穂乃果との再会を終えた俺は今、何故か2階の穂乃果の部屋に連れられていた。
「なあ、再会は済ませたしさ、俺は饅頭出来たらすぐ出ていくつもりなのに何でここまで連れて来られてんの? 1階で待ってちゃダメなのか?」
「ええ~! いいじゃんいいじゃん。せっかくなんだからもっと喋ろうよ!」
いや、そうは言ってもですね……。
戻ってきたからもう喋ろうと思えばいつでも会って喋れるじゃん。お前のことだからこれから毎日連絡してきそうだし。
「せっかくって言ってもよ、どうせこれからまた何回も会うだろ? 今話さなくても別に明日でも明後日でも喋ればいいじゃねえか」
俺は饅頭出来たら早く秋葉原に行きたいのよ。そして用事を済ませたら家でさっさと寝たいのよ。ゴロゴロしたいのよ!
基本引きこもっていたい体質だからベッドで横になりながらマンガを読みたいのである。
「今日帰って来たんだから今日喋らないとダメなの! もう、分かってないなたくちゃんは!」
いやこっちがちょっと何言ってるか分かんないっす。
何そのよく分からない理屈。わけが分からないよ。
「それに海未ちゃんとことりちゃんと遊ぶ約束してるからもうすぐこっちに来るんだよ! 久しぶりに会ったらいいじゃん」
あー、なるほど、そっちが本当の理由か。ならまだ納得は出来る。
「海未とことりか、あいつらとも久々だな。どうせ会うなら早いうちに会っとくか」
「うんうん! その方がいいよ! 2人にもたくちゃんが帰って来たって連絡しといたからね!」
いつの間に連絡してたんだよ。会ってから1回も俺と離れてなかったのにいつ連絡してたんだ? あれか、階段上がってるときか、階段上がってる途中のたった数秒で2人に連絡してたというのか?
何それ今時の女子高生こわい。外で変な行動したら即ネットに晒されそうでこわい。それはまた違うか。
「海未ちゃん達凄い勢いで走ってきたりして~」
穂乃果がニヤッとしながら言ってくる。
「いや、ないだろ。そんな無駄に体力消耗してまで逃げもしない俺に会いにくる理由がないし」
「たった今まで饅頭出来たらすぐ帰ろうとしたくせにー」
「うるへっ、黙らっしゃい」
そんな感じで穂乃果と雑談していると突然下の方から音が聞こえた。その音源の方から声が聞こえる。
『すみません、お邪魔します!』
『ハァ……ハァ……お邪魔します~!』
と、それが聞こえた途端、物凄い勢いで階段を上がってくる音がどんどん迫ってくる。
お、おい、ま、まさかとは思うけど、そのまさか……?
俺は苦笑いしたまま穂乃果の方に振り向くと……穂乃果がニンマリと笑顔をこちらに向けていた。
途端、バタンッと部屋のドアを勢いよく開かれた音がした突如、
「穂乃果!! 拓哉君が帰って来たというのは本当なのですか!?」
「穂乃果ちゃん!! たっくんが帰って来たって本当なの!?」
口調は違えど
「たくちゃんならここにいるよ~」
指さす穂乃果の言葉と共に2人の首が勢いよく座っている俺の方に向く。いや、怖いんだけど。そんなギロッと見ないでくれる? 何その偽物なら容赦はしないみたいな視線。
蛇に睨まれた蛙か俺は。
「よ、よう。海未にことり。久しぶり……だな……?」
2人の視線が怖くて少し動揺してしまった。だって怖いんだもん。
俺の言葉を聞いて2人はキョトンとしていた。そしてすぐに俺はさっきまでの失態を思い出し臨戦態勢の構えに持ち込んだ。分かりやすく言えばウルトラマンの構えだ。もう後頭部はやらせんぞ。
「た、たっく~~ん!!」
そしてことりがこっちにやってくる。ほれ見ろやっぱり来やがった! だが今回はばっちり構えてるから何も怖くないんだよ!!
