ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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ま、間に合った……。
すいやせん、結構時間を喰ってしまいました。

そのおかげで14000文字です。気を付けてください。

リクエストをくださったお2人の方々には言い切れない感謝を申し上げます!
もしくれてなかったら絶望していた(確信)


では、のんたん、誕生日おめでとう!


東條希 番外編.ゴーストハント?と乙女心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の休み時間の事だった。

 

 

 

 

 

 普通にして見れば、何てことのない日常風景がそこにはあった。

 

 よくある教室でのおしゃべりのようなものが繰り広げられていた。

 

 なのに、いつもと何か少し違うように見えるのは、片方は悩んでいる様子で、もう片方は真剣に聞いている様子だからだろうか。

 

 言うなれば、悩み相談とでも言えば分かりやすいかもしれない。

 

 そして、他の生徒が何故か少し興味深そうにその2人を見ているのが、いつもと違う風景の何よりの証拠だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 生徒副会長と、生徒会長。

 

 

 

 

 

 音ノ木坂学院に通っている生徒ならば、必ず知っているであろう2人が、その中心にいた。

 

 いつもならその光景も不思議ではない。思い悩む生徒会長に副会長が遠回しの助言をする。それも見慣れた光景だった。

 

 なのに。

 

 今回はその逆の光景だった。

 

 副会長が生徒会長に悩みを相談しているのだ。それも真剣に。

 

 生徒会長もそれを真剣に聞いている。

 

 親友のために解決策を探している。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日の事からだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校で変な噂が流れ始めたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ知ってる?最近夜の屋上でね……出るらしいよ?」

「出るって、何が?」

「そんなの決まってるじゃん。…………幽霊が出るんだって」

「えー嘘ー!?」

「ホントだって!見た人もいるらしいよ!」

「何それこわーい!」

 

 

 

 

 

 そんな噂が、学校中で広まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東條希という少女は、多くの人間がいるこの地球でごく稀にいる、霊感体質を持っている人間の1人なのである。

 

 

 小さい頃はよく見えたものだ。親に言ってもそんなのはいないの一点張りだったが、希には見えていたのだから仕方ない。あとから自分だけに見えていたのは霊と呼ばれるものだと発覚した時は驚いたものだ。

 

 人間は、自分の理解の範疇を遥かに超えたものを目の当たりにした時、冷静になるよりまず、未知なるものを見た事による脳の処理演算が追いつかずにパニック状態になる。所謂恐怖を感じる事と同じなのだ。

 だが、それとは反対に、逆に冷静になる者もいる話もたまに聞く。しかし、これも1周回ってというやつだ。処理演算が追いつかず、どのような行動をすればいいのか分からない。どのような言動、対処をすればいいのか分からない。

 パニックを超えたパニックと言えばいいのだろうか。恐怖のあまり笑ってしまうものと同じものなのだ。冷静になるのもある種の恐怖なのである。

 

 

 

 

 そして、東條希という少女はそのどれにも当てはまらない。

 

 

 

 

 幼少期から見えていたせいで、恐怖感というものが存在しなかったのだ。

 特に恐怖感もなく、興味もなく、だから霊に触れてはこなかった。そのせいかどうかは分からないが、高校生の今では霊感が弱くなっているのか、ハッキリ見えていた小さい頃より今はぼんやり程度しか見えなくなっている。

 最後に見たのも引っ越しの最中の電車の中から見えた線路の上にいた位だろうか。とにかく、今の希は霊感が弱くなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、何故今になってそんな話をしたのかと言えば、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜の屋上で……幽霊……」

 

 

 

 

 只今絶賛希が通っているこの音ノ木坂学院で幽霊が出るという噂を聞いたからだ。

 

 

 

 昨日まではそんな話どこにも聞いた事はなかった。なのに今日になり急激に学校内で広まり始めた。ならば昨日か一昨日、少なくとも1週間以内に目撃者がいるという事になる。

 しかし、昨日も一昨日も夕方までμ'sが屋上で練習していた。3日前は神田明神で練習していたからもしかしたらその日なのかもしれない。

 

 

「何とかするなら、早い方がええよね……」

 

 

 その発言の真意はそのままの意味だった。

 今では霊感が弱くなっており、ぼんやりとしか見えないが、まだ見えるはずだ。だから、原因の正体が見える、見る事が出来る自分ならばどうにか出来るかもしれない。その原因の発端を止める事が出来るかもしれない。

 

「よし、今夜、やろう」

 

 決行は今日の夜。

 正直に言って自分に何が出来るかは分かっていない。でも、今は神社で働いてもいる。お札を少し貸してもらってその霊を払えるくらいは出来るはずだ。

 それに、μ'sの大事な場所でもある屋上なのだ。

 それを守るためなら、少し危険が伴おうと厭わない。今までも影から支えてきた。なら今回も影から救えればいい。

 

 

 

 

