ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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今回で絵里希加入編本当の終わりとなります。
前回までのシリアスはどこへやら?という感じで楽しんでくださいね!






43.真の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タロットだか何かの占いで、女神を守るのには騎士(ナイト)が必要だと言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、実際には自分はそんな大層なものでもないと少年は思っていた。

 

 

 

 

 

 言われた時は意味をすんなりと頭の中に入ってはいたが、それを受け入れるとならば話はまた別の方向性になっていく。少年は自覚もしていた。自分には騎士(ナイト)なんて称号が似合っていないという事を重々分かっていた。

 

 特別な力なんてなく、空を飛べたり手から光線が出るような異能なども当然ない。少年に備わっている能力は、全て全世界共通である人間としての体力や身体能力でしかない。

 

 

 それもごく一般の。

 武器という武器を所持している訳でもない。その身1つしか持っていないのだ。それも高校生ともなれば、ガタイ的な問題であっさり屈強な体を持っている人間には負けてしまうくらいのモノでしかない。単なる少し喧嘩が強いだけの少年に過ぎないのだ。

 

 

 だから、そんな自分に騎士(ナイト)なんてのは似合わない。そう考えていた。けれど、騎士(ナイト)でなくとも、誰かを守る事はできるはずだ、鍛えに鍛えてゴツイ屈強な体にならなくても、大切な人達を守る事はできるはずだ。

 

 

 それは意志の問題である。

 例え物凄い特別な能力を持っていても、その力を持つ者が誰かを助けようと思わない限り、誰も助けられないのと同じように。それだけの異能がなくとも、ごく普通の平凡な高校生でも、誰かを助けたいという意志さえ持っていれば、誰でも“ヒーロー”になれるという事を、少年は知っている。

 

 

 

 であれば。

 自分には騎士(ナイト)なんて称号はいらない。そんなものがなくとも、誰にも言われずとも、無意識的にでも意識的にでも、“岡崎拓哉”は救ってしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――だから、このままいつも通り、少女達を見守っていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 極端な事を言ってしまうと、やはり絢瀬会長がμ'sに入ってくれたのは物凄く大きかった。

 

 

 

 

 

 

 理由は見れば分かる通り、これまでの基礎訓練やダンスレッスンでの効率が大幅に良くなっていた。

 

 

 

 

 

 

「1、2、3、4、5、6、7、8……!」

 

 

 

 

 

 絢瀬会長の声と共に、音ノ木坂学院の屋上で練習をしている穂乃果達の声もそれに続いていく。やはりたった数日しか経っていないのにこの上達っぷりは素晴らしいとしか言いようがない。

 

 あれだけ体が固くてストレッチに苦戦していた凛も、今では簡単にお腹が地面へ付くくらいに上達していた。やっぱ経験者のアドバイスとやり方は違うな。……あれ、これって今まで色々調べたりしてた俺の苦労とは一体……ぐすんっ。

 

 でもまあ、実際絢瀬会長や東條がμ'sに入ってから穂乃果達の気合いの入りようも違っていた。何かこう、やる気に満ち溢れているようにも見える。何せ3年生の生徒会長とその副会長が入ったのだ。そりゃ自然に気合いも入るだろう。矢澤さんは……うん、まあいいじゃん。

 

 

 

「はい、じゃあ5分間休憩をとりましょ」

 絢瀬会長の声に全員がはいと応じる。汗を掻いて息切れをしつつも、彼女達には辛そうな顔はどこにもなかった。むしろやる気になっている分疲れながらも笑顔のままだった。

 

「えへへ、なんだか自分でも上達してるなーって思うくらい成長を感じるかもっ!」

「ええ、確かに見ている限り全員の動きにキレが出てきています。この短期間で急激に成長するのは驚きですが、さすが絵里先輩ですね」

 穂乃果と海未の言っている事も事実だった。この短期間、たった数日でみんなは急激に成長していた。少し今までと練習メニューを変えただけなのに、それだけで効率も良くなって腕を上げている。

 

 

「やっぱ絢瀬会長に入ってもらって正解だったな」

「もうっ、岡崎君まで何を言いだすの」

「事実を言ったまでだよ。絢瀬会長が入ってくれなきゃこの短期間でこんなに成長する事は確実にできなかったんだ。なら、やっぱりアンタが入って正解だったんだよ」

 各々が休憩するためにシートに座ったり日陰に入りドリンクを摂取している彼女達を、俺と絢瀬会長は遠目に見ながら話す。

 

