ミニ色紙、先週は穂乃果と海未、今週はかよちんと凛ちゃんでした。
今現在で6回観てます。
まだ前売り券が2枚ある。だが、それでは終わらない……!舞台挨拶さえ当たれば……!
何回観ても涙が流れてしまって友達に笑われるレベル。感動で泣いてもいいじゃない!
あ、一応ネタバレ注意で活動報告の方に映画の感想書きました。(1回書き終わったのに全部消してしまってもうやけくそに書いたとは言えない…)
俺達は今、夜道を歩いていた。
「また明日ねー!」
軽く手を振り、家へと入っていく穂乃果を見届ける。
「じゃあ行くか」
「え、でも拓哉君の家はもうすぐそこじゃ……」
俺の言葉の意味を理解出来なかったのか、海未が戸惑いながら声をかけてきた。
「何呆けた事言ってんだ。さすがにこの時間帯に女の子を1人で帰す訳にもいかんだろ」
澄んだ夜空を見れば分かるとおり、既に辺り一帯は暗くなっている。これで1人で帰したら男として廃る。というかそれを母さんと唯にバレたら家に入れてくれなくなるかもしれない。
「そっか。じゃあ行こ、たっくん♪」
お、ことりは理解が早くて助かる。さすがはマイラブリーエンジェルである。
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
海未も理解したのか、目を細めて微笑みかけてくる。ちょっとドキッとしちゃうからやめようね。
「穂乃果ちゃんなしで3人で帰るのって、初めてだよねぇ」
静かな夜道を歩きながら、ふとことりがそんな呟きを声に出した。
「言われてみればそうだな」
「いつも穂乃果と別れてから、拓哉君ともすぐに別れますからね」
確かに俺の家は穂乃果の家から5分足らずで着く。だから海未とことりと、夜に3人だけで歩くなんて事は今までになかった事だった。
「ふふ、何か新鮮な感じがするねっ」
「拓哉君がいるだけで、いつもと違う感じがしますね」
まだ少し肌寒い春の夜、ポケットに手を突っ込んだまま進みながら、ことりと海未の視線が俺に集中した。これは明らかに俺のコメント待ちだろう。ふむ、下手な事は言えないな……。
「そうだな。いつもバカうるさい穂乃果がいないせいで、俺もリラックスできるわ」
「そういう意味ではないのですが……」
あるぇー?選択肢間違えた?これってセーブポイントまで戻れますかねー?……そもそもセーブしてないしそんな機能ないから詰んでました。人生って儚いな……。
「もういいです……行きましょう」
「お、おう」
「たっくんが帰って来てからこの3人でゆっくり話す機会がなかったし、いつも穂乃果ちゃんがいたからたっくん穂乃果ちゃんの相手ばかりしてたでしょ?」
「え、そうだっけ?そんな事ないと思うけど……」
俺が転校してきてから最初の頃に、穂乃果が寝坊して3人で登校した事もあったはずだけど……。その時あんまり喋ってなかったっけか。ふむ、最近スクールアイドルの事で頭がいっぱいだから思い出せんな。
「たっくんは無意識で穂乃果ちゃんの相手してるもん。ホントは私達もたっくんといっぱいお話したいんだよ……?」
なん……だと……!?俺ってば無意識に穂乃果の相手をしてしまっているのか。……まぁ、あいつは昔から何しでかすか分からない分ほっとけないんだよなぁ。というかことりさん?上目遣い可愛すぎるからやめようか。セリフも相まって拓哉さんに効果抜群になってるから。もはや4倍ダメージまでいってるから。
「ん?私達って……まさか海未もそう思ってんのか?」
「うん、海未ちゃんもきっとそう思ってるよ。ね、海未ちゃん♪」
ことりと一緒に、4歩前くらいに歩いている海未の方を見ると、
「わ、私をことりと一緒にしないでください……!」
完全とまではいかないが、横顔が見えるくらいまで振り向いて訴える海未。海未さん海未さん、横顔からでもハッキリ分かるくらいお顔が真っ赤ですよ!言葉では否定してても恥ずかしがり屋さんのお顔は正直らしい。
その赤い顔が答えを出しているのは分かる。海未が口に出さないせいで顔に出ているのは分かる。でも口で言われるより黙ってそんな赤い顔された方がこっちは恥ずかしいんだよな……。俺までちょっと恥ずかしくなっちゃうだろうがやめろ。
あれ、おかしいな。まだ少し寒い時期のはずなのに暑いぞ。うん、あれだ。これは歩いている事による有酸素運動のせいだ。きっとそうに違いない。いやぁ有酸素運動って最高だなオイ!