「大丈夫、1人でもやれる……」

 もちろん、今日やる事は1人でするつもりである。

 拓哉には……今回は黙っておいた方がいいかもしれない。いつも何かしらの形で色んな人達を助けてきて、解決してきた拓哉ではあるが、今回はさすがに無理だろう。何せ相手は常識がまったく通用しないと言ってもいい、霊なのだ。

 こちらの言葉が届くかも分からない。殴ろうとしてもすり抜けてしまうかもしれない。襲ってくるかもしれない。

 

 

 そんな不可思議な危険に拓哉を、大事な想い人を、彼氏を同行させる訳にはいかない。よって1人で決行する。覚悟は決めた。さぁ、守ろう。

 

 

 

 

 

「さて、とりあえずは教室に戻ろかな~」

 そう言って、誰もいない屋上から1人、東條希は教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 噂があれど、特に練習がなしになったりする訳でもない。

 

 

 

 

 今日も今日とていつも通り、μ'sの練習は屋上で行われていた。

 

 

 

 

 

 

「そういえば今日は何か変な噂ばっか聞いたにゃ~」

 

 

 数少ない休憩時間の事だった。

 

 

 みんながそれぞれ用意したドリンクを飲んでいると、凛が第一声を漏らした。

 

 

「あ、私もその話聞いたよー!夜にこの屋上で幽霊が出るって話でしょ!?」

 続いて穂乃果。

 何故かハイテンションで話し出す2人には、練習での疲れが吹っ飛んでいるようにも見える。

 

「ったく、μ'sがここで練習してるってのに、変な噂なんか流さないでほしいわよね」

 2人の会話に混ざったのはにこだった。にこが混ざった事によって余計にギャーギャー騒ぎ出す3人。もはや3バカのいつもの流れである。

 

 

「でも、大丈夫かなぁ。出るのは夜だって聞いたけど、もし今の時間帯に出てきたら……」

 ふと不安な表情で呟いたのは花陽。彼女も不安ではあるのだろう。もし何か危険な目に遭ったらと思うと気が気でならないのは当然だ。

 

「大丈夫だよ花陽ちゃん。幽霊だってまだ明るい夕方には出てこないと思うよ?」

 花陽を励まそうとしているのはことりだった。彼女はいつも平和的な空間を望む故に、大切な中立の立場に立っている。

 

「そうだぞ花陽。ことりがそう言ってるんだから霊は出ないさ。ことりは正義だか――じゃない違った、大天使だった。そう、霊も天使には敵わないのだ!」

 場違いな事を言ったのは拓哉。割愛。

 

「うるさいです拓哉君。そもそもあなたには希という彼女がいるんですからことりではなく希の事をですね―――、」

 そんな拓哉を正座させて説教しているのが海未。バカのストッパー役としていつも働いている真面目な少女だ。

 

「幽霊だなんて非科学的よ。そんなのありえないわ」

 そう冷たく言い放ったのは真姫だった。微塵も信用してないのか、恐怖も興味もまったく感じさせなかった。

 

 

「真姫の言う通りよ。所詮は噂。本当かどうかも分からない事を気にして練習に集中出来ないなんて事はやめてよ?」

 真姫と同じく普段通りに言ったのは現生徒会長である絵里だ。μ'sのまとめ役として大きな存在になっている彼女は、こんな時も頼もしい存在になっていた。

 

 

「それもそうですね。すいません、ほらみなさん、そろそろ練習を再開しますよ」

 拓哉の説教を終えた海未が全員に声をかける。みんながのそのそと立ち上がる中、拓哉だけは正座のせいか、足がしびれたようで地面を転げまわっている。

 

 

 そんな中、この話に入っていない少女がいた。

 

「…………」

 

 希だ。

 こういう不可思議な話にはいつもおちょくり目的で話に割り込んでくる彼女が、今回はずっと何かを考えているようで黙っていた。訝しげな感じで。

 

「…………?」

 痺れの痛みで少し涙目になっている拓哉は、そんな自分の彼女を不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日もつつがなく練習は終わった。

 

 

 

 

「ふぅー終わったー!海未ちゃんことりちゃん、帰りになんか食べて帰ろうよ!」

「私は別にいいよ~!」

「帰りに食べたら家で晩御飯が食べられなくなりますよ?」

「いいじゃんいいじゃん!練習で疲れたから今すぐ何か食べないと死んじゃうよ!」

「どんだけ深刻なんですか……」

 

 各自が帰宅準備をし、いつでも帰れる態勢になった頃、穂乃果達がそんな話をしていた。

 

「あ、それ凛も行きたいにゃー!」

「よぉーし、じゃあもうみんなで行こーー!!」

 いつの間にか全員が行く流れになっていた。

 だから当然、

 

 

「あ、ごめんなぁ、ウチ今日ちょっと用事があるから遠慮しとくわぁ」

 希は断りを入れた。

 

「えぇ~、そうなんだぁ……。じゃあ仕方ないか!希ちゃんがいなくてちょっと寂しいけど、他のみんなで行こう!」

 何で私まで……と真姫は悪態をついていたが、そんな言葉とは打って変わって、満更でもなさそうな表情をしていた。内心では早く行きたくて仕方ないのかもしれない。

 