 

 

「……それが……私があの子達にできる精一杯の償いだから……」

「……償い?」

 微かに目を細めて、まるで罪人が罪を反省するかのような瞳で、絢瀬会長は呟く。

 

 

「私が今まであの子達の活動に口出しをして、邪魔にも似たような事をしてきたから、それが足枷になってあの子達の成長の邪魔になっているんじゃないかって思ってしまってね。そう考えると、やっぱり私にはこういう償いをしないといけない。せめてオープンキャンパスが成功するまでは、出来る限りであの子達をサポートしていくしか、この罪悪感は拭えない。償いはできないの……」

 

 

 まだ、この人にはそういう意識があった。

 ずっと1人で考えて、ずっと『廃校』という重い枷と戦うために頭を使って、真面目だからこそ、1人で悩み苦しんで、生徒会長としての義務感に囚われて、周りが見えなくなって、自分のやりたい事に嘘を付いてきた。

 

 

 そしてそれはμ'sにも影響を及ぼした。幾度とぶつかりあった。それが彼女達の成長を妨げていたかもしれない。本当なら既に花になっていたものを蕾のまま止めていたのかもしれない。

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 

 

「罪悪感だとか、償いだとか、そんなのは俺にとってもあいつらにとってもどうでもいい事なんだ」

「え……?」

 

 

 申し訳なさそうな顔をしていた絢瀬会長の顔はキョトンとした顔に変わり俺の方へと向く。それでいい。もう深刻な顔や寂しそうな顔なんかしなくていいんだ。だから言ってやる。まだそんなくだらない事に囚われている絢瀬会長を納得させるために。

 

 

「確かにアンタは今まで色々と突っかかってきたよ。それであいつらの活動が縛られてる時もあった。でも、それはもう過去の事なんだ。今更何を言おうがどう思おうが何も変える事はできない。だったら前に進むしかないだろ。もうアンタは自分の過去を乗り越えつつあるんだ。あいつらと一緒なら前に進めるんだ。罪悪感だとか償いとかまだそんな事を考えてるなら、それこそあいつらにも影響を及ぼしかねない」

 

 

 この人は人1倍責任感があるのだろう。適当な事を言ってもそんなのはこの人にとって何にもならない。ならその重荷を少しでも軽くしてやれる事を言うしかない。いつも通り、俺自身の言葉で。

 

 

「あいつらはアンタが入る事に最初は戸惑ってはいたよ。でもあの教室に来た時には、もうみんながアンタを歓迎していた。何も難しい事を頭の中で考えなくていい。シンプルでいいんだよ。ただアンタはこれからあいつらとやりたいように楽しくμ'sとして活動していけばいい。マイナスの事を考えるより、プラスを考えた方が楽しいに決まってる。当然の事なんだよ。それに、オープンキャンパスが成功するまではとか言ってるけど、それが終わってもアンタは辞めさせねえからな」

「え、な、何で……?」

 

 

 ったく、この生徒会長様は……まだ分かってやがらねえのかっ……。どんだけ堅い性格してんだよ。

 

 

「東條が言ってたろ。μ'sは9人の女神の事だって。そこにはちゃんとアンタも入ってるんだ。なら、アンタが辞めればそれはもうμ'sじゃなくなってしまう。今までは未完成だったからまだ良かった。でももうアンタと東條が入ってμ'sは完成したんだ。であれば、もうそう簡単にはμ'sを辞めさせる事はできないからな。何たって、俺は女神を守る役目があるんだから」

 

 

 最後にドヤ顔で見てやる。すると今までのシリアスは何だったんだと言わんばかりに絢瀬会長の顔が破顔する。まるで隅にわだかまっていた塊がスッキリと消えたかのように。

 

 

「……ふふっ、本当にあなたって“そういう事”を何の気なしに言うのねっ」

「そういう事って何だよ……俺はただ事実を言ったまでであって―――、」

「はいはい、分かってるわよ」

 軽く流されてしまった。結局“そういう事”の意味が分からなかった。でもまあ、絢瀬会長が笑顔に戻って何よりだ。女の子には笑顔が1番似合ってるってよく言うしな。

 

 

