ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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どうも、モンハンクロスやバイト、その他諸々とリアルが忙しくて中々執筆時間が取れてないたーぼです。


ワンダーゾーン編2回目です(ちょっとかっこいい)

メイド服のことりちゃん可愛すぎでしょ!(穂乃果推し)


ではどうぞ!




46.悩めるメイド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~……凄く暑いんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋葉原に移動してきて、穂乃果の発した第一声がそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それもそのはず。

 俺以外の全員が何故かサングラスにマスク、しかもこの季節には確実に似合わないに暑いであろうコートを着ているのだから。

 

 

 

「我慢しなさい。これがアイドルに生きる者の道よ」

 たった1人だけ、この暑さでも余裕を持っているにこさんが言う。マジかよ、そんな暑苦しい拷問みたいなのがアイドルの生きる道とかアイドルどんだけ過酷なんだよ。俺なら速攻走って逃げるわ。

 

「有名人なら有名人らしく、街で紛れる恰好ってものがあるの」

 いやまだそんなに有名人じゃないからね?確かにネットランキングでも急上昇して人気は上がっているけど、それでもあくまで“スクールアイドル”の中でだけだからね。サインとか求められないからね。

 

「でも、これは……」

「逆に目立っているかと……」

「あーもうっ、バカバカしい!」

 μ'sの中でもまだまともな部類に入る絢瀬会長、海未が苦言にも似たような事を言い、真姫に関しては完全に文句垂れてますね。おいお嬢様、口調がどストレートすぎやしませんかね。

 

 

「でも何でたくちゃんだけいつもの制服のままなのー!」

「いや、だって俺μ'sじゃねえし。認知度とか絶望的に皆無だし。超平凡などこにでもいる一般の男子高校生だし。変装する必要なんて1ミリもないし」

「語尾に『し』って付け過ぎだよ!そしてズルいよ!」

 何でズルいとか言われないといけないのだろうか。もしかしたら、本当にもしかしたらこいつらを知ってる人が周りにいるかもしれないが、俺を知ってるなんてこいつら以外にいる訳ないし、なのに俺が変装したらそれはもうただの痛い人というレッテルを貼られるに違いない。

 

 

「とにかく!例えプライベートであっても、常に人に見られてる事を意識する。トップアイドルを目指すなら当たり前よ!」

「はぁ……」

 うん、それはまあ間違ってはいないんだろうけど、もっと上位に上がってからしようね。ほら、海未の言った通り逆に目立って凄く見られてるから。何ならμ'sってバレたら普段からμ'sはあんな恰好しているのかと誤解されてしまうぞ。

 

 

 

 

「凄いにゃ~!!」

「ん?」

 遠くの方から凛の声がした。いつの間にか勝手に移動して店の中に行ってたみたいだ。ホントみんな自由だな。周りを見てみれば花陽もいないし、おそらく凛と一緒にいるとは思うが。

 

 

 とりあえず凛達の方へと向かうとそこにあったのは色々なアイドルのグッズだった。

 

 

「うぅわ~……!!」

 店に入ると花陽がずっとうわぁうわぁと感嘆の声を上げていた。どんだけ好きやねん、と思わず関西弁でツッコミたくなるくらいに花陽の顔は輝いていた。

 

「かよちん、これA-RISEの!」

「こんなにいっぱいあるなんて~……!!」

 へえ、A-RISEのグッズか。というより、よくよく見れば周りのグッズの全てがテレビに出ているアイドルとかのグッズではなく、この店の中のグッズの全てがスクールアイドルのグッズだという事に気付いた。見た目が若すぎるからすぐ分かる。

 

 

「何ここ?」

「近くに住んでるのに知らないの?最近オープンしたスクールアイドルの専門ショップよ」

 にこさんの言葉を聞いて店を一旦出て改めて店の名前を見ると、『スクールアイドルショップ』と書かれていた。そのまんまやないかい。いや合ってるけどさ。

 

「こんなお店が……」

「ラブライブが開催されるくらいやしね」

「確かにそうとも言えるな」

 スクールアイドルの甲子園とも呼ばれるラブライブがあるくらいなのだから、こういう専門の店があるのも十分に考えられる。

 

 