 

 

 

「最近屋上のドアすげぇガタガタすんだけど……え、何々?帰りにどっか食って帰んの?」

 部室の鍵を返しに行っていた拓哉が戻ってきた。

 

「そんじゃ俺も一緒に行こ――、」

「あ、たくちゃんは来ちゃダメだからね」

 無慈悲な言葉が送られた。

 

 

「何でだよ!即答とか何、俺だけハブ?酷くない?」

 辛辣な言葉に抗議を訴える拓哉。しかし彼は希が断った事を知らない。だから、

 

 

「希ちゃんが用事あるから行けないんだって。だからたくちゃんには希ちゃんと一緒に帰るという指令を与えます!」

 数秒の空白を置いてから、ようやく拓哉は理解できたようで、

 

「ああ、そういう事ね。なるほど、分かった。んじゃ希、一緒に帰るか」

 今度は希がうろたえた。

 

「え?いやでも、拓哉君みんなと食べて帰りたいんやろ?それを止めてまでウチと帰るなんて……」

 いつもなら感謝する事なのだが、今日は少し訳が違う。拓哉が一緒にいると勘付かれそうでならないのだ。

 

「あん?なーにおバカな事言ってんだ。1人の彼女ほっといて飯なんか食えるかよ。ほれ、帰る準備出来てるなら行くぞ。言っておくがお前に拒否権はないと思え!」

「あ、ちょ、待ってぇな拓哉君!」

 さっさと行こうとする拓哉に渋々着いて行く。こうなった拓哉は言う事を聞いてくれないのだ。出来るだけ気付かれないようにしようと思いつつ、2人で帰路につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁー、腹減ったなー……」

「もう…だからみんなと一緒に食べて帰ったらよかったのに」

 隣で唸る彼氏を仕方ないなぁと思いつつちょっとからかってみる。

 

「……うるへー。食欲より彼女の方が大事に決まってんだろ。……何かない?」

「その割にはさっきから唸ってるよー?……何もあらへんよ」

 我慢するか……、とやる気のなさそうな顔で前を見る拓哉を見て、希は安堵する。

 

「(良かった、この調子やと何も気づいてなさそうやね)」

 この件に関しては拓哉ではどうする事も出来ない。どうにか出来る可能性がある自分が動かなければならない。だから拓哉を巻き込む事は許されない。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

「そういえば希、お前、何かあったのか?」

「!?」

 何の気なしの質問だったのかもしれない。でもそれは、希の心臓をドクンっ!と跳ね上がらせる程に、希からすれば確信ついた質問だった。

 

「……何でそう思うん?」

「いや、今日のお前、雰囲気がいつもと全然違ってたからさ。何か思い詰めてるような、そんな感じの」

 拓哉の回答からして、まだ全部は気付かれてないようで安堵した。しかし、それと同時にみんなに悟られないようにと思いすぎて、それが逆に仇になったのかもしれないとも思っていた。

 やはり拓哉はよく周りを見ている。だから少しの異常にも勘付く事が出来るのだろう。

 

 

「そんな顔してたウチ?でもまぁ大丈夫や。今日の用事の事でそんな顔してただけやから」

 これは希がもしもの時と思って張っておいた予防線だ。いくら彼氏の拓哉だからといって、家の用事にそこまでは詮索してこないと思ったからだ。

 

「……そっか。ならいいんだ」

 案の定、拓哉はそれ以上詮索はしてこなかった。

 

 

 

「でも、もし何か悩みがあったら言えよ?俺に出来る事があるなら協力してやれるかもしれないからな」

「……うん、ありがとうね」

 拓哉に出来る事なら、今度から悩みは相談しよう。今回は自分にしか為せないものだから、相談はしないでおこう。1人で解決しよう。

 東條希は、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、また明日ね、拓哉君」

「ああ、またな」

 希が家に入っていくのを見送る。彼女の姿はもう見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に入った希は、

 

「よし、準備しよう!」

 

 いよいよ今夜のために、本格的に動き出す。

 

 

 

 

 

 歩きながら帰路につく拓哉は、ゆっくりと赤い空へと顔を上げた。

 

 

 

「(思い当たる節はたった1つ……)」

 

 

 

 少し考えてから1つの結論を出し、

 

 

 

 少年も、静かに動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 希は1人、学校の校門前に来ていた。

 

 

 辺りは既に真っ暗、校門も閉まっているところを見ると、先生達も帰ったのが分かる。もし誰かいるとするならば、警戒すべきは警備員の人だろう。準備は出来るだけしておいた。

 神社に寄って清め塩とお札を貰ってきておいた。数珠もある。これだけで払えるのかは定かではないが、何もないよりかは万倍マシだと思おう。

 

 

「(周りには誰もいない。行くなら今やね)」

 周囲を警戒しながら校門をよじ登る。

 

 

 

 スタッ!

