めでたく40話です!
ですが、もうすぐで通算50話です!!
このまま気合い入れていきますよ!
『『『ええ!?生徒会長に!?』』』
電話越しに真姫、凛、花陽の1年組の声が重なった。
俺は今、あの後亜里沙と別れてから寄り道をせずに穂乃果の家に向かった。そして丁度俺が部屋に入ったタイミングで通話を始めようとしていたとこなので遠慮なく混ざったのだ。
「うん、海未ちゃんがダンスを教わろうって」
「はい、あの人のバレエを見て思ったんです。私達はまだまだだって……」
『話があるって、そんな事?』
そう、これが海未の話しておいた方がいいって言っていた事だ。俺達の知らないとこで、海未は生徒会長の事を俺達よりも先に色々と知った。それが故の提案だった。
『でも、生徒会長、私達の事……』
『嫌ってるよねえ絶対!』
『つうか嫉妬してるのよ嫉妬!』
花陽、凛、にこの口から出るのはどれも生徒会長への苦手意識や嫌悪感のようなものがある。確かにあれだけ目の敵にされたり頑なに認められなかったりしたんだ。そう思うのも無理はないだろう。
しかし、
「私もそう思ってました。……でも、あんなに踊れる人が私達を見たら、素人みたいなものだって言う気持ちも分かるのです」
「そんなに凄いんだ」
生徒会長のダンスを実際に見て、いつも穂乃果達のダンスを見てきた海未がそう言うほどなのだから、きっとそれだけの実力が生徒会長にはあるのだろう。それなら練習中に海未があれだけいつもよりダンスを突き詰めようとした気持ちも理解できる。
『私は反対』
不意に聞こえたのは真姫の異議の声だった。
「真姫、理由は?」
『簡単よ。潰されかねないわ』
それは今この現状にとって、とてつもなくシンプルで、とてつもなく単純で、とてつもなく理解するには十分すぎるほどの答えだった。
「うん……」
『そうね、3年生はにこがいれば十分だし』
それは1番の上級生は自分だけがいいとかいう理由ではないですよねにこさん?そこは信じていいんですよねにこさん?
『生徒会長、ちょっと怖い……』
『凛も楽しいのがいいなー!』
花陽と凛からは弱気な声が聞こえる。それも仕方ない。ただでさえ大人くて臆病でもある花陽だ。色々と突っかかってくる生徒会長が苦手じゃないはずがない。凛にしたっても同じ。誰だって辛いだけの練習より、疲れてもみんなで楽しく練習できる方がいいに決まっている。
「そうですよね……」
海未も多少困っているようだった。むしろこういう反応が返ってくると分かっていての提案だったのかもしれないが、いざみんなの異議の声が上がるとどうしようもない感じではあった。
さて、ここで1つ考えてみよう。
今の話し合いの中でほとんどの者が生徒会長にダンスを教わる事への提案に反対した。しかし、それはダンスを教わる事自体が問題ではなく、生徒会長への苦手意識があるからだ。
だったら、言い方や捉え方を変えてもう一度考えてみる事にする。これはおそらく、さっきから一言も話さない穂乃果も同じ事を考えている事だろうと思う。
つまりはだ。
自分達よりダンスが上手い人にダンスを教えてもらう。
たったそれだけの事だ。ほんの少しの認識の違い。対象をどう見るかによって見え方も捉え方も変わる。ただ、真姫達はその見え方が生徒会長自身に見すぎていて肝心なとこが見えてないのだ。
であれば。
あとはそれを言の葉に乗せるだけ。
「うーん、私はいいと思うけどなあ」
「やっぱ穂乃果はそう言うと思ってたよ」
『『『『ええー!?』』』』
うるさっ!ええい電話越しにでかい声を出すんじゃない!鼓膜吹っ飛ぶわ。
『穂乃果も岡崎も何言ってんのよ!』
「だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手くなりたいから教わるって話でしょ?」
「それに、生徒会長のダンスを見た海未が言っていたように、今の穂乃果達じゃ人を感動させられるダンスができていないって事だ。だったら、人を感動させられるようにすればいい」
