ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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にゃんぱすー。



えーとですね……特に言う事ないやー。






どうぞ!


31.悩みの正体

 

 

 

 

「色々あるんだなぁ、みんな」

 

 

 

 

 

 

 帰宅途中の坂道で、1人で何気なく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 率直に言ってしまうと、小泉花陽は悩んでいた。

 

 

 今日あった事を色々と思い出してみる。

 飼育係だからアルパカの世話をしに行ったらそこには憧れのスクールアイドルの人達がいて、そしてやはりそこにはその彼女達を手伝っている少年もいた。おそらくアルパカにかけられたであろう唾のせいでとてつもなく臭かったが。

 

 つい先日ライブがあってお世辞にも成功とは思えない結果になりながらも、彼女らはそれを乗り越え、そして今も活動している。それを目の当たりにして、花陽は悩んでいた。

 

 やはり憧れていたから、捨てきれなかったから、少年に相談しようかしまいか考えていた。けれどそれも出来なかった。自分の中でそれでいいのかという考えもあったから。またいつものように自分で決めず誰かに相談して決めてもらうのか。自分の選択を、小さい頃からずっと思ってきた願いを、そんな大切な選択肢を誰かに委ねてもいいのかと。

 

 

 

 教室では、親友である星空凛にも言ってみた。

 自分がスクールアイドルをやると言ったら、一緒にやってくれるかと。これは花陽の精一杯の我が儘だった。何気なく言ったつもりでも、精一杯の我が儘であり、お願いでもあった。簡単に言ってしまえば道連れだった。凛が可愛い女の子だと知っている花陽だからこその。

 

 

 しかし、彼女はそれで首を縦には振らなかった。過去に苦い経験をしたせいで。

 小学生の時だった。

 

 珍しく、本当に珍しく凛がスカートを履いてきた時があった。花陽はそれを素直に可愛いと本気で凛に伝えた。凛もそれを聞いて照れてはいたが嬉しそうでもあった。だが、その笑顔はすぐに崩れる事となる。

 

『あー!スカートだぁ!』

『いつもズボンなのにー!』

『スカート持ってたんだー!』

 

 同級生の同じクラスの男子達の声だった。その男子達の特に悪意のないただの何気ない感想だった。

 だけど。

 そんな何気ない一言でも、その少女が傷付くには十分すぎる感想だった。

 

 だから凛はその日からスカートを私服で履くのをやめた。自分には似合わないと無理矢理言い聞かせ、自分は可愛くないのだと嫌でも理解させて。花陽もそれを知っている。あの時目の前にいたのだから。

 

 だから理由を知ってなお、花陽は凛に我が儘を言ってみせた。自分の我が儘の道連れにしようとすると同時に、凛を克服させるために。でもそんな事はなかった。断固として断られてしまったから。

 

 

 

 西木野真姫という同級生の家にも行った。

 ある紙を持ち去った所で彼女の生徒手帳が落ちていたから。それを届けるために、凛と別れてから彼女の家に向かった。シンプルに表すのなら、彼女の家は豪邸だった。彼女の母の言葉を聞けば病院を経営していると言っていた。

 

 

『西木野総合病院』

 

 

 頭の中にそれが1番に出てきて、同時に納得がいった。言うまでもなく、彼女の名字は西木野だったのだから。それさえ分かってしまえば疑問は一気になくなる。部屋には数々のトロフィーがあった。それもおそらく彼女が今まで獲得してきたものだろう。

 真姫と会ってから、スクールアイドルを進めてみた。いつも放課後に彼女の歌を聴いて、彼女がどれほど演奏が上手いのかも知っている。

 

 だから。

 なのに。

 

 それも断られてしまう。

 既に、真姫の未来は決められていた。病院を経営しているから、その跡継ぎとして勉強に時間を費やさなければならない。だから彼女は言っていた。自分の音楽はもう終わっていると。それを聞いていた花陽は、それなら何故そんな事を寂しげな顔で言うのだろうと疑問に思っていた。

 

 そんな思考を進めようとさせないように、今度は真姫から話を振られた。そういう自分はスクールアイドルを始めないのか、と。μ'sのファーストライブにたまたまと言っていたが真姫もいたらしい。その時に自分がいたのを見られていた。だからこうして言われた。

