どうも、今回はいつもより短めです。
ちゃんと理由もあります。
最後の安息。
あれから数日。
ランキングからμ'sの名は消え、それを目の当たりにした穂乃果はずっと元気がないままだった。学校に来るようになってからもそれは続き、スクールアイドルのポスターが貼ってある場所があれば足が止まりそれを見つめる、という事がここ何日か続いている。
俺もああは言ったが、やはりそう簡単には穂乃果の中の悔しさは消えないのだろう。でなければ、今もこうして登校中に足を止めてまでスクールアイドルのポスターを見つめるはずがない。
あの時は俺に身を預けてくれたあとは落ち着いていたが、日がたつにつれ穂乃果の中の悔しさはまた復活していったに違いない。負の気持ちなら俺が受け止めるが、悔しさはまた少し違う。それはスクールアイドルをやる上で大事な気持ちだ。
だからその悔しい気持ちだけは俺も受け入れるわけにはいかない。それをバネにまた頑張ろうという気持ちになってくれればいいのだが、全ての原因である俺が言ったところでマイナスになる可能性が高いのだ。
「じゃあ辞退しちゃったんだ~」
「うん、何か学園祭の時にトラブルがあったみたいでさ~」
ふと、登校中の生徒の声がこちらにも聞こえた。話題はμ's、ランキングから消えた事で話してるらしい。
「順位上がってたのにもったいないね~」
「ホントだよ~」
彼女達に悪気がないのは百も承知だ。だけど、その無意識な言葉が穂乃果の心を抉ってしまっている。楽しみにしていたのに、という期待感を裏切ってしまったのだと思い込んでいるという気持ちが出てきてしまっているのだ。
「気にしないで……」
「……うん」
ことりの言葉にも空返事のようすだ。穂乃果の中で『ラブライブ』というのは、もうそれほどまでに大きくなっているという事なんだ。くそっ、今の俺じゃどう言葉を言えばいいのか思いつかない。
「ほ、穂乃果ちゃん……あのね……」
ことり……?幼馴染のことりなら穂乃果に何か言葉をかけられると思っていたが、ことりの雰囲気がいつもと違うように感じてしまう。ことりも穂乃果に気を掛けてるという事なのだろうか。
「珍しく拓哉君もお困りのようすやなあ~」
「……希か」
「私達もいるわよ」
振り向けば、希と絵里とにこがいた。いわゆる3年組だ。
「穂乃果ちゃん、相変わらずやね」
「学校復帰してからずっとあんな感じじゃない!希っ!」
「任せといて!」
希のやつ、何をする気だ……?にこが希に指令出す時点で嫌な予感しかしないが。
「わしっ!」
「う、うわあああああー!?希ちゃんっ!?」
「……何つう手段だよ……」
嫌な予感が当たった。希お得意のわしわし攻撃だ。
「ぼんやりしてたら次はアグレッシブなのいくよ~!」
「い、いえ……結構です……!!」
「アンタは諦め悪いわねー。いつまでそのポスター見てるつもりよ」
「……分かってはいるんだけど」
表情を見る限り、完全に穂乃果はまだ気にしている。絵里達もそれを見て少し呆れているのが分かる。
「けど?」
「……、」
「希」
「うぇひひひ~!」
「け、結構ですー!!」
「そうやって元気にしていれば、みんな気にしないわよ」
なるほど、普通に見てるといつも通りふざけてるようにしか見えないが、これはこれで効果があるのか。我ながら盲点だった。でもこれは正直助かった。俺にはできない事をにこ達がやってくれたのは、とても救いだった。
「それともみんない気を遣ってほしい?」
「そういうわけじゃ……」
「今日から練習にも復帰するんでしょ?そんなテンションで来られたら迷惑なんだけど!」
「……そうだね、いつまでも気にしてちゃしょうがないよね!」
本当ならにこが1番ラブライブに出たかったはずなのに、こういうとこは本当にμ'sの中では1番大人なのかもしれない。
「そうよ。それに私達の目的は、この学校を存続させる事、でしょ?」
「……うん!」
……もう大丈夫そうだな。穂乃果の顔に笑顔が戻った。俺じゃどうする事もできなかったのに、絵里達には感謝しないとな。
「穂乃果ー!昨日メールしたノートはー?」
「あー、今渡すー!じゃあちょっと行ってくるね!」
ヒデコに呼ばれた穂乃果はそのままノートを渡しに行った。そのタイミングで俺は絵里達に話しかける。
「……ありがとな。穂乃果の事」
「何言ってるの、穂乃果は私達の大事な友達であり仲間よ。このくらい当然の事でしょ?」
