どうも、何とか火曜に間に合いました。
今回から2期のスタートです!
83.第二幕
講堂。
そこに生徒全員が集められていた。
いわゆる全校集会というやつである。
そんなに生徒数も多くないこの音ノ木坂学院だからこそ、体育館ではなく講堂ですっぽりと生徒を収める事ができる。
今も座っている生徒達は、舞台に立っているこの学校の最高位に値する理事長の話を黙って聞いていた。
「音ノ木坂学院は、入学希望者が予想を上回る結果となったため、来年度も生徒を募集する事になりました」
そこから話されるは、この学校に存在するあるスクールアイドルの活躍あっての結果だった。
「3年生は残りの学園生活を悔いのないように過ごし、実りのある毎日を送っていってもらえたらと思います。そして1年生、2年生はこれから入学してくる後輩達のお手本となるよう、気持ちを新たに前進していってください」
本来なら音ノ木坂学院はこのまま廃校となって新しい生徒が入ってくる予定はなかったはずだった。
しかし、そんな話すらなかったかと思ってしまうくらいに入学希望者が多くなり、こうしてまた平穏な学園生活を送れる事となる。
「理事長、ありがとうございました。……続きまして、生徒会長挨拶。生徒会長、よろしくお願いします」
司会と書かれた紙を机の前に貼り付けて座っている原村ヒデコがマイクを通して進行を務める。
生徒会長と呼ばれ、生徒側が座っている席から1人、立ち上がる者がいた。
金色の髪を靡かせ、ポニーテールにまとめていて凛とした表情を見せながらも穏やかな表情は崩さない。
誰もが知っている理事長とはまた違う学校の顔、絢瀬絵里。
普通なら生徒会長は舞台袖から出てくるものだが、絵里は生徒側の席から立っている。
そう、
別に新学期というわけではない。強いて言えば、衣替えである。
前までは白いカッターシャツの制服だったが、今では全員が春に着ていた群青色のブレザーを着ている。だから全校集会もこの日にやっていた。
そして、衣替えと共に変わるものもあった。
生徒会の引継ぎ。
前期の生徒会から後期の生徒会に変わるのも今日からなのだ。
つまり、絢瀬絵里はもう生徒会長ではない。だから一般生徒が座っている席にいた。
では、何故絵里は立ったのか。
理由は簡単。
後期の生徒会長を、前期の生徒会長だった自分が出迎えてやりたいから。
たとえそれがたった1人でも、自分だけは新しい生徒会長を拍手で迎えたい。そんな思いからの拍手を絵里は舞台へ送る。
そして。
1人の少女が舞台袖から現れる。
茶髪のサイドテールが特徴的な少女だった。
傍から見れば堂々と歩いていて緊張している様子もまったくと言って皆無にも思えた。
その少女は舞台中央へと移動すると、そのまま用意されていたマイクの前に立つ。
「皆さん、こんにちは!」
その瞬間。
その生徒会長を知っている生徒達から歓声があがる。
知っているのだ。
その生徒会長がどういう人物なのか。何を成した人物なのか。
「この度、新生徒会長となりました。スクールアイドルでお馴染み……私、高坂穂乃果と申します!!」
音ノ木坂学院に存在するスクールアイドル、『μ's』。
その発起人として、リーダーも務める人物。
新生徒会長、高坂穂乃果だった。
そして、その様子を舞台袖から見つめる幼馴染、園田海未、南ことりともう1人いた。
この音ノ木坂学院唯一の男子生徒であり、μ'sに手伝いとして部活に所属して、高坂穂乃果達の幼馴染でもある我らが主人公。
岡崎拓哉が。
「……いや、何で生徒会じゃないのにここにいさせられてんの俺」
◇―――83話『第二幕』―――◆
「うあぁ~……疲れた~……」
「お疲れ様、穂乃果ちゃん」
「生徒会長挨拶ってライブとは全然違うね……緊張しっぱなしだったよ~」
「でも穂乃果ちゃんらしくて良かったと思うよっ」
無事に全校集会も終わり、生徒会室に俺達は戻ってきていた。
何だろう、こういう1人語りも何故か久しぶりに感じてしまうのは時の流れか。
「どこが良かったんですか!せっかく昨日4人で挨拶文も考えたのに!」
「ごめん~……」
思えば昨日穂乃果の家でわざわざ今日言うはずの挨拶文を考えてたんだった。
それなのにこいつときたら盛大にマイクを上に投げて華麗にキャッチしたと思ったらそのまま硬直状態である。無駄に余計な事するからド忘れするんだよ。綺麗に金縛りあったみたいに固まりやがって。
「とにかく!今日はこれを全て処理して帰ってください!」
「こんなに!?」
そう言うと海未は大量の資料ファイルらしきものを穂乃果の前に置いた。