「そうですが……」
「だったら、私は賛成!」
この中で1人だけ、穂乃果はみんなと違う意思表示をした。普通の人間ならば、集団心理を無意識にでも感じ取って多数の意見の方を優先するが、そんな事はお構いなしに、穂乃果だけが唯一違う賛成意見をたたき出した。
何をも恐れず、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐ突き進むかのように。
「穂乃果ちゃん……」
「頼むだけ頼んでみようよ!」
『ちょっと待ちなさいよ!』
「でもぉ……」
このまま頼もうとする姿勢だった穂乃果を止めようとにこさんが制止の声を出すが、それを止めたのはことりだった。
「絵里先輩のダンスは、ちょっと見てみたいかもっ」
『あ、それは私も……!』
ことりのあとに花陽も賛同の意を出す。人間的な苦手意識はあったとしても、それとこれとは話が別なように、ダンスをやっている者としてはやはりダンス経験者には興味があるようだった。
「よおっし、じゃあ明日さっそく言ってみよう!」
『どうなっても知らないわよ……』
「もし何かあっても俺ができるとこまではフォローしてやる。お前達を守るのが俺の役目でもあるんだからな。決して約束はできないが」
『そこは約束しなさいよ!』
「だから声がでかいっての……。まあ、確証はできないけど」
『だからそこを何とか言い切りなさいよ……』
しつこいな。言い切れないものは言い切れないんだから仕方ないだろ!100%守ってやれるなんてそんな無責任な事は俺は言えない。だから、それでも俺ができる100%で、こいつらを守ってみせる。
「とまあ結論は以上だ。明日生徒会長に頼みに行く。メインは俺と穂乃果達で行くが、一応着いて来てくれ。そんだけだ。じゃあ、またな」
それぞれの挨拶を確認してから通話を切る。用件も今日はもうこれで終わりだ。あとは明日どうなるかだな。断られてもおかしくはないが、どうにもそこで終わってはならない気がする。
まるで穂乃果達のファーストライブの時のような妙な感覚を覚えている。……またあんな事が起こらないようにしないといけない。だから細心の注意を払うようにしているが、現実なんていつ何が起こるか分からない。
不足の事態をいくら考慮していても、それとはまた違う事態が起きてしまう事もある。結局、何を想定していても俺にできる事なんてたった1つに限られてしまっているのだ。
難しい理由や理屈なんていらない。ただ、守る。それだけだ。
「さて、俺も帰るかな」
「ええ~!たくちゃん帰っちゃうの~!?」
「やる事終わったんだし普通に帰るだろ何言ってんだ……」
何?この子俺がこのまま何かしらここで寛いでもいいって言うの?寝転ぶよ?お菓子食べるよ?ベッドくんかくんかするよ?……おまわりさーん僕でーす。
「せっかく今日は早めに終わったんだからもう少しお喋りしようよ!たくちゃんは家近いんだし何なら晩御飯食べて帰ってもいいよ!」
「いやお前そういうのは海未とことりとしとけよ華やかな女子トークでもしてなさいよ。それにそういうのはまずちゃんと桐穂さんの許可を得てか―――、」
「お母さーん!!今日たくちゃん晩御飯食べていっていいかなー!?」
「いいわよー!」
「ほら!」
いややり取り早いなおい!?桐穂さんも何たった一言で許可してんの!?この家の主婦さん軽すぎない!?
「いや、あの、ほら、穂乃果さん……?い、一応わたくしにも家での晩飯というものがありましてで―――、」
「穂乃果!春奈には連絡しといたから拓哉君晩御飯食べていっても大丈夫よ!」
「さっすがお母さん!」
「桐穂さん行動早すぎやしませんかね!?」
母さんも何普通に許可してんだよちくしょう!逃げ道がどんどんと塞がれていく……!というか母さんが許可しちまったし、このまま逃げて帰れば母さんに何されるか分かんねえ。……あれ?これ実はもう逃げ道なくね?詰んでね?
