無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

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狩人

 おはよう太陽、おはよう世界! (本日2度目)

 

 

(なんで今日はこうも寝覚めが悪いかな……)

 

 

 頭痛が酷い。本当なら30分程度は寝るはずだったのに15分程度で叩き起こされたせいだ。

 

 何故叩き起こされたのかは起きて目の前を見た時にすぐわかった。

 

 

(ハンターか……)

 

 

 親ガララアジャラがハンターと戦っている。

 

 親が優勢なのだが、相手のハンターは4人いるのでなかなか仕留めきれないのだと見た。いや、1人倒れているので3人か。

 

 

(連携されたら厄介だろうなぁ)

 

 

 親を応援しているのか、鳴き声のうるさい兄弟達が尾をビタンビタンと叩きつけている。思わずイラッときた。

 

 

(俺を叩き起こしたのお前らかよ! 人の睡眠を妨害しやがって……! )

 

 

 と言っても、まだ昨日今日生まれたばかりの赤ん坊だ。俺は寛大な心で許す。

 

 それに、結果的に起こされたお陰でハンターとモンスターとの戦闘が見られたのだから感謝してもいいぐらいだった。

 

 そんな事を思っていたらいつの間にかハンター達が散り散りに逃げ出していた。倒れていた1人は体格のいい男のハンターが背負っている。

 

 

(え、もう逃げんの? いや、正しい選択だとは思うけど……)

 

 

 なんというか、物足りない。もう少しだけハンターの動きを観察したかった。

 

 

(あ、追いかければいいのか!)

 

 

 幸運な事にハンター達は3人それぞれが別の方向へと逃げ出していた。

 

 地面から伝わる振動から、一番体格が小さいだろうハンターを追いかけることにする。ハンターは全力疾走をしているので追いつけそうにないが、振動さえ見失わなければ追いかけられる。

 

 

(よっしゃ、行くぜ!)

 

 

 妙なテンションで俺はハンターを追いかけ始めた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 とある森の中、息を切らせて走る若いハンターがいた。腰にツインダガーというなりたてのハンターが使う双剣を装備していることから、彼女は新米のハンターだろうことがわかる。

 

 そんな新米女ハンターの目元には涙が浮かんでいた。

 

 実はこの女ハンター、同じく新米である友人と先輩ハンター2人と共に薬草採取のクエストに来ただけだった。まだ新米という事もあり、様々な地域での活動の心得などについて学んでいたところなのだ。

 

 普通ならば何事もなく森で入手できる薬草やキノコの種類、夜営の仕方、緊急時の対応などを教えられて終わるのだが、彼女らは運悪くガララアジャラと遭遇してしまった。

 

 ガララアジャラも普段なら攻撃さえ仕掛けられなければハンターに襲いかかることはない。

 だが、今回は事情が違った。子供が沢山生まれたことで外部の生物に対して攻撃的になっていたのだ。

 

 だが、実は親ガララアジャラがハンター達に攻撃を仕掛けたのにはもう一つ理由がある。ジンオウガとリオ夫婦の戦闘だ。

 

 あの戦闘によって、ガララアジャラは子供を守らなければならないという本能的な使命感を感じた。そして、子供を害する恐れのある、音の発生源であるジンオウガとリオ夫婦に対して怒り狂っていた。

 

 子供が最優先のために、巣から離れることはなかったが近くに危険があるだけでかなりのストレスとなる。そんな時にハンター達は本当に運悪く巣へと踏み込んでしまった。

 

 

「なんで、こんな、ことに……」

 

 

 最初はもちろんガララアジャラから逃げようとした。先輩ハンターは長年ハンターをやっているので、危険な事に対しての対応は弁えていたのだ。

 

 だけど、同期の友人がガララアジャラに襲われた事でパニックになって攻撃を仕掛けてしまった。その時に嘴による反撃を貰った。

 

 ガララアジャラの嘴による攻撃で麻痺毒を受けたそのハンターは、死んでさえいないもののかなりの重傷だった。

 ガララアジャラはそんなハンターにとどめを刺そうとしたが、そこは先輩ハンター達が凌ぐ。そのまま、逃げる機会を伺いつつガララアジャラと数分交戦し、隙ができたところで散り散りに逃げたのだ。

 

 

「はぁ……はぁ……ふぅ。ここまで、来れば、平気、かな」

 

 

 息切れしながらも、自分を鼓舞するための言葉を口から出す。彼女は今にでも不安に押し潰されそうだった。

 

 初めてのフィールド、それも森と言うとてつもなく迷いやすい場所で1人きりという状態。不安に思うのも仕方がない。

 

 

「これからどうすればいいんだろう……」

 

 

 ガララアジャラと遭遇した時は、まだ森に植生する役に立つ植物について学んでいるところだった。その次に森での夜営方法を習う手順となっていたため、森での緊急時の対応について彼女は知らない。

 

 彼女はおもむろに双剣を手に取り、それを正面に構える。そうでもしていないと、本当に心が折れてしまいそうなのかもしれない。

 

 

「うぅ……ヒッ!?」

 

 

 バキバキッという木が倒れる音が森に響き、飛龍と思われるモンスターの鳴き声が木霊した。リオ夫婦の片割れ、リオレイアの声である。

 

 

