ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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まだ……平和……!




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27.本番前

 

 

 さて、時が経つというのは早く感じる時もあり、遅く感じる時もある。

 

 

 

 

 その違いは人によって様々である。

 楽しい時は早く感じたり、つまらない時は遅く感じるように。そして学校へ通う大半の生徒は授業をつまらないと感じ、また時間が経つのも遅いと感じているのが多いだろう。

 

 しかし、俺はつまらない授業を聞いているはずだったのに、気付けばもう全ての授業が終わっていた。山田先生以外の授業は普通に黙々と聞いていたのにだ。おそらく、いや確実に海未に園田海未流特製正拳突きを貰ったからに違いない。

 

 ノートをしっかり書いていた訳ではない。逆に机に顔を突っ伏して呻きながら授業を聞く事しか出来なかった。話を聞くのでやっとなくらいのダメージ、泡出かけたし。あれ、よく考えたらこれって逆効果じゃね?

 

 ちなみに穂乃果はことりにめっ!だよ!って言われてた。海未さんや、何故穂乃果をことりに説教させたよ……。そこは穂乃果もアンタが説教しなきゃでしょ流れ的に。扱いの差がありすぎる。ことりにめっ!とか言われたらもう確実に次の授業も喜んでサボるに決まってるやん!

 

 

 

 そんななんやかんやがあって、俺達は今、俺達というか全校生徒が今講堂に集められ、理事長もとい陽菜さんの話を聞き、生徒会長の長ったらしい話を軽く聞き流している。いやホント長い。小学校の時の校長先生のくそ長いどうでもいい話を聞かされている気分。

 

 

 

 それにしても、相も変わらず、この学校は生徒が少ないのだと思い知らされる。この決して大きいとは言えない講堂に、すっぽりと収まってしまう人数。おそらく250人といないであろう生徒数。これをどうにかしようとして動いているのが俺達。どうなるかは正直分からない。

 

 

 

 

「これで、新入生歓迎会を終わります。各部活とも、体験入部を行っているので、興味があったらどんどん覗いてみてください」

 

 

 

 

 っと、生徒会長さんの話が終わったみたいだ。ホントの事を言うと少しウトウトしてたのは内緒だ。首がコクンッと動いてなかったかも分からないくらい暇だった。……あ、生徒会長と目が合った。目と目が逢うー瞬間好きだと気付いたーとかそういう歌があったような気もしないではないがそれはない。千早は好きだよ?くっ。

 

 ちょっとー?目が合うなり怪訝な表情しないでくんない?そこでそんな顔してたら周りにもバレるよ。生徒会長の目線の先にいる俺が怪しまれるよー。あれ、それって俺がヤバイじゃん……。

 

 ほらーもう隣の穂乃果が変な目で見てくるじゃんー。とりあえず何でもないという意味を込めて手をシッシッとパタつかせておいた。去っていく生徒会長を尻目に、今度は副会長である東條と目が合った。目と目が逢うー瞬間好きだと気付いたーとかもう二度目だけどこれはある。大好き!あの豊満なお胸様で僕を抱きしめて!

 

 

 ……ゲフンゲフン、やはりたった1人の男子生徒というのは女の子の集団にいたら分かりやすいらしい。あれだ、たくさんの良い匂いの花がある中に、たった1つだけアンモニア臭が半端ないラフレシアがあると思えば分かりやすいかもしれない。…分かりにくいか。

 

 他の生徒が司会の生徒の声に気を取られている中、東條は本当に軽く小さく、俺に手を振っていた。どことなく恥ずかしいが、何もしないのも悪いのでこちらも軽く目を逸らす。…いやダメじゃん。なのに東條は小さく微笑んでから舞台から去って行った。

 

 

「あでっ」

「……たくちゃん、挙動不審すぎ……」

 挙動不審なだけでつねられるとか理不尽すぎやしませんかね?いや俺も何となく自覚はあったけども。つうか他の生徒は逆方向見てんのに何でお前は俺の行動に気付いてんの?もしかしてこっち見てたの?監視してたの?