 と、着地の音と共にそれは、完全に別世界への境界線を表しているかのようだった。

 

「何と言うか、やっぱり雰囲気あるな~……」

 夜の学校は別の世界とはよく言ったものだ。実に的を射ている。雰囲気そのものが違うのだ。何かねっとりとしたようなオーラがどんよりと学校を包み込んでいるような感覚に襲われる。

 

 

「だ、大丈夫かなぁ……」

 さすがにここまで違うと、希も恐怖感を抱き始める。そもそも最後に霊を見たのだって約3年前にもなる。神社の神様とは違うのだ。悪霊の可能性だって否定は出来ない。霊媒師でもない希が恐怖を感じるのも無理はない。

 

 

 それでも、

 

 

「……行かなきゃ」

 

 

 自分の大切な場所を守るために、たった1人の少女は動き出す。

 

 自分の携帯ストラップが外れて落ちている事に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分後の校門前にて。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 1人の少年が佇んでいた。

 

 

 

 

 

 少年は静かに落ちているストラップを手に取ってから確信する。

 あの少女は学校に入ったと。噂で聞いたあの霊をどうにかするために1人で行動したと。

 

 

 

 

 確信すると同時に、少年は軽快に校門を登り超えた。

 

 

 

 

 

 1人でそんな事をさせる訳にはいかないと、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 希は2階の階段まで来ていた。

 

 

 

 

 外だけでもあの恐怖感だったのだ。中に入ったらそれはまた恐怖が迫ってくる。暗い廊下。非常口を知らせる緑の光がこれまた一層不気味に感じさせる。音はコツンコツンと響く自分の足音だけ。

 自然に歩くスピードが遅くなっているのに自分では気付かないままだった。

 

 どうせなら、このままいっそ警備員の人にワザと見つかって、一緒に屋上に行ってもらえればまだマシなのではないだろうか、と思った思考をブンブンッ!と頭を振って忘れさせる。

 

 

「(あかんあかん!そんなんしたら警備員の人も危ないかもしれないやん!)」

 そう、必ずしも安全に帰れる訳ではない。自分は対処法がいくつかあるとはいえ、その警備員の人が危険な目に遭えば意味はなくなる。

 だからこその1人なのだ。

 

 

 

 

 思考を一旦止めて、再び歩みを始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3階の階段の踊り場に差し掛かった頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 肩に手を置かれた。

 

 

 

「ひゃうぅぅ……っ!!??」

 大声を出しそうになりながらもギリギリ理性を保ち、最小限に声を押し殺す。

 

 

 

「あの、そこまで驚かれちゃ、さすがにちょっと傷付くんですが……」

 少し涙目になりながら後ろを振り返ると、そこには困り顔の拓哉がいた。

 

 

 

 

「…………た、拓哉君……!?な、何でここにおるん……!?」

 恐怖から一転、顔は怯えから驚愕に変わる。

 

 何故彼がここにいるのか分からない。何故気付かれてないはずなのにここにいるのがバレたのか分からない。何故いつもいてほしいと思った時に現れるのか分からない。

 何故、そのような少し怒った表情をしているのか分からない。

 

 

「まぁ、色々疑問はあったけど、気付いたらここにいるかなって思って来た訳だ。ったく、1人でそんな危ねぇ事しようとしてんじゃねぇよ」

「いたっ」

 軽くチョップされてしまった。しかし、拓哉は希の質問に完全に答えてる訳ではなかった。

 

「でも、ウチがここにおるってそんな確信もないのに学校に入ってきたって事?」

「確信はなかった。でも校門前まで来て確信に変わった」

 拓哉の言葉に余計疑問符が浮かび上がる。すると拓哉はポケットに手を突っ込んで何かを手探り始めた。

 

 

「あ、それって……」

「さすがにこれが校門前に落ちてたらお前がここに入ったって思うだろ?」

 拓哉が出してきたのは携帯ストラップだった。それも希の。

 

「……でも、何で、あれ?」

「おそらく校門を登る際に引っかかって外れて落ちたんだろ」

 希のストラップはいつもポケットから出ている。だから引っかかって外れたのだろう。落ちた事にも気付かないとは、我ながら恐怖で焦っていたのかもしれないと情けなく思う。

 

 

「でもま、こうして希と合流できたし、行くぞ」

 さも当たり前だというかのように、拓哉は先を促そうとしてきた。

 

「行くって、どこに?」

「決まってんだろ。霊をどうにかするつもりで来たんだろ?なら俺も行った方がいい」

「ダメ!拓哉君は帰って!」

 

 希の大声が場の空間を支配した。

 

「おいおい、警備員に知られたらどうすんだよ……もうちょっと声を抑えてだな」

「拓哉君は帰って……」

 今度は、声こそは小さかったものの、そこには明確な拒絶の意思が込められていた。

 

 

「…………何でだ?」

 拓哉はワザとそう返した。直接希の言葉を聞くために。疑問を確信にするために。

 

 

 

「……確かに拓哉君が来た時はちょっと嬉しかったんよ?でもそれだけ。今から行く所には、拓哉君が思ってる以上に、拓哉君じゃどうしようも出来ないものが待ってる。だからウチは1人でここに来たんよ……。それをどうにかするために」