 

 自分は入らないが、花陽が入るなら、応援はしてくれると。

 それに花陽は一応笑顔でお礼を言った。まだ入るなどと決めていないし、どっちかって言うと入らない方が個人的に正解だとも思っている。性格的にも、スクールアイドルをやるという自分の自信的にも。

 

 

 

「……お母さんにお土産買っていこう、かな」

 

 

 

 歩いてると『穂むら』という和菓子屋が見えてきた。

 ここは気分を変えて和菓子でも買っていこう。という少し強引に思考を切り替える選択を今は選んだ。今考えても答えはきっと出ない。むしろダメな方向に考えてしまうに決まってる。だから気分転換。

 

 

 

 いかにも和風と感じさせる看板の下にある引き戸をガラガラッと開ける。

 

 中に入るとほんのりと和菓子特有の優しい甘い香りが漂ってくる。そんな優しい匂いに気を取られながらも奥へ進むと、そこにいたのは、

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!ってあれ?」

「あっ、先輩……」

 今日会って勧誘してきたスクールアイドルμ'sの高坂穂乃果が割烹着を着ていて、

 

「ったく、何で俺まで手伝う羽目になってんだよ……こちとらアルパカに唾かけられて1日テンションだだ下がりだってのに……。あ、ラッシャッセー……って、ん?あれ、小泉じゃん。にゃんぱすー」

「お、岡崎先輩まで……」

 アルパカに唾を吐かれたせいで着替えたのか、今はプルオーバーパーカーを着ている岡崎拓哉が愚痴を言いながら表に出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故か家の中へ通された。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい!」

「お、お邪魔します」

「私、店番あるから上でちょっと待っててね。部屋は階段上がって左にあるから」

「は、はい」

 

 言われるがままに階段を上っていく。母へのお土産を買うつもりだったのに何故か気付けば家の中にまで入っている。普段からあまり口数が少ないのが災いしてしまって流されるがままに流されたのだった。

 

 

 階段を上がれば見えたのは2つの引き戸。

 

 

 しかし、どっちの部屋かまでは聞いていなかったため、ここで花陽は止まってしまう。部屋が合っていればそれは問題ない。だが、部屋が間違っていた場合、部屋主にも悪いし、勝手に部屋を覗いたという汚名のレッテルまで貼られてしまうだろう。それだけは回避しなければならない。

 

 

「えっと……こ、こっちかな……」

 穂乃果は階段を上がって左にあると言っていた。ということは、手前のこの部屋が合っているはず。という結論に花陽は至った。スッと手を掛け引き戸を開ける。

 

 

 そこにいたのは、

 

 

「ふんにににににににッ!このくらいになれれば……!!」

 

 

 きゅうりパックをしながら体にバスタオルを巻いて、何というか、胸を必死に寄せていた少女の姿があった。

 

 その状況認識が出来た瞬間の花陽の行動はとても素早かった。ただシンプルに素早く引き戸を閉めた。

 

 

「ま、間違ってた……」

 回避しようと決めた途端にとても容易くそれは崩れ去る。だがもうやってしまったものは仕方がない。ここは気を取り直して次の部屋を開けるしかない。というかもう消去法的に次の部屋は絶対に合ってるという結論になる。

 

 そう思って奥の部屋に行こうとした瞬間、

 

 

 

「らーららーららーららららーん♪」

 

 

 

 何故か合ってるはずの部屋から歌を口ずさむような声がしてきた。

 必然的にその部屋に行かなければならないので、花陽はさっきと同じようにそっと引き戸を開けた。

 

 

 そこにいたのは、

 

 

「じゃーん!みんなーありがとー!ラブアロー、シュートぉ!」

 

 

 華麗にポーズを決めてからイメージ的に客席っぽい方に手を振ってから弓を射る形の決めポーズをしている青みがかった髪の少女がいた。というかμ'sの一員の少女だった。

 

 何か見てはいけないようなものを見てしまったのではないかと不思議ながらもそう感じた花陽は引き戸をいわゆるそっ閉じというやつをした。

 

 

「ど、どうしよう……」

「よう、どうした小泉」

 すると、階段から上がってきた拓哉が話しかけてきた。

 