何これやべえ。生徒会長こんな事もしなくちゃならんのか。これじゃあれだ、ただの社畜じゃん。生徒会長って社畜体験するための役職だったの。ブラックかよ。
「それにこれも!」
「……『学食のカレーがマズイ』、『アルパカが私に懐かない』、『文化祭に有名人を』、『何かあれがあれなのであれしてください』、『男子1人じゃ肩身狭いので1人だけのVIP教室を所望する。何なら家まで送迎してくれる車も欲しい』……何これ……」
「一般生徒からの要望です」
「無茶振りすぎるの多くない……?ていうか最後のって絶対たくちゃ―――、」
「なるほど、アルパカが懐かないのはよろしくないな。アルパカは音ノ木坂のマスコットみたいなもんだし是非みんなに懐いてもらいたい。こうなればみんなでどうすればアルパカを懐かせるか議論するしかないな」
「海未ちゃん、たくちゃんがめんどくさい」
「知ってます。というか拓哉君の要望は却下です」
何この幼馴染達、俺に対して扱いが酷くない?めんどくさくない人間なんていないんだよ?もしそんなのがいたらそれはただのロボットか洗脳された何かだよ?つうか何気に俺の要望却下されて激おこぷんぷん丸なんだが。
「というか海未ちゃんも少しくらいは手伝ってくれてもいいんじゃない!?海未ちゃん副会長なんだしー!」
「もちろん私はもう目を通してあります」
「じゃあやってよー!」
「仕事はそれだけじゃないんです!あっちでは校内に溜まりに溜まった忘れ傘の放置、各クラブの活動記録もほったらかし!そこのロッカーの中にも3年生からの引継ぎのファイルが丸ごと残っています!」
「うわぁ……」
思わず声に出してしまった。
イメージ的に生徒会って強キャラ感出して椅子に座っているだけってのが俺の中にあったんだけど、それはやはりマンガやアニメの中だけなのね……。現実まじ厳しい。
……いや、というか絵里はこんなにもある作業を並行しつつ廃校をどうにかしようと奮闘してたのか?そう思えばあいつってやっぱすげえな。穂乃果の混乱ぶり見てたら絵里の凄さがよく分かる。
でも忘れ傘の放置とか活動記録放置とかはどうにか出来なかったのか。やり残してるけどもう時期があれなんで後期の生徒会に任せまーすとかそんなんだったら前期生徒会の人達まじ許すまじ。
「生徒会長である以上、この学校の事は誰よりも詳しくないといけません!」
「でもぉ……4人いるんだし、手分けして―――、」
「ことりは穂乃果に甘すぎます!」
…………ん?
その前にだ。まず大前提を思い出せ岡崎拓哉。ことりは今4人いるんだしと言った。だが違う。事実上でも現実でもそれは違うと俺は断言してやろう。
「いやいや待て待て。流れでずっといたけどさ、お前らはそうでも俺ってばまず生徒会に入ってないじゃん。挨拶の時も何故か舞台袖にいたし、今考えれば俺必要ないよね?生徒会は生徒会の人が仕事するのが普通だものね?というわけで拓哉さんはここいらでおいとまさせていただいでもよろしいでせうか?」
瞬間。
生徒会室が静寂に包まれた。キョトンとした表情で俺を見つめてくる3人。おかしい事は言ってないはずだが……。
「いやいや、生徒会じゃなくてもたくちゃんは私達のお手伝いしてくれるでしょ?」
「いざという時でなくとも拓哉君は私達と一緒にいる事を宿命付けられているのです」
「たっくんはいつも私達と一緒だよ。幼馴染だもんね♪」
うーん、この幼馴染共。思っくそ俺をこき使いまくる気満々だなオイ。ことりでさえ俺への優しさの欠片もないんだが。まだ学生なのに今の内から社畜精神を植え付けるつもりか生徒会。
「生徒会の仕事は生徒会がやるもんだろうが。……部外者の俺が手伝ってしまえば後々問題があっても俺は責任取らんからな」
「やったー!遠回しに手伝ってくれるってー!」
ちくしょう……何でいつもいつも俺は最後にこいつらに甘くなっちまうんだ。何も良い恰好したいわけでもない、むしろこいつらには他の人よりも醜態を晒してるから今更良い恰好したところで何もないのだが。うん、言ってて悲しいね。
「ただし、俺が手伝うのはいざって時だけだ。それ以外は自分でしろ。もちろん今目の前にある作業もな」
「あぅー……生徒会長って大変なんだね~……」
「分かってくれた?」
その時、会話を聞いていたのか、タイミング良く生徒会室に入ってきた人物がいた。
「絵里ちゃん!」
「頑張ってるかねー、君達ー」
「希ちゃんも!」
絢瀬絵里と東條希。
前期の生徒会長と副会長であり、2人はスクールアイドル『μ's』にも所属している。どっちもプロポーションは抜群だ。主に胸が。