「ねーねー!いいでしょたくちゃーん!たまには晩御飯食べていってよー!」
何でそんなに懇願するかのように這いつくばって来るんだよ怖えよ……。何で海未とことりは助けてくんねえんだよ……。
「そういうのはお前が俺に料理を作った時に言えよ……。桐穂さんが晩飯作ってるんだしその言い方はおかしくないか?」
「た、たくちゃん……今私の作った料理が食べたいって……!?」
「……はい?」
ちょっと言葉の意味の捉え方がおかしくない?そういう意味で言った訳じゃないのよ?
「うん……うん!分かった!そこまで言うなら私、今度たくちゃんにお弁当か料理作ってあげるから!だから今日はもう晩御飯食べていって!」
「待つんだ姫。俺は別にそこまで言ってないから、別に作らなくてもいいから!それとこれとは話が別じゃねえか!?海未もことりも何とか言ってやってくれ!」
助けの目線を2人に送ると、何やら2人は俯きながら何かをブツブツと呟いていた。あの、一体何を考えていらっしゃるのでしょうか……?拓哉さん非常に怖いのであります。ケロロ軍曹もマッハで逃走するレベル。
「ょし……!たっくん!私も今度たっくんにお菓子作ってあげるね!」
「あの、えと……わ、私も拓哉君にお料理を作らせていただきます……!!」
おィィィいいいいいいいいいいいいいい!!何かこんな時に便乗してきたぞこいつら!!何だ何だよ何ですかあ!?俺を腹いっぱいにさせて体諸共爆発させようってか!?……うん、それはさすがにないか。
「何でお前らもそういう話になってんだよ!今はこの状況の打破をだ―――、」
「先に言っておきます。もう拓哉君のお母さまに許可を取られたのなら、もう諦める他はないと思われます」
「……で、ですよね~」
うん、知ってた。もう心の奥底では諦めてたよちくしょう。まあ、穂乃果の家で晩飯食べるのにそんなに抵抗はないんだけどさ、小さい頃何度も世話になってたし。でも、ほら、ね?一応年頃ってのもあるじゃん?一応回避しておこうって思うじゃん?
「分かったよ……。今日は大人しく晩飯の世話になるわ」
俺の返答聞いてやったー!とはしゃいでいる穂乃果を隅に、
「海未とことりは帰るのか?」
「ええ、もう少しここでゆっくりさせていただいてから帰るつもりです」
「そっか」
晩飯の世話になると言ってもまだ空は赤くなりつつあるだけだった。ならお言葉に甘えてゆっくりここで買ってきたマンガでも読ませていただきますかね~。
「あ、そういえばたっくん!」
「ん、何だ?」
「たっくんの好きなお菓子とかってあるかな?ほら、さっき作ってあげるって言ったし♪」
おぉふ、この子覚えてたのね……。せっかくこのままその話のうやむやにして流そうとしたのに。やはりことりは時々侮れない時がある。何だろ、白い羽が一時だけ黒くなるような……。一方通行さんじゃない事だけは祈る。木原神拳覚えてないんで勝てないです。
「おお、そういえばそうだった!たくちゃん、私にもたくちゃんの好きな食べ物教えて!」
「お前もいきなり食い付いてくんなよ。ずっとそこで適当にはしゃいでろよお願いします」
「お願いまでされた!?」
穂乃果の手料理は何だか不安なんだよなあ。よくいるメシマズヒロインみたいな気がしてならない。……いや、でも穂乃果って結構大輔さんの手伝いとかで饅頭も作ってるし、手料理ももしかしたらできるのか?