だがしかし、ことりは今までの穂乃果達のように腰に飛びついて来たりせずに、パタパタと小走りで俺の腕下辺りに手を入れて優しく抱き付いてきたのである。
……ちょ、待って、のであるとか言ってる場合じゃない。さすがにこれは予想外、変化球過ぎる。どうせまたどこかで意表突かれてダメージ喰らうと思ってたのにこれは予想してないわ。
「こ、ことり……さん?」
「たっくん、ずっと会いたかったんだよぉ!」
と言いながら俺の胸に顔をうずくめることり。あ、やばい、普通に抱きしめられるのは嬉しいけど久々に会ってあまりにも成長していることりのお胸様が俺の体に当たっている。アカン、これはもっと堪能しな……離さないと海未に何されるか分かったもんじゃない。海未も成長してるからきっと制裁も以前より強力になっているに違いない。
「ことり? 分かったからそろそろ離しても……ん? 海未?」
ことりに離して貰おうと思ったらいつの間にか海未が俺の右側の服の裾を掴んでいた。これは殺られるパティーンかな?
そう思い覚悟していたが海未からの制裁は来ずに海未は俯いたままボソッと何かを呟いていた。
「わ、私も、ずっと会いたかったん、です……よ……?」
成長して余計に大和撫子になった海未の上目遣い。可愛いけど、な、何かちょっとS心がそそられるんだけど? ちょっとイジメちゃダメ? あ、でも後でフルボッコにされるのが目に見える。
だが、成長はしても小さい頃からの恥ずかしがりは今もなお健在のようだ。それでも恥ずかしいのを我慢してこんなことを言ってくれたのは素直に嬉しかった。
「ああ、俺もずっと会いたかったぞ。ことり、海未」
言うと2人の顔が明るくなった。
「だからそろそろ離れようか?色んな意味でヤバいから、俺が」
やっと2人を離す。因みに2人がくっ付いてきてるあいだ穂乃果は『うんうん、抱き付きたくなる気持ち、分かるよ!』とか言っていた。お前の場合は飛びついて来たが正解だよ。
――――――――――――――――――――
ようやく場が落ち着いてきたから4人でテーブルを囲いながら俺達は雑談をしていた。
「そういえばたくちゃん、向こうでの中学校とか高校とかどうだったの? 楽しかった!?」
穂乃果が食い気味でぐいぐい聞いてくる。
お前はいい加減落ち着きなさい。あと近い。良い匂いがするであります。
「んー、どっちも楽しかったっちゃ楽しかったのかな。でもまあ色々あったし、大変だったと言えば大変だったけど」
「色々大変だったって、どういう事ですか?」
俺が苦笑いで言ってたせいか海未が疑問を聞いてくる。気になって当然か。
あまり良い気もしないけど、聞かれたらから答えるだけだし別にいいよな。
「あっはっはっは! いやー何ていうかね、結構喧嘩?みたいな事とかしてたからさ、大変な時もあったんだよ……って海未さん? な、何故握り拳を作ってゆっくり迫って来てるんでしょうか……?」
目が怖いよ? その目はいつかの俺に暴力、もとい制裁をしてきた海未の目そのものだった。あ、やばい。これあかんやつや。
「何で中学や高校で喧嘩ばかりしているんですか!? そういうのを不良やヤンキーなどと世間一般から快く思われてない人のことを言うのですよ!!」
「ヘイガール! 違うんだよ待ってちゃんと理由を聞いて! 学校外での喧嘩の方が多かったから!!」
「余計タチが悪いじゃないですか!!」
あるぇー!? 逆効果だったんだけど! さっきより目つき悪くなってるし殺る気満々だよこの人!?
「ちょ、ちょっと待って海未ちゃん! たくちゃんが何の理由もなしに喧嘩するはずないよ!」
「そうだよ海未ちゃん、だから、ちゃんとたっくんの理由聞こ?」
ああ、ありがとう2人共。お前らは俺のメシアだ!! 今度飴ちゃんあげるからな!!