「大丈夫?挨拶、かなり拙い感じだったわよ?」
「えへへ~、ごめんなさい……それで今日は?」
「特に用事はないけど、どうしてるかなって。自分が推薦した手前もあるし、心配で。拓哉は頑なに拒否してきたけどね」
「当たり前だ。生徒会とか面倒くさいにもほどがある。俺は一度きりの高校生活を青春と堕落の2色で埋めると決めたんだ」
「相容れなさすぎな2色じゃないかしらそれ……」
絵里と希に副会長にならないかと言われたが、俺は断固拒否していた。生徒会って放課後やらを使って色々しないといけないんだぞ。μ'sの手伝いならまだしも、放課後を生徒会のために使うなんて絶対に嫌なのだ。
部活がない時は速攻家に帰って堕落し、部活がある時はそれなりの青春を謳歌する。そう決めたのだ。それ以外は妥協しない。許さん。俺の平穏な日常を崩す者は木端微塵にしちゃうぞ☆
「だから拓哉君の代わりに私が副会長に押し付けられたのですが」
「バッカお前、穂乃果のサポートならお前しかいないって相場で決まってるでしょうが。そして穂乃果とお前を裏からフォローするのがマイラブリーエンジェルことりってのが定石なの。俺は陰からお前らを見守りながら寝転んで煎餅食ってる父親的存在なの、オーケー?」
「やっぱり堕落してるじゃないですか」
ふむ、言われてみれば確かに。自分でも気づかないうちに堕落しているとはさすが俺、もはやプロの領域にまで達しているのかもしれない。これは一級堕落検定取れるか。取れない。
「明日からまたみっちりダンスレッスンもあるしね」
昨日まで生徒会の引継ぎやらで穂乃果達2年と絵里と希と何故かおまけで俺も付き添いで色々とやっていたせいか、部活の練習は少な目だったのだ。だから一応今日でひと段落着いた事だし、明日から本格的に部活に集中できるだろう。
今思えばあれだな、何だかんだで俺まで何回も付き添いとして振り回されてるところを考えると、俺は既に社畜として大分鍛えられているのかもしれない。無自覚社畜属性とか誰得だよ。……将来の企業得ですね、大変ありがとうございました。働きたくねえ……。
「カードによれば、穂乃果ちゃん生徒会長として相当苦労するみたいよ~。あと拓哉君も苦労するみたいやから頑張ってね~」
「えー!?」
「いや何で生徒会じゃない俺が穂乃果と同じくらい苦労するんだよ……」
部外者と言ってもいい俺まで苦労するとか堪ったもんじゃない。もしそうなら時給発生させてくれ。労基に訴えるぞ。バイトじゃない時点で勝ち目はありませんでしたひゃっほう。
「だから2人とも、フォローしたってね」
「気にかけてくれてありがとうっ」
「いえいえ、困った事があったらいつでも言って。何でも手伝うから」
「何故か無関係の俺が巻き込まれてる件で困ってるんですがどうすればいいですかね」
「諦めなさい」
なるほど、言うだけならタダとはまさにこの事だな。聞くとは言ったが助けるとは言ってないってか。俺の味方はいないのか!だが俺は諦めないぞ。絶対面倒事から回避してやる。俺が諦めるのを諦めろってな。ナルト最終回良かったよね。アニメは終わる気配皆無だけど。
「たっくんはずっと私達と一緒だもんね~……♪」
「お、おう……」
ちょっとやだ何この子。笑ってるのに笑ってない。天使が堕天使になったのかと思った。リトルデーモン的な何かを感じたぞ一瞬。いやリトルデーモンって何。ヤンデレってこういう事を言うのかなー。
最近穂乃果達9人からこういう言葉をよく聞くが、一体どういう事なのだろうか。あの一件以来、特に穂乃果、海未、ことりの視線がよく俺に集中している時が多いと思う、多分。
短い時間ではあったが、物理的にも精神的にも離れていた距離が確かにあったせいか、それを埋めようと穂乃果達がやけに俺と一緒にいようとしている節がある。何ならこいつら俺の家に迎えに来るまである。メイドかよ。
俺のせいでもあるから一概に拒否するわけにもいかない辺り、中々言いづらい。いや、可愛い女の子達が一緒にいてくれるのは健全男子でもある拓哉さん的には大歓迎なのですが、周りの視線がどうしても気になってしまうのだ。
一応こいつらは学校を代表するスクールアイドルなわけで、そして俺はμ's復活ライブの時に生配信で存在を晒されてから顔も知れ渡ってしまったし、そんなスクールアイドルとその手伝いをしている男子が仲良く一緒にいてくっついていたらそりゃ視線も釘付けになるわで……。
初心な拓哉さんは恥ずかしいのでありますことよ。
「「「♪」」」
幼馴染3人が笑顔で俺を見ている。