「とはいえ、まだ秋葉に数件あるくらいだけど」

「ラブライブ開催されるって知ったのもまだ最近だし、それでも専門ショップがもう数件あるって早いな」

「それだけスクールアイドルが世間に浸透してきてるって事よ。主にA-RISEのおかげでね」

「A-RISEね……」

 実際のところを言えばそうなのだろう。テレビでスクールアイドルが特集されれば絶対に名前を見るのがA-RISEなのだから。スクールアイドル=A-RISEというのが今の世間での一般常識になっている。

 

 

 グッズを見回せば嫌でも分かるが、そこらへんのスクールアイドルよりも断然にA-RISEのグッズが倍多い。全国にどれだけのスクールアイドルがいるのかは分からないが、俺が予想しているよりも遥かに多いのだろう。

 

 それでも、その頂点をずっとキープしているのがA-RISE。たった3人のグループなのに、その1人1人がそれだけの個性、魅力、技術力、全てにおいてハイスペックなのだろう。こいつらも負けてはないと思うんだけどな。

 

 

 ……ん?待てよ。スクールアイドル専門のショップならば、こいつらのグッズももしかしたらあるんじゃないのか?まだまだ出だしのグループでも、50位にまで一気に上り詰めたこいつらの事だし、花陽みたいにスクールアイドル好きならμ'sを知っている人はそんなに少なくはないはず。

 

 

 

 

「ねえ、見て見てー!!この缶バッジの子可愛いよー!まるでかよちん!!そっくりだにゃー!!」

 急に凛がこれ見よがしに缶バッジを見せてきた。俺も穂乃果もにこさんもそれを同時に見てみるが……うん……俺の予想は間違ってなかったようだ。

 

「というかそれ……」

「花陽ちゃんだよ!」

「ええ~!?」

「いや、普通気付くだろ……」

 お前ら親友だろ。何で気付かないんだよ。気付かずに本気でそう言ってるなら凛はそれほど花陽を可愛いと思っているのか。うむ、間違いではないな。

 

 

「……あ、あった」

「たくちゃん、どうしたの!今それどころじゃないよ!花陽ちゃんのグッズがあったんだよ!?もしかしたら私達のグッズもあるんじゃないかな!?」

「だから、それがここにあるんだよ」

 辺りを探して、見つけた。結構目立つところに置いてあった。μ'sのグッズが。

 

 

「嘘ぉ!?」

「だと思うなら見てみな。お前らやっぱり認知度広まってるっぽいぞ」

 さっきはどうかと思っていたが、スクールアイドルの中でμ'sの名は大分広まっているらしい。紹介文のような紙に『人気爆発中!』や『大量入荷しました!』などの売り文句が書かれている。

 

「ううううう海未ちゃん!ここここれ私達だよぉ!」

「おおおお落ち着きなさい!こここれは何かの間違いです!」

「いや間違いじゃないから」

 自分達がグッズになっているのを見るとそう思うのも仕方ないとは思うが、紛れもない事実なのだ。

 

「みみみみμ'sって書いてあるよ!石鹸売ってるのかな!?」

「なななな何でアイドルショップで石鹸売らないといけないんです!」

 動揺しすぎだろ。石鹸とのコラボも悪くないかもな。『μ'sが石鹸作ってみました!』的な。売れるかもしれない。売れない。

 

「どぉきなさーい!!」

 1人で勝手に石鹸作ろうと思ってたらにこさんが声を上げながら俺達を掻き分けてきた。ああ、身長低いから今まで見えなかったのね。

 

「あれ!?私のグッズがない!どういう事!?」

「入荷されてないんじゃないかにゃー」

 凛、お前はにこさんに何の恨みがあるんだ。さすがの俺もそれを言おうと思ったけどやめておいたんだぞ。……言おうとしたのかよっ。

 

 

 

「あぁ……!あったぁ~……!ほら岡崎見てみなさい!私の、にこのグッズがあったわよ……!!」

「え?あ……おう」

 何で俺を見るんだよ、と言おうとしたところでにこさんの顔を見てそれを止める。うっすらと、本当にうっすらとだが、にこさんの目には涙が潤んでいた。

 

 

 必死に流さないように。けれど、どうにも抑えきれない思いがあったから。そうだよな……。この人はずっとスクールアイドルになりたくて、憧れて、諦めきれなくて、1人になっても部室を守り続けて、やっと同じ思いで立てる仲間と出会えて、ここまできたんだもんな。

 

 なりたかったスクールアイドルになれて、しかも自分のグッズがこうしてあると分かったら、そりゃ嬉しくもなるだろう。人一倍アイドルへの思いが強かったんだから。俺には計り知れない感動がにこさんにはあるんだろう。

