ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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サブタイも遊んでこうかなと思いまして。


7.コントの末の廃校!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二回聞いて、それでも理解が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 したくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だ、男子生徒が……俺、1人……?」

 

 

 整理が出来ていないままの頭を出来る限り回転させ、言葉を振り絞る。

 そんな俺とは逆に陽菜さんは落ち着いた様子で、しかし決して明るい表情ではなかった。

 

 

「ええ、去年から共学になったんだけど、男子生徒が入ってこなかったのよ……」

 

 

「なん……だと……!?」

 

 思わず某死神代行のセリフが出てきてしまった。

 共学になったばかりで男子が少ないのは覚悟していた。だが、1人も居ないという事になるとは思っていなかった。その差が俺に余裕を無くさせる。

 

 

 

「拓哉君にはちょっと苦労させちゃうかもしれないけど、そこはことり達にフォローしてもらうって感じで頑張ってね」

 

 申し訳なさそうな顔をしながら陽菜さんが言ってくるが当の俺からしたら無茶振りのようなものでしかなかった。

 後から陽菜さんがそれに、と加えてから言う。

 

 

「学校でたった1人の男の子なんだから、ハーレムみたいな感じで楽しそうじゃない?」

 

「いや他人事かっ!!」

 

 ちくしょう、さっきまで冷静じゃなかったはずなのにツッコミだけは自然と出てきやがった。

 だけどそのおかげで少し落ち着いてきた。何だこのツッコミ体質。

 

 

「言っときますけど陽菜さん、ハーレムなんてマンガや小説の中では良いように書かれてますけど、実際には肩身が狭くて男子には堪ったもんじゃないですよ」

 

 本当にそうなんだろうと思う。よくあるマンガ、ラノベにはハーレム物の作品が多い。

 かくいう俺も読んでる時はハーレム良いなぁとかも思っていたりもしたが、それはあくまで作品の中だからであって、本当に自分がそういう体験をしたら苦労の方が多そう、というのが俺の抱いた感想だった。

 

 

「でもだからって、今更転校を無しには出来ないでしょ?」

 

「ま、まあ、それは……そうですけど……」

 

 ごもっともだった。ここまで来た以上、どれだけ文句や不安を垂れ流したところで何も状況は変わらない。今更別の学校に行けるわけでもない。この音ノ木坂学院で、たった1人の男子として学校生活を始めるしか手段はどこにもないのだ。

 

 

「ならしっかり切り替えて音ノ木での学校生活を謳歌してちょうだい。人生1度きりの高校生活、悔いの無いよう……楽しむもあり、勉学に励むのもあり、もちろん両方もあり。拓哉君達生徒のために、私達教師陣も“最後まで”全力であなた達をサポートしていくわ」

 

 つい先程まであった陰りの表情はなくなっており、大人特有のような温かい笑みで俺を見据える陽菜さん。そんなすぐに切り替え出来ないでーす。と言おうとする口を無理矢理閉じる。

 ようやく理解は出来たが納得はまだ完全には出来ていない。そして無常に流れていく時の流れには逆らうことは決して出来ない。ならもう流れに身を任せるしかないのだ。

 

 

「はあ、分かりましたよ。どうせ俺1人じゃ何も出来ないし、それならもう陽菜さんの言う通り、適当に青春を謳歌しますよ」

 

 そう、“時”の流れに身を任す。俺はまだ希望を完全に失ったわけではない。1年我慢して過ごせばもしかしたら新しい男子が入ってくるはずだ。

 さすがに2年もすりゃ1人や2人くらいは入ってくるだろう。この1年だけ我慢すればいいのだ。我慢我慢。がまんできるぼくえらい。

 

 

「拓哉君のことだから結構楽しく出来そうだけどね」

 

 俺の脱力した返事にも笑顔で返してくる陽菜さん。こういう所もことりと似てるよなあ。本当、頭のトサカどうなってんだろ? 聞いたら教えてくれるだろうか。でも何故かタブーな感じがするんだよな。聞いちゃいけないってやつ。聞いたらチュンッ(自主規制)ってされたりして。あるよね、誰しもが地雷を抱えてるってこと。