「……ま、これからは俺もずっとこの町にいるつもりだし、いくらでも会って喋れるだろ……」
顔が赤くなってるのが自分でも分かってしまうのが腹立たしいな。
「そ、そうだね」
「え、えぇ……」
おい、話を振ってきたお前らが赤くなるなよ。何自爆してんの?マルマインなの?俺まで余計赤くなるからやめろよ!
「い、今ならもう、会いたいって思った時に休日でも会えるもんね!」
ことりがこの雰囲気を吹っ飛ばそうと若干赤くなりながらも俺達に語り掛けてきた。
「そうだな。と言っても平日以外の休日は俺は外に出ないけど」
「ええ!?何でそんなこと言うのたっくん!」
「だってよく考えてみろよ。休日だぞ。休日なんだぞ。家から出ないのが普通だろ」
「考えてもよく分からない事しか言ってないんですが……」
何をそんな呆れた視線を送ってくるんだ海未は。ことりも苦笑いしてるし。しょうがない、ここは安心安全優しい拓哉さんが説明してあげましょう。…安心安全って何。
「何も分かってないな君達。いいか、よーくわたくしめの話を聞くように!……俺達学生は基本的に月曜から金曜、この5日間毎日学校に行っている。そこで堅っ苦しい授業を拷問のように聞いて頭を使わなければならない。体育に至っては汗かいて体力消耗までする始末。頭と体を動かして溜まった疲労は一体どうすればいいのか。それこそが土曜日と日曜日にある休日なのだよ!!この2日間をしっかりと休む事で5日間溜まった疲労を根こそぎ削ぎ落とす。つまり、休む日と書いて休日!わざわざ休日に外に遊びに出るのは愚の骨頂!行けカラオケだ行けショッピングだ行け友達とワイワイだなんてする奴らは休日の意味をこれっぽっちも分かってない愚かな愚民と言ってもいいねぇ!その点俺は休日をマンガを読んだりアニメを見たり寝たりと休日をこれでもかと体を休めて満喫している。逆説的に考えると、家を出ないでちゃんと休んでいる俺は休日の意味をしっかり理解している。家を出ない俺こそが正義。まさに休日マスターだ。分かったかね?」
俺が胸を張ってドヤ顔していると、海未が溜息を吐いて額に手を当てていた。
「はぁ……長ったらしい語りが始まって何を言うかと思えば、くだらないですね……」
な、ん……!?俺の長い語りをくだらないのたった一言で流された、だと!?
「なんか、もっともらしい事言ってるけど、結果的に言っちゃえば、お怠けさんだもんね……」
ことりが言いにくそうに苦笑いで返してきた。その苦笑いが今の俺にとって傷口に塩だった。染みるるるるるるるるる!!
「いや、ちょ、俺の言う事も合ってるっちゃ合ってるだろ!?寧ろ俺1番合ってる。休日に休んで何が悪いんだ!」
「拓哉君の言う事も一理あります。けれど、休日の過ごし方は人それぞれ。個人によって過ごし方等は何億通りもあるのです。拓哉君の言い分もその何億通りの一つに入るでしょう。しかし!!」
……ん?なんか雲行きが怪しくなってきたような……(雰囲気的な意味で)
「拓哉君は一つ言ってはいけない事を言ってしまいました。それは、他の人の休日の過ごし方を否定、罵倒した事です!……別に自分の過ごし方を主張するだけならば私は何も言いません。ですが、拓哉君の言った罵倒は、休日に衣装を作っていることりに対しても、休日も稽古をしている私にも言っていると同義なのです!」
「あ、や、それは、その、ですね……?ついテンションが上がっちゃって、言葉の綾?と言いますか……」
海未さんが怒っておられる……。つうか怒るポイントそこなのか。否定はしないけどさ。怖い怖い、また海未神様になってるよ。助けを要求するためにことりを見ると、
プイッ!