「……ありがとね」

「ん、何の事だ?」

「今の事も、これまでの事も含めて全部よ。あなたは最初から私と真正面からぶつかってきた。そしてファーストライブの時もそう、見ていたの。あなたが高坂さん達へ言葉を飛ばしていたのを。あんなに絶望的な状況だったのにも関わらず、あなたの言葉であの子達の心は動いた。そこから無意識に思っていたのかもしれないわね。私はあなたに救いを求めていたのかもしれない。そして私はこうしてあなたに救われた。だからこそ、ありがとね」

 

 

 それを聞いて、少しむず痒しく思ったのは事実だった。やっぱりクォーターってのはズルい。ただでさえ美人なのに、そんな笑顔を向けられると余計に変に意識してしまう。美少女ってのはそれだけで兵器になるものなのか……!!

 

 

 それと、1つだけ言っておかなければならない事がある。

 

 

「一応そのお礼はもらっておく。でも、絢瀬会長、アンタを助けたのは俺だけじゃない。最終的にアンタに手を差し伸べたのは穂乃果達だ。そういう意味じゃアンタは穂乃果達にも礼を言うべきなんだけど、気恥ずかしいだろ?だから俺が代わりにある1つの条件を出そう」

「条件?」

「ああ、とても簡単な事だ。さっきも言った事でもある。これから先、オープンキャンパスが成功してもしなくても、変わらずμ'sにいてくれ。それだけだ」

 

 これ見よがしに人差し指を立てる。たった1つの条件。それを守るのは容易い事だ。こいつらはもう9人じゃないと意味がないんだから。

 

 

「……分かったわ。あなたの言う通り、ずっとμ'sにいる。さすがに騎士(ナイト)様にそんな事言われちゃ、言う事聞くしかないものねっ」

「だから俺にそんな称号みたいなものはいらねえって……」

 あの日東條から告げられたタロットの占いのせいで、俺はみんなからたまにこうしてからかわれている。つい先日まで激しく口論してた絢瀬会長にまで茶化される始末だ。茶化すのは俺の領分のはずなのに……拓哉さん非常にご不満ですことよ!

 

 

「あら、ならどんな称号がいいのかしら?」

 再度、絢瀬会長の茶目っ気のある声が向けられる。そんな絢瀬会長の顔はもう、今までのような鋭くて暗いような雰囲気などはなくなっていて、女の子としての、ただ無邪気な笑顔がそこにはあった。

 

 

「別にご大層な称号とかが欲しいんじゃないよ。……でも、強いて言うなら。“ヒーロー”に憧れてるってだけかな」

 それだけを言って、そろそろ休憩が終わる時間になるため穂乃果達の元へ歩み寄ろうとする。ヒーローって言った手前、また茶化されても困るしな。……おっと、最後にこれだけは言っておかないと。

 

 

「絢瀬会長」

 何やらキョトンとしていた絢瀬会長の顔が、俺に声をかけられた事でまたキョトンとした顔になる。言葉を出そうとしていない。つまりそのまま言えという事だろう。なら遠慮なく……、

 

 

 

 

「やっぱアンタにゃ暗い顔は似合わねえよ。せっかくのクォーター美人なんだ。綺麗で可愛い笑顔の方が似合ってるよ」

 同時に、絢瀬会長の顔が急激に赤くなるのを確認する。それに満足した俺は今度こそ穂乃果達を呼び戻しに歩き出す。ほら見ろ、『生徒会長』なんていう分厚い皮を剥いでみりゃ、そこにあるのはただの可愛らしい女の子の素顔じゃないか。ようやっと普通の女の子に戻れたんだ。

 

 

 今まで『生徒会長』として常に戦って緊張していた絢瀬会長じゃない。喜ばしい事があれば喜んで、怒らないといけない事があれば怒って、哀しい事があれば哀しんで、楽しい事があれば楽しんで、そんな普通の女の子なんだ。絢瀬絵里という少女は。

 

 

 “普通の女の子”に戻った絢瀬会長だから、今さっきも顔を赤くしながら照れている顔にもなる。ただ今は、それだけで良い。そのままオープンキャンパスまで突っ走ってくれ。

 

 

 

 

 俺が穂乃果達を呼び戻すために絢瀬会長から離れたからだろうか。

 

 

 

 

「何だ」

 

 

 

 

 絢瀬会長の声は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、岡崎君は既にヒーローじゃない(、、、、、、、、、、、、、、)