絵里の言葉ににこも希も頷く。そうだよな、仲間なんだから、支え合うのが当然なんだよな……。
「一応言っておくけど、拓哉も大事な仲間よ」
「……え?」
「……だから、あんまり1人で背負おうとしないでね?」
「……、」
絵里の言葉に、返事ができなかった。
これは俺の問題だ。俺だけが背負えばいい業だ。穂乃果達には必要ない負の感情なのだ。マイナスに繋がるものは全部俺が背負う。手伝いとして俺ができる事は少ない。だからこれくらいの事はしなくてはいけないのである。
それが学園祭ライブを中止に追い込んだ俺のできる数少ない罪滅ぼしなのだから……。
―――――――――――――――――――
「それで、理事長は何か言ってた?」
放課後。
穂乃果の調子も元に戻り、今日から練習にも復帰という事もあってか気合いが入っていた。その休憩の時だった。
「別に禁止したつもりはないって。続けていいそうよ」
「ほんと!?」
「じゃあライブも?」
「ええ」
「良かったー!いつにしよういつにしよう!」
言い終え水分を補給する絵里をよそに、穂乃果は海未と2人で喜んでいた。体調は元からだが、気分も元に戻ったおかげかより元気に見える。
「そうね、入学願書の受付までに何度かやりたいとこだけど、あんまり連続でやってもね」
「あ、みんなの体調とか、疲れすぎちゃうのも良くないよね……」
「穂乃果っ?」
海未が驚くのも無理はなかった。今までの穂乃果なら元気がある内はたくさんやろうと言うと思っていたからだ。
「やっぱり、気にしているのね……」
「えっ?ま、まあ……」
「なんかちょっと穂乃果らしくありませんね」
「だな」
「そうかな?」
海未の言葉に拓哉も同意見を示す。幼馴染だからこそ分かる、ほんの些細な違い。それを2人はちゃんと分かっていた。
「でも、少し周りが見えるようになったって事かしら」
(確かに、それなら穂乃果的には成長したとプラスに捉えられる。失敗もあったけど、それを踏まえて穂乃果も学んだって事か)
拓哉は絵里の言った事に内心でそう考えていた。穂乃果達の事でマイナスな事ばかりを考えていた拓哉にとって、絵里の言葉は少し救いでもあった。
「周り……あれ、ことりちゃんは?」
「そういやいないな」
周りを少し意識するようになった穂乃果がことりがいない事に気付く。拓哉も拓哉でことりがいないのを気付いていなかった。
「ちょっと電話してくるって下に行きましたよ」
「ふーん」
「……、」
それを聞いて納得する穂乃果とは対照に、拓哉は海未の微かな表情の変化を見逃さなかった。
(海未のようすがおかしい……?何だ、何かあるのか?穂乃果の件も一応は一件落着したはずなのに、海未の顔に陰りを感じる。ことりが関係しているのか……?)
そういえばの話をするとだ、学園祭の時もことりは何かを悩んでいるようだった。ステージの準備や穂乃果が倒れたせいで聞きそびれていたが、結局ことりの悩みは何だったのか、それを拓哉も穂乃果も知らないままなのである。
「なあ、う―――、」
「大変だにゃー!!」
拓哉が海未に聞き出そうとした瞬間。バァンッ!!と、勢いよく屋上のドアが開かれて1年組がやってきた。
「ど、どうしたの!?」
穂乃果が息切れして珍しく凛もヘトヘトになっている花陽達へ何事かと声をかける。すると答えはすぐに花陽から放たれた。
「た……助けて……」
「はぁ?」
その屋上に、にこの疑問の声だけが響き渡った瞬間だった。
一同は校舎内に移動し、壁に貼られてある1枚のポスターを凝視していた。
「来年度入学者受付のお知らせ……?」
穂乃果が紙に書かれている、おそらく1番重要な部分であるところを抜粋して声に出す。それから数秒後、ようやっとその意味を理解した全員が揃って花陽達の方へ振り向いた。
「「「「「これって!?」」」」」
「そのまさかって事か?」
拓哉以外が綺麗に声が重なり、それに答えるべく花陽達が口を開く。
「中学生の希望校アンケートの結果が出たんだけど」
「去年より志願する人がずっと多いらしくて」
「って事は……」
「学校は……」
「存続するって事やん!」
全てを理解した穂乃果達が騒ぐ。希すらも珍しく大声を上げていた。この音ノ木坂学院に入学志願する人が多いという事、来年度入学者受付の紙が貼られているという事。それはつまり、この学校の廃校が取り止められたという事になる。
「再来年はどうなるか分からないけどねっ」