少し頬を膨らませながら顔を逸らされた。
あんっ、ことりは可愛いなもう。……いやいやそうじゃくて!え、マジ?ことりも助けてくんないの?
「いいですか拓哉君!拓哉君は今自分以外を敵にしていると一緒なのですよ!」
「いや、それはいくらなんでも考え過ぎじゃ……」
「拓哉君にそんな事を言われる筋合いもありませんし、拓哉君がそんな事誰かに言う資格もありませんよね……?それでもまだ言うというのなら、それだけ拓哉君が偉い立場にならないとですね……?ならば偉い立場になるには、休日にゴロゴロしている暇もありませんね。1日中勉強して、それを何十年も続けてそれはもう偉い政治家になってから言わないとですね……」
「どうもすいませんでしたごめんなさいこの通りです許してください生まれてきてごめんなさい」
自分でもびっくりの瞬足土下座が炸裂した。
いやだって怖いんだもん!あんなに詰め寄られて暗示のように囁かれたら誰だって涙目になるよ。……いや、俺は別に泣いてないけどね?ホントダヨ?
「分かればいいんです」
見上げれば、何故かドヤ顔してる海未がいた。俺を論破させてそんなに嬉しいのですかいあなた。つうか土下座してる俺のすぐ目の前に海未がいるこの状況って……。
「あ、ああ……その件は俺が悪かった。すまん」
「え?ええ……何かやけに素直に謝りましたね」
即座に立った俺に海未がポカンとしている。いやぁ、もうすぐで見えそうだったんで咄嗟に切り替えさせていただいたからね。思考も切り替えられる訳ですよ。
それにしても、
「なぁ海未」
「何でしょう?」
「お前さ、ことりにスカートは膝下じゃないと履かないって言ってたよな?」
「ええ、そうですけど」
「そうは言ってるけどさ、制服状態のお前のスカートも十分短いと思うのは気のせいか?」
「え……」
俺に言われてギョッとしながらも恐る恐る自分のスカートへと視線を落としていく。するとみるみる肩が震えだした。え、どしたん?
「拓哉君……まさかとは思いますが……見ましたか……?」
「え、いやいや見てない見てない。確かに見えそうではあったけど!何か惜しいなと後から思ったけども見てないからね!だからその拳を引っ込めようか!?」
「海未ちゃん、たっくんも見てないって言ってるし、ここは信じてあげよ?」
「……嘘ではなさそうですし、ことりがそう言うようなら」
え、ことりが何も言わなかったら俺殴られてたって事?うわっ、俺の信頼度低すぎ……!