「確か拓哉君は、カレーやハンバーグ、から揚げなどがお好きなんでしたよね?」
「お、海未お前分かってるじゃないか。そうそう、王道だけど俺はそこら辺の料理が好きなんだよ」
「そういやたくちゃんって子供舌だったね!」
おいやめろ。子供舌とか言うな。言ってもあれだぞ、どれも普通に美味いじゃんかよ。むしろこれらが嫌いなら今まで何食ってきたんだって思うまである。
「へたに高級感のある料理より、ありふれた家庭の料理が好きと言ってくれ。あ、カレーは甘口な」
「やっぱり子供じゃん……」
「ばっかお前、カレーが中辛とか辛口とかになってみろ。もう辛くて味が分からなくなるわ。やはりカレーは甘口に限る。将来結婚するならカレーを甘口にしてくれる人がまず前提条件まである」
「「「了解です!」」」
お、おう?うん、まあ、物分かりの良い子は拓哉さん嫌いじゃないですぞ。理解者は多い方がいいしな。
「で、たっくん!たっくんの好きなお菓子は何かな?」
「ああ、そうだったな。俺の好きなお菓子か……」
何だろうか。俺の中ではお菓子と言ったらポテチとかたけのこの軍勢とかがすぐに出てくるが、手作りとなればまた違うか……。クッキーとかか?
「……チョコクッキーとか、好きかな」
「チョコクッキー……うん、分かったっ。楽しみにしててね♪」
はい、最上級のスマイルをいただきましたー。このまま拓哉さん昇天しちゃうっ!でもことりのチョコクッキー食べたいからまだ地上にいるよ!!
「では、私と穂乃果は何を作りましょうか?」
「別々でいいんじゃないかな?作ってくる日を重ねなければ料理が被っても良し!みたいな!」
何やら横では俺の事を放っておいて話が進んでいた。何あれ?料理コンテストでもすんの?
「別に拓哉君の好きな物を作ればいいだけという訳でもないですし……。どうせなら普段あまり食べない物を作ってその料理を好きになってもらうのもありかもしれませんね」
「なるほど、アレンジ料理だね!!」
おい、やめろ。素人が軽くアレンジ料理とか言うんじゃねえ。そう言って幾多の料理を消し炭にしたメシマズヒロインを何度もラノベやマンガで見てきたんだぞ。穂乃果のアレンジ料理とか怖すぎるわ。甘さを出すためにカレーに饅頭を入れたりとかされたら食べ終えたあとに気絶するまである。
「はあ……、そろそろマンガ読んでいいですかね……」
―――――――――――――――――――
「このように、音ノ木坂学院の歴史は古く、この地域の発展にずっと関わってきました」
いかにも女の子の部屋!!という訳でもないが、どちらかと言えば普通に女の子の部屋だった。
その部屋から聞こえるのは、凛々しくもあり、大人のような落ち着いた雰囲気を醸し出していて、けれどちゃんと年頃の女の子の高さのある声でもあった。
「さらに、当時の学院は音楽学校という側面も持っており、学院内はアーティストを目指す生徒に溢れ、非情にクリエイティブな雰囲気に包まれていたと言います」
そんな音ノ木坂学院の生徒会長、絢瀬絵里の学校を守るために考えた文を聞きながら、その妹、絢瀬亜里沙はいかにも不満そうであり退屈そうでもある雰囲気を思いっきりだしていた。
亜里沙の隣では、友人である高坂雪穂がついついうたた寝、というよりがっつり寝ていた。そして1人ベッド側で座っているそれもまた亜里沙と雪穂の友人、岡崎唯はしっかりと話を聞いていたが、雪穂があまりにも堂々と寝ているのでチラチラと心配そうに見ていた。
いつしか雪穂は上を向いて寝るようになってしまい、しまいには後ろに倒れそうになったところで、
「そんな音ノ木坂ならではの―――、」
「わあぁっ!?体重増えたっ!!」
最悪の寝言をかまして起きたのだった。
「何やってんのさ雪穂……」
「ぁ、すいません……」
