おはよう太陽、おはよう世界!
さて、色々と思うことはあるがまず始めにこれだけ言わせてもらおう。
(うるせぇ!)
うるさいとは言ったが、これはあくまで比喩的な表現だ。俺自身は一応蛇なため、耳が存在しない。
うん、ガララアジャラって蛇龍だから蛇みたいなもんだよね?
前世で学んだことだが、厳密に言うと耳が存在しないのではなく皮膚内に埋まっているので空気中の音が聞こえないそうなのだ。
俺が音を捉えられるのは体表で音を『感じる』ことができるからで、結構細かい音も捉えられるので音を言葉として表すこともできたりする。
ちなみにだが、瞼は本当に存在しないので寝る時には目を開けた状態のままだったり。
それで、ここからが本題だ。『バキバキッ』とか、『ドゴォン』とか擬音語で現すとこのような音が夜に突然鳴り出した。
体感時間的に既に数時間ほど続いている。もう本当にいい加減にして欲しい。
(十中八九戦闘の音だろうけど、あんな時間帯からバトってる馬鹿はどこのどいつだよ……)
モンスター対モンスターなのか、それともモンスター対ハンターなのか、どちらかは知らないが夜に戦闘を始めるという時点でその迷惑さはとても許せたものではなかった。
(今はこの体のことを知れて気分がいいから許すにしても、はた迷惑すぎるわ!)
音のお陰で……というわけでもないが、この体は短時間睡眠に適しているということが発覚した。
自然界の生物である以上常に危険が付き纏うのだから、寝ている時に襲ってきた相手に即応するためなのだろう。動物のキリンなんかは1回の睡眠が10分〜30分くらいだった記憶がある。
(にしても、いつ戦闘が終わるんだよ……いっそのこと見に行くか?)
なんとなしに考えた事だがいい案だと思った。
他のモンスターの戦闘を見ることで学べることは沢山ある。戦闘時における動きやこの世界のモンスターの強さ、まだ俺の知らない知識をきっと知ることができるはずだ。
(思い立ったが吉日ってね。行くか)
危険は承知の上だ。俺は覚悟を決めて音を大きく感じる方向へと這い始めた。
◇
(この辺りか?)
俺の這う速度で大体10分ほどかかって目的地周辺と思われる場所に辿り着いた。
実は昨日よりも数cm体が大きくなっているので、多少ではあるが移動速度が上がっていたりする。
確か、ガララアジャラは幼体でも20mを超える個体もいたはずなので順当な成長速度と言えるんじゃないかな。いや、詳しくは知らんけど。
金冠の最大サイズでは、50mを超える個体もいた気がする。50mと言うと小さめの高層ビルや初代ゴジラほどの大きさだ。
50mを超えればもはや殆どのモンスターは敵にすらならない気がするが、現時点では他のモンスターの強さが正確にわからない以上安心はできない。
そもそも50m程度に成長できるかも、そこまで生きていられるかもわからないのだから。
(まぁ、何にしろなるようにしかならないか。それにしたって音は聞こえるのになんでこんなに見つからないんだ?)
すぐ近くで戦闘が行われていることはわかるが、なにぶん森の中だ。見通しが悪すぎて中々モンスターの姿が見えない。
(こっちかなー…… って危なぁ!)
突然目の前が爆発した。
( え、何が起こった!?)
前方を確認すると焼け焦げた地面、クレーター、粉々に粉砕された木々など様々な物が見える。その場所だけは木々が存在していなかった。
そして、最も存在感を放つ存在が『3体』。2対1に分かれて向かい合っている。
1匹は雷を纏った孤高の一匹狼「ジンオウガ」
1匹は火炎を操る空の王者「リオレウス」
1匹は猛毒の尾を持つ陸の女王「リオレイア」
3体ともモンスターハンターを代表するような有名モンスターだ。身に纏う気迫のような物が伝わってきて思わず身震いしてしまう。
(これが、本当のモンスター……!)
恐らく人間だったのなら今頃顔のにやけが止まらなかっただろう。それほど今の俺は興奮している。本当の強者を前に、あの強さを目指したいという欲望が沸々と湧いてくる。
(ふぅ、一旦落ち着こう。状況からみてジンオウガとリオ夫婦が対立してるのは間違いない。後はここで安全に充分注意しながら見ていればいいだけだ。さて、どんな戦いをしてくれるのかな)
気分は戦隊ヒーローを見て応援する小さな子供そのものだ。言葉では表せないほどの興奮感が身を包んでいる。
「ッオォオオォォオォオォォ!」
ジンオウガが突然吠えたかと思えば、ジンオウガの周辺を舞っていた電光虫が辺りへと弾けた。それと共に大量の電気が放電される。
(これはっ! 超帯電状態か!)