 少しずつ、彼女の本音が漏れ始める。

 

「お前なら、どうにか出来るのか……?」

 ここからだ。ここからが、拓哉の聞きたい事の発端に繋がる。

 

 

「……分からない。神社で持ってこれる物は持ってきた。だから出来る限りの事はやれるとは思うん。それでも確実じゃないんよ。対処出来るかもしらんし、対処出来ないかもしらん……。そんな、そんな不確定な要素で来たウチと一緒に、拓哉君を危険な目に遭わせたくないんよ!」

 

「……俺じゃ何も出来ない。役立たずになるかもしれない。……いや、役立たずになるからか……?」

 少し意地の悪い質問をするが、これは本音のぶつけ合いになる。だから、拓哉も、希も、相手に対する容赦を一切なくす。

 

 

「っ……、そうや。拓哉君は今まで色んな問題を解決して、色んな人達を助けてきた。それは確かに凄い事やし、ウチが拓哉君に惹かれた理由の1つでもある。でもそれは解決の糸口がどこかにあったからや。今回は違うん……。今回だけは拓哉君は何も出来ない。正真正銘の役立たずになる。だから、足手まといになってほしくないから何も言わなかったんや」

「…………」

 

 希からの辛辣な言葉を受けて尚、拓哉は沈黙したままだった。

 

「……どうにか出来るかもしれないウチだからこそやらないといけないんよ。拓哉君の考えてる常識は人じゃないものには通用せえへん。役立たず、足手まとい。拓哉君には何も出来ない。例え10%でも対処法があるウチの方が1人でいける。……だから、拓哉君は帰って」

 

 

 

 

 そこまで聞いて、拓哉から芽生えた感情は、辛辣の言葉を浴びせられた怒りでも、悲しさでもなかった。

 芽生えたのは、喜びだ。

 

 

 

 

 

 結局、希が言いたかったのはとても簡単な事で、拓哉がいつも思っている事と同じだった。

 

 

 

 大切な誰かを危険な目に遭わせたくないから1人で行動する。

 大切な場所を守るために、1人で無茶をしようとする。

 

 

 

 本音を言い終えた希は俯いている。おそらく全て吐き終えたという事だろう。

 

 

 

 

 であれば。

 

 

 

 

 こちらも本音を吐こうではないか。

 

 

 

 

「……確かに、希の言う通り、俺は役立たずになるかもしれない。何も出来ないかもしれない」

「なら早く帰っ―――、」

「でもそれは出来ないよ、希」

 放たれたのは、とても優しい声音であり、とても曲げる事を許さないような、鋼の意思が籠った言葉だった。

 

 

「な……んで……?」

「希、お前は言ったな。自分ならどうにか出来るかもしれないと」

「……う、うん」

 ここからが拓哉の本音だった。

 

 

「ならもしどうにも出来なかったらどうする?何か対策でも考えているのか?」

「…………ぁ…………!?」

 拓哉がずっと気になっていたのはそこだった。

 

 

「お前が1人でちゃんと、どうにか”出来る”と言ったなら俺も安心して任せられる。でも希、お前は確かに言ったぞ。どうにか”出来るかもしれない”と。そこには確かな証拠なんてないんだよ。不確かなものでしかないんだ。もし1人で行って全ての手札がことごとく敗れたら?全て出し切って逃げられる程、あちらさんも甘くはないんだろ?」

 

 希はまた俯いていた。何も言い返せないから。自分は上手く成功した時の事しか想定していなかった。いや、不安しかなかった位まであるが、それでも勝てたらという不確かな、軽くて、浅はかな思いだけがあった。

 全て敗れてからからの事を一切頭に入れていなかった。焦りで適切な判断を見誤った。まさに盲目といったところだろう。

 

 

 

「……でも絶対に失敗する訳でもない」

 

 

 

 不意の言葉に、一瞬理解が追いつかなくなる。

 

 

「……え?」

「お前が言ったんじゃないか。どうにか出来るかもしれないって。確かに不確かで成功するか分からない。手札が無くなった後もどうなるか分からない。……でもだからといってこのまま諦めたくはない。だから俺が一緒に着いて行く」

「え……?た、拓哉君?」

 さっきから頭がこんがらがっている。拓哉の言っている事は矛盾しているんじゃないか?とか、あれだけヒドイ事言ったのに怒ってないのか?とか。

 

 それでも、拓哉は続けた。

 

「お前が全部出し切って、成功したら2人で喜べばいい。失敗したなら、俺がお前を担いで全力ダッシュして逃げてやる。……希、お前が俺を危険な目に遭わせたくないのと同じように、俺も希に危険な目に遭ってほしくないんだよ」

 

 

 

 

 気付けば、心のモヤモヤは消えていた。

 

 

「……いいの?」

「何がだ?」

 これは最後の意思確認になる。

 

 こんなのは無意味だと分かっていても、希は拓哉に聞いた。

 

 