 

 

 だったら、俺にはにこさんのそんな嬉しそうな顔を否定するなんて事はできない。だから、一言だけでも良い。言ってやれる事があるなら、これだけだ。

 

 

 

「良かったな、にこさん」

「……ええっ!」

 若干顔が赤くなりながらも、にっこりと、確かな笑顔が俺に向けられた。何だか俺まで微笑ましくなってしまう。それは俺だけじゃなくて、周りのみんなもそうだったらしく、

 

 

「こうやって注目されているのが分かると、勇気付けられますよね……!」

「ええ」

 いつもはこういうのにうるさそうな海未まで素直に喜んでいる。最近入ったばかりの絢瀬会長も本当にそう思っているようだ。にこさんも証拠に写真を撮っている。花陽もにこさん同様にうっすらと涙を見せながらも喜んでいる。凛も同じくだった。

 

 

 それに穂乃果も――――――って、あれ、穂乃果は?

 

 

「何見てんだ?そっちにもμ'sのグッズがあるのか?」

 みんなとは少しだけ離れたところで一点を見つめていた。穂乃果に声を掛けながらそちらへ向かうと、穂乃果は質問に応じた。

 

「ねえ、たくちゃん。これってことりちゃんだよね?」

「あん?そりゃことりもμ'sなんだからグッズくらいあるだろ」

「それもそうなんだけど、とりあえず見てみて!」

 ったく、ことりのグッズなんてさっきのとこにもあったろうに。そんなに出来の良いグッズでもあったのか。仕方ねえな、俺が買ってやるしかないなー全く。ホントに全く。

 

「ほらっ、ことりちゃんがメイド服着てるんだよ!」

「メイド服?衣装で着た事ないだろ?なのに何でそんな―――、」

 ようやっと穂乃果の目線の先にある写真へと目を向ける。そしてすぐに自分の目が見開くのを感じた。視線の先の写真に、いたのだ。メイド服の、ことりが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイド服を着た、天使が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶべばぐがごあがぁッ!?」

 店の中だとか、そういうものを関係なしに俺はタックルされたかのように謎の衝撃にぶっ飛ばされた。もはや恒例まである。

 

「たくちゃん!?お店の中でも恒例のやつしちゃうの!?」

 すまない、さすがにメイド服のことりはダメだったようだ。店の中とかお構いなしでことりの破壊力はヤバかった。もう何がヤバイってまじヤバイ。

 

「ちょっと!?岡崎君がこっちまで何か飛んできたんだけど!?何かあったの!?」

「ほ、穂乃果!拓哉君の『これ』、まさかまたことりの『何か』を見たのですか!」

「俺は死んでことりに天国へと連れて行ってもらうんだ……」

「凄い事言ってるけど!?」

 ことりッシュ、僕、もう疲れたよ……。暑い。主に暑い。季節が憎たらしいんだよ……。太陽有給取りやがれバカヤロー。

 

 

「ああ、絵里先輩。これはいつもの事なのでお気になさらないでください」

「いつもの、事?これが……?は、ハラショー……」

「違うから、そんなにいつもの事でもないから」

 何の気なしに立ち上がる。絢瀬会長もハラショーとか言ってんじゃないよ。明らかに俺を見る目が少しおかしかったぞ。感心したかのような視線の中にちょっと引いたような何かを感じたぞ。

 

 

「あ、普通に起きた」

「今回は結構きつかったぜ」

「お店に迷惑ですのでやめてください」

「ゴメンナサイ」

 いやでもさ?ことりのメイド服なんて俺が見たら絶対こうなるでしょ。それを予想できない穂乃果が悪いと思います!だから俺は悪くない。ことりが天使なのが悪い。

 

 

「その前にだ。さっきの写真は一体何なんだ?財布と相談したいから詳細くれ」

「私も分かんないよ。あんな恰好したことりちゃん初めて見たし、というか買う気満々だねたくちゃん……」

「バッカお前、幼馴染だろ何とかしろ。それにあれだ。ああいう超レアな写真を見知らぬ誰かに買われて拝まれるくらいなら俺が買って拝んでやる」

「たくちゃんも幼馴染じゃん!拝むんだ……」

 ったく、誰だよことりのあんな写真撮った奴。見つけたら散々殴った挙句にお金渡してもっかい密かに頼んじゃうぞ。……頼んじゃうのかよっ。

 

 

 

 

 

「すみません!」

 

 

 

 