「お、岡崎先輩……どうして……?」

「ああ、穂乃果がそういえばどっちの部屋かまでは教えてなかったから伝えてあげてきてって言われてな」

「そ、そうなんですか。でも、もう……」

 どっちの部屋も見てしまった。おそらくは今目の前にある部屋で合ってるのは間違いないとは思うが、見てはいけないもの見てしまったような気がして中々入れない。

 

「もう手前の部屋も見ちまったか?まあそこの部屋は穂乃果の妹の部屋だから気にする事じゃねえさ。それより分かってんなら何でその部屋に入らないんだよ?」

「そ、それは……」

 言おうか言わないか迷っていたら、閉めた引き戸の奥からダダダダダッ!と手前の部屋からも同じ音がし、何かが迫ってくるような音がしてダンッ!と勢いよく開かれたと思ったら、

 

 

 

「見ましたね……」

「見ましたね……って、た、たく兄……!?」

 

 

 修羅がいた。

 

 

「あ、あははは……」

 もう何をされても何を言われてもとにかく謝ろうと決めた矢先、花陽の肩に手が置かれた。紛れもなく拓哉の手だった。

 

 

 

「オーケー、どういう状況なのかは何となく分かった。ちょっと危ないから小泉は少し離れてろ」

 そう言うと拓哉は花陽を廊下の隅へ移動させ、照れと怒りが入り混じった雪穂と、上手く表情が見えない程謎のオーラを纏って修羅と化している海未の間へと何の躊躇もなく入って行った。

 

 

 そしてフッ……と、軽く自嘲気味に笑ったと思ったら、

 

 

「……さぁ、この先の展開は読めてる。殺るならもう一思いにやってくニーチェッッッ!?」

 海未の綺麗な蹴りに吹っ飛ばされ、

 

「たく兄の…………変態ッ!!」

「ボベバァッッッ!?」

 空中で飛ばされている所を雪穂の掌が拓哉の顔面に直撃して床にガンッ!と打ち付けられたのだった!

 

 

 

 

 

 

「お、岡崎先輩……」

 自分を守ってくれたのだと頭で理解は出来ていても、今の惨状を目の前にしては何も言えなかった花陽であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい……」

「ううんいいの!こっちこそごめんね?でも海未ちゃんがポーズの練習をしてたなんてね~」

「ほ、穂乃果が店番でいなくなるからです!」

「……ねえ、海未はその前に誰かに謝る事が先なんじゃないですかね」

 

 あれから店番を終わり騒ぎを聞きつけてやってきた穂乃果が来た事によって場は沈静化し、今は穂乃果、拓哉、海未、花陽でテーブルを囲っている。ちなみに拓哉は大ダメージを喰らったはずにも関わらず、特に手当てもせずに座っている。

 

 

「あ、あれは拓哉君が何も説明せずに黙って蹴られるのが悪いんです!」

「え、俺が悪いの?蹴られた挙句雪穂に顔面ビンタまでされたのに俺が悪い流れなの?というか小泉を間接的に守った俺は褒められる事はあっても責められる筋合いはないはずだ!」

「あ、あの……」

 

 花陽が2人の仲裁に入ろうとした瞬間、穂乃果の部屋の引き戸が開けられた。

 

 

「お邪魔しまーす!……ん?」

「あ、お、お邪魔してます……」

 μ's最後の1人である南ことりが入ってきた。花陽と目が合うと同時にことりは花陽に駆け寄り、

 

「え!もしかして本当にアイドルに!?」

 満面の笑みで問いかけてきた。しかしそれに答えたのは花陽ではなく穂乃果だった。

 

 

「たまたまお店に来たからご馳走しようかと思って……穂むら名物穂むらまんじゅう、略してほむまん!美味しいよ!」

「まあ、穂むらの和菓子は全部美味いんだがな、その中でもほむまんは1番のオススメでもある。俺の」

 穂乃果と拓哉が説明してくれて花陽もほむまんを食べようとするが、ことりが何かを取り出すのを見て動きが止まる。

 