「ホントに危ないかもしれないよ?それでも、拓哉君はウチと一緒に来てくれるん?」

「当たり前だ」

 即答で返された。

 

 その事に少し可笑しくなり吹き出す。

 

「……ぷっ、拓哉君には、ほんま敵わんなぁ」

「俺を狼狽えさせようなんて60年早いっての!……んじゃ、行くぞ」

「うん」

 

 

 

 

 

 こうして2人は歩き出す。

 

 

 お互いの大切な者のため、お互いの大切な場所を守るために。

 1人の時よりも力強く、足を踏み込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 噂によると、夜の屋上では何やら不気味な唸り声にも似たような、泣き声にも似たような音が聞こえるらしい。

 それと同時に、何かを強く叩く音が聞こえると言う。

 

 

 

 

 

「なんつうか、王道ってな感じだな。ありきたりすぎて冷めるわ」

「そう言ってる割に足震えてるよ拓哉君」

 2人は既に屋上までの階段に来ていた。

 

「バッカお前、これはだな。あれだ、武者震いってやつだ」

「言い訳苦しいで拓哉君……」

 希も怖がっているのはいるのだが、拓哉と一緒にいるという事もあり、幾分かマシになっている。

 

 

「うっせ、こうなったら一気に走った方がいいかもな。吹っ切れる的な意味で」

「やけくそやん……」

 

 

 

 さて行くぜ!と拓哉が1歩目を踏み込んだ瞬間だった。

 

 

 

 キュゥゥゥゥゥィィィィィィン、ドンッ!!!

 

 

 

 唸り声のような、泣き声のような、何かを強く叩く音が、した。

 

 

 

 

「……………………………………」

「……………………………………」

 

 沈黙が起きる。

 

 

 

 

 

 

「3、2、1……」

 拓哉の静かなカウントと共に、

 

「0!!」

 2人は一気に屋上に向かい、ドアを勢いよく開ける。外に出ると同時に強い風が吹きぬく。

 

 

 

 

 そこには、

 

 

 

「希!周りに何か見えるかっ!?」

「…………!な、何も見えん!!」

「なっ!?弱まっているとはいえ、希でも見えないのか!?」

 何もいなかった。

 

 

 

 その時、

 

 

 

 キュゥゥゥゥゥィィィィィィン、ドンッ!!!

 

 

 

 また同じ音がなった。

 

 

 

「!?」

「!?」

 バッ!と勢いよく後ろを振り返ると、風で強く閉じられたであろうドアがあった。

 

 

 

 

 

 

 そしてまた、

 

 

 

 ドアがゆっくりと開けられ、

 

 

 

 キュゥゥゥゥゥィィィィィン、ドンッ!!!

 

 

 

 強く閉じられる。

 

 

 

 

 

 

 風のせいで。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………」

「………………………………………………」

 2人はしばしそれを何度か見ていた。

 

 

 

 キュゥゥゥゥゥィィィィィン、ドンッ!!!

 キュゥゥゥゥゥィィィィィン、ドンッ!!!

 キュゥゥゥゥゥィィィィィン、ドンッ!!!

 

 

 

 

 しばらくして、拓哉がドアに駆け寄りドアノブを持つ。

 

 

 

 音が、まったくしなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……た、拓哉君……?」

 希から見える拓哉のこめかみには、何となく、血管が浮き出ているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただドアの建て付けが悪くなってるだけじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 夜の学校の屋上で、拓哉の咆哮が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、屋上で拓哉と希の2人は座っていた。

 

 

 

 

 霊の正体は判明した。

 言ってしまえば、ドアがガタガタになっているだけだった。

 

 思えばいくつか思い当たる節がある。

 

 このドアを開けるのは大抵穂乃果や凛の元気な2人が多い。有り余る元気のせいで、いつもドアノブが不完全な状態で強引に開けられていたのだろう。いつしかそのドアは、誰も手を付けずとも勝手に開くドアになっていた。

 

 

「(だから最近屋上に行ったらたまにドアが勝手に開いてたのか……)」

 

 

 ようやく結論に至った2人だが、その間に会話はない。

 

 

 お互い恥ずかしいのだ。希は1人でせっせと準備をして神社に色々借りに行ったりまでした。拓哉は階段の踊り場で希と本音をぶつけ、役立たずなりにも頑張ろうとした。

 

 

 

 

 その結果がこれである。

 

 

 

 

 

 

 

「(うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!)」

「(ウチやっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)」

 

 

 さっきから会話がないのはそのせいである。

 あんな真剣なやり取りをして、覚悟も決めたのに、最終的に待っていたのは主に穂乃果と凛が原因でガタがきているただのドアだった。

 

 

 

 

「あー……不幸だ……」

 何やらどこかのラノベにありそうなセリフを静かに呟く拓哉。

 

 そんな不意の言葉にやられたのか、

 

「……ぷっ、あはは!」

「なーに笑ってんだよ。俺もお前も今は羞恥に身を焦がす時間でしょうが……」

「だって……拓哉君が面白くて……あはは!」

「ったく……、まぁ笑われても仕方ない事言ったけどよ……はは」

 

