無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

18 / 20
本日2話目
ちょっとハッチャけ過ぎた気がしなくもない


暴走

 気づいた時、俺の周りには沢山のモンスターの死骸が転がっていた。そのどれもが皆腹を食い破られて死んでいる。全て俺がやった事だ。

 自分の記憶が信じられない。だが、事実として俺はこの惨劇を引き起こした記憶があった。もう何が何だかわからない。かつてないほどに俺の脳内は混乱していた。

 

 ◆

 

 理性を失い本能のみを頼りに狩りを行う獣と化したラガーは森の中を途轍もない速度で飛び回っていた。突然変異を起こして羽が生えた、なんてことはない。木に尾を巻き付けて、筋肉によって自分の身体を空中に飛ばしているのだ。獲物を必死に探すラガーの目は血走っていてとても正気だとは思えない。

 ラガーが突然木に巻き付いたまま動きを止めた。ラガーの視線の先にいるのは、ハンター。昨日ハンターキャンプにて学者らしき男の護衛をしていた四人であった。

 普段であればラガーは襲い掛かろうとはしないだろう。が、この時のラガーはもちろん普通ではない。異常であった。

 ラガーはスルスルと木を降りていく。叫び声を上げて襲い掛かるのかと思えば、そうではなかった。ラガーは飢餓により理性を失ったことでガララアジャラ本来の戦法、完全に音を消して近づき、一撃で相手を仕留める暗殺者のような行動を取ろうとしていた。ラガーは理性がきちんとある時、前にこの戦法を使ったことがある。ジャギィを仕留める時の事だ。あの時は初めての狩りということもあり緊張していたのだろう。相手に気付かれないことを第一にしていたために音を殆ど消すことが出来ていた。

 だが、今回は違う。ガララアジャラが持つ本能による音消しだ。理性のあるラガーが行った音消しとは技術力に甚だしいほどの差がある。まさに、天と地の差があると言うべきだろう。音を消し、気配なく忍び寄り、相手を一撃で仕留める。そんな天然の暗殺者ガララアジャラの本領が、ラガーが理性を失うことによって発揮される。

 

「ッ!?」

 

 ラガーはハンター達との距離を詰め、最後尾にいた女ハンターを丸呑みにした。そして、筋肉を使い身体の中でハンターを潰す。女ハンターは悲鳴さえ上げる暇もなく天へと還った。

 女ハンターを飲み込んだラガーは一瞬でその場を離れる。尾を木に巻き付けていて、身体を一気に引っ張り移動したのだ。

 

「あれ? ルーアどこに行った?」

「ん、お花摘みじゃないの」

「知らね。そのうち戻ってくるだろ」

 

 リーダー格と思われるハンターが共に行動している別の二人のハンターに問いかけるが、返答は冷たいものだった。

 ハンターというのは危険な職業のため、死んでも基本自己責任とされる。情に絆されると仕事に支障をきたす場合も多々あるため、ハンターの間では冷めきった関係というのが往々にして見られる。

 ラガーはそんなハンター達の様子を見て、まだ楽に捕食できると考えたのか狩りを続行することにしたようだった。瞳を鋭く細め、舌をチロチロと出している。

 ラガーは今度、上から仕掛けるようだった。木を伝いハンター達の後を着いていく。流石にハンター達も仲間が一人いなくなったのだから警戒しないはずがない。それを表に出す者は誰一人としていないが、ラガーからしてみれば警戒しているのは丸分かりだった。動物的、この世界で言えばモンスター的な『勘』のお陰だ。

 そんなハンター達が気を緩める瞬間をラガーはじっと耐えて待つ。じっくりと、ねっとりと、絡みつくような視線でハンター達を観察し、その一挙一動に至るまでをしっかりと目に焼き付ける。突然の動きにも対応できるように。

 

「なぁ、そろそろ休憩しようぜ。ルーアもまだ帰って来ねぇし、この辺で休憩しないとアイツも追いついて来れなくなるだろ」

「そうだな。ここら辺で休憩を入れておいた方がいいか。よし、焚き火の準備だ」

 

 男ハンターの提案にリーダー格のハンターが同意する。残る一人の女ハンターは黙って頷いた。

 それぞれが焚き火用の木を探すためにバラけるのを見て、ラガーは鋭い目を更に細めた。狙い時だと思ったようだ。

 ラガーはまず男ハンターを追いかけることにした。軽薄そうな男で一番警戒が浅い。

 男ハンターが腰を曲げ、木の枝を拾っている上から、ラガーは嘴を限界まで開き丸呑みにしようとする。

 