「穂乃果ちゃん、パソコン持ってきたよ」

「ありがとぉ!肝心な時に限って壊れちゃうんだぁ。たくちゃんも直せないって言うしぃ」

「男が機械に強いっていうのは都市伝説だ。それに俺が修理したら直るより永遠に再起不能にするまである」

「それ機械に思いっきり弱いって事ですよね……」

 言いながらも各々がテーブルを片付けていく。花陽もそれに従うかのように自身の目の前に置かれているほむまんと煎餅などが入っている皿を両手で持ってどかせる。

 

「あ、ごめんねぇ」

「いえ」

 粗方片付くと、ことりはPCを開き、スリープ状態にしておいたPCを起動させた。

 

「それで、ありましたか?動画は」

「まだ確かめてないけど、多分ここに……」

 海未の問いにことりは答えながらも、慣れた手付きでどんどん操作していく。カチッカチッとマウスの音が続いてしばらくすると、

 

「あったぁ!」

「本当ですか!?」

「え、マジで?あんの?」

 三者三様の反応をしながら花陽以外の全員がことりの周囲に集まっていく。花陽も一応画面が見える位置にまで移動し、同じく画面を凝視する。

 

 

 すると、画面に映ったのは、紛れもないμ'sであるこの3人と、先日その場にいて聴いたばかりの曲が流れ始めた。

 

「おぉ~」

「誰が撮ってくれたんだろうね?たっくん?」

「いや、俺はカメラなんて持ってなかったの知ってるだろ?」

「それにしても、凄い再生数ですね」

「こんなに見てもらったんだ~!」

 

 再生数のところを見ると、これが中々の数で、初投稿の割にこれは上出来なくらいの再生数だった。生徒会長はこのままやっても何も変わらないと言っていた。しかし、この再生数を見ればみんな分かる。

 

 好調。そんな2文字が全員の頭の中に浮かんだ。これは慢心ではない。実際の再生数を見たからであって、虚勢を張っている訳でもない。もちろんこれで調子に乗る訳でもない。むしろ余計に頑張ろうと思える程に、彼女達のモチベーションはどんどんと上がっていった。

 

 

「あ、ここのところ、綺麗にいったよねぇ!」

「何度も練習してたとこだったから、決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃった!」

「俺から見ればお前ら全員綺麗に踊れてたと思うけどな。可愛さも相まって余計に綺麗だと感じさせるくらいに」

「た、拓哉君……」

「え、何?何で急に3人共変に黙るんだよ。やめろ、そこはたくちゃんに言われてもそんなに嬉しくなーいー!とか言ってネタに走るのが普通だろ―――って、小泉?」

 

 拓哉が何か言い訳をしていると、ふと花陽がずっと黙っていたのが目に入った。実は拓哉に可愛いと綺麗の2コンボを喰らって機関車のように頭から煙が出ていた3人も、拓哉の言葉が急に止まったのに反応して同じ方向を見た。

 

 

「……あ、ああごめん花陽ちゃんっ、そこじゃ見づらくない!?」

 慌てて取り繕うように穂乃果が花陽を気遣おうとするが、それを無視するような形で花陽は画面を集中して見ていた。器用に両手でほむまんと煎餅の入った皿をバランス1つ崩さず持ちながら。

 

 

 

 それを見ていた拓哉は数秒の間だけ思考に耽てから穂乃果達に目を合わし、4人でアイコンタクトをとる。

 そこから導き出された結論は、

 

 

「小泉さん!」

「……は、はい!す、すみません、つい集中しちゃって……」

 集中してしまったとはいえ、先輩を無視してしまっていた事を責められるかと思っていた花陽だったが、それは杞憂に終わる事となる。

 

 

 

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

「えぇ!?」

 誰でも分かるような、簡単な誘いだった。μ'sの張本人である人達に誘われたのだ。アイドルが大好きだからこそ、花陽はそれにはいと即答したかった。けれど、紡ごうとして、口が半開きのままで止まってしまう。

 

 もう一度自覚する。自分には才能がないから、好きだからこそ、細かいところまで知って分かっているからこそ、自分じゃスクールアイドルなんてものはできないという結論に至ってしまう。

 

 

 だから。

 

 