「…………それもそうですね。では、理由を聞いてから制裁致します」
「理由が理由なら制裁は仕方ないね」
「あはは……そうだね……」
うーん、あれ? これ実は救われてなくね? 寿命が延びただけじゃね?
「で、理由というのは?」
海未が鋭い目付きで睨んでくる。ふえぇ……さっきの上目遣いの可愛らしさが微塵もないよぉ……。
「あーその、理由ってのはですね。学校内でカツアゲされてるヤツとか助けたり、学校外じゃ嫌がってるのにしつこくナンパされてる女の子が何故か結構いるから、それを助けるために喧嘩したりとか、そんな感じかな。あ、で、でもあれだぞ!? 俺は最初は穏便にしようと思って喋ってるんだけど、大概向こうが殴りかかってくるから仕方なくというか何というか……そう! 正当防衛だよ正当防衛!!」
理由は間違ってないのに焦っているせいで言い訳に聞こえてしまう……!
これ、信じてくれるのか。正しいのは俺だし大丈夫だと思うけど。
「……で、今まで殴りかかってきたその人達を、どうしたのですか?」
「言っても聞かないからとりあえず分かるまで叩きのめした」
「思いっきり過剰防衛じゃないですか!!!!」
瞬間、海未の拳がとてつもない速度でこちらに飛んできた。
「おぉぉぉおう!?」
あ、あぶ、あぶ……!? か、辛うじて避けられたけど、もし当たってたら壁にめり込みそうな勢い……。いやマジで。ヒュンッって風を斬る音がしたぞ!? 洒落になってねえ。死んじゃう。
「い、いやでもう……海未さん!? それじゃあどうしろってんだよ!? 俺に殴られろってか!?」
「違います! 正当防衛の範囲でなら私だって怒りません。ですが拓哉君の場合は過剰防衛の域に達しています。私はそれに怒っているのです!!」
「で、でもさ、海未も知ってるだろ? 俺が親父に言っても聞かないような悪いヤツらには例え大人でも女でも殴ってでも分からせるべきだって教育されてんの!! 俺はそれをしたまでであってむしろ助けた拓哉さんは褒められるべきだと思うのですが!?」
「なら1発2発殴るだけでいいのに、殴りまくるのが良いわけないでしょうがああああああ!!!!」
「いやァァァあああああああああああッ!?」
こ、殺されるぅぅ!! 久々に会った幼馴染に何でこんな目に合わせられなければならないんだ俺は!? 理不尽にもほどがあるぞちくしょうめ!
そ、そうだ。穂乃果達に救援要請を出せば……!!
「穂乃果、ことり!! 頼む、海未を説得してくれ! このまま死にたくないんだ俺は!!」
俺の必死の言葉に穂乃果とことりは顔を見合わせ、
「たくちゃん、今まで助けてきた人達の何割が女の子なの?」
な、何でこんな時にそんなこと聞いてくんのこの子? こっちは必死に攻防を繰り広げてるってのに。
「ほぼ9割だ」
「海未ちゃん、やっちゃって♪」
天は俺を見放した。
「覚悟しなさい拓哉君!!」
「何でだァァァああああああああああああああああッ!!!!」
や、殺られる……!! 母さん、親父、先に旅立つ親不孝な自分をお許し下さ……って、あれ? 海未からの鉄拳が来な、い……?
恐る恐る顔を上げて海未の方を見るとギリギリの所で拳は止められていた。大丈夫、恐怖で漏らしてはいない。
拳を引っ込めた海未はやれやれといった感じで、
「はぁ……まあ、本当に人助けにはなっているようですし、久しぶりに会ったということも踏まえ、今回は見逃してあげましょう」
え? マジで? 助かったの俺? 凄い、生きてるって素晴らしい。
「た、助かった……」
「許して貰えて良かったね、たくちゃん!」
「とどめの一言言った張本人が何言っちゃってんの?」
こちとら恐怖で震えあがってたのによお!! 余計な一言言いやがってよお!! 泣いちゃうぞコノヤロー!