「もういやぁ……なんで私がこんな目に……」

 

 

 これが原因で彼女の心は折れたらしい。ついには泣き出してしまう。ボロボロと涙を零しながらも大声は上げない。ヒックヒックとか細く声を漏らすだけだ。生きる事を諦めたようではないらしい。

 

 

「レイジさんもナナリーさんもサラもどこいったのよぉ……」

 

 

 今出てきた名前が他3人のハンターの名前なのだろう。彼女は心細さを紛らわすためか自分の体を抱くように手を回し、その場で蹲った。

 

 

「ッ!」

 

 

 が、足音が聞こえたことで顔を上げる。すぐに双剣を構え、全方位を見回せるような体勢を取った。

 足音の正体は予想以上に近くにいた。斜め後方30m程の距離だろうか、赤色のトサカが特徴の恐竜のようなモンスター『ドスランポス』が立っていた。

 

 

「ドスランポスッ! せめてサラが居てくれたらッ!」

 

 

 勝てたのかもしれない。そんなことを彼女は考えているのだろう。だが、それは希望的観測に過ぎず現実は1人きりという状況。絶体絶命のピンチだった。

 

 そんな彼女の事は露知らず、ドスランポスは彼女を一瞥して去っていく。別の用事があるようだった。

 

 

「助かった……?」

 

 

 まだ、現実を受け止めきれないらしい女ハンター。だが、ハッとして自分が森の中に居ることを思い出す。まだ危機は去っていなかった。

 

 そして、何を思ったのか彼女は歩き始めた。兎にも角にも仲間と合流しなければ、と考えているのかもしれない。その背には疲れの色が滲んでいた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

(うーん、表現が悪いけどこのハンターはハズレだったかなぁ……)

 

 

 俺は一番体格の小さいハンターを追いかけてきた。そのハンターが見える所まで近づいて来た頃には彼女は泣いていた。

 

 

(助けてやりたい気持ちはあるけど、今の俺は多分あの女の子より弱いから足でまといになるだろうし……どうするかな)

 

 

 正直に言って、困る。悪くは思うが、見捨てて巣に帰るしかない。

 

 

(運が悪かったってことで納得してくれよ。まあ、俺が心配することでもないか。仲間も彼女の事を探しているだろうから大丈夫だろう)

 

 

 そう思って踵を返そうとした時だった。音を感じた。

 

 

「!?」

 

 

 ハンターの後ろ方向にドスランポスが見えた。

 

 

(あのドスランポス、絶対強いッ!)

 

 

 俺がモンスターを発見する時頼りにするのは主に地面の振動だ。だから、音が聞こえてから発見なんてことは相手が空を飛んでいたりしない限りは基本的にない。

 

 なのに、今は音を先に感じて発見した。これはドスランポスが地面への衝撃をすべて殺して走っているという証拠に他ならない。流石に森の中なので枯葉などを踏む時の音は消せなかったようだが、衝撃を殺せるという時点で実力の高さが伺える。

 ドスランポスはハンターを一瞥したが興味無さそうに走り去っていく。

 

 

(やべ! 早く追いかけないと見失う!)

 

 

 あのドスランポスにとても興味がそそられた。危険など度外視にして、自分のスペックを充分に活かして今出せる最高の速度で這う。

 

 昨日の時点で這う速度は人間の歩く速度とそこまで変わらなかった。今はそれよりももっと速い。時速で言えば20km程度は出ていると思う。蛇というのは全身が筋肉で出来ているので、その身の小ささからは想像もできないような速度で這うことができる。

 

 幸いな事にドスランポスはそこまで急いでいないようで、ジョギング気味に走っている。それでも俺では追いかけるのが精一杯な速度だ。

 

 

(これは絶対に見失えないぞ! あんなドスランポスそうそういないだろうから確実に観察しなきゃな!)

 

 

 テンションが上がっているせいなのか、一切疲れを感じなかった。ランナーズハイというヤツだろうか。それとも、この体のスペックが高いからかもしれない。

 

 そうしてドスランポスを追いかけ、辿りついたのはリオス種の巣。つまり、リオ夫婦の巣と思われる場所だった。

 

 

(まじかよ……これ絶対卵盗むだろ。うわぁ……付いてこない方が良かったかも)

 

 

 俺は深く後悔した。ジンオウガと戦っていたあのリオ夫婦の巣だといいのだが、恐らく違うだろう。

 基本的にリオス種の巣はリオレイアが上空から監視して守っている。ここも例に漏れずリオレイアと思わしきモンスターが上空を飛んでいるのが確認できた。

 

 憂鬱な気分になりながらも、俺はこれから起こるだろう戦闘を予測して木の影に隠れる。

 

 木の影に隠れた直後、空から咆哮が聞こえた。大きな影が空から降りてくる。

 

 甲殻が綺麗な桜色のリオレイア亜種だった。

 

 

(うっそぉ……)

 

 

 死んだ魚のようになっているだろう目で遠くの空を見る。青く澄み渡っていた。その綺麗な空にはもう1匹リオレイア亜種がいた。

 

 

(あ、ここに居たら死ぬかも)

 

 

 今の俺、白目になっているかもしれない。

 

 今日は色んなことが起こるなぁ、なんて現実逃避気味に思考を展開しつつ、俺はそっと木の影から移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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