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あったが、オープンキャンパスの当日はやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 他の部活も『部活発表』というのがあるために学校内は賑やかだったが、そんな中でも意外と静かなグラウンドに俺達はいた。言うなればステージ裏。そこでは絶賛円陣みたいな事をしていた。“俺”以外が。

 

 

 

「もお~、いい加減たくちゃんも入ればいいのに~!!」

 俺以外の全員がピースの形を造り、それを9人が同時に生成し、それぞれの右手をくっ付けている。これがこの数日間で穂乃果達が考えた自分達なりの『μ's』の円陣らしい。ならば、そこに『手伝い』である俺が入る訳にはいかないのだ。

 

 

「バカ言うな。それは『μ's』であるお前らがやるからこそ意味があるんだ。ただの『手伝い』でしかない俺がそこに入ったら『μ's』が考えた意味を破綻させちまう」

「ぶ~ぶ~!!いつもそんな事言って回避ばっかしてるじゃん!」

「回避っておま……はあ……」

 回避って言われたらまるで俺が余計にグループに入りたくない反抗期少年みたいに聞こえるじゃねえか。仕方ない、これはあんまり言いたくはないが、納得させるには良い手だろう。

 

 

「あー……あれだ。東條が言うには俺は女神を守る騎士(ナイト)の役目なんだろう?だったら騎士(ナイト)ってのは直接女神達の中にいるんじゃない。女神達の少し離れたとこで見守るってのが意味合いとして合ってるはずだ。何か危機的状況にも陥らない限り、騎士(ナイト)はずっと少し離れたとこで見守っているのが正解なんだよ」

 さあどうだ。いかにも“それっぽい”事を言ってやったぞ。おバカな穂乃果なら簡単に納得してしまうはずだ。

 

 

「……それもそっか!そうだね!たくちゃんはいつも私達の事見守っていてくれてるもんね!!」

 よっしゃ見やがれコノヤローバカヤロウ!!俺の目論見通り穂乃果は簡単に納得してくれちゃったぜーしゃーおらーごめんちょっと罪悪感感じるけどこれも仕方ない事だと思わないと俺は今すぐ穂乃果に土下座したくなってくるんだごめんよ純粋穂乃果ちゃん……!!

 

 

 

 

「こういう時は騎士(ナイト)様の称号を使うのね」

「そこうるせえぞ生徒会長ー!!黙ってさっさと準備を済ませなさい!!緊張しても知らねえぞオラー!!」

「心配しなくても、私は小さい頃にオーディションを受けた事があるから、こういうのには慣れっこよ。それに生徒会長として全生徒の前に立った事もあるしね」

「……そうかよっ」

 不意に、笑みが零れてしまった。何だよ、もうとっくに乗り越えてんじゃねえか。なら、もう心配はいらなさそうだな。あとは、そいつらと一緒に言葉にできないような達成感を味わってこいよ、絢瀬会長。

 

 

 

 

 

 頑張っている者に頑張れなんて野暮な事は言わない。やれる事をやってきた者にかける言葉は、いつだって1つだった。

 

 

 

 

 

 

「しっかりやれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を残し、俺は客のいる方へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「よお、唯、雪穂」

 

 

 

 

 

 客のいる方へ来た俺は、絶対に見に来るって言っていた唯のグループを見つけた。周りにも意外とライブを見に来ている中学生やその付き人である親が結構いた。やはりネットでの注目度も上がっているというのが分かる証拠になった。

 

 

 

「あ、お兄ちゃん!朝振りだねっ!」

「たく兄、こんにちはっ!」

 2人して笑顔を俺に向けて挨拶をしてくれる。ああ、俺の癒しはここにあったんだな……。可愛い可愛い妹と妹分に癒される場所をシスターゾーンと名付けよう。……いいなこれ。

 

 

 すると、唯と雪穂の陰からひょこっと可愛らしい娘がでてきた。それは当然、俺にも見覚えのある娘だった。

 

 

「あっ、拓哉さん!こんにちはですっ!」

「少しだけ久し振りかな、こんにちは、亜里沙」

 相も変わらず、可愛い笑顔だった。いやみんな可愛いけどね。でも何だろう、この他の子とはまた違う何かを感じる。ほんわかとしようなふにゃっとしたような、そんな柔らかい雰囲気の笑顔が堪らない。結論、天使。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん……?」

