無双しようぜガララさん!   作:筵 水月

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想像

 目が覚める。巣穴から顔を出してみるが、辺りはまだ暗かった。

 

(うん、まぁ、こうなるよね)

 

 恐らく数十分程度しか寝ていないので当然まだ夜は明けていない。短時間睡眠なのを考慮していなかった。

 

(朝になると思って寝ちゃダメだな。人間の頃とは睡眠時間が違うからそれを頭の隅に置いとかないと)

 

 朝に起きるつもりだったので計算が少し狂ったが、あまり問題はない。朝になるまでの時間は修行をして時間を潰せばいいだろう。二度寝するのも一つの手だ。

 短時間睡眠とは言っても、1日の睡眠合計時間は2時間ほど欲しい。1回の睡眠が20分くらいなので、寝る時は6回に分けて睡眠をとりたい。そうでないと、流石に眠気がキツくなってくる。

 

(起きたばっかりで目も覚めてるし、二度寝よりは修行の方がいいか。なにより、早く強くならないと死にそうだし)

 

 結局俺が選んだのは修行だった。

 暗闇の中で寝ていたのもあってか、目は随分と闇に慣れていて、夜目が効くこともあり自分の周辺は少しだけ見ることができる。

 

(寝る前はどんな修行しようと思ってたんだっけ? 内容自体は考えてないんだったか? )

 

 寝る前には、暗闇の中で修行するのは「目が見えなくても戦えるようにするための修行にもなる」ので都合がいいと考えただけで、修行の内容自体についてはきちんと考えていなかったのだ。そこで俺は迷ってしまう。土の中で尻尾を振り回したり、鳴甲を爆発させてもいいものか、と。それをやってしまえばこの巣穴は崩れる気がしてきた。

 

(この場合「崩落」って言うのか? うーん、今更だけどそれの心配するの忘れてたなぁ……)

 

 生き埋めになっても普通に脱出することはできるので、その面に関して言えば全くもって問題はない。だが、折角掘った巣穴が壊れたらもう1度掘り直さなければならないので面倒な事になる。ここはやはり修行はやめておいた方がいいのだろうか。

 

(でも、他にすることもないしなぁ……)

 

 やる事がないと言うのは由々しき事態だ。前にも1度、暇な時間の潰し方を考えた事があったが、あの時にきちんと暇な時間の潰し方を考えておくべきだった。

 

(やっぱイメージトレーニングぐらいしかやる事ないな。別に嫌いなわけじゃないからいいんだけど、いつか飽きたときはどうするかなー)

 

 未来の事に思いを馳せる。いつまでも同じ方法で時間を潰せるのかを不安に思うが、やはりその時はその時だろう。こうやって後回しにするからこそ、その時々に後悔をするのだが、良いアイデアが浮かばないので仕方ない。

 

(イメトレどうしよ。まず仮想敵作るか)

 

 脳内にイメージするのは雷狼竜ジンオウガ。あのジンオウガとリオ夫婦が戦っていた時に行っていた動きを脳内で再現する。そして、俺はそれに対してどのように回避すれば良いかを考え始めた。

 

(よし、リオレイア視点で戦闘を想像してみよう)

 

 何かを想像するのは人並み以上に得意だという自負があった。長い病院生活のせいですっかり身についてしまった特技と言ってもいい。自分が身体を動かせるようになることをいつも想像していた。

 

(戦闘開始!)

 

 瞼がないので目を開けながら想像しなければならないのが辛いところだ。でも、そんなことは関係ないほどに俺の頭の中ではハッキリとしたイメージが出来上がっていた。実際、人間の頃にも目を開けながらでも想像はできた。ボーっとしていて虚空を見つめるようにすれば簡単だ。

 ジンオウガが俺を目掛けて突進してくる。流石に細部まで想像するのは難しいが大体の形や色などは把握出来ているのでよしとする。

 俺はジンオウガの突進を身体を逸らして避け、絡みつこうとする。が、ジンオウガは首を動かして俺の胴体に噛み付きにきた。咄嗟に全身の筋肉を総動員して、身体を後ろへとくねらせてそれを辛くも避ける。自分が想像している敵のはずなのにやたらと強い。

 ジンオウガは突進が失敗に終わり、勢いそのままに俺の後ろ側へと回った。俺は当然それを目で追いかける。ジンオウガはそれをチャンスと見たのか、後ろ脚で急ブレーキをかけて勢いを殺して、その反動で一気に俺へと飛びかかってきた。当然、自分の想像の中なのでその行動はわかっていた。それでも、俺は回避しきれず、ジンオウガによる引っ掻きをまともに喰らってしまった。ただ、俺も無傷でやられたわけじゃない。回避できないとわかった時に、嘴に毒を含ませてジンオウガの身体へと嘴を打ち込んでいた。肉を切らせて骨を断つという寸法だ。これは現実では余り使いたくない手だが、想像の中では多少無茶をしてでも反撃をしておくべきだと思った。もし、強い敵と戦う事になった場合に、傷を受ける覚悟と共に反撃を喰らわせる為のイメージを固めておきたかった。

 

(はー、疲れる)

 

 一旦想像を中断する。今の想像は時間的に言えば恐らく数分も経っていない。体感的には数十分に感じる。

 何かを想像するという行為は存外疲れるものだ。自分の行動の想像だけならばまだしも、相手の動きなども想像し、それに合わせて戦うとなればその想像の難易度と疲労度は言葉では言い表し難いほどに高くなる。それでも、強くなるためになるのであれば、この疲れる行為でさえ楽しめる。元々何かを想像しているだけでも楽しかったので、案外、俺に一番合う修行方法はイメージトレーニングなのかもしれない。

 

 

 

 

 


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