 

 そこに、店の外から聞き慣れた幼馴染の声がした。

 

 

 

 

 

「あのっ、ここに写真が……私の生写真があるって聞いて……。あれはダメなんです!今すぐなくしてください!」

「ことりちゃん?」

「ひゃっ!?」

 声のする方へ行くと、先程の写真と同じ格好、つまりメイド服のことりがいた。

 

「ことり……何してるんですか?」

 海未の問いにも答えず、ただずっと俺達に背後を向けていた。やがて、ようやく意を決して動き出したかと思えば、

 

 

 

「コトリ?ホヮッツ?ドゥナタディスカー?」

 開封済みのガチャの蓋を2つ目に当て、外国人のような言葉を発した。いや、バレてるから。みんなに思いっきりバレてるから。

 

 

「わぁ!外国人!?」

 訂正。バレてなかった。この猫もどき星空の乙女にはことりが外国人に見えたようだ。どうしよう、さすがに擁護できないレベルの天然を発揮しやがった。

 

「ことりちゃん、だよ―――、」

「チガイマァス!ソレデハ、ゴキゲンヨ~ウ……。ヨキニハカラエ、ミナノシュークリーム」

 もの凄い片言でよく分からない事を言ったと思うと、そのまま去って行くことり。そして、

 

 

「サラバッ!!」

 え、サラダ?じゃない、まあことりなら逃げるだろうと思っていた。だから俺は迅速に指示を出す。

 

「穂乃果、海未、行け」

 俺の出した声と同時に穂乃果と海未が追いかけて行く。でもあの距離なら追いつけるかは分からない。なので、

 

「東條も追いかけ―――、」

「希ならどっか走って行っちゃったけど……」

 絢瀬会長が不思議そうな顔をしながら言ってきた。ほう、俺が指示を出す前に動くなんて、やはりできるな東條。いつもスッピンボンバー……じゃないスピリチュアルな何かで色々と分かる東條だから、ことりがどこに行くかも分かるかと思って声をかけようと思ったのだが、行動早いな。

 

 

「そっか。なら俺達はゆっくりと穂乃果達の連絡を待つか」

 そう言いながら俺は店の中へと戻る。その途中で花陽に声をかけられた。

 

「あれ、拓哉先輩は、行かないんですか?」

「ん?ああ、3人も行けば十分だろ。それに俺にはまだやるべき事がある」

「やるべき事?それって何かにゃー?」

 花陽に続き、凛までも疑問をぶつけてくる。そんなの、さっきまでの俺の行動を見てれば分かるだろうに。

 

 

 

 

 さっきの間に財布との相談は既に終わらせた。渋々だが財布様も許可を出してくれたのは幸いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 だから、俺は店員に声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、あの写真ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 割と本気で引かれた声が背後から聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことりを捕まえたのは穂乃果や海未ではなく東條だったらしい。やっぱ東條凄いな。異能でも持ってんじゃねえか?何それズルい。

 

 

 とりあえず東條から指定された場所に全員で向かうと、その店はメイド喫茶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、まあ、だよね。

 ことりのメイド服からして察してたよ。メイド喫茶で働いてるんだって。でもさ、中々に入りづらかった。ホントならこういう店は男が来るものだと分かってはいたが、今の俺の周りにはμ'sの女の子しかいない。

 

 これは恥ずかしかった。何だかんだ言いながらも拓哉さんだってまだ純情少年なのよ!!思春期でもある高校生なのよ!!メイド喫茶とか結構ハードル高いだろ!!と思っていたが、割とそうでもなかった。

 

 

 実際入ってみると、店員さんがメイド服なのと、少しメニューの名前がアレなくらいだった。まばらに客はいるが、これが意外と女性客もいる。男女でも気軽に入れるメイド喫茶って訳か。なるほど、これならことりも安心して働けそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 と、前置きはここまでにしておこう。

 

 

 

 

 

 ここからは本題だ。

 

 

 

 

 

「こ、ことり先輩が、このアキバで伝説のメイド。ミナリンスキーさんだったんですか!?」

「そうです……」

 目の前に座っていることりは目に見えて沈んでいる表情をしていた。って、ミナリンスキー?どこかで聞いた覚えが……。

 

 

「……なあにこさん、ミナリンスキーって部室に置いてあるサインでなかったっけ?」

 小声でにこさんに耳打ちをするかのように聞いてみる。確か似たようなサインがあったはずだ。

 