 気付けば拓哉も笑っていた。

 

 

「まぁでも、いいやん!結局はただのドア!何も危険な事はなかったからそれで良し!って事にしとこう?」

「……それもそうだな」

 

 

 結局は何もなかった。

 何も脅威はなかった。

 恥ずかしい思いはしたが、守りたい場所は最初から守られていた。

 ならそれでいい。そう思えた。

 

 

 

 

 

 

「あ、拓哉君、空見てみ!星が凄く綺麗やぁー!」

「……へぇ、結構見えるんだな。ここって」

 

 

 

 満天の星空があった。

 

 

 さっきまでの恥ずかしさも軽く吹っ飛ばしてくれるような。

 

 

 

「…………っ!」

 そこで希は昨日の事を思いだす。

 

 

 昨日、珍しくも希は絵里に悩みを相談した。

 

 

 その悩みとは、

 

 

 

 

 

 拓哉と希が付き合ってから、まだキスすらした事がないのだ。

 

 拓哉が自分を大切にしてくれているのは十分分かっている。だから一向に手を出してこないのも理由としては分かる。それでも、希は拓哉ともっと触れ合いたいと思っていた。もちろん高校生の内は健全な付き合いをしようとは思う。でも、さすがにキスくらいはしたい。

 

 

 というのが、希の悩みだった。

 だから絵里に相談したのだ。普通なら友達にそんな相談するのは間違ってるというのは分かる。だから絵里に突っぱねられる覚悟で相談した。すると絵里は真剣に考えてくれた。結果的に、私も考えてみるから少し時間をくれないかしら?と言われ、相談はそこで一旦終わった。

 

 

 

 その相談や悩みを踏まえて、今の現状、状況を分析してみる。

 

 

 

 夜の学校の屋上。

 空には綺麗な満天の星空。

 2人っきり。

 距離が凄く近い。

 

 

「(あ、れ……?)」

 

 

 これはもう絶対的なムードではないか?

 神様が今やれと言っているようにしか感じない。

 

 

「(自分事やもん。自分でやらんと……!)」

 

 それに、このクソ鈍感男には少し強引にいくしか道は残されていないだろう。

 

 

 

 

 

 そうと決まれば、善は急げなり。

 

 

 

 

 

 

 

「……そ、その、た、拓哉……君……っ!」

 

 

 

「ん?どうしたのぞ――むぐっ……!?」

 

 

 

 

 数秒。

 

 

 

 月明かりに映された2人の影が、重なる。

 

 

 

 

 

「…………んっ、くはっ……!」

「ぷはっ……!の、のののののののぞみさん!?」

 

 

 これがたった数秒のはずなのに何十分にも感じる謎の現象か……と希が恥ずかしさと共に浸っていると、拓哉が見え見えに狼狽していた。

 それを見て、勝った、と思った。

 

 

「……ふふっ、拓哉君凄く狼狽えてるよ?60年早いんじゃなかったん?」

「なっ……あ、や、その、ああああれは反則だろ!?」

 今までに見た事ない位拓哉の顔が赤い。

 

 

「反則じゃないんよ~。彼氏彼女なんやし……その、う、ウチだってキスくらい、したいもん……」

 言ってて分かる。今度は自分の顔がとてつもなく赤いだろう。

 

 

「……あー、その、まぁ、何だ……お、俺も、嬉しかった、ぞ……?」

 精一杯言ってくれているのが態度からして分かる。どちらも顔が茹で蛸と言われても納得できる自信がある。

 

 

「まさか、希からしてくるなんてな……」

「それって、どういう事……?」

 拓哉が何となく呟いた事が気になった。

 

 

「いや、俺もキスくらいはした方がいいよなー、でも嫌がられたらなーって思って……そういう次第であります……」

「……えっ!?拓哉君そんな事思ってたん!?」

「うえぇっ!?何だどうしたいきなり!?」

「いいから答えて!」

 いきなり声を張り上げる希に拓哉は驚いていた。驚きすぎてシェーッ!のポーズまでとっている。

 

「普通女の子を気遣うのは当たり前の事だろ?だからずっと動き出せずにいた訳であります……」

 拓哉の言葉を聞いて、希はガックリと項垂れる。

 

「だ、大丈夫か希!?」

「そやった……拓哉君はヘタレやった……」

「ちょっと?気遣ってやってたのにヘタレ呼ばわりって酷くない?…否定はしないけどさ」

 拓哉がヘタレという事実は以前から分かっていたはずなのに、それを視野に入れていなかった。その事に余計希は項垂れる。

 

 

 でも、少なくとも、拓哉も自分とそうしたいと思っていてくれたと分かっただけでも、勇気を出した甲斐はあったのだろう。

 

 

「……拓哉君」

 立ち上がり、拓哉に背を向ける形で歩き出す。

 

「お、おう、なんだ?」

 

 

 

 

 