 

 

 俺が穂乃果を少し恨めし気に睨んでいるのとは無情に、生徒達は話も終わった事もあり次第にバラけていった。それに便乗するように俺の視線から逃げるためかは分からないが、穂乃果もサッと立ち上がる。

 

 

「さぁ、それじゃ私達も行こう!」

 こいつ絶対俺の視線から逃げようとしたわ。だって少し口が引きつってるもん。こらそこ、女の子の口を見るとか変態かよとか言わない。全国の男子共通の意志でしょうが。変態紳士舐めんな。

 

 

 俺の挙動に気付いてなかった海未とことりは何事もないかのように穂乃果に着いて行った。ずっと座ってる訳にもいかないので俺も渋々穂乃果達の後を着いて行く事にした。そうしないといけないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一旦教室に戻り、諸々の準備を終えまた外に出てみると、この学校での結構な人数の生徒がいた。

 

 

「やっぱりどこの部活もみんな必死だね」

「そりゃそうだろ。ただでさえ少ない人数で部活を継続させるために部員募集をしなくちゃならないんだからな」

 

 中庭にもチラシ配りなど声をかけるなどして部員募集に励む生徒がたくさんいた。本当に、どこの部活も必死なのだ。新入生が少ないぶん、入部してくる生徒も少なくなる。それが他の部活に取られでもしたら余計に入部希望者が減ってくる。

 

 全部活員が考えているのはたった1つ、少しでも多くの新入生を勧誘し、自分の部活へ興味を生み出させ、入部させる事だ。しかも元々部員の少ない部活は部員の多いであろう運動部員よりも血気盛んに熱を帯びながら勧誘しようとするだろう。

 

 

 

 そして、今の俺達と他の部活の決定的な違い。

 それは、部活と部活じゃないかである。

 

 

 部活であれば、それなりに興味を持ってくれれば体験入部という形で部活の実態を見せられるが、生憎、俺達は部活でもなければ同好会ですらない。ライブに来てくれる生徒も少なくなってしまうかもしれない。

 

 

 だから今、こうしてチラシを持って中庭に馳せ参じたのである。少しでも来てくれる生徒が多くなるように。……というか今回はさすがに俺もチラシ配りを手伝う事にした。この学校で唯一の男子がいる活動って何をしてるんだろう~?きゃぴぃ~!とか騒いでる女子が興味本位で来るかもしれないからだ。やだ、俺ってば女の子に偏見持ちすぎ!

 

 

 

 にしても、

 

 

 

「やっぱり抵抗あるな……」

「もう、今更そんな事言ってらんないでしょたくちゃん!」

「いや、分かってはいるつもりなんだが……」

 ホントに大丈夫かこれ。チラシ持って話しかけたら引かれて何かの怪しい勧誘だとかと思われないか?拓哉さん不安でいっぱいだよ。さすがに当日ともなれば俺も何かしら手伝わないといけないと思っていた。だから理解はしている。

 

 

 

 けれど、

 

 

 

「おい、何で男子がいないんだ」

「何で今になって男子がいると思ったの……」

 そこはいろよ!肩身狭いと改めて実感したよ!ことりは既にチラシ配り始めてるし。うーん……どうしたものか。……あ、穂乃果もとうとう俺を置いて配り始めた。放置プレイはあんまり好きじゃないんだぞ☆

 

 

 

「お願いしまーす!」

「はぁ……お願いしまーす」

 渋々、本当に渋々穂乃果の後に着いてチラシ配りを始める。少しでも穂乃果の近くにいれば警戒も和らぐと思ったからだ。これで俺も近づきやすい雰囲気が出ていれば1年の女子も来てくれる……と思う。

 

 

 

「このあと、午後4時から初ライブやりまーす!」

「是非来てくださーい!」

「μ'sの初ライブが見られるのは今日だけっすよー。ホントマジお得っすよー」

 穂乃果もことりも、俺も極力元気で声を張り上げているが、

 

 

「吹奏楽部への入部希望の方、こちらに集まってくださーい」

 俺達の後方にいる吹奏楽部への希望者が多くなっている。おそらく高校に入った時から入ろうと決めていたのだろう。中学で何か部活をやっていれば、高校でも同じ部活を継続しようと思う生徒は少なくない。

 

 それは重々承知なのだが、そのせいで俺達のチラシが減る確率がどんどん低くなっていく。最初から入る部活決めてるんならそれは後にして講堂に来てライブ見てくんないかなぁ。

 吹奏楽部を尻目に見ていた俺と同じく、穂乃果も一緒に見ていたようで、一層に熱心にチラシを配ろうとするが、

 