せっかく送ってやってんのに結構酷い扱いされてる俺マジかわいそう。ことりもたまに腹的な意味で黒くなるし、俺に救いの手を差し伸べてくれる人はいないのか?東條もよさそうだけど逆にいじってきそうだしなぁ、うん、やっぱり唯だわ。持つべきものは妹だわ。唯がいれば結婚出来なくてもいいまである。
でもやっぱり結婚したい。唯と出来ないのが辛すぎる!あれか、もうあれなのか。艦これ始めるしかないのか。ケッコンカッコカリってやつをするしかないのか。全然名前とか分からないんだけど。宇宙戦艦ヤマトなら知ってるのに。
「それと、これは制服で、学校のみなさんも普通に履いてるので気にならないだけです。衣装の方は…その…普段そういうのを見ない分、色んな人に見られると思うと、恥ずかしいと思ったのが原因です……」
「お、おう。そういう事だったのか」
考えてみれば確かにそうだ。元は女子高の音ノ木坂。それに学校なら当然制服を着るし、女子ばかりなら多少スカートが短くても気にしないで済むのだろう。でも衣装ともなれば話は変わってくる。物珍しいものを見ると人は好奇心が芽生え、注目する。海未はそれが嫌で拒否していたのだ。
「でもまぁ、今は大丈夫なんだろ?」
「まだ大丈夫ではないですけど……ことり達が一緒にいてくれますし……その、拓哉君も、見たいと言ってくれたので……」
急に立ち止まって振り向きざまに上目遣いをしてきた。だからそういうセリフ言いながら上目遣いすんなっての……。ちくしょう、幼馴染じゃなかったら完璧に惚れてたわ。海未のこれはただの照れ隠しなので男子は勘違いしないように気を付けよう!
「……ほら、立ち止まってないで、行くぞ」
「え、ええ」
「ねえたっくん」
再び歩き出した直後だった。
「何だ?ことり」
「休日とかでも、今度、たっくんの家に行ってもいいかな……?」
「ああ、唯もことりが遊んでくれるなら喜ぶだろうし別にいいぞー」
「んもぅ、そっちじゃないよぉ!」
え、何、どっち?道間違えてないよね?あってるよね。
ことりを見ると両頬をプクーッと膨らませていた。はいはい可愛い可愛い。
「唯ちゃんとも遊びたいのは遊びたいけど、たっくんと遊びたいの!」
「いや、俺の家に来てどう遊ぶんだよ……。俺の部屋ゲームとかマンガくらいしかないぞ。ことりが来ても暇なだけだと思うけど」
そう、俺の部屋はまさに自分のための部屋と化している。誰かが遊びに来た時の事などまったく考えず、1人で暇を潰すためだけの部屋なのだ。女の子が来た所でひまーつまんなーい帰るー、とか言われて愛想尽かれるのがオチだ。
やだ、ちょっと泣けるんですけど……主に悲しみで。
「ゲームでも私はいいよ?お喋りしながらでも出来るし」
ことりとゲームしながらお喋りだと……。何それ超楽しそう。それなら何時間でもやってられるわ。むしろ1日中やって唯に怒られるまである。
「その時は私もことりと一緒に行かせてもらいます」
「いやお前が来たら1番暇しそうなんだけど。何で来んの?」
「えっ……ダメ、でしょうか……」
ちょ、何でそんなに落ち込むんだよこいつ小動物かよ。
「たっくーん……」
「……あー、分かったから、海未もことりと一緒に来ればいいさ」
「……ほんとですか?」
「あ、ああ。その代わり暇だのなんだの言っても俺は知らねえからな」
ことりはジト目で見てくるし、海未は必要以上に落ち込むし、一体何なんだよ……。2人共普通に可愛いから断りにくいんだよなぁ。あれ、俺って案外ちょろいのかもしれない。
「……久しぶりに拓哉君の家に行けますね」
「そうだね。その時は穂乃果ちゃんも誘おうね♪」
おい、なんか1人増えてるのは気のせいじゃないよな。穂乃果来たら確実に俺の部屋荒らされちまうだろうが。えってぃな本はないから危険性はあまりないけど。
「明日ライブなのに浮かれんなよー」
「うん!むしろたっくんの家に行けるって思えて余計頑張れるかな♪」
そんなに楽しめるゲームあったかなぁ俺んち……。シューティングゲームとかばっかだからパーティーゲーム買っておこうかな。
「衣装が恥ずかしいと思う以外は大丈夫です」