眠ってしまっていた事に照れと申し訳なさを感じて謝る雪穂。友人の姉が学校のために考えたレポートを練習しているのだ。それも相手は高校3年生という中学3年生の雪穂からすれば十分年の離れた先輩なのだ。しかし、それに対し絵里は怒りすらしなかった。
「……ごめんね、退屈だった?」
予想だにしなかった声が聞こえた。寝ていた雪穂を怒る訳でもなく、謝るのはこちらの方なのに逆に謝られたのだ。それが雪穂に焦りと取り繕う余裕を変に無くならせた。
「い、いいえ!お、面白かったです!!後半凄く引きこまれました~あはは……」
だから、そんな見え見えの嘘をついてしまった。それはこの場にいる全員が分かっていた。
「雪穂、色々と下手すぎ……」
「オープンキャンパス当日までに直すから、遠慮なく何でも言ってね」
「私はあまり面白くなかった……」
「ちょ、ちょっと亜里沙……!?」
絵里と雪穂の間に言葉を入れたのは、亜里沙だった。明らかに褒めているとは思えない言葉。むしろその顔には批判の意があるようにも見える。
「何でお姉ちゃん、“こんな話”をしているの?」
「……学校を、廃校にしたくないからよ」
「私も音ノ木坂は無くなってほしくないけど、でも……これがお姉ちゃんのやりたい事?」
「っ……!」
何故だかは分からなかった。いや、分かっていたのに分かろうとしたくなかったのかもしれない。ただ、亜里沙のその言葉が、絵里の心中に重く突き刺さったのは間違いなかった。
「μ's……」
「っ!?」
その単語にいち早く反応したのは絵里。そして言ったのは唯だった。このタイミングでその単語を出すとどうなるか、その意味を分かっていながらも、言わずにはいられなかった。
「音ノ木坂学院には今、μ'sというスクールアイドルがいますよね。最近ネットでも話題になってきてるし、だったらそれも前に出してアピールする事はダメなんでしょうか?」
「そ、それは……っ!」
唯は知っている。兄である拓哉に何回か話を聞いているのだ。絵里が何かとμ'sのやる事為す事に口を挟み、突っかかってきた事を。だがそれを絵里は知らない、唯が拓哉の妹である事を知らない。だからこそこんな事も質問できる。純粋にそういう質問をしているのだと思わせる事ができる。
「……彼女達の踊りには、魅せるものはあっても、感動ができないの……。だから、ダメなの……」
「それは、絵里さんが決める事なんですか?」
「……え?」
突然の唯の声のトーンの変化に気付いた絵里は、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。よく妹の亜里沙と共に遊びに来る事が多いが、今までは明るくも接しやすい可愛い子だと思っていた子が、こんなにも真剣なトーンに変わったのは初めてだった。
「それは、どういう……」
「亜里沙からも聞いています。絵里さんは昔バレエをやっていて上手かったって。だからμ'sの人達がまだまだに見えても仕方ないと思います。でも、それは絵里さん、あなたの主観でしかないと思います。何もスクールアイドルのダンスを全員プロのダンサーが見ている訳じゃない。ただ亜里沙や私達みたいに純粋に興味があって、楽しみに見ている人達だっているんです」
そこまで聞いて、絵里は既視感に襲われた。唯が言っているセリフ、年上相手にも物を言えるその堂々とした姿、凛とした表情、その全てに既視感を感じた。
「だったらそれを絵里さん個人が押さえつけてしまうのは、こう言ってしまえば申し訳ないですが、悪いと思います……。個人の感情論で廃校の可能性を低くしてくれる要素であるμ'sの人達を押さえちゃったら、ホントにダメになっちゃうかもしれないじゃないですか!」
「っ……!!」
何も、言い返せない感覚。やはり感じた事のある感覚だった。どこか自分の中の核心めいたところが刺激されて、反論したいのにできない感覚。
「もう一度よく考えてみてください。絵里さんの本当に思っている事。“やりたい事”を考えてみてください」
