(目標を改めて決めたまではいいけど、住む場所がないんだよなぁ……)
現在直面している問題として一番不安なのが住処についてだ。まだ日は暮れていないので今から作るのもありかもしれない。
(蛇の巣穴なんて頭で地面掘ればいいだけだよな、多分)
身を隠せさえすれば、後はどうとでもなるだろう。俺は自身の身体をすっぽりと隠せるほどの穴を掘るために地面に頭をつけた。
(今、傍から見ると凄く馬鹿っぽそうな格好だろうな。あ……頭じゃなくて尻尾で掘ればいいじゃん)
盲点であった。と言うか、俺と同じ立場の人やモンスターがいれば、普通尻尾で掘る事を思い付くと思うのだが、なぜ俺は頭で掘ろうと思ったのだろうか。自分でも不思議だか、今になって頭で掘るという事の間抜けさ加減に気づいた。
(はは、やっぱ俺って馬鹿だな)
自虐する。これも俺の悪い癖の一つだ。後々直せるなら直していきたい。
と、そんなことを考えながらも簡易拠点作り、もとい簡易巣穴掘りを終えた。
(こんなもんかなー)
そこで、俺は思い出した。夜に確実に暇になることを。
(あー、やっべ。どうしよ。何か暇潰しになることないかな)
暇な時間をイメージトレーニングに使うのも流石に限度がある。ここは、トレーニングでもして時間を潰したいのだが、巣穴の中でトレーニングというのも中々難しいだろう。そうなると、どうするべきか迷う。
(今日のところはイメージトレーニングだけで暇潰しして、他の暇潰しは後で考えよう)
選んだのは後回しだ。正直手がこれくらいしかない。いい案が思い浮かばないのは時間が解決してくれるのではないかとの希望的観測を持ってのことだ。
(日暮れまではまだ時間ありそうだし修行しようかな。ちょうど試したいこともあるし)
俺が試したいこと、それは超音波を使った攻撃の方法を増やすこと。ガララアジャラの一番の特徴であり武器である鳴甲。これを有効利用しないなんて勿体ない。そして、なによりも俺の創作心に火が付いた。必殺技を作りたい。「音」なんていう最強の能力の1角を持っているのだから圧倒的な必殺技を作ってみたい。そんな気持ちが湧き出てくる。
(そうだな……例えば、「超音波ブレス」なんかどうだろ?)
必殺技案のその1。超音波ブレス。
俺の中のイメージとしては、指向性を持たせた声で相手を怯ませたり破裂させたりできればいいと思っている。
やり方は意外と簡単だ。まずは、鳴甲を擦り合わせる事で超音波を発生させる。その際に、実は俺自身の身体も共振して細かく震えるのだ。それを利用して、振動数の高い声を出し目標物を破壊する。言葉で説明するのは簡単だが、まだ仮説の段階の為実際にやってみないとできるかどうかは分からない。ゲームでも似たような事をガララアジャラがやっていた気がするが、俺の考えたこの技は少しアレンジを加えてある。鳴甲による身体の振動と咆哮を合わせて振動数を2倍にするつもりだ。
もう一つ必殺技の案がある。
必殺技案のその2。鳴甲共鳴爆発。
モンハンをやっていた人ならわかると思うが、ガララアジャラは鳴甲を身体から切り離して飛ばすことが出来る。ゲームでは尻尾を振ると同時に飛ばしてきた。モンハンをやっていない人にも分かるように言えば、忍者がクナイや手裏剣を投げるイメージだ。つまりは、尻尾という名の手を使って鳴甲という名の武器を投擲するというわけだ。
ここで一番大事なのは、その飛ばした鳴甲というのは俺の発した超音波と共鳴を起こすということ。そして、共鳴によって爆発するということだ。それを利用するとどんなことができるか、例を挙げさせて貰う。鳴甲を地面に埋めれば地雷になる。鳴甲を空中で爆発させれば音爆弾になる。煙幕の様な物としても使えるし、爆散した鳴甲の破片で攻撃することも出来る。今思い付くだけでも4つの実用例がある。汎用性はかなり高いと思う。
(んー、鳴甲共鳴爆発の方を練習してみるか。ゲームでもガララアジャラが使ってきた技だったし早めに覚えておいた方がいいだろ)
この鳴甲共鳴爆発、俺が勝手に名称を付けただけでゲームでもガララアジャラが使ってきていた。ただ、それは地面に突き刺して爆発させ、音爆弾として使うというだけのものだった。だから俺は、それとは違う汎用性の高い複数の技に派生できる技術として鳴甲共鳴爆発と名付けた。あくまで鳴甲共鳴爆発というのは「鳴甲を共鳴させて爆発させる」技術でしかない。この技術をしっかりと使えるようになって初めて技として派生できるようになる。
(よし、やる事は決まったから早速修行だ!)
段々と日が落ちてきているが、まだまだ時間は余っている。俺の予測では後2、3時間は暗くならないだろう。
モンスターの身体になってからやけに思い通りに身体を動かせるようになった。前世では病院暮らしで動かなかった、と言うか大して動けなかったのも関係しているのだろう。が、それだけじゃない。恐らくこの身体自体の運動神経の様なものが人間とは段違いに優れているのだろう。ここの筋肉をこの程度の力で動かせればいいのに、と思えば自分が思った通りに動く。それどころか細胞一つ一つすらも動かせているようなそんな感覚すらある。
前世で暇潰しに自分の筋肉を自由に動かそうとする遊びをしたことがあった。右手の薬指だけを立てて、中指と小指を曲げるというものだ。ジャンケンのパーの状態から指を曲げるのだが、これが想像以上に難しい。他にも小指だけを曲げて他の指は立てっぱなしにしておくというのも試した。結果は見事に失敗した。今のこの身体ならばそれも簡単にできそうだ。人間ではないので現実的には無理だが、そう思うほどに身体を自由に動かせる。
(鳴甲の切り離し方は……おっ、こんな感じか)
身体を自由に動かせるとこのようなことも一発で成功させることができる。モンスターの運動神経に感謝したい。
(飛ばす場所は……あの木でいいかな)
目の前にちょうど悠然と佇む大木があった。俺から見ても大木だと思うほどなのでかなりでかい。全長は二十メートルくらいあるんじゃないだろうか。
(大きいなら的としては好都合だな。飛ばす時のイメージはダーツ……いやクナイの方がイメージに近いか)
頭の中でイメージを上書きする。
イメージがしっかりと固まったので、早速鳴甲を飛ばしてみることにした。
「シッ!」
鳴甲を真っ直ぐ飛ばすイメージで短く息を吐き出し、力を込めて尻尾を振る。イメージ通りに真っ直ぐ飛んでは言ったが、結果がイメージとはズレた。せいぜい木に突き刺さって終わりだろう、ぐらいに思っていた鳴甲は想像とは違い勢い余って爆散していた。
(は?)
着弾地点を見ると随分と木が抉れている。どうやら威力が強すぎたせいで木に当たった瞬間に爆発したらしい。
(えぇ……物を普通に投げる感覚で木に当てたら爆発って、俺の力どんだけ強いんだよ……)
自分でも少し怖くなるくらいの力だった。と言うか、先程まで身体を自由に動かせると思っていたが間違いだった。身体自体は自由に動かせるかもしれないが、自分の力のイメージと現実に起こる現象が釣り合っていない。まずは修行よりも自分の力をコントロールする方が先になりそうだ。
2017/02/16 00:20
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