 

「ねえねえどこの部活にする?」

「演劇部とかどう?」

「いいね演劇部ー!」

 

 穂乃果の張り上げる声は空しくも、会話に花を広げる新入生の声によって憚られた。演劇部に行ってどうすんだよ。本当に演劇すんのか?たまに演技するだけで雑談の方が多かったりするんじゃねえの?とかいう文芸部の偏見を思いっきり醸し出す。

 

 でも桜並木の坂道で急に「この学校は好きですか?」とか言われるともう即演劇部に入っちゃう。そこから青春を思いっきり謳歌しながら幸せな人生を送るまである。CLANNADは人生。まじで見たら泣けるから。一緒に渚って叫んじゃう特典まで付いてくる。

 

 

 

「うぅ~……他の部活に負けてられないよぉ」

「うんっ」

「と言っても、部活ですらない俺達がチラシ配りをしても生徒を集められるかどうかってのがな」

 今行われているのは紛れもなく体験入部や部員募集の誘いだ。それぞれがみんな、“部活”という括りを頭に執着させていて、部活でないものへの興味をまったく出していない。正直に言えばマズイ。何がマズイってご飯にシロップかけながら食べるくらいマズイ。……分からん。

 

 

 

 

「よろしくお願いしまーす!午後4時からです!」

 俺達が唸っていると、後方から威勢のある声が響いてきた。見ると、あの恥ずかしがりの海未が笑顔で配っているではないか。あれって本物?クローンじゃないよね?SEED覚醒とかしないよね?

 

 

 でも、珍しくあんなに笑顔でチラシを配る海未を見てしまっては、俺達もくじけている場合ではないな。当日という事もあってかどうかは分からないが、海未もちゃんと覚悟が出来たという事なのだろうか。

 

 

「海未が頑張ってんだ。俺達も声張って見てもらえるようにするぞ」

「うん!」「分かった!」

 そうだ。もう今日が当日なんだ。俺もダラダラした声で躊躇っている場合ではない。他の部活が注目されているなら、それよりももっと注目してもらうために声を張り上げなければならない。

 

 

 

 俺は今の場所から離れずに、穂乃果とことりは講堂近くに移動して別れてチラシを配る事にした。人が通りそうなとこを押さえて少しでも多くの客を確保しなければならない。

 穂乃果とことりが離れたのを確認してから、深呼吸をひとつ。

 そして、

 

 

 

「うし、やるか……!μ'sファーストライブ、お願いしま―――、」

「よう、気合入ってるねー!」

 せっかく人が精一杯声を出そうとしてんのに邪魔しやがる輩はどこのどいつだぁ!!と思ったら、いつものヒフミトリオがいた。なんかとても良い笑顔ですねあなた達。

 

「あらあらごめんねぇ拓哉君~!今頑張って大きい声出してたのにね~!」

「……茶化しに来たんなら帰りな。お前らに付き合ってる程拓哉さんは暇じゃありませんことよ!」

 何、俺の事笑いに来たのこの子達。そんなに俺の事好きなのかしょうがないなぁもう!今なら本気のデコピンをプレゼントしちゃうぞっ☆

 

 

「冗談だってぇ!」

 

 

 割と本気で無視しようかと考えてると、ヒデコを筆頭に3人が俺の目の前に並び、俺の手からチラシをぶん取ってきた。

 ヒデコがミカにチラシを渡し終えると、ゆっくりと俺の方に顔を向け、

 

 

「今日がライブでしょ?だからさ、前にも言った通り、手伝いに来たよ」

 

 

 先程のような良い笑顔で、それでもその表情は、真剣そのものだった。

 ……ははっ、有言実行ってか。

 

 

「……すまん」

「言ったでしょ。私達もこの学校を守りたい。だから手伝うって事くらい何でもないよ。それに、」

 3人は、お互いを見合って、俺には分からないようなアイコンタクトで意思の疎通でもしたのか分からないが、俺を見る顔は少し困り顔でもあった。

 

 

「今のはすまんって謝るんじゃなくて、ありがとう、だよ!」

 

 

 ……まったく、ホントに……こいつらってやつは……、

 

 