「……でも、私、向いてないですから……」

 やんわりと断りを入れる。自分の気持ちに嘘を吐き、言い聞かせ、蓋をする。こんな事をするのももう慣れた。いつだってそうだった。いつだって自分の気持ちに蓋をしてきた。正直な事は言わず繕って、嘘で塗り固められた言葉を言い放って、数々の欺瞞を繰り返してきた。

 

 そうした方が良いから、そうした方が誰にも迷惑をかけないから、親友にまでわがままを言って、わざわざ勧誘してくれた面々にまで嘘を吐いた。断ったから、もう誘われない。それが分かっていても一歩が踏み出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 だから。

 なのに。

 

 

 

 

 

 

「私だって、人前に出るのは苦手です。向いているとは思えません」

「……え?」

「ホント、海未のアレはどうにかならんかね。本番はどうにかなったから良かったものの、次にまた恥ずかしがりが出たらどうすんだよまったく……」

「拓哉君うるさいです」

「アッハイ」

 

 

 海未が自分の欠点を曝け出し、

 

 

「私も歌を忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだっ」

「んもぅ、そんなちょっとドジなことりも超可愛い天使。大丈夫、ことりの魅力は俺が1番分かってる」

「ありがとね、たっくん♪」

「拓哉君……?」

「アッハイ」

 

 

 ことりも苦手分野を素直に吐いて、

 

 

「私は凄いおっちょこちょいだよ!」

「だな」

「ちょっと!それだけ!?」

「アッハイ」

 

 

 穂乃果も素直に短所を言って、

 

 

「プロのアイドルなら私達はすぐに失格!でも、スクールアイドルならやりたいって気持ちを持って、自分達の目標を持ってやってみる事は出来る!」

「それがスクールアイドルだと思います」

「だから、やりたいって思ったらやってみようよ!」

 μ'sの張本人である彼女達の言葉があった。

 

「もっとも、練習は厳しいですが!」

「海未ちゃぁん、それを今言っちゃったら渋っちゃうよ……」

「あ、失礼……」

 自分には向いてない。それは彼女達も思っていた事だった。それでも尚、彼女達はあのライブをやり遂げた。やりたいという気持ちが強かったから。花陽と同じくらい、やりたいという気持ちが凄く強かったから。

 

 

 

「ま、そういう事だ」

「え……?」

 穂乃果達の言葉に心が揺さぶられ、またしてもやりたいという気持ちが出てきてしまって悩み始める花陽に、拓哉が声をかけた。

 

 

「お前がアイドルが大好きだって事はもう分かってる。でも穂乃果達がやっているのはアイドルじゃなくてスクールアイドルなんだ。重く考える必要なんてどこにもない。特別な理由なんていらないんだ。ただやりたい。動悸なんてそれだけでいいんだよ。だからさ、小泉花陽。やりたいって少しでも思うなら、自分の気持ちに嘘つく事なんてないんじゃないのか?」

 

 もう、拓哉は既に花陽の悩みを分かっていたのだろう。その上で、花陽がまだ相談しに来ないのを理解した上で、直接的に花陽を勧誘するのではなく、遠回しに言ってきている。

 

 

 

 

 そして、穂乃果とことりが口を開く。

 

 

「今はまだ言わなくてもいいよ。ゆっくり考えて、答えを聞かせてね!」

「私達はいつでも待ってるから!」

 

 

 

 

 まだ猶予はある。改めて考える時間をくれた。

 であれば、もう少し考えてみようと、花陽は笑顔で返す。

 

 

 

 

「はい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小泉」

「は、はい」

 

 母へのお土産として買ったほむまんを片手に持ちながら外に出ると、拓哉が声をかけてきた。

 

 

 

 

 

「『当初』に俺が言った事は取り消す。もう何も俺からは言う事はない。あとは小泉自身が決めるんだ。自分自身の素直な気持ちでな。……まあ、そんだけだ。じゃあまたな」

「岡崎先輩……」

 言うだけ言うと拓哉は中へと戻って行った。

 

 

 

『当初』というのは、おそらく花陽が拓哉と2回目に会った時に言われた相談しに来いと言った件だろう。

 あれを取り消すという事は、退路は断たれたと言ってもいい。しかし、それを花陽がどう捉えるかによって変わってくる。

 

 