「なっ!?」

 

 男ハンターは何かを感じ取ったのか突然振り向いたが、時すでに遅し。ラガーに丸呑みにされてしまう。そのままラガーの身体の中でその身を潰され命を落とした。

 最初の女ハンターに続き、男ハンターを食べ、合計人間二人を食べたラガーだが、未だに空腹は収まらないようだ。次は女ハンターが向かった方向へと木を伝って向かう。が、既に女ハンターは焚き木を集め終わったようで休憩場所で腰を下ろしていた。これ幸いにとラガーは直ぐに女ハンターの後ろに回り込む。そして、一気に距離を詰め女ハンターを丸呑みにした。この女ハンターもまたラガーの身体の中でその身を潰され命を落とした。

 次の標的であるリーダー格のハンターの下へと向かうのかと思われたが、ラガーは何を思ったのか森の中に身を隠した。そして、ハンターの休憩場所を囲むように自分の尾から鳴甲を切り離して設置していく。どうやら今度は趣向を変えて捕食するようだ。

 

「アイツらまだ戻ってないのか」

 

 リーダー格のハンターが休憩場所へと戻ってくる。それを確認したラガーは身体に力を入れて鳴甲を擦り合わせ始める。

 

「ぐっ、な、なんだ!?」

 

 休憩場所を囲むようにして設置された鳴甲がラガーが発する音に共鳴し、けたたましい音を響かせる。ハンターはそれにより平衡感覚を失い地に倒れふした。

 ラガーはそこに追撃をかけるように、ハンターの下へ近づいていくと大きく息を吸い音波のブレスを吐き出した。

 

「ッッッッッッッッッッッッィィィ!!」

 

 あまりに強い音による衝撃でハンターは内部から身体を壊されていく。口から、耳から、鼻から、肛門から、ありとあらゆる身体中の穴から血が吹き出す。そんな壮絶な光景を残しリーダー格のハンターは死んでいった。ラガーはそのハンターを丸呑みにはせず、嘴で摘み咀嚼するように、味わうように口の中で転がす。しばらく味を楽しんだ後に満足したのかハンターを飲み込んだ。

 これでハンター四人を喰らった事になるラガーだが、まだまだ空腹感を満たせていないようで次の獲物を探し始める。

 バッと、突然ラガーが振り向いた。どうやら次の獲物を見つけたらしい。スルスルと音を全く立てずに目にも留まらぬ速さで地を這い移動し出す。

 

 

 

 着いたのは大きな水場だった。朝ということもあり、多くのモンスターが水を飲んでいる。ここでは不思議な事に戦闘が一切行われていなかった。

 そこに交じる害意。忙しなくチロチロと舌を出し入れしているラガー。何を思ったか、突然尾を振り上げると地面に叩きつけた。尾がぶつかった地点から地面へと波状にヒビが入り、多くのモンスターが身体をよろつかせる。しばらくしてモンスター達は体制を立て直すと、ラガーへと敵対的な視線を向けた。

 それに対しラガーが考えていたのは単純。『喰らう』こと、それのみだった。

 

「シャァァァァァァァァアアア!」

 

 ラガーは一瞬で莫大な量の空気を吸い込み、それを音として周囲に放出した。結果巻き起こったのは惨劇。爆音による大破壊だった。小さなモンスター達は身体を弾けさせて死んでいく。体格がそこそこ大きいモンスターは地に倒れふし、少ないながらも居た大型モンスターは皆音によって苦しんでいる。爆音によって影響を受けたのはモンスター達だけでなく地形もであった。ラガー周辺の地面は捲り上がり、木々があまりにも大きな爆音によって吹き飛ばされていく。

 ラガーが突然叫ぶのをやめた。モンスター達は未だ音による衝撃から立ち直れずにいる。ラガーはゆっくりと水場周りを這い始めた。そして、楽しむようにしてモンスターの腹を食い破り殺していく。ジャギィ、ランポス、ゲネポス、アオアシラ、アプトノス、ルドロス、ロアルドロス、イャンクック、ドボルベルク、ドスファンゴ、ケルビ。次々とその場にいたモンスターの命を奪っていく。その姿はまるで死神のようですらあった。

 水場の周りに居たモンスター全ての腹を食い破った後、ラガーは突然理性が戻った。

 人間の知能を持つラガーにとって、本能で行動し、このような事を仕出かした事はとてつもなく重くのしかかる。

 

(なんだよ……これ)

 

 頭が真っ白になり今は何も考えられなかった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。