「……ああ、ありがとな」

 直接言うのは恥ずかしいし怒られるかもしれないから言わないが、そこいらの男よりもよっぽどカッコイイじゃねえか……。こいつらが男で俺が女だったら惚れてたと思う。そんでカッコよく振られるとこまで想像できる。…結局ダメじゃねえか。……よし、大丈夫、いつもの俺の調子だ。

 

「そうと決まれば穂乃果達の所にも行こう。あいつらも簡単なリハだけでもしておきたいはずだ」

「分かってるよー!仕切りたがりか!!」

 ほんとツッコミ俺にも引けを取らないなヒデコは。やはりこいつ、できる……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝ってくれるのー!?」

「リハーサルとかしたいでしょ?」

「私達も学校無くなるの嫌だし!」

「穂乃果達には、うまくいってほしいって思ってるから!」

 現在、俺とヒフミトリオと穂乃果は講堂の中にいた。

 

 本番まであともう少しだから講堂の中は誰1人ともおらず、完全に使用する俺達のための準備時間となっている。ことりには既に控室に衣装を持って行ってもらっている。海未はことりが衣装を持ってき次第着替えるために控室で待機させている。

 だから穂乃果に説明するのは最後になった。発起人として、ちゃんと説明しておかなければならないからだ。

 

 

「まあそういう事だ。だから穂乃果は控室に行って海未と一緒にことりが衣装を持ってきたらもう着替えていてくれ」

「うん、分かった!ありがとね!」

 元気にお礼だけ言うと、穂乃果は控室の方へ消えて行った。

 よし、ここからは手伝い組である俺達の出番だ。

 

 

 

「じゃあ、俺達も準備しよう」

「オーケー、ミカはそのまま外でチラシ配りをお願いね」

「分かった!」

「フミコはステージに立ってポジショニングをしてちょうだい!」

「うん!」

「それと拓哉君は……って、拓哉君?」

「…お、あ、悪い……」

 

 あまりにも驚いて少しの間思考が飛んでいた。いかんいかん!……でも、ねぇ……?

 

 

「どうしたの?」

「いや……なんかお前が一気にすげえカッコよく見えたから……」

 いやホント、的確に指示を出しているヒデコを見て驚いた。それに瞬時に対応できるフミコもミカも凄いけど。思わず直接カッコイイと言ってしまった。司令塔向いてるんじゃないこの子。

 

 

「なぁに言ってんの!女の子にカッコイイとか言って喜ぶとでも思ってんの?」

「そりゃそうだよな、すまん」

 さすがに女の子にカッコイイは失礼か。俺もそこいらの節度は弁えている。たった今弁えてなかったけど。カッコ可愛いとでも言えばいいのだろうか。

 

「まぁいいけど。拓哉君にはお手伝いとして音響とかを覚えてもらうからとりあえず私と一緒に来てね」

「お、おう……」

 え、何、こいつ音響出来んの?思ってたより有能すぎるんだけど。まさかのハイテクかよ。まあこちらとしても音響などのシステムを覚えられるのはデカいのでありがたく着いて行かさせてもらいます。

 

 

 

 

 

 

「いい?点けるよー!」

「はーい!」

 フミコの合図でヒデコがスポットライトを点ける。なるほど、その、えと、なんだ、なんか小さいレバーのようなやつを上に上げれば明るさを調節したり出来るんだな。なんか他にも色々スイッチやら何やらがいっぱいでよく分からん。拓哉さんパンクしそうです。

 

「分かった?これでライトを点ける。これで明るさ調整。これを押せばあっちのライトが点いて、これを押せばそっちのライトが点くの。曲とかはこれで音量調整とかしたりして……って、大丈夫?」

「オーケー大丈夫。これであれがそれだから何がどうしてああなってこうなってそうなるんだろ」

「うん、分かってないねこりゃ」

 だって複雑すぎるんだもーん!!そんな一気に覚えらんないよーきゃぴー☆……いやマジでホント複雑。どんだけ複雑かって言うと、人と人との関係くらい複雑。複雑すぎて間違えたら一生関係が戻らないくらいめんどくさい。…どんだけめんどくさいんだよ人間。

 

 

「まあ最初だしね。教えるからこれからゆっくり覚えてけばいいよ」

「……そうする。すま―――、ありがとな」

「うん!よろしい!」

 少し気恥ずかしくなって顔を逸らす。ってダメダメ。覚えるんだからちゃんと見てなきゃダメでしょうがっ(金八風)。

 確か人という字は文字で出来てるだっけか。……そのまんまじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備おっけーい!」