そんな俺の頭にことりの手が置かれた。何をするかと思えばそのまま頭を撫でてきて、
「よしよーし、怖かったねえたっくん」
「ごわがっだよぉぉおおごどりぃぃいいい!!」
やはりことりは大正義ラブリーマイエンジェルことりだった。
ことりの手は世界で一番綺麗だからな。触れた者は片っ端から浄化されるから。はあ、癒される……。
「こ、怖がりすぎでしょう。泣かれるまで怖がられるとさすがにこちらもショックなのですが……」
いやいや、あんな殺気丸出しで迫られたら誰だって怖いから。妥当なリアクションだから。
「ねえねえ、急に話変わるんだけどさ。たくちゃんはこっちに戻ってきたってことは、どこの学校に行くの?」
ホントに急に話変わったなオイ。
一生撫でてもらいたいが仕方なく俺はことりから離れて、
「一応、近くの学校に転校するつもりだよ」
音ノ木坂に転校することになっているが今はこいつらには内緒にしておこう。当日のサプライズって事でびっくりさせてやんよ。
「そうなんだ~」
穂乃果は聞き流しながら揚げ饅頭を食べている。おい、自分から聞いといて何その態度? 説教するよ? 正座させて小一時間説教するよ?
「それにしても、たっくんおっきくなったけど、小っちゃい頃の姿をそのまま大きくしただけみたいな感じだね」
ことりが不意にそんな事を言ってくる。
その辺は自分じゃよく分からんな。
「それを言うならことりや海未、穂乃果だって小さい頃の姿のまま大きくなっただけじゃねえか」
胸部の差以外は。
「拓哉君、今何か物凄く失礼なことを考えてませんでしたか?」
「何を失敬な。あらぬ誤解を勝手に作らないでくれないか海未。誠に遺憾だぞ」
あぶねえ、咄嗟に誤魔化したけどいつの間に読心術を会得したんだ海未のやつ。
バレてたら現実から消されてしまうところだった。
「そうですか。ならすみません」
自身の青みがかった髪を揺らしながら謝ってくる海未。本当に3人共、小さかったあの頃の姿をそのまま大きくしたような感じだった。かくいう俺も小学生の頃の見た目をそのまま大きくしたような感じであるようだ。
ちなみに俺は唯と同じ茶髪の髪を少しツンツンした髪型になっている。
「なんかみーんな、あの頃とあまり変わってない感じがするよねー」
穂乃果が懐かしむように。
「そうだね。性格もあまり変わってないみたいだし、あの4人だった元の私達に戻れたみたいだね」
ことりも昔の思い出を引っ張り出すかのように。
「あの頃は穂乃果の無茶が多くて私やことりがいつも振り回されて、いつもケガをしてしまうかもしれないような遊びをしていたら、後からいつも拓哉君が都合の良いところで駆け付けてくれたんでしたよね……」
海未も以前の記憶を辿っていくように。
「あの公園の木にお前らが登ってさ、穂乃果が乗ってた木の枝が体重に耐えられなくなって危うく3人共大ケガしそうになったところに俺が走って来たんだよな」
俺も自分の“原点”を思い返すように。
それぞれがそれぞれの異なる言葉を紡ぎだす。
しかし、それぞれが、同じあの頃の記憶を思い出していた。
ずっと忘れないあの記憶。
今も4人の頭に残っている記憶。
俺が“ヒーローを目指すようになった原点”の記憶。
そして、時はその記憶にまで遡る。
やっと海未とことりも出せました。
そんなわけで次は過去から始まります。
と言っても過去編はすぐ終わりますけど(断言)
一応一週間1話更新を目指しているつもりです。
P.S.
LV(ライブビューイング)ですけどSSA両日参加してきます。
楽しみすぎて前日寝れるか分からないレベル。寧ろ自分の意思で寝ないまである。