「なっ、ち、近いわよ……ッ!……そうね、ミナリンスキーで間違いないわ。まさかあの子だったなんて。だからあの時過剰な反応してたのね」

 少し慌てながらも俺の質問に答えてくれた。やはり間違ってなかったか。確かににこさんの言う通り、あの時サインを見つけた時のことりは過剰な反応をしていた。だから俺も謎の親近感湧いたのか。なるほど、それなら納得だ。

 

 

「ヒドイよことりちゃん!そういう事は教えてよ!!」

「うぅ~……ごめんなさいぃ……」

 気付けば穂乃果の声が大きくなっていた。珍しく声を荒げてるなこいつ。

 

「おい穂乃果、何もそこまで怒鳴る必要はな―――、」

「言ってくれれば遊びに来て、ジュースとかごちそうになったのに!!」

「「そっちかい!!」」

 ツッコミがにこさんと被った。中々悪くないツッコミスキルだにこさん。ちなみにツッコミスキルを最大限にまで高めるとその効果が凄い。ただただ疲れる、それだけだ。……果てしなくいらねえスキルじゃねえか。

 

 

「じゃあ、この写真は?」

「店内のイベントで歌わされて、撮影、禁止だったのに……」

 絢瀬会長の質問に答えることりの声は震えていた。みんなにバレた事がダメだったのか、撮影禁止だったのに撮られて、しかもそれが店で売られていた事に怯えていたのか、それは俺には分からない。

 

「なあんだ、じゃあアイドルって訳じゃないんだね」

「うん、それはもちろん」

「ほら、ことり」

 このタイミングしかないと思って、俺は1枚の写真をテーブルの上に置いた。

 

 

「あ、たっくんこれって……」

「さっきの店で売られてたことりの写真だよ。ダメだったんだろ?撮影禁止なのに、そんなのが店で売られているなんて」

「うん……うん……っ。ありがとね、たっくん……っ!」

「気にすんな。これもμ'sの手伝いである俺の役目だったって事でしかない」

 写真を抱き締めるように抱えることりを見て、やはり怖かったんだろうと思った。そうじゃなければ、わざわざバイト中に抜け出して店に来るはずもないしな。

 

 

「おー、さすがたくや先輩だにゃー。凛はてっきりただことり先輩の写真欲しさに買ったのかと思ったにゃ」

「バッカお前、ほんとバッカお前。俺がそんな事するはずないでしょうが。確かに最初は欲しかったけど、理由を察してからはちゃんと意図があっての事だ」

 これはもう本当だから。ことりの悲しい顔を見るくらいなら何だって事はない。拓哉さんは嘘付かないよ。ホントホント。

 

 

「たっくん、私の写真欲しかったの……?」

「はえっ!?え、あ、や、俺は最初から分かってたからその写真を買っただけだし?確かにちょーっと財布にダメージはいったけど仕方ない事だし?」

「本音は?」

「喉から手が出るほど欲しかった」

「はぁ……」

 

 しまった。海未にまんまとハメられてしまった。こいつ、中々の策士だな。俺にも引けをとらないなんてすごいで賞でもあげようか。実物のことりメイドもいいけど、写真を部屋で永久保存するのも悪くないと思うんだ。俺は相当ヤバイ奴らしい。

 

 

「……たっくんになら、写真あげちゃってもいい、かな……」

「マジでか!?」

「いけませんことり!拓哉君なんてある意味1番渡してはいけない相手ですよ!?」

 ちょっと?1番って何?普通の1番なら嬉しいのにその1番は何か嫌な感じしかしないんだけど。どんだけ拓哉さん信用されてないのん?

 

 

「でも、知らない人の手に渡るより、たっくんに持っておいてもらった方が安心だし、たっくんがお金払ったんだし、それに……私の写真持っててくれたら……私も嬉しいし……」

「え?何だって?」

「あっ、べ、別にな、何でもないよ……っ!」

 いやごめん、ホントに聞こえなかった。途中からトーンが小さくなって最後の方何て言ってるか分からなかった。これは小鷹スキル発動しても仕方ない。ドラゲナイ。僕は友達が少ない。

 

 

「と、とにかく!この写真はことりが持っておくのが1番の安全手段ですから、ことりが持っておいてください!」

「うぅ、は~い……」

 まあ、確かに本人であることりが持っておくのが最善の安牌だろう。本音を言うと欲しかったけど、これはさすがに仕方ない事だ。実物見れただけ良しとしよう。よし、そうと決まれば俺の目に今のことりの姿を永久保存しなくては。