「はーい!」

 大体の調整が終わり、フミコがステージから降りるのを確認し、俺はミカのチラシ配りを手伝いに行こうとした時、

 

 

「拓哉君、ミカの手伝いはいいから、今は穂乃果達のとこに行ってやりなよ」

 ……何で俺の行動が筒抜けになってんの?後ろに目でも付いてるんですかあなたは。

 

「いや、俺が出来るのは今この時の手伝いがメインな訳だし、穂乃果達なら心配はいら―――、」

「そういう役割の話はこの際今はいいの!せっかくファーストライブの前なんだしさ、せめて何か一言でも言ってきてあげてよ。あとは私達でやっておくから」

 そう言ってヒデコは俺から視線を外しデスクの方に体を戻した。もうこれ以上俺の話を聞くつもりはないという表しなのだろう。ったく、ホント粋な事しやがるなこいつは。

 

 

 なら、

 

 

「……ありがとな」

 そのお言葉に甘えるとしよう。

 

 

 放送室を出る際に、

 

「絶対戻ってきたらダメだからね」

 と言われた気がした。台所は女の居場所だから男は入ってくるな!って言う女性かよ。ろくにお茶も飲めないそんな世の中じゃ……ポイズンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、控室にまでやってきたものの、何か入りずらいな……。

 

 

 中から声はするけど、果たしてもう着替えているのかどうかすら怪しい。

 

 

「いやぁぁぁあああ~!!」

 ドアの向こうで海未の悲鳴が聞こえるが、会話を聞くにスカートの下にジャージでも履いていたのだろう。それを穂乃果かことりに、いや、ことりはそんな事はしないはずだから穂乃果に無理矢理脱がされたとかそんなオチに違いない。

 

 ていうか、このまま俺がここに突っ立ってたら女の子のいる部屋の中の会話を盗み聞きしている変態に間違われるかもしれない。まぁ今は俺達以外はこの辺りにはいないのだが、気持ち的な問題でだ。

 そうと分かれば突撃しよう。何もこのまま部屋に入ってラッキースケベしてしまうようなリトさんや上条さんとは違うのですよ。ちゃんとノックをする。これ基本ね。

 

 

 

 軽くトントンッ、とドアをノックしてから声をかける。

 

 

 

「俺だ。もう着替えは済んだか?」

「あ、たくちゃんだ。もう入っていいよー!」

 穂乃果の返事をちゃんと待ってからドアを開ける。途中、え、拓哉君が!?だ、ダメです!とか聞こえたがもう気にしない。返事を聞き終えてから開けてるのだ。俺は間違っちゃいない。というかもう遅い。

 

 

「おう、ちゃんと着替えたようだ……な……」

 部屋に入って穂乃果達を見て思わず言葉と動きが止まる。

 

 

「へっへーん!どう、たくちゃん!私似合ってるかな?」

 穂乃果の言葉を聞いてハッとすぐに意識を切り替える。これは……少し予想以上だったな。

 

「あ、ああ、その、想像以上に、似合ってる、と思うぞ……」

「……そ、そうでしょー!やっぱりことりちゃんの作った衣装は凄いや!」

 俺の顔も相当赤いと思うが、聞いてきた本人の穂乃果も相当赤くなっていた。何とかデカい声出して誤魔化そうとしてるけど普通にバレてますよ穂乃果さん。照れるんなら最初から聞いてくるなよ……。

 

「たっくん、私は、どうかな……?」

「何を着てもことりは似合うな。まさに天使だ。いやもはや大天使ミナミエルまである」

「言い過ぎだよたっくん~……」

「おかしいよね?明らかに私より反応はっきりしてるよね!?」

 ちょっと黙らっしゃい穂乃果さん。君はミナミエルを前にして何を喚いているのですか。ほれ、早く跪きなさい。いつも100点のことりが衣装を着る事によって12000点になる現象を何と名付けようか。よし、コトリンスキーと名付けよう。

 

 

 