「後輩ができるの!?」
「うんっ!」
「やったにゃー!」
口ではそう言いながらも顔が少しニヤケている真姫や、後輩ができる事が嬉しくて堪らない凛。1年組もそれぞれの反応を示していた。
(廃校を……阻止できた……っていうのか……本当に……)
そんな中、1人騒がずにずっと突っ立ったままの拓哉がいた。別に嬉しくないわけじゃない。まだ実感が沸いていないだけなのだ。この時のために穂乃果達は頑張ってきた。無理と言われた事も何回もあった。
笑われた事さえもあった。色んな困難もあった。だけど、それを乗り越えてきた。その全てが、今日この日のため、廃校を阻止するためにやってきた事なのだと。
(すげえ、やっぱすげえよ……お前達は……。本当にやりやがった……)
静かに強く、だけど優しく拳を握り締める。やり遂げたのは彼女達だ。本当に喜ぶべき者達が喜ぶのが正しい。ただ手伝ってきただけの自分は、静かに喜ぶ彼女達をそっと見守ってやるだけでいい。自分も喜びたい気持ちを抑え、拓哉は目の前の彼女達へ優しい目線を送る。
「あっ、こっとりちゃーん!!」
そうしていると、穂乃果が歩いていることりを見つけ、ことりの方へ駆けていく。
「わぁっ!え、えっ?」
何事かと穂乃果に抱き付かれながら戸惑うことりに、その疑問を解消するべく海未が入学者受付の紙を見せる。
「これ!」
「えっ……えっ?」
「やった……やったよ!学校続くんだって……私達、やったんだよ!!」
穂乃果に言われ、もう一度海未の持っている紙を見る。決して見間違いなんかじゃない、正真正銘の来年度入学者受付の紙だった。
「嘘……じゃ、ないんだ……!」
「……うんっ!!」
目が潤むのを堪えながらも喜び合う。ことりとくっつきながらも、穂乃果は拓哉へと振り返る。
「たくちゃん……私達、やったんだよね……。廃校を、阻止できたんだよね!?」
「ああ……これは紛れもない現実だ。とても凄い事を、お前達はやってのけたんだよ」
穂乃果の側に寄り、メンバー全員の視線が拓哉へ向く。
「最初は本当に夢物語だったかもしれない。あの頃の絵里にはよく無理だっていつも言われていたしな。でも、そんな絵里も仲間に加わって、人数も増えて、絶対できないと思われていた事を、できるかもしれないと思えるようになった」
今日まで少し曇っていた拓哉の目にも、光が確かに強くなっていった。
「ラブライブ出場の件は俺のせ……残念だったけど、お前達の本当の目標である廃校阻止は今日、見事に達成されたんだ。先生とかじゃなく、ただの生徒のお前達が救ったんだよ、この学校を。それは簡単にできる事じゃない。だからこそ誇れ、そして思う存分喜ぶ権利がお前達にはある」
本当ならここは顧問である山田先生が言うべきセリフなんだろうと拓哉は思うが、今いないのだから拓哉が代弁するしかないのだ。
「まあ、練習も悪くないけどさ、今日明日くらいは盛大に廃校阻止できた事を祝ってもいいんじゃねえか?」
ごく普通の生徒達が学校を救うなど、話で聞いた事がない。だからこそ凄い事なのだと。拓哉から言わせてみれば、学校を廃校から救った穂乃果達はまさにヒーローなのだ。でかい目標を掲げ、それを見事に達成させたのだから。
だから、1日くらいの休息、祝いも兼ねようと提案した。
もちろん、否定する者は1人もいなかった。
そして。
そして。
そして。
その翌日に、全てが崩壊する。
さて、いかがでしたでしょうか?
主人公の一人称視点では前回同様に独白も短め。神の視点からは明るい展開もあってか、主人公も元に戻りそうな雰囲気ではありました。
今回の話が短いのはあれです。
尺の問題もありましたが、1番の要員は、最後の安息という意味です。今できる少しでも平和な話が、ここしかなかったのでねw
つまり次回は……?と思った方、大正解であります。上げて落とす、シリアスの基本ですよね。
いつもご感想高評価(☆9、☆10)ありがとうございます!!
では、新たに高評価(☆9、☆10)を入れてくださった、
優しい傭兵さん(☆10)、お塩ッ(; ̄_ ̄)ノ゚∵さん(☆10)、グリッチさん(☆9)
計3名の方からいただきました。ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆9、☆10)をお待ちしております!!
『悲劇と喜劇』の方を待っている方は果たしてどれだけいるのか。