ジンオウガは周りに飛ぶ電気を発生させる虫『電光虫』を使い戦闘中に体内にある蓄電器官へと電気を充電する。
充電が完了すると大きく吠え電気を解放し、身体能力が飛躍的に上昇する【超帯電状態】へと移行するのだ。
「ルオォッ!」
ジンオウガが仕掛ける。様子を見ていたリオレウスは宙で対空しており、その一方でリオレイアは地に足を着けつつ突進の機会を狙っていた。
ジンオウガはリオレイアを目掛けて頭突きを喰らわせに行く。
「ゥウゥ、ガァアァァア!」
それを見たリオレウスはジンオウガの進行方向の前方へと火弾を放った。これを察知したジンオウガは素早く斜め向きに飛ぶサマーソルトを決行。
「ルァァアァアァア!」
右前脚を振り上げるようにしてリオレイアに爪での攻撃を喰らわせ、その場で空中へと上昇。空中では浮いた状態のまま体を捻り、尾を上手く使って火弾を野球のボールを打つようにリオレウスの方へと跳ね返す。
落ちてくる時にもリオレイアに追撃することを忘れない。体を回転させながら、その回転エネルギーが上手く牙へと伝わるような体勢を取り、顔を前に出してリオレイアの頭へと噛み付きに行く。
「ォォオッ!」
が、やはりリオレイアもそう簡単にやられはしない。お返しとばかりにその場でジンオウガと同じようにサマーソルトをして、ジンオウガの顔へと猛毒を持つ尾を叩きつけようとする。しかし、ジンオウガはそれを予期していたのか顔を逸らしサマーソルトによる攻撃を避けてしまう。そして、前方へと宙返りし、リオレイアの体に尾を叩きつけた。
「グォォオッ!?」
「グルァアァアァア!」
悲痛な声を洩らすリオレイア。妻の叫び声を聞き怒り狂ったリオレウスが、口から炎を吐き出しながらジンオウガに滑空攻撃を仕掛けた。
ジンオウガはそれもまた予期していたかのように避けようとするが、リオレイアに後ろ脚を噛み付かれ身動きが取れずに綺麗に攻撃を貰ってしまう。
リオレウスはそれでも怒りが収まらないようで、ジンオウガを脚で掴んだまま数発の火弾を喰らわせた。そこまでして、やっとジンオウガと距離をとるために羽ばたいた。
「ルォァア!」
この攻撃によりジンオウガもまた怒り始める。そして、突然吠えたかと思えば体に鮮やかな緋色のオーラを纏った。そのままリオ夫婦の周りを高速で走り始める。
(なんだあれ! ゲーム内じゃ見たことなかったぞ!?)
それも当然。これはこの世界オリジナルの技術であるからだ。
(例えるならドラゴンボールの『気』みたいなものか? 見た目的には界王拳そのままのように見えるし……)
緋色のオーラを纏ったジンオウガは超帯電状態になった時と同じように身体能力が向上していた。超帯電状態による身体能力も上昇したままだ。つまり、二種類の身体能力強化がかかっていることになる。
(なにそのチートは……)
ため息をつきたくはなったが、いい勉強になった。俺も修行をすればあの力を使えるかもしれない。
「グォァアァアァアアァア!」
リオレウスも突然吠えたかと思えば、こちらはジンオウガと違い蒼いオーラを纏い始める。それに呼応するようにリオレイアも吠え、蒼いのオーラを纏った。羽ばたきの力強さもそこまで変わっていない事から、こちらは身体能力面の強化ではないことがわかる。
そして、次の瞬間にその蒼いオーラの効果がわかった。
「ルォァアッ!?」
残像を残すほどに高速で走っていたジンオウガが、反応もできないほどの速度で突然リオレイアに襲いかかった。爪を剥き出しにして、首元を狙った一撃だ。
俺自身も気づいたら見失っていて全然見えなかったがな!
やられたか!? と思えば、なんとリオレイアはその攻撃を弾いていた。
その際に金属同士が擦りあったような甲高い音が鳴ったことから、蒼いオーラは耐久力を上げるためのものなのだと推測した。
(なるほど、気には色々と種類があるのかな? それと『吠える』ことが気を使う条件の一つではありそうだけど)
色々と収穫があったためそろそろ巣へと戻ることにする。あまり長居して巻き込まれたりしたら堪らない。
俺は『気』についての考察をしながらそそくさとその場を去った。
2017/01/21 修正、加筆
2017年/12/15 修正