「たく兄……?」

 

 

 

 

 

 瞬間。

 体に凄まじい悪寒を感じた。

 

 

 

「……えと、な、何でしょうか、唯、さん……?それに、雪穂嬢まで……」

 な、何故だ。何故こんなにも今の俺に自分の死相が見えるんだ。つい今まではこの子達は嘘偽りのない天使だったはずなのに、今は何故か笑顔が悪魔にしか見えない。

 

 

「いつの間に亜里沙とお知り合いになってたのかなーお兄ちゃぁ~ん……?」

「え、あ、や、その、あ、あれえ?あの時い、言ってなかったっけ~……?」

「なーんにも聞いてないんだけどなぁ~……」

 ま、マジかァァァあああああああッ!!あの時言ってたと思ってたけど言ってなかったのか……!!ヤバイ、このまま純粋無垢な亜里沙の前で俺が唯と雪穂に血祭りにされるかもしれない。俺はどうなっても構わないが、いややっぱ良くない、亜里沙だって目の前で男がフルボッコにされる光景なんて見たくないはずだ!

 

 

 岡崎拓哉、ここは言葉の選択を間違えるなよ……人生にセーブなんて便利機能なんてないんだからな……ッ!!

 

 

 

 

 

「すまん、忘れてた」

「潰すよ」

「何をッ!?」

 やだ、雪穂が何か物騒な事言いだしちゃったよ!こんな子に育てた覚えはありません。俺は育ててないけどね。桐穂さんに大輔さん、お宅の娘さんこんな事言う子になってるんですけどどうなってんですか。

 

 

「えへへ~、この前すぐにでも会いたいな~って言ってた人がこの人なんだっ♪」

 やはり、こんな俺を救ってくれたのは純粋無垢な天使だった。

 

 

「……はぁ、でもまあ、この前亜里沙を助けたのがお兄ちゃんで凄く納得しちゃったよ……」

「たく兄って本当に見境ないよね」

「ねえ、これって俺褒められてんの?貶されてんの?どっちなの?」

 そろそろシスターズのせいで泣きそうなんだけど。可愛い妹達にイジメられて喜ぶ趣味は拓哉さんにはないよ?ホントだよ?

 

 

 

「とういうより、唯と雪穂って拓哉さんと知り合いなの?唯なんてお兄ちゃんって言ってるし……ハッ!まさか日本にはそういう趣味の人がいるって聞いたけど……!?」

「待つんだ亜里沙。思考をそこで止めなさい。そのまま進めばおそらく君の中で俺の株は大暴落待ったなしになる」

 おい誰だよこの子にそんな事教えた輩は。俺が一発ぶん殴ってやる。純白が似合ってる亜里沙に変な事教えるんじゃありません!!

 

 

「違うよ亜里沙。お兄ちゃんはそんな変な趣味は持ってないからね。正真正銘、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの。血も繋がってるよ」

「ええっ!そうなの!?」

「むしろ今までの会話聞いてて分からなかったの……。立派な兄妹だよ私達は!ね、お兄ちゃんっ!!」

「ん?おう、唯は俺の可愛い可愛い妹だよ」

「ハラショー……!ならあの時会ったのも何かの縁というやつですね!」

「え?あ、うん、縁?なのかな……?確かに唯と元々友達でその後に俺とも知り合ったからな」

 

 

 凄く目をキラキラさせてる。日本の言葉に憧れでもあんの?何か凄い期待されてるような目で見てくるんだけど。

 

 

「私とお兄ちゃんは兄妹だから、こんな事しても普通なんだよっ♪」

「うおっと」

 急に唯に左腕を絡まれた。普通っていつもはこんなにくっ付いてこないだろ。せいぜい肩に寄り添って来るだけじゃないか。いやそれも中々か?

 

 

「だ、だったらたく兄の妹分でもある私もそれをする権利はあるもんね!」

「おわっとと」

 今度は雪穂に右腕を絡まれた。確かに雪穂の事も妹みたいな感じに思ってるけど権利って何の権利?腕を絡める権利?何それ……。

 

 

「おお、日本にもそういう習慣があるんですね!!なら私も遠慮せずに行かせていただきますっ!」

「「「えっ?」」」

 そう言うと、亜里沙は俺の真正面から抱き付いてきた。なるほど、両腕はもう唯と雪穂がいるから無理だもんな。納得納得……って、んん??