「た、く……兄……?」
雪穂は小さい声ながらも呟いてた。絵里に意見を言う唯の姿が、完全にではないが、拓哉に似ていたから。それと同時にこうも思った。やはり、お兄ちゃん大好きな唯も、拓哉の妹なのだと。兄が兄なら妹も妹だと。奥底の性格は、唯も拓哉に似ていたのだ。
(ヒーローの妹は、いや、『も』か。ヒーローの妹も、ヒーローの資質でも持ってるのかな)
先程の照れや申し訳なさはなくなっていた。今は唯を少しニヤケつつも見ている余裕が雪穂にはあった。
そして、
「お姉ちゃん」
「あり、さ……?」
妹が、姉に声を掛ける。
「私はμ'sを応援してる。でも、何よりお姉ちゃんの事も応援してるの」
もう、険しい表情は亜里沙にはなかった。大切な姉を、大事な姉を、大好きな姉を、優しく包み込むような声で、彼女は言った。
「だから、音ノ木坂に入ろうとしてる私達のために、頑張ってね。お姉ちゃん」
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「いやあ、桐穂さんの晩飯は何年経ってもやっぱり美味いですね!むしろ小さい頃食べた時より断然レベルが上がってるまである!」
「やーねえ!お世辞ばかり言っても何も出ないわよ~。お饅頭いくらでもタダであげちゃうくらいだわ~」
「マジっすか!それで十分すぎるんですけど!」
結局、あの後マンガを読もうとしたが、当然穂乃果がそれを許してくれるわけもなく、話に付き合わされた。と言ってもただの雑談だったけど。しかも俺はほとんど喋らず寝そうになってたくらいだ。
しばらくして海未とことりは帰り、雪穂が帰ってきたので晩飯をいただいている。ちなみに大輔さんはまだ明日の仕込みをやっているのでここにはいないのだ。さて、どんだけ饅頭貰って帰ってやろうか……。はい、冗談です。
「たく兄と一緒に晩御飯食べるなんて何年振りだろ?あ、たく兄ソース取って」
「さあな、忘れちまったよ。結構晩飯は世話になってたけどな。ほれ、とんかつソースでいいんだよな」
何年振りかは忘れたが、もう普通にどこに何があるのかは覚えてる。こうして一緒に食べてると分かったけど、あまり昔と変わらなかった。普通の家庭の食卓のように感じれる。このまま穂乃果の家の養子になっても違和感ないまである。違うか。違うな。
「ごちそうさまでした!いやあ美味かったっす!」
「やっぱ男の子は食べるの早いわね~。ふふっ、お粗末様」
「んじゃ、俺はそろそろ帰りますよ。ありがとうございました」
「あらそう?じゃあ穂乃果、玄関まで見送ってあげて」
「はあーい!」
「たくちゃん」
「ん、何だ?」
玄関で靴を履いてると、穂乃果が不意に問いかけてきた。
「何かね、明日から何かが変わろうとしてる。そんな気がしてならないんだ」
「……明日から、か」
明日、つまり生徒会長にダンスを教えてもらう日である。
「そうだな。俺も明日から何かが変わるかもしれない。そう思ってる」
「なーんだ、たくちゃんもか」
まるで最初から知っているかのような声音で穂乃果は言った。分かってたなら聞くなっての……。
「まあそれを良くするのか悪くするのか、それは俺達の行動次第って事だ」
「うん、それも何となく分かってる。だから、頑張ろうね」
いつものセリフが飛んできた。
だから、俺もいつものセリフで返す。
「頑張るのはお前達だっての」
さて、いかがでしたでしょうか。
唯も唯で拓哉の妹な訳です。つまり、似ているという事は……ですねw
クライマックスも近づいてまいりましたよ!!
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では、新たに高評価をいただきました!
エリチカさん。
高評価どうもありがとうございました!!大変嬉しゅうございます!!