 

 

「それが出来たら苦労しないんですけどね……。っと、そういや陽菜さん、そろそろ始業式の準備とかあるんじゃないんですか?」

 

 ふと時計を見ると8時20分を指していた。確か始業式が始まるのは35分だったはず。東條と話してたり学校内を走り回っていたから予想以上に時間を喰っていたようだ。

 

 

「そうね、じゃあ拓哉君は一旦職員室に行ってから担任の先生に講堂まで連れて行ってもらってちょうだい。私は準備を済ませてから直接講堂に向かうわ」

 

 俺の言葉を聞くなり、すぐに仕事をする人の顔になった。さすが理事長って感じだな。

 

 

「分かりました。……えと……、すいませんけど、その職員室ってのはどこに……あるんですかね……?」

 

「2階に降りたらすぐ左手にあるわ」

 

「あ、あざす…」

 

 いや、だってまだ完全に覚えてないからしょうがないじゃん。ここ見つけたのも殆ど勘だったし……。

 見栄張って道に迷うより、恥ずかしがらずちゃんと道を聞いておくほうが良いと思います!! 誰に向かって言ってんだよ。

 

 

「じゃあ、失礼します陽菜さん」

 

「拓哉君」

 

 そそくさと退室しようとしたら陽菜さんに呼び止められる。

 振り返ると陽菜さんは笑っていた。

 

 

「音ノ木坂学院での生活、“最後まで”頑張ってね」

 

 

 “また”、先程と同じように、申し訳なさそうな、少し寂しそうな、そんな含みがあるような笑顔だった。

 

 

「……はい。失礼しました」

 

 俺にはその意図が分からなくて、そのまま退室して職員室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……せっかく転校して来てくれたのに、ごめんね、拓哉君……」

 

 

 

 

 陽菜さんがそんなセリフを零していたのも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしがあんたの担任の山田博子(やまだひろこ)だ。よろしくな、ぼっち男子君」

 

「チェンジで」

 

「何でだよ!!」

 

「初対面でいきなり生徒をぼっちって言ってくるあんたに言われたくないわ!!」

 

 職員室に入った俺を出迎えてくれたのは、俺の担任らしいこの山田先生だった。そこまでは良かった。なのに第一声がこれってチェンジしかないだろ。たった一言で涙出てきそうになったわ。

 

 

「いや~それはちょっとした親睦を深めようと思ってだな? せっかくの記念すべき男子生徒第1号だし、ここはフランクにしようと思ったんだよ」

 

 全く悪びれてない様子の先生。厄介な人が担任になったかもしれない。

 

 

「フランクすぎでしょそれ……。さっそく登校拒否するとこでしたよどうしてくれんですか」

 

「そん時はお前の家にフランクフルト持ってってやるよ。フランクだけに」

 

「何にも面白くねえよ!! あんたそれでも教師か!?」

 

「おう、立派な教師だよ」

 

 ダメだ。この人と話しているとどうしてもコントっぽくなってしまう。自由すぎじゃないですかね。誰か他の教師この人止めてくれ。

 

 

「山田先生さっそく男子生徒と仲良くなって凄いです~」

 

「男子生徒も中々元気があっていいですね」

 

「いいぞー、もっとコントやれー」

 

 等々、他の教師達が様々なことを言っている。ダメだこりゃ、全く止める気ないぞこれ。まともな教師いんのか? それか男子がそんなに珍しいのか? 確かに先生達を見ても全員が女性だ。女子高はやはり教師も全員女性らしい。余計俺の肩身が狭くなってしまう。これじゃ肩身狭すぎて潰されるまである。

 ていうかアンタらもさっさと始業式の準備しろよ。

 

 

「よし、コントはこれくらいにしておこう」

 

「コントじゃねえよ」

 

「ほれ、生徒もぞくぞくと集まってるし早く講堂に行くぞ岡崎」

 

「全面的にスルーしてんじゃねえよ」

 

 ねえ何なの? これ俺が悪いの? 流れが完全に俺をいじめる方向になってんのか?