 

 

「あの、亜里沙さん……?一体全体何をしていらっしゃるのでしょうか……?」

「え?唯達みたいに抱き付いてますっ♪」

「ご、がぱぁッ……ッ!?」

「お兄ちゃん!?何アッパーカット喰らったみたいな声出してんの!?あ、亜里沙!一旦離れよう!雪穂も離れよう!私も離れる!!お兄ちゃんの何かが持たないかもしれない!!」

 ここは天国か……?女の子に良い笑顔で抱き付いてますとか何だよそれ。そんな素晴らしい日本語があったのか……。悔いはない。死のう。きっとこの幸せをずっと噛みしめていられるに違いな―――、

 

 

「帰ってきてたく兄ぃッ!!」

「おぶふぅ……ッ!?は、腹が、腹がぁ……ッ!!」

 雪穂に思いっきり腹にエルボーを喰らわされた。天国から一気に地獄に落とされた気分だぞ……!!

 

 

「うん、ごめんねお兄ちゃん。私が腕に抱き付いたばっかりに……」

「あ、ああ、いいよ。可愛い妹分に抱き付かれて嬉しくない男はいないから……。うん、死にそうだったけど」

「あっ!!μ'sが出てきましたよ!!」

 亜里沙ちゃん?俺がこうなったの君の責任でもあるんだよ?思いっきりスルーして楽しもうとしてない?さっきからの出来事のせいで割と周りからの視線が痛いんだよ俺だけ。

 

 と言っても俺の事なんてもう視界には入ってないらしい。ステージに釘付けだ。悲しい。

 まあ姉である絢瀬会長が好きなμ'sに入って初のライブなんだ。そりゃ釘付けにもなるか。

 

 

 

「ちなみにお兄ちゃんはμ'sのお手伝いもしてるんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「ん、まあな。マネージャーみたいな事はできないから、せめて男の俺にできるくらいの事なら手伝おうと思ってそうなったんだ」

「やっぱり拓哉さんは凄いです!!」

 さっき以上のキラキラした目を俺に向けてくる亜里沙。とりあえずもうそろそろ始まるからと言ってステージの方へと視線を誘導する。

 

 

 

 

 

 

 

 μ'sが出てきて最初に喋ったのは、リーダーの穂乃果だった。

 

 

 

 

 

「皆さんこんにちわ!私達は、音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sです!私達は、この音ノ木坂学院が大好きです!この学校だから、このメンバーと出会い、この9人が揃ったんだと思います。これからやる曲は、私達が9人になって初めてできた曲です。私達の、スタートの曲です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当の意味での、スタート。

 9人として揃った、完成した、μ'sのスタート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのライブが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「聴いて下さい。『僕らのLIVE 君とのLIFE』!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Music:μ's/僕らのLIVE 君とのLIFE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

「何だ」

 ライブを楽しんで聴いている雪穂と亜里沙をよそ見に、唯が話しかけてくる。

 

 

「やっと、見つけたんだね。絵里さんも」

 言いたい事は、よく分かっていた。唯も一度だけだが絢瀬会長とぶつかった事がある。やりたい事は何なのか。その結果が、今目の前で楽しそうに歌って踊っているμ'sや絢瀬会長を見れば明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ」

 短く返答する。それ以上の言葉はいらなかった。これ以上は、ライブ中での会話などは無粋だという事を踏まえて、ライブを楽しもうという気持ちに従おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、どうしても、一つだけ呟く事があるとすれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホント、楽しそうな笑顔じゃねえか、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果は言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オープンキャンパスは、無事成功に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、『真のμ's』の誕生に相応しい結果になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、いかがでしたでしょうか。


今回で絵里希加入編終了となります。
むしろやっと揃ったかというお気持ちのあなた、自分でも自覚しておりますw

今回は主に絵里と亜里沙に軸を置いた話になったかと思います。
亜里沙はただ可愛いだけなんや……それでええんや……。

とりあえずμ'sが揃って廃校も遠のいたという事で、これからはオリジナルとして日常回も挟んでいこうかと思っています。
伏線回収してないとこもありますしね(笑)

妹との過去やら謎の後輩の存在、とかね。色々とやっていこうと思いますよ!!



いつもご感想評価ありがとうございます+マジでご感想評価お待ちしております!!




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