無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

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おそらく明日も更新すると思います。
明後日からは修学旅行の為、5日間は日本にいなくなります。なので更新できません。


遭遇

 結果的に言えば、俺はあの虐殺のことを割り切った。そうする事でしか平静を保てなかったのもあるが、何よりあの虐殺を俺自身が引き起こした事だと思いたくなかった。

 ただ、罪自体は重く受け止めている。俺が理性さえ失わなければあんなことは起こらなかった。でも、過去に対していつまでも思いを引きずっていれば、この先いずれ俺は潰れてしまう。だからこそ、ある程度割り切ることにしたのだ。「あれは俺の本能がやったことなんだ」と。

 罪を真正面から受け止めることに関しては逃げた俺だが、全てから逃げたわけでもない。二度と本能に意識を乗っ取られないように今後は理性を保つ力を鍛える訓練も取り入れて、絶対にあの様な惨劇を引き起こさないことを固く心に誓った。

 

(気持ちを切り替えよう。さしあたってやらなきゃならない事は掃除……いや、流石に言い方がマズイな。弔いと言った方がいいか)

 

 周囲に散らばる死骸へと目を向ける。惨たらしいその姿に自身に対しての嫌悪感が湧き上がってくるが、なんとか押さえつける。後悔の念と気持ち悪さを胸に押し込んで、俺は一番近くにあったイャンクックの死体から食べ始めた。

 今回に限って言えば、この場合の弔いと言うのは「食べる」事であるべきだ。弄んで殺したのは事実だが、元は腹を満たすためにモンスター達を殺したのだから、食べなければ命に対しての失礼にあたる。こう考えるのはやはり元が人間だったからだとは思う。

 

(やっぱマズイ……吐きそうだ。でも……)

 

 食べるしかない。これで罪が消えるとは思っていない。いや、そもそも自然界の弱肉強食の法則に従っただけなのでモンスターの虐殺は罪とは言えないのかもしれないが、それでも、俺は、奪った命には最大限の敬意を込めて責任を取りたいと思う。

 

(吐いてでも食べる!)

 

 気合いは充分。だが、世の中気合いだけではどうにもならない事もある。食べに食べて、水場周辺に散らばる死骸の4分の1を食べ終わった時、俺は限界を迎えた。

 

(流石にもう無理だ……しばらく休もう)

 

 急いで食べなければならないという訳でもないので少し時間を開けて、胃を空けてから食べようという魂胆だ。

 気分転換に他の事を考えようとして、ふと思い立つ。

 

(技の修行まだ途中だったよな……あっ!)

 

 技について考えていた時に別のことが連想されて頭に浮かんできた。本能のみで身体を動かしていた時のことだ。

 もし、本能で身体を動かしていた時のように完璧な音消しができればどれほど強くなれるか、と。幸いな事に感覚だけは曖昧ではあるが身体が覚えている。そうとなれば話は早い。腹を空かせるついでに音消しの練習をすればいいのではないかと考えた。

 

(確か、身体の真ん中部分を浮かせる感じだった気が……)

 

 言葉では中々言い表しにくい状態にすることで音消しが可能となる。

 詳しく説明すると、身体の前の部分と後ろの部分を地面に付けて、真ん中の部分を浮かせることで地面との摩擦によって生じる音を無くしているのだ。と言ってもやはりわかりづらいだろう。だから、これを人間に例えてみる。両手と両膝を地面に付けて、浮いている身体を動かす感覚と言えば多少は分かりやすくなったはずだ。厳密に言えば異なることではあるが、動かす時のイメージは当たらずとも遠からずと言ったところか。

 

(こうか? あれ?)

 

 これが意外と難しい。身体はかなり精密に動かせるはずなのに、微妙な力加減が難しいのだ。強すぎると音がなってしまうのは当然のことだし、弱すぎても素早く移動できない。絶妙な力加減で流れるように動くことが大切なのだろうが、完璧な音消しができるようになるまではかなりかかりそうだ。

 しばらく試行錯誤しながら、音消しに挑戦してみる。小一時間ほどの時間が経ち、腹も大分空いてきたので残りのモンスターを食べることにした。

 

(やっぱ不味い。せめて火があれば……)

 

 段々と慣れつつあるが、不味さに対しての不快感は拭えない。

 そんな事を考えながら淡々とモンスターを食べていた時、何かの近づいてくる気配、地に伝わる振動を感じた。

 

(ッ!)

 

 咄嗟に臨戦態勢に入る。振動の大きさからして人以上のサイズがあることは間違いない。つまりは、人かモンスターのどちらかしかありえなかった。もし、人の場合、十中八九ハンターだろう。もしかしたら俺を捕獲しに来た可能性もなくはない。モンスターであれば水場に水を飲みに来ただけかもしれないが、この惨状を見れば俺を敵と認識するかもしれない。どちらにしろ相手に敵対の意志がないことを確認するまでは気を抜けなかった。

 

(どっちだ? ハンターかモンスターか、クソッ、なんでこんな時に!)

 

 せめてモンスターを残らず弔い終わるまで来て欲しくはなかったが、もしものことを言っても仕方ない。今は兎に角、相手が危険かどうかの見定めをしなくてはならない。

 

(来たッ!)

 

 森の中から姿を見せたのは、熟練の雰囲気を漂わせたハンターだった。そいつを見た時に悟る。「あ、これは死んだ」と。

 見るだけで分かる圧倒的な力量差。装備している武具も『古龍』と呼ばれるような最強に分類されるモンスターのものだった。

 勝てない可能性が高いとか、勝てる可能性が限りなく低いとか、そんな次元ではない。絶対に勝てない、と言い切ってもいいほどの力の差は俺に絶望感しか抱かせてくれなかった。

 


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