 

 

「ほら、とっとと行くぞ岡崎」

 

 世界に革命起こしてやろうかと考えてたらいつの間にか山田先生が出口の方に立っていた。他の先生も早足で出ていくのを見て俺も少し焦りながら向かう。早足で行くならもう少し余裕持って行けよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前には他の生徒とは一緒に座らずに、後ろのほうで私の隣に立っていてもらうぞ」

 

 先生と一緒に歩いているとふとそんな事を言ってきた。

 

 

「何でですか?」

 

 俺が完全に頭の上に?マークを作っていたら、先生は説明するのが面倒くさそうな顔を一瞬してからすぐに真面目な表情に戻して言う。

 

 

「いきなり転校生が来ましたーとか言って女子の隣に座ってみろ。講堂がちょっとした騒ぎになるぞ。それが面倒くさいから理事長には男子生徒が転校しに来た。でも今は職員室で待機していると嘘をついてもらう」

 

 いや教師が生徒に嘘ついていいのかよ。

 

 

「でも実際そうにはいかない。お前にも講堂がどんなとこか見せておく必要もあるしな。だから女生徒にバレないよう、後ろで立ってる教師である私の隣にいる事で話をちゃんと聞いておいてもらう。それが理由だ」

 

 ふむふむなるほど。確かにいきなり俺が平然と混じって座ってたらびっくりするかもしれない。それにしてもこの先生もちゃんと真面目に考えてるんだな。何だかんだで立派な教師というのは本当の事のようだ。

 

 

「して、先生。びっくりするなら何となく分かりますけど、どうして騒ぎになるんですか? 俺がすげえイケメンだからとか?」

 

「笑えない冗談はやめろ。お前が変態扱いされるからに決まってるからだ」

 

「そっちのが笑えねえよ」

 

 ちょっとでも信用した俺がバカだったよちくしょう!! そんなに変態じゃないもん! 

 何ならまだ変態紳士のが俺には合ってる。俺は裏表のない素敵な人です!

 

 

 

「まあ、とりあえずはそういうことだ」

 

「どういうことだ」

 

「そういうことだ」

 

「どういうことだ!」

 

 そんなに俺を変態扱いしたいのかこの人は。まだ会って数分くらいしかたってないのにひどい扱いである。

 けど思いっきり否定出来ないところが悔しい。

 

 

「やかましい。とりあえず私の隣にいてもらう。いいな?」

 

 何故か怒られた。理不尽すぎやしませんかね? 今日は厄日かな?

 

 

「うーい……」

 

 しかし理事長の陽菜さんもこの提案をしたのなら、不本意ながらでも今は従うしかない。決してこの先生に屈した訳じゃないんだからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが講堂だったのか」

 

「いいから早く来い。もう始まるぞ」

 

 などと呟いてる俺に対し先生は急かしながら手招きしてくる。

 

 入ってみると既に他の生徒は全員座っているようだった。

 講堂の中自体は広くもなく、狭いわけでもなく……いや、少し狭いか。ここに来る前から一応調べてはいた。この音ノ木には元々生徒数が少ないのを知っている。3年生が3クラス、2年生が2クラス、1年生が1クラス。300人と居ないこの学校。だからこの講堂自体小さくてもこの生徒数なら無理なく入る。入ってしまう。

 

 

「俺のいた学校とは、人数が違いすぎるな」

 

 ふとそんな独り言が出てしまう。

 それに反応するように、

 

 

「そりゃな。お前のいた学校は普通の学校で、周りに“特別人気のある高校”があるわけじゃなかった。だから生徒数も他の学校と何ら変わらない。ここの学校の生徒数の倍以上の生徒がいるのは当たり前だったんだろう」

 

 理事長である陽菜さんが喋っている中、俺と先生は小声で話すが、先生の発言に気になるものがあった。

 

 

「“特別人気のある高校”? 何ですかそれって」

 

「お前も名前くらいは聞いたことがあるはずだ。UTX学院。秋葉原にある今一番人気の女子高だよ」

 

「……、」

 

 聞いた事がある。いいや、つい今朝聞いたばかりだった。

 UTX学院。まさかそこに生徒が流れていってるせいでここには全然入ってこないってことなのか?