 最後の切り札でもあると言える相談にのってくれる人がいなくなってしまったと捉えるのか。

 ここからはもう誰かに相談にせずに、自分で考えて答えを出すのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋に入ると同時に昔のアルバムを開く。

 ページを捲っていき、あるページで止まる。そこに映っていたのは、小さい体を精一杯全身を使ってアイドルっぽくしようと、オモチャのマイクを持ちながらにっこりと笑っている花陽の姿があった。

 

 

 

 そう、小さい頃も、そして高校生になった今でも、アイドルが大好きだった。

 さっきの2択での答えは自ずと出てきた。

 

 

 やりたくない訳がないのだ。ずっと大好きのままでいたから、憧れていたから、やりたいから、ここまで悩んできたのだ。

 μ'sの彼女達がわざわざ自分の短所を曝け出してまで自分の背中を押そうとしてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 だったら。

 

 

 

 

 小泉花陽の心には、確かな変化があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ある部屋の一室。

 

 

 

 

 

 星空凛は自分の部屋を真っ暗にしながら、姿見の前でスカートを履いていた。

 

 

 親友の花陽にスクールアイドルを一緒にやってくれと言われてからずっとそれが引っかかっていた。女の子っぽくないし、髪は短い、だから自分にはアイドルは似合わない。凛も花陽と一緒で、一種のコンプレックスがあった。

 

 女の子っぽくない自分にはスカートは似合わない。だからスクールアイドルなんて出来ない。そう無理矢理言い聞かせる。

 しかし、それでも星空凛は女の子なのだ。どんなに女の子っぽくなくても、髪が短くても、立派な女の子なのだ。だから可愛いものには目を引かれるし、憧れたりもする。もちろんアイドルにだって。

 

 

 

 

 不確かな気持ちのまま着替え始める凛には、まだ戸惑いの気持ちがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 そこもまた、ある一室だった。

 

 

 

 

 

 

 

 西木野真姫はPCの画面を見ていた。μ'sのライブ動画。真姫が作曲をして、提供した曲が歌われている動画。

 

 

 それを見て真姫はいまだに迷っていた。落とした生徒手帳をわざわざ家まで持って来てくれた花陽が言った言葉に。自分はスクールアイドルにならないのか、と。

 その時はあまり迷わずに断れた。そう、真姫は大学では医学部に通う事になっている。だから勉強に励まなくてはならない。故に、どれだけ音楽が好きでも、小さい頃にピアノで賞をいくつも取ってきたとしても、自分の音楽の道はもう終わっているのだと、そう無理矢理言い聞かせてきた。

 

 でも、あのμ'sのファーストライブを見て、真姫の中の何かが変わっていた。確実に心境の変化が訪れていた。やりたいという気持ちが出てきてしまっていた。軽いと思っていたアイドルの曲が、薄っぺらいと思っていた歌が、ただ遊んでいるだけと思っていた踊りが、その全てが真姫を魅了してしまっていたから。

 

 また出てきてしまった音楽への思いと、それに蓋をしなきゃいけないという気持ちが重なって、真姫は迷いながらそのまま突っ伏していった。

 

 

 

 葛藤が頭の中で暴れまわっている真姫には、迷いの気持ちがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 結局は3人共一緒だった。

 

 

 

 

 

 自分の素直な気持ちに蓋をして、出来ないのだと、似合わないのだと、やらないのだと、無理矢理言い聞かせてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ただ、それは言い聞かせているだけに違いはない。

 素直になれないだけ、本当はしたいのに嘘を付いているだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 であれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなものは、何か小さな1つのきっかけで気持ちごと変えてしまってやればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、同じ気持ちの者だからこそ出来る事でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、この話にヒーローなんて別に必要な物語でもないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




展開は出来るだけ早めにしていくつもりです。
新作も書きたいのでねw


いつも評価、お気に入り、ご感想をありがとうございます!
これからも評価お気に入りご感想をもっと貰えるように頑張っていきたいと思っております。
というか、ご感想が欲しい(直球)

やはり読者様のお声が聞けるってのはそれだけでとてつもない活力剤になるのです!
モチベーションもぐーんと上がりますしね!



いつ妹回書こうかな……。
イラストは出来てるんだけどな……。



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