楽しめるように生きたいと思う。

 

 こんな当たり前のことを今の今まで忘れてた。思えば、俺は本心では死ぬことよりも生を楽しめないことを恐れていたのかもしれない。そうじゃなきゃ普通ジンオウガとリオ夫婦の戦闘なんか見に行かないだろう。死にたくないと言いつつ無茶な行為ばかりをしてきたのは、俺が気づいていなかった本心からの思いだったのだ。

 

 

(俺って馬鹿だなぁ。人生なんて楽しまなきゃ損だろ。本当になんでこんなに当たり前の事を忘れてたのか……)

 

 

 考え方がポジティブになり明るくなったのが影響してか、周りの風景がいたく輝いて見える。心持ち一つでここまで世界の見え方が変わることに驚きだ。

 

 

(そうだよ、そう! 折角転生したんだ。前世と違って動けるんだ! 何を迷ってた! 何で躊躇ってた! 自分の命だ、自分の好きなように使えばいいじゃないか!)

 

 

 ああ、楽しい。自分史上最高の気分だ。前にあるのは暗闇じゃなかった。幾本もの道。俺の可能性。俺は本当の意味で自由なんだ。何も縛るものなんかない。

 

 

(一先ず狩りをしよう。既に出掛けようとしてから結構な時間が経ってる気がするし)

 

 

 一旦落ち着く。頭はクールに心はアツく。なんだか普段以上に色々なことをやれそうだ。

 

 俺は煮え滾る熱意を胸に狩りの獲物を探すため巣穴から出た。降り注ぐ陽光が眩しい。でも嫌な感じはしない。ポカポカと気持ちのいい陽気だ。

 

 

(絶好の狩り日よりだ)

 

 

 俺は内心でほくそ笑む。振動や皮膚で感じる音で相手の行動は分かるが、やはり目視で確認しながら動く方が断然やりやすい。その点で言えば、今日は太陽の光が降り注いでいて殆ど見えない場所がない。まさに最高の状態だ。

 

 

(でも、それは相手側も同じなんだよな。これでフィールドに関してはイーブンってわけだ。後は俺自身の力量が試される)

 

 

 少し緊張する。ただ、それすらも今は心地よい。ほどよい緊張のお陰で気を抜くことがない。この身体の持っているポテンシャルを充分に引き出せそうだ。

 

 

(それで、どうやってモンスターを探すか。やっぱり一番手っ取り早いのはピット器官で見つけることなんだけど、昼だと若干見づらいんだよな)

 

 

 実は太陽光によって様々な場所が暖められるとピット器官の視界が殆ど赤一色で染まってしまう。

 

 それでもなんとかモンスターを見つけられるには見つけられるのだが、なんというか、物凄く疲れる。

 

 なにせ人間の頃には存在すらしていなかった器官なわけで、感じたことのないような疲労感がある。敢えて言葉で表すとしたら、眉間に目があって、その目に何か異物が入っているような変な感覚になる。

 

 

(ん? 今、振動が……)

 

 

 不意に振動を感知する。現在の場所からそう遠くない位置にモンスターがいるようだ。しかも、恐らく1匹。これはチャンスだと思った。即座に振動を追いかける。

 

 暫くの間這い続けていると、振動が途切れたのでモンスターが止まったようだった。というか、止まったのを目視で確認した。

 

 

(ジャギィか……)

 

 

 ジャギィが死体を漁っていた。腐肉の臭いが自分の元まで漂って来ている。

 

 

(あのジャギィ、なんで群れにいないんだ?)