「それと、あとは海未ちゃんなんだけどぉ……」

「あ、そうだ!たくちゃんたくちゃん!海未ちゃんも似合ってるよね!?」

「ひゃあっ!?」

 素晴らしいネーミングセンスだと自画自賛していると、ふと可愛い悲鳴が聞こえたからその方向へ顔を向けると、

 

 

「…………………」

「は、恥ずかしい……です……っ」

 これは……結構……中々にくるものがありますね……。いや、別にいやらしい事とかは考えてないが、顔を赤らめながら必死にスカートを押さえて俯いてる海未は、ヤバイ。普段が真面目な故のギャップが凄い。ギャップ萌え、恐るべし。

 

 

 

「せめて、な、何か言ってください……」

「え、あ、まあ、その、何?すげえ似合ってる……ぞ……」

 おかしい、何故感想を言う俺の方が恥ずかしくなってんだよ。ウミルスが完全に感染しちゃってるよこれ。T―ウイルスより感染力強いぞこれ。

 

「ほらね!言ったでしょ海未ちゃん!」

「海未ちゃん、可愛いよ!」

「……え?」

 正直に言って驚いた。普段のこいつらは幼馴染というのを差し引いても十二分に可愛いと断言できるレベルだった。それが衣装を一つ着るだけでこんなにも化けるものなのかと。これはもはや馬子にも衣裳ではなく、美少女に更に神器と言っても過言ではない。ドレスブレイクは出来なさそう。

 

 

「ほらほら!海未ちゃん、1番似合ってるんじゃない?」

「え、ええ……?」

 穂乃果が海未を姿見まで引っ張ってそう言った。自分の全体像を確認しながらの海未はやはり顔が赤い。恥ずかしがり屋のアイドルか、悪くないな。

 

「どう?こうして並んで立っちゃえば、恥ずかしくないでしょ?」

 穂乃果をセンターに、3人は俺の前に立つ。うん、衣装を着て並んでいるのを見ると、素直にアイドルだなって思う。

 

「……はい。確かにこうしていれば……」

 海未も1人ではなく、3人で並べば恥ずかしさも軽減されるようだ。穂乃果はやっぱり誰かを引っ張っていくのが得意なようだ。それは良い意味でもあり悪い意味でもあるが、不思議と不快感を与えない、穂乃果のカリスマ性がよく表れている。見えない景色を、自分だけじゃ見えなかった景色を、見せてくれる。

 

 

「じゃあ、最後にもう一度だけ練習しよう!」

「そうだね!」

 そう言って穂乃果とことりは駆けて行った。海未はもう一度姿見を見てやっぱり恥ずかしいです……と呟いていた。1人ではこうなってしまうのが不安な要素だな。

 

 

 

「大丈夫だよ、海未」

「え……?」

 本番では俺には何も出来ないから、本番前である今しか言ってやる事ができない。こんなのはただの気休めだという事も知っている、分かっている。それでも、そんな俺の言葉でも、海未が少しくらい安心してくれるかもしれないという根拠のない予感を持ちながら、言ってやる。

 

 

「さっきも穂乃果が言ってた通り、3人で並べばどうという事はない。それに、恥ずかしさってのは一種の自信の無さからくるものがある。でも、その衣装はお前に十分に似合ってる。もっと自信を持っていいんだよ。誰がどう言おうが俺が保障してやる。お前は、その、め、めちゃくちゃ可愛いんだ。だ、だから堂々としてればいいんだよ、海未」

 こう偉そうに言っておきながら情けないが、途中から照れ臭くなってしまった。だから顔を逸らしながら海未の頭に手を置いてやる。手を置いて分かった。海未の体が少しばかり震えていたのだ。でもみるみる内にその震えは止まっていった。

 

 

 

「ふふっ、ありがとうございます、拓哉君。おかげで少し楽になりましたっ」

「……そうか」

 さっきまでなかった海未の笑顔がそこにはあった。もう心配ないだろうと思い手を離す。途中、あっ……となんか聞こえたが俺の幻聴かもしれない。過度な期待はしないでください。いやしません。みなみけ5期はよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ開始まで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと15分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、また拓哉が主人公の新作を少し考えてるのですが、どうもこれが拓哉と穂乃果達のバトル物になりそうな予感です。
ジャンルにするなら洗脳ヤンデレバトル的な。
それを投稿するにも、早くこの本編で全員揃えないと……。


近々軽くあらすじだけあとがきで書いてみようかな。

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