 

 

「でも、一番人気があるって言っても、生徒がそんなに流れていくもんなんですか?」

 

 俺の問いに先生は、

 

 

「A-RISE。それが原因だよ」

 

 まるで答えることすら必要ないと言わんばかりにあっけらかんと答えた。

 

 

「今流行りのスクールアイドル? か何だかのグループで、そのA-RISEってのが一番人気らしくてな。それのせいで年々どんどんこっちに入ってくる生徒が少なくなっていったわけだ」

 

「A-RISE……」

 

 完全な納得がいった。

 一番人気の学校に、一番人気のスクールアイドル、A-RISE。それが揃っているのならば当然、流行り好きの女子はそっちに流れていくのだろう。人気要素しかない学校。それに女子高ときた。同じ女子高であった音ノ木には生徒が流れていくのはよほど痛かったに違いない。

 

 そのための共学化。

 しかし、そんなものは上手くいかず、結局男子は1人も入ってこなかったってわけか。

 

 

「そんなこんなで今のウチはこの人数ってわけだ」

 

「……なんか、理不尽な感じがしますね」

 

「理不尽なんかこの世にいくらでも溢れてる。その数ある理不尽の中の1つがここに当たっちまったってだけだ。良い気はしないけどな」

 

 先生が目を細めながら低い声音で講堂の中を見据える。

 この人はこの学校が好きなんだろう。だから教師という枠だけに囚われず、こんなにも自然体でいられる。

 

 

「……生徒を増やすための活動とかはしてないんですか?」

 

 頭によぎった疑問をぶつけてみる。ただぶつけてみただけだった。

 なのに、先生はさっきより表情に陰りができ、ふと何かを悟った様な表情になった。

 

 

「そんなものは、今更なんだよ。岡崎」

 

「え?」

 

 先生のまさかの回答に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

 それから先生は顎でクイッと理事長の方を向けとジェスチャーしてきた。それに従い陽菜さんの方を向く。

 

 今までの笑顔での始業式の話は終わり、陽菜さんも今は先ほど俺に見せた時のように表情に陰りが出来ていた。

 

 

「岡崎、お前、さっき理事長と話してきたんだろ」

 

「え? あ、はい……」

 

 急な先生の質問に慌てて答える。

 それが一体どうしたんだ?

 

 

「理事長、最後どんな顔してた?」

 

 何となく。

 

 

「……なんか、少し寂しそうな顔とか、してました」

 

 ただ何となく、嫌な予感がした。

 

 

「……そうか」

 

 ただそれだけを言って、先生は陽菜さんと同じ少し寂しそうな顔をしていた。

 何か、何か嫌な予感が俺の胸の中に渦巻いている。

 

 その答えを持っているであろう陽菜さんを見据える。その時から、俺は陽菜さんの言うことが何となく分かっていたのかもしれない。

 分かりたくないのに、分かってしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 “最後まで頑張ってね”

 

 

 

 

 “生徒数の少なさ”

 

 

 

 

 “3年生が3クラス、2年生が2クラス、1年生が1クラス”

 

 

 

 

 “UTX学院”

 

 

 

 

 “A-RISE”

 

 

 

 

 “流れていく生徒”

 

 

 

 

 “年々減っていく入学希望者”

 

 

 

 

 “今更”

 

 

 

 

 そこから導き出される結論は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽菜さんの口が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ正式に決まったわけではないのですが、ここにいる今の生徒をもって、この音ノ木坂学院は廃校になるかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、ん――!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は、オーバーリアクションすら、とれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し短め。

前回アニメ本編にいくと言ったな、あれは嘘だ(2回目)

いや、本当ならいく予定だったんですけどね? そこまで書いたら確実に10000文字超えてしまうので、それはちょっとな~…というわけで分割です。

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