無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

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適応

 目が覚める。気分はそこまで悪くなかった。生きるための気力が体の底から湧いてくる。

 

 

(俺は、生きる。生きるために強くなる!)

 

 

 寝起きなのに随分とテンションが高いぞ!

今すぐにでも狩りをしたい、モンスターの戦闘を見たい、という衝動が湧くが我慢する。

 今は何よりも修行が先決だ。昨日ドスランポスが目の前であっさりと死んだところを見て完全に考えが変わった。

 

 俺は最強になりたい。

 

 もちろん、死にたくないという思いからの願いではある。だけど、それだけが理由じゃない。強い者でさえ一瞬で死んでしまう事に対して虚しさを覚えたからだ。

 

 俺は前世の頃から誰かを観察し、その背景を想像するのを楽しんでいた。いわゆる人間観察が趣味だった。

 

 ドスランポスに対してもそうだ。あのドスランポスは群れを率いてるのではないか、番や子供はいるのかなど様々な事を想像した。そして、恐らく大体は当たっているんじゃないかと思う。

 

 実際に群れを率い、当たり前のように親がいて、生きてきたのだろう。それまでの歴史の積み重ねというか、時間の積み重ねがあったはずだ。

 

 それが、一瞬で消え去る。この虚しさがわかるだろうか。

 

 芸術作品、またはゲームのデータや自身の記憶。それらが消えた時どう思うだろうか? きっと酷い喪失感に襲われるだろう。それと同じような感覚を、俺はドスランポスの死に対して抱いた。

 

 

 俺はドスランポスのようには簡単に死なない。俺がこの世界に生きたという爪痕を残したい。なら方法は? 最強になればいい。最強になって名前を世界へと知らしめてやればいいのだ。

 

 その為にまず、俺は自分自身に名前を付けよう。名前は安直なものでいい。わかりやすい名前の方が覚えて貰える。その名前をどうやって伝えるかは……まぁ、おいおい考えていこう。

 

(そうだな、なんて名前にしようか。ガララ……ガーラ、ラーガ、ラガー。ラガー、なんか個人的に好きな響きだな。よし、これにしよう。今日から俺の名前は『ラガー』だ)

 

 言語に関してはそこまで心配いらないはずだ。

 実は、親とハンターが戦っていた時に大柄な男のハンターが指示を飛ばしていた。その時の言葉が、何故か日本語だった。後はどうにかして俺の言葉を伝える手段を手に入れれば名前を伝える事に関してはクリアできる。

 

 

(さて、一旦意識を切り替えよう。ずっと神経を張り続けてたら持たないからな。まずは腹ごしらえだ)

 

 

 先ほど気づいたのだが、俺はこの二日間食事を一切取っていなかった。下手したら今日中にでも餓死する可能性がある。早めに胃に何か入れたかった。

 

 

(でも、どうやって飯を調達しようか)

 

 

 親が食べ物を取ってきてくれたりするが、それは兄弟達が群がってすぐに食べ尽くしてしまうため当てにはできない。となると、自分で食料を調達するしかないのだが、今の俺の能力でどんなモンスターを倒せるのかがわからなかった。

 

 

(どうするかなぁ……って、そういえば、リオレイア亜種の死体!)

 

 

 昨日ドスランポスが首を刈り取ったリオレイア亜種だ。リオス種の巣にあるから危険だろうし、何より死体が今も残っているのか不安はある。だが、背に腹は変えられない。リオレイア亜種を食べるために俺は巣を目指すことにした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(で、巣まで来たはいいがこれは一体どうなってるんだ?)

 

 

 昨日までリオス達の巣だった場所にはリオレイア亜種の死体が『2つ』。それとリオレウス亜種の死体もあった。

 

 

(あの後何かがあったのか? うーん……物凄く気になるけど今は先に腹を満たさないと)

 

 

 先程から体が倦怠感を訴えてくる。エネルギーが足りていないのだろうか。流石に二日間何も食べずに動き回っていればそうなるか。

 俺はリオレイア亜種の死体に近づいて行き、嘴を近づける。

 

 

(リオレイア亜種って毒袋あるんだっけ? 気を付けて食べないとだな。気付いたら死んでたなんて嫌だし)

 

 

 と考えた事が災いしたのか、見事に毒袋に近い部分の肉を噛みちぎった。驚いた俺は思わずその噛みちぎった肉を飲み込んでしまう。そして、思い切り咳き込んだ。口から紫色の液体が出た。

 

 

(まずい! やっちまった)

 

 

 毒と言うのは、傷口から入らないと機能しないものもあると聞く。リオレイア亜種の毒がその系統のものならば、食べただけでは効果が現れないだろう。だが、もし、胃に入れた時点で機能するような毒だった場合は……

 

 

「クルェカロァッ」

 

 

 気の狂うような激痛が全身を襲う。ゲームの中のハンターはこんな痛みを受けながらピンピンしてたのか!と驚愕する。

 

 曲がりなりにも俺はガララアジャラ、毒を操るモンスターである。そのため、ちょっとした毒の操作というものができる。

 まだ試してないのでぶっつけ本番になるが、俺は胃袋の中に自身の生成した麻痺毒を流し込みリオレイア亜種の毒を薄めようと考えた。

 

 

(諦めるな! いける! 前世での絶望に比べたらこんなの生温い方だ!)

 

 

 実際、俺にとってはそうだった。運動ができないことに対しての絶望はこれ以上だった。ならこの程度の絶望に負ける道理はない。俺は全神経を麻痺毒の生成と胃への放出に集中させる。

 

 結果、中和のような事に成功した。そして、その頃になって毒に対しての抗体が作られてきたようだった。

 抗体が作れるという事は、その抗体と対になるように毒も作れるということだ。人間ならば抗体があるからと言って病原体などを生成することはできないが、俺は毒を生み出すことのできるガララアジャラ。そこは、持ち前の毒の生成器官を使って作ることが出来る。つまり、端的に言うと思いがけぬ所で麻痺毒を強化できた。

 

 

(なんとかいけたか……いや、ホントにもっと気を付けなきゃいけないな。口だけじゃなくてちゃんとやらないと)

 

 

 安心感から心が緩みそうになるが、すぐに自分を律し、戒める。このままだと、確実にドスランポスのように死んでしまう。最強なんて程遠い。

 

 

(じゃあ、毒も克服できた事だし食事を再開しようか)

 

 

 俺はリオレイア亜種の肉に喰らいつく。生きるために、自分の血肉とするために。

 他者の命を喰らって、自分が強くなる。それが世界の理なのは重々承知だ。だから今更、相手を殺すことなんて躊躇わない。強い者を倒す時、虚しいとは思うだろう。けど、それだけだ。虚しいという感情は最強を目指すことをやめる理由にはなり得ない。

 

 

(今は前だけを見つめていよう。一刻も早くこの世界に適応して、ドスランポスやリオレウス亜種、そしてリオレウス亜種達を殺した存在全てを追い越してやる)

 

 ラガーの瞳は煌々と光り輝いていた。下克上を成す者の目である。将来の事を見据えて彼は、身に膨大なやる気を漲らせていた。


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