 

 

「で、ことりちゃんが働いてるのは分かったけど、何でここで働いてるの?」

 穂乃果がもう1つの本題を切り出した。そうだ。ことりが働くのは別に構わない。でもそれを何故俺達に黙っていたのか、そして何故働きだしたのか。

 

 

「ちょうど4人でμ'sを始めた頃……」

「俺は手伝いだけどな」

「帰りにアルバイトのスカウトされちゃって……」

 なるほど、ことりほどの容姿ならスカウトされても別に何らおかしくはないと思う。何なら俺がお嫁さんにスカウトしちゃうまである。そして見事にフラれて川に身を落とすとこまで想定できた。フラれちゃうのかよ。

 

 

「自分を変えたいなって思って、私、穂乃果ちゃんや海未ちゃん、たっくんと違って何もないから……」

 さっきとはまた違う暗い表情だ。まるで自分だけその場所に取り残されているような、そんな寂しそうな表情をしていた。

 

「何もない?」

「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていく事もできないし、海未ちゃんみたいに、しっかりもしてない……。それに、たっくんみたいに、いつも困ってる人を助けて正しい道へ導く事もできない……」

 自分には何もない。それは言ってみれば無個性であり、地味であり、目立たない。アイドルとして必要なオーラもない。そう言っているようにも見えた。

 

 

「そんな事ないよ!歌もダンスも、ことりちゃん上手だよ!」

「衣装だって、ことりが作ってくれているじゃないですか」

「少なくとも、2年の中では1番まともね」

 穂乃果、海未、真姫のフォローが入る。それでも、ことりの表情はまだ暗いままだった。問題なのはそこじゃない、それを遠回しに感じさせるような雰囲気で。

 

 

 

 

 

「ううん、私はただ、3人に着いて行ってるだけだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま、ことりは何も話さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからことりは休憩が終わり、いつも通りバイトに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 俺達も長々と店に居座るわけにもいかなかったから、ある程度だけ注文して、帰る事になった。みんなが談笑する中、俺だけは何も喋らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またねー!」

「あっ、この事は、お母さんには内緒だから!学校では、しーっ!!」

「うん、分かった!!」

 しーっ!のポーズ可愛すぎかよ。店では喋らなかったけど、ずっとことりを見てたから、メイド服を目に焼き付けてたから。しばらくは持ちそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が赤く染まる中、1人の悩める女の子の話を聞いて、それぞれが何を思ったのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、俺の思いだけは分かる。自分の思いなんだから分かるのは当然だけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も変わらない。ただ、いつも通り、俺は彼女達を、ことりを、いつでも信じてるという事だけは変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、今回のことりの悩みは、それだけは、俺にも何もできないかもしれない。ことりは幼馴染の俺達3人に着いて行っているだけだと言った。そんな俺達がことりにお節介をしたところで、それはことりの成長につながるのか?

 

 

 

 むしろそれで余計にことりは劣等感を感じてしまうのではないか?と。そんな考えが俺の行動に制限をかけていた。だから何も喋る事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たまには、何もせずに幼馴染の成長を見るのも良い事なのかもしれない。そう思えって事か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもより、少しだけ、ほんの少しだけだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の中の答えが出るのが遅かった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、いかがでしたでしょうか。

ことりは天使だった。はい、いつもの事です。
何気にこの回でもう1つ注目してほしいところがありまして、それはスクールアイドルショップのにこのシーンです。

 アニメじゃ結構軽く流されている感じでしたが、個人的にアイドル自体に強い憧れがあったにこがああやって自分がグッズになっているとこはどうしても軽く流したくはなかったんです。
 にこにとっては念願の願いが叶ったと同じようなものですからね。だからほんのり軽く、けれどにこの『思い』が読者の方々に届いてくれればと思っています。



いつもご感想評価ありがとうございます+ご感想評価いつでも待ってます!


では、新たに高評価(☆9、☆10)をくださった、


アリステスアテスさん(☆10)、凛ちゃんさん(☆10)、タカなすびさん(☆8から☆9へ)、イラストレーター水卵さん(☆9)、アジフさん(☆9)、


ホントにありがとうございました!!光栄です!!
これからもドシドシ待ってます!

ありがたい事に総評価数が今39なので、評価数がキリのいい50を超えたら何か特別編として何か書こうかなと思ってます(笑)



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