 

 

 普通ジャギィ____ランポスと同系統の姿をしたモンスター____は数体の仲間と共に行動するはずだ。しかし、今目の前にいる個体は一匹で行動している。

 

 

(群れからはぐれたか、それとも一匹で行動しても危険じゃないくらいに強いのか。多分、前者だな)

 

 

 そう思ったのには理由がある。

 最近強いモンスターを見ていたお陰で相手の力量がなんとなくわかるようになってきたのだ。

 

 本当になんとなく「こいつは俺より強い……ような気がする」「こいつは俺よりも弱そうだ……恐らく」という程度のものだ。今は物凄くあやふやな感覚だが、強くなるためにもこの感覚は後々鍛えていきたい。

 

 

(もし力量を隠す技術があって、あのジャギィが実は強かったなんてことがあったら仕方ない。その時は、全力で抵抗して死ぬまでだ。見破れなかった俺が悪いのだから。でも、そのせいで躊躇っていたってしょうがない。強くなるためには沢山の戦いを経験しないと)

 

 

 覚悟を決めてジャギィの首元を注視する。幸い、というか隠れているから当然なのだが相手はまだこちらに気づいてはいない。ジャギィは呆れたことに警戒すらしていない様子だ。相当俺の運が悪くない限り負けることは殆どないと思いたい。

 

 身体から力を抜く。ここから瞬時に身体に力を入れることで素早い加速をするのが目的だ。

 

 

(よし、準備はオーケー。三つ数えて飛びかかろう)

 

 

 未だにジャギィはこちらに気づいていない。腐肉を漁るのに夢中だ。

 

 

(三)

 

 

 何かを悟ったのかジャギィはしきりに周囲を見回し始める。

 

 

(二)

 

 

 ジャギィが戦闘体制を取り始めた。

 

 

(一)

 

 

 身体の脱力を深くする。

 

 

「シュァァアァァアッ!」

 

 

 初めての狩りというのはやはり不安がある。俺はそんな不安を吹き飛ばすように叫びながらジャギィへと襲い掛かった。

 

 

「グェア!」

 

 

 ジャギィは突然飛び出してきた俺に対応することができず、首がガラ空きになっていたので思い切り噛み付く。

 

 そしてすぐさま毒を流し込んだ。ガララアジャラの麻痺毒とレイア亜種の猛毒が混じったハイブリッド毒だ。

 

 毒を流し込まれたジャギィは叫び声すら上げずに倒れた。倒れた後に痙攣などもしていないので死んだようだ。

 

 

(え? 呆気なさ過ぎないか?)

 

 

 あまりにも毒の威力が強すぎたようだ。やはり種族による強さの差というのは大きいらしい。

 

 

(まぁ、一応初めての狩りは大成功だ。物足りない感じはあるけれども、今はとにかく喜ぼう!)

 

 

 初めての獲物。それだけで嬉しくなる。自分で手に入れた、自分が行動して成功した。やはり何かを達成した時は気分がいいものだ。

 

 

(巣に持って帰りたいところだけど、そうすると兄弟に盗られるだろうし、腹も減ってて丁度いいからここで食べるか)

 

 

 ジャギィに口を付けるために嘴を近づける。不意に目の前を黒い影が通り過ぎた。俺が閉じた嘴は空を切る。

 

 

(は?)

 

 

「チャチャ! チャ!」

 

 

 小人がいた。

 否、チャチャ族と言うモンハンに出てきたドングリのようなものを被っている小さい人型モンスターがいた。そして頭の上にジャギィを乗せている。

 

 

(え、なに、アイツに獲物盗られたのか俺?)

 

 

 段々と状況が飲み込めてくる。それと同時にチャチャ族に対しての怒りが沸沸と湧いてきた。

 

 

「シュァァァァァァ!」

 

 

 思わず叫んでしまう。

 本来は相手を威嚇するための咆哮だが、今回は怒りの感情を表す意味でも使っている。

 

 

「チャチャ! チャチャチャ!」

 

 

 チャチャ族は変な声を出しながら走り去った。とても速く追いつけそうにない。

 

 

(マジかよ……)

 

 

 チャチャ族が走り去ったその場には、怒りの向け場を失った一匹のガララアジャラが落ち込んだ様子で呆然と佇んでいた。

 

 


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