……まあ、嫌われるよりかは全然マシだし良いか。
ただ顔の目元を曇らすのはやめような。ヤンデレチックになって寒気するから。
―――――――――――――――――――
「風が心地良い季節になってきたな」
俺は中庭で1人自販機で買ったカフェオレを一口飲んでからそんな事を呟いた。
衣替えという事もあり、季節的にも既に秋と言っても過言ではない時期だ。というか秋だ。読書(マンガ・ラノベ)の秋だ。暑くもなく寒くもなく、丁度いい温度のこういう時期が1番好きなのである。
程よい風が髪を靡かせ、その風に揺られて落ち葉がサーッと心地良い音を立てながら風景に溶け込んでいく。あー、サンマ食いてえ。
あれから俺は部外者なので生徒会室をあとにして1人ブラブラとしていた。あとで部活もあるし、始まるまで自由時間という事で1人の時間を満喫しているのだ。
移動しながらたまに昼食を食べに来るベンチがある大木にまで来た。
そこでのんびりカフェオレを口に含んでいると、さっき見た顔が笑顔でこっちに近寄ってきた。
「作業は終わったのか、穂乃果」
「まだだよ~。座って作業してたら落ち着かなくて慣れてる教室でやってたんだけど、どうしても体動かしたくて屋上に行って軽く運動してたらお腹空いたからパン持ってきたっ」
「何も終わってないって事だけは分かった。あとお前はやはり高坂穂乃果なんだなと再確認した」
「どゆこと?」
「バカだなと」
「えー!!」
完全にテスト勉強してたら集中切れて息抜きに休憩しようとしてそのまま本来の作業から遠のいていくバカあるある行動してんじゃねえか。こいつは俺かよ。……あれ、これじゃ俺も同類……?
「ったく、今日までじゃないんだろうけど、早めに終わらせろよ」
「分かってるよー。パン食べないと集中力切れちゃうんだもん」
「お前の原動力はパンなのか」
はむはむとパンを頬張る穂乃果はまるでハムスターを思わせた。何だこいつ、無駄に可愛いぞ。こんなの穂乃果じゃないやい!
「いたー!!」
「?」
「何だ?」
呆れながら穂乃果を見ていると、後ろの方から声がした。そちらに目をやると、にこと1年組が走ってこっちに向かってきた。
「少しはじっとしてなさいよ……」
「そんなにヘトヘトになりながらどうしたんだよ」
「ああ……拓哉もいたのね……」
疲れてるからだよね?走ってヘトヘトに疲れてるからちょっと気付かなかっただけだよね?そうじゃないと拓哉さんここで男泣きするからね?尋常じゃないくらい注目されるように泣くからね?
「探したんだよ~?」
「穂乃果はあれだ。寝てる以外は常に動いてないと死んじまうんだ。一種のサメみたいなもんだから言っても無駄だぞ」
「たくちゃん噛み殺すよ?」
「仮にもスクールアイドルが物騒な事言うんじゃありませんすいません」
この子こんな事言う子だったっけ?最近幼馴染達の変化に着いていけてません。ま、まさか……俺だけ進化が遅れてるとでもいうのか……!?とでも言ってたら遅れて覚醒する主人公みたいで何かかっこいいからそうしておく。多分覚醒はしない。
「穂乃果……もう一度、あるわよ……!!」
すると、にこが疲れながらも穂乃果の肩に力強く手を置いた。
もう一度ある?何が?テスト?人生?人生にセーブデータはない。
まさか……。
そのあと、その場にいた俺達含め、μ'sの全員に部室へ緊急招集がかけられた。
「で、にこよ。単刀直入に聞くが何があるんだ。まさかとは思うけど」
「そう、そのまさかよ拓哉」
え、マジで?俺の予想まさかの大当たり確変入っちゃった?
となると、これは俺達にとって大事になるかもしれなくなる。
「みんな、心して聞きなさい」
「もう一度、ラブライブ!が開催されるわ!!」
新たな第二幕が、始まる。
さて、いかがでしたでしょうか?
いよいよ2期の始まりです。
久々に1人称視点で書いたので楽しかったです。前までシリアス直線だったのに日常に戻ったらすぐコメディになるからこの主人公は!
あの1件から穂乃果達の岡崎に対する態度というか気持ちが若干変化したり想いが強くなったりと賑やかになってまいりましたね。
こいついつか刺されるんじゃねえかとずっと思ってます。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では、新たに高評価を入れてくださった
sky@嶺上開花さん
1名の方からいただきました。ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
そろそろ『悲劇と喜劇』の方も執筆再開しようかと……。