「これからは、私ともっと触れ合ってもいいんだからね?拓哉君なら、私も凄く嬉しいから……!」

 

 

 

「…………っ!?」

 希の珍しいともいえる、似非関西弁ではない、素の東條希という少女の本音の言葉だった。

 

 

「……ったく、それこそ卑怯だろ……」

「ふふっ、さぁて、ウチももっと拓哉君とイチャイチャするーん!!」

「おわっ!?いきなり抱き付いてくるな!ええい、暑い恥ずかしい柔らかいのが当たってるいい匂いうっとおしい可愛い離れろー!」

「いーや♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の学校の屋上で、微笑ましい光景が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人が学校でイチャイチャしている頃。

 

 

 

 

 多人数通話アプリにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今頃たくちゃんと希ちゃん上手くやってるかなー?』

『拓哉の事だし、希は苦労してそうだけどねー。あっ、こころーここあと虎太郎と一緒にお風呂入ってきなさーい』

『大丈夫でしょ。拓哉はともかく、希なら簡単にいけそうと思うけど?』

『にこも真姫も拓哉に厳しいわね……。でもま、上手くいってる事を願いましょ』

 

 

 絵里は自室で希を除いたμ'sのメンバーで通話していた。

 

 

『それにしても、凛が提案したアイデアの割には、結構良い案でしたね』

『海未ちゃんそれ酷くないかにゃー!?』

 そう、何を隠そう、この幽霊騒動の発端は凛のアイデアなのだ。

 

 絵里が希の悩みを聞いたその晩に、今も使っている通話アプリで希を除いたメンバーに何か良い案はないかと聞いてみたら、意外にも凛がアイデアを出したのだった。

 

 

 まず第一に、μ's以外にはこの噂の真実を教えずに、あくまで誰かから聞いたと言って話を広める。もちろん拓哉と希にも真実は教えていない。すると、あとは放っておくだけで生徒数の少ないこの学校ではすぐに噂は広まる。

 

 そしてその話には、オカルト系に通じている希は絶対に影でどうにかしようと食い付いてくると判断し、その希の異変にも拓哉は気付いて2人で夜の学校に行く。という算段まで一応計算していた。

 

 後半は思いっきり運任せに近いが、2人なら必ずやってくれるだろうと他のメンバーが信頼に任せていただけである。

 結果的に、上手くいっているのだからこの作戦は成功したと言っていいだろう。

 

 

 だが、よく考えるとこの作戦には穴がある。

 

 

 まず夜の学校には生徒がいない。その時点で目撃出来るのは警備員くらいだろう。そしてその警備員も無闇に言いふらすはずがない。この時点で終わりだ。

 それに本当に幽霊が出るなら、それを必ず黙っていない者が現れる。

 

 絵里だ。

 こう見えて絵里はホラーが苦手である。そんな絵里が屋上で幽霊が出ると分かっていたら、絶対に練習場所を変更するだろう。なのに練習場所はいつもと同じ屋上。それに噂とはいえ、幽霊が出ると分かってても余裕そうな表情。

 

 親友の希ならそれにすぐに気付くはずだったのだが、よっぽど頭がその事でいっぱいだったため、絵里に目がいってなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、この作戦には穴がいくつかあった。

 

 

 

 なのに成功したのは、希の純粋な気持ちと、拓哉の正義感のおかげだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『2人ともチョロかったにゃー』

『凛ちゃん、その言い方はちょっと……』

『たっくん達、今頃何してるかな~?』

『上手くいってるなら屋上でイチャコラしてんじゃない?』

 

 仲間の会話を聞きながら微笑ましく思っていると、

 

『ねぇねぇみんな!明日はちゃんとしたプレゼント渡そうね!』

 穂乃果の一言が通った。

 

 希も焦りがあって忘れてはいると思うが、今日は希の誕生日だった。

 

 

『そうね、今日のところは、私達の希への、ささやかなプレゼントといったところかしら』

 

 気付けばみんなが希へのプレゼントの事で騒いでいる。

 

「(それにしても、幽霊って案が最初に出てきた時はちょっとびっくりしたけど、そんな実話があったら正気でいられる気がしなかったわね……)」

 

 

 

そう思った矢先だった。

 

 

 

 

机の椅子に座っている絵里の後ろの壁からドンッ!!と音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きゃあああああああああああああああっ!!!』

 

 

 

 

『おぉうわ!?絵里ちゃん!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里の咆哮が、通話内の全員の鼓膜を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






とりあえず、読んでいただいた方、お疲れさまです。
14000文字とか読むの疲れるでしょ?
うん、書いた自分も疲れました……。



そんな訳で、リクエストをくれたのがお2人だったんですが、正直どっちも書きたくなってずっと迷ってました。
どうしようどうしようと悩んだ挙句に思いついたのが、なら個人的にリクエストを料理して繋げよう☆と思いまして。

なので本来リクエストしていただいたものとは程遠くなってしまいましたが、作者にはこれが限界でした。許してね!


でもまぁ、頑張ったって事で。
映画まであと4日、楽しみです。


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