※後で修正か加筆する可能性が高いです
パチパチと火が弾ける。焼いている肉からはキラキラと光るたっぷりの肉汁が染みだし、それが下の火に落ちることで更に火が弾けた。鼻腔には肉の匂いがいっぱいに広がり、口からは涎が溢れてきた。
(米が欲しい)
切実にそう願う。将来、強くなれたらどうにかして米を栽培してみるのも有りかもしれない。
ハンターキャンプから焚き木を拝借してきてから数時間。俺は現在アプトノスの肉を焼いていた。数時間も経っている理由はアプトノスを探すのに森を彷徨っていた為だ。この時点でお分かりかもしれないが、実は巣に帰れなくなった。まず最初にハンターキャンプへと辿り着くまでに迷っていた。更に、先程までアプトノスを探して森の中をやたらめったらと動き回っていた。既にここが巣穴から遠いのか近いのかさえ分からない。俗に言う「詰み」の状態だ。それでも、一先ず腹を満たしてからこの先の事を考えようと思ったのでアプトノスを焼いている次第だ。
(早く焼けないかな。てか、リアルで肉を回しながら焼くことになるとは……なんか感動した)
現実逃避気味にそう考える。病床に伏せっていた俺はもちろん料理だってしたことがない。初めて作る料理がモンハン式焼き肉とは想像だにしなかった。ただ、ゲームでの行動を再現できたことに対して感動しているのも事実だ。それに、やってみて分かるが意外と楽しい。
(そろそろ焼けたかな? 上手に焼けましたー、ってな)
モンハンシリーズの肉が焼けた時お決まりのメロディー。リアルなので聞こえる訳がないのだが、気分的に聞こえた気がした。あくまで気がしただけだ。幻聴の様なものだろう。スマホを長時間弄っている人が、スマホを弄っていない時でも通知の音が聞こえた気がするのと同じ原理だ。
(いざ、実食)
香ばしい匂いが鼻腔を突き抜けた。脳髄が犯されているみたいな感覚を受ける強烈な匂い。口に含めば肉汁が広がり舌を喜ばせる。咀嚼と共に肉汁が次々に溢れ出し味が深まる。少し獣臭さの様なものもあるが、それすらもアクセントになって俺を楽しませてくれる。
(うっめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)
焼いただけの肉、それがこれほどまでに美味いとは思わなかった。調味料なんて一切ないので肉自体の味がいいのだろう。不味いアプトノスを焼くだけでこの美味さなのだ、リオレイア亜種を焼いて食べたらどれほど美味いのだろうか。俄然、興味が湧いてくる。俺はこの世界での目標として色々なモンスターを料理して食べるという項目も入れようと思った。
ふと、冷静になった。この肉の美味しさをゆっくり堪能していたいがそうも言っていられない。もしかすれば匂いに釣られてモンスターが寄ってくる可能性もあるからだ。俺は急いで残り肉を食べ、慌てて飲み込んだ。火は消すかどうか迷ったが、そのままにしておく事にした。囮のようなものとして利用できるかもしれない。
(んじゃまぁ、彷徨いますかねぇ)
実のところ、今はそこまでサバイバルをすることに関して心配はしていない。強いモンスターに遭遇してしまえば別だが、基本的に森でも生き残れると思ったからだ。
そう思った理由はアプトノスを狩ってきた時に群れを全滅させることが出来たからだ。平和に暮らしていたアプトノスには悪いと思ったが、俺の今の力を試させてもらった。すると、驚いたことにものの数分で十数頭いたはずのアプトノスの群れを壊滅させることが出来たのだ。アプトノスは弱いとは言っても一応モンスターだ。当然反撃もしてくる。その反撃は意外と重い一撃だったりする。そもそもの体格が大きいからこそ一撃の重みが増すのだろうが、俺の考えが正しければその一撃は大型モンスターの突進攻撃の一撃に匹敵する。体格的には大型モンスターとアプトノスはどっこいどっこいだからだ。つまりは、アプトノスの攻撃に耐えることができればイコールで大型モンスターの攻撃にも耐えることができるということだ。当たり前だが、気を使われれば勝てないだろう。だが、俺にとって大型モンスターの攻撃を耐えることができるかもしれないという事の意味は大きかった。それはつまり、俺が気を使わない普通の大型モンスターと多少なりとも戦うことができるということだ。正直言って俺はまだまだ大型モンスターとは戦えないだろうと思っていた。しかし、アプトノスの一撃を喰らい耐えられたことで自信が持てた。
(そこまで頻繁に気が使えるモンスターとは遭遇しないだろうし、大型モンスターと戦えるかもしれないってだけで生存確率はグンと上がる)
そう、生存確率が上がるのだ。
俺は今まで生存確率が低すぎたので巣穴に住んでいたかった。夜にはモンスターの襲撃があるのではないかと内心で戦々恐々としていた。だが今は俺自身が強くなることによって、それを凌げる可能性が高まってきた。そこで俺は考えた。「最終的には巣立っていくつもりだったんだから、別にそれが早まってもよくね?」と。
結果、俺は巣まで戻れなくなったことにそこまで悲観することもなくなった。むしろ、これから自由に遠くまで移動でき修行出来ることに喜びを抱いていた。
息を思いっきり吸う。そして、
「シャァァァァァァァァァァ!」
森全体に聞こえるように叫び声を上げる。これは宣戦布告だ。この森の全てのモンスターに対しての挑戦状だ。俺を襲って来いと、そんな意味を込めて叫んだ。
モンスターが近づいて来るかもしれないと思い食事を早めに切り上げて来たのに俺は何をやっているのだろうか。これでは矛盾している。だが、そんなことはどうでもいい。俺は胸に滾る熱い想い、強くなりたいという想いに素直に従ったまでだ。後悔はしていない。
(武者修行だ! まずは、戦闘の経験を積むために百連戦!)
テンションが天元突破しているので、いつも以上に無茶な事を言っている気がする。でも、不思議とやれそうな気がした。