やっぱりそこは外せないのね。それ以外は大丈夫と言い切る海未はやはりさすがと言うべきだな。心配する唯一の要素が凄く不安だけど。
「穂乃果は……心配しなくてもよさそうだな」
「私達3人がいれば大丈夫だよ♪」
俺がこの町に戻って来てから、このメンバーに穂乃果が加わっているのがまたいつもの形になってきている。昔から知っているからこそ、大体の事は言葉を要さずに相手に伝わる。それ程までの信頼が築かれている。
けれど、それを分かったうえで、思う。
言わなくても伝わる。あれは少し嘘だ。
いくら言葉を要さずに伝わったとして、アイコンタクトだけで伝わったとして、気持ちの全ては分かりきれない。言葉を、言の葉をちゃんと口から声に出すことで、声音も含め、気持ちだって伝わる。
だから、
「明日、頑張れよ」
分かりきってる事をもう一度言う。
「うん♪」
「はい!」
相手の目を見れば相手もこっちを見て返してくれる。こいつらの目は強いな……。これなら明日は何の心配も余計なお世話になっちまうかもしれない。
「あ、私ここまででいいよ。ありがとねたっくん!」
「おう、陽菜さんにもよろしく言っといてくれ」
数分歩いてると、ことりの家のマンション近くまで来ていた。海未の家との分かれ道だ。
「うん、いつも喋ってるから大丈夫だよ~」
「……?おう、じゃあまた明日な」
いつもって何だ?何が大丈夫なんだ?まさか俺の学校での悪い行動が漏らされているのか?そんな悪い事した覚えないんですけど。やだちょっと怖くなってきたわ!
見えなくなるまでことりを見送り、最後まで手を振ってきたことりに苦笑いしながらも手を振り返す。やがてことりは見えなくなり、残されたのは俺と海未の2人。
「行くか」
「はい」
「拓哉君」
「どした?」
海未より2歩先に歩いているが、振り返らないまま言葉を待つ。
「……その、もし良ければ、手を、繋ぎませんか……?」
あーなるほどねー。何少し緊張気味な声で言ってんのかと思えばそんな事かー。手を繋ごうって言うのに何緊張してんだよまったくーはっはっはっ。
………………………………………………………………はい?
「……はい?」
思わず思考と声が重なる。
今、こいつ何て言った?手を繋ぐ?何故?必要性は?こいつに何の需要がある?まさか俺を貶めるためのトラップ?ドッキリ?
予想を超える海未の発言にギチギチとカクカクした動きで振り返ると、海未も動揺した様子で繕ってきた。
「いや、あの、違くてですねっ?その……拓哉君は昔から冷え性ですし、そのせいでさっきからずっとポケットに手を入れっぱなしなので……えと、私の手なら温かいので、拓哉君の、冷えた手を……少しは温められる、かと……思いまして……」
……あー、そゆことね。確かに俺は小さい頃から冷え性で冬は苦労したものだ。
というか、わざわざそのために手を繋ごうって言ったのか。あの恥ずかしがり屋の海未が。やはり既に成長してきているという事か。
……いや、成長してませんねこれ。思いっきり顔赤いですもんねこれ。やめろ、言ってきたのそっちなのに恥ずかしがってたら俺まで変に意識してしまうだろ。
「……はっ!その、嫌なら別に断ってくれても全然構わないのですよ!?……ちょっと拓哉君が寒そうにしていたので、少しばかり気になっただけですので……」
また繕ってきたと思ったら、そのあとに少し気分が沈みそうな雰囲気になっている。
はぁー……ったく、そんなあからさまに自分で落ち込むなっての……。
「……え?」
「……両手じゃさすがに無理だから、左手だけな」
海未の右手を取ってこちらの顔が見えないようにしながら歩き出す。
まぁ、その、何?せっかく気を遣って申し出てくれたのに、それをわざわざ無下に断る訳にもいかんしな。あーくそっ、歩いてるせいか体は暑いのに、こんな時にも俺の冷え性は元気バリバリに正常なようだ。
「……はい……っ」
ふと、チラッと海未の方を見てみると、俯きながらも、顔を赤くしながら嬉しそうに微笑んでいる海未が目に映った。
あっぶねぇ、うっかり惚れそうになったわ。美少女の笑顔って怖い!
あーーーーもうっ!!寒いのに無駄に暑いじゃねえかこのやろう!
矛盾してると思った奴は実際に体験してみればいい。痛い程俺の気持ち分かるから。
冷えた左手に確かな温かさを感じながら、ほんのりと赤く染まった顔をした俺達はお互い何も言わないまま、黙々と歩き続けた。
「……あっ、もうここまでで大丈夫です、拓哉君」
「ん、ああ」
しばらくすると、道の奥の方に海未の家らしき、古き良き屋敷みたいなデカい家がある。相変わらずでけぇな海未の家は。…というかここに来るまでほとんど無言だったぞ俺達。
腹減ったなぁ今日の晩飯何だろーくらいの世間話しかしてなかったかもしれない。動揺しすぎだろ俺達。アドリブ弱いんですよ俺は……。
「それじゃ、また明日な」
「あ……拓哉君っ」
「んぁ?何だ?」
やっと離れた手の微かに残った温もりに謎の名残惜しさを感じながら早く帰ろうとしたら、海未が呼び止めてきた。
「明日、私達の事を……1番近くで見守っていてくださいね」
……何当たり前な事を言ってんだこいつは。
「ま、スクールアイドル活動を手伝うって言ったのは俺だからな。関係者だから自然とお前らの近くにいなきゃいけないのが仕事でもあるし……」
「……ふふっ、素直じゃないですね、拓哉君は」
「うるせ……」
くっそ、こいつさっきまで恥ずかしがってた海未か本当に。俺の方が恥ずかしいとか何なんですか感染したんですか。ウイルスならぬウミルスってか。
「では、また……」
「…ああ」
海未が見えなくなって数秒。
いつの間にか精神も安定していて恥ずかしさはどこかへと消えていた。
「俺も帰るか」
家へと帰る帰路へつくために歩き出す。
ポケットに手を入れた直後、タイミングの良い事に携帯へメールの着信音が鳴った。
時刻は20時前後。
俺の携帯にこんな時間からメールが来るとは珍しいな。スパムか?…け、決して友達が少ないとかそんなんじゃないんだからねっ!
おそらく穂乃果かことりだろう。明日頑張ろうね!とかそんな感じだと思う。頑張るのはお前らだろ、と打ち返すとこまで予測できた。
だが、画面を見るとそこに映し出されていたのは穂乃果の名前ではなくことりの名前でもなかった。
「……唯?」
家族からメールくるのは珍しいな。母さんは唯には甘いとこがあるからよくメールのやり取りをしてるらしいが、俺の事は放任主義なとこあるからなぁ。存分にこき使ってくるけど。…あれ、家族って何だろう?
唯も唯で俺が引っ越してくる前はよくメールしてきたけど、戻って来てからはまったく連絡してこなかったし、何か買ってきてーとかそんなだろうか。妹にもこき使われるって兄としてどうなんですかね…。唯のためなら喜んで動くけどね!
で、肝心のメールはっと、
『お兄ちゃん………………………………………………遅い』
お、おう……。
何これヤバイ。何がヤバイってただの文のはずなのに、文面からでも分かるような恐ろしさオーラが滲み出ている。いつからメールはそんなありがた迷惑機能でも付いたのかしら。
そういやこっちに戻ってきてから帰りがこんなに遅くなったのは初めてかもしれない。あれ、これ唯さんもしかして怒ってらっしゃる?おこなの?…こんな事言ったら鈍器で殴られそうだから絶対に言わないでおこう。
「はぁ……とりあえず、早く帰った方がよさそうだな……」
まだ少し肌寒い夜の中。
リズムを刻むように小走りで家へと帰る。
なんか帰りづらいのは気のせいだと思いたい……。
せっかく映画公開されてるんだから、そのうち記念として何かやろうかな。
1週間毎日更新とか。
PS.
タグにハーレム?、を追加させていただきました。
いや、だって拓哉の奴が勝手に無意識に動いたりするから……俺は悪くない!
ストーリーが進みに連れ「?」を消すやもしれませぬ。