ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

21 / 199
18.校内での再会

 

 

 

 

 

 

 授業の終わり。

 

 

 それは朝からずっと机と椅子に縛り付けられていた生徒にとっては、開放感が得られるほどに喜ばしいものだった。

 

 これから活き活きと部活に行く者もいれば、部活に所属していない者は友達とわいわい喋りながら真っ直ぐ帰るか、軽く寄り道をしながら帰るのだろう。そんな、朝とはまた違う活気に溢れるのが放課後というものだ。

 

 そして、小泉花陽もまた、帰宅するための準備を済まし、自分用のロッカーまでの短い距離を0にするために教室を出る。

 当然、廊下に出れば嫌でも帰ろうとする生徒の話し声が次々と聞こえる。ロッカーに着き用を済ませると、数ある話し声の中から1つの話題が耳に入ってきた。

 

 

「屋上でいつも練習してるんだってー!」

 

「うちの学校でスクールアイドルやる人がいるなんて思わなかったー!」

 

 自分もそう思っていた。まさか自分が通っているこの音ノ木坂学院でスクールアイドルをやる人が現れるなんて、と。

 でも現れた。ご丁寧にさっき教室までやって来て説明もしていた。だから誰がスクールアイドルをしようとしているのかも顔を見れば分かる。

 

 

 正直、羨ましい、と思った。

 

 

 何であんなにもはっきりと言えるのだろう。認知度はまだ全然低い。なのに堂々と笑顔でその人は言っていた。何であんなにも自信満々にスクールアイドルをやろうと思えるのだろう。自分ではそれが無理だったのに。

 自身の引っ込み思案な性格故か、それともただ単に自信がないだけか。『アイドル』という称号、肩書きに引け目を感じているのか。

 

 恐らく、全部だろう。

 だからいつも踏み止まってしまう。やりたいと思っても、どんなにそこの立場に行きたくなっても、結局は最後の最後で止まってしまう。“憧れ”で止まってしまう。その先へ進めずにいる。

 

 それが良いのか悪いのかと言われれば、当人以外は誰にも分からないだろう。結局は決めるのはその自分自身なのだ。自信が良いと思えば良いし、悪いと思えば悪い。良いならそれまでなのだが、悪いと思うのならそれを変えるための努力をしなければならない。

 

 そう思い続けて、この結果だ。現状は何も変わってはいなかった。

 これが小泉花陽。

 

 1人じゃ何も出来ない。進む事さえ儘ならない。いつも仲良くしてくれる凛に甘え、その凛にも本音を言えずにいる自分は一体どれほど弱いのだろうか。ネガティブ思考というのは、考えるだけでどんどんと底なし沼のように深みに落ちていく。

 

 

「かよちん帰るにゃー」

 

 不意に呼ばれた自分の名前に反応するように、このあだ名で呼んでくる者は1人しかいないと確信を得ながら、安堵する。

 

 

「う、うん」

 

 凛の声によって少しの間ネガティブ思考が止まる。タイミング良く来てくれた幼馴染に心で感謝しながら返事を返す。しかし、さっきまで考えていた事はそう簡単には忘れられない。こうやって、いつもいつも凛に甘え支えてもらっている。言うと本人は否定しそうだから言わないが、少なくとも花陽は凛に感謝してるのだ。

 

 もし、凛に本音を言って、相談に乗ってもらったら彼女は何と言うだろうか。確実に、応援はしてくれるとは思う。けれど、そこまで。それ以上は、凛も何も出来ないだろう。凛は花陽みたいにスクールアイドルに別段興味があるわけでもない。

 

『頑張って』、『応援するよ』、『何かあったら手伝うよ』くらいが限度だろう。決して、そこから先へは踏み込んでこない。というより、まずこうして凛を少しでも巻き込もうとしている事自体が間違いなのだ。自分で理由を探して、自分で決断して、自分で行動しなくてはならないのに。

 

 根本的な問題から間違っている。そんな事を分かっていながらも、何かを支えにしながらじゃないと進めない自分に嫌気がさす。

 そこで、ふと何かに切り替えられたかのように、思考が逸れる。

 

 もし、もしあの茶髪のツンツン頭の少年なら、どう思ってくれるのだろうか。本音を言った上で、何を自分に言ってくれるのだろうか。男子が苦手になっていた凛を良い意味で瓦解してくれたあの少年なら、自分にも気付かない何かを言ってくれるんじゃないか……?

 

 そんな事を思いながらも、その1つの思考を頭の隅へ追いやる。あり得ない事だ、と頭の中で吐き捨てる。例え、この前見た男子生徒の後ろ姿があの少年に似ていたとしても、変な噂が絶えない時点で確実に違うと断言出来るくらいには、花陽はその少年を短時間で信頼していた。だからこそ、ほんの少しの期待も捨てる。

 あの少年がここにいるはずがない。たったの一度だけ会って、それでいてこの広い世界で偶然にも、この学校に転校してきた唯一の男子生徒があの少年などとの可能性は0に等しい。

 

 

 だから、有り得ないと。

 無理矢理に思考を途切れさせると、視界の端に見慣れない、いや、最近見慣れたばかりの姿が目に映った。2年の先輩、スクールアイドルをやると言っていた人だ。

 

 

(どうしたんだろう……?)

 

 と、思った所ですぐに疑問は潰れる。

 きっとさっきのようにある少女を探しているに違いない。

 

 

「ああ~、誰もいない……」

 

「にゃ?」

 

 凛が当然のように先輩に向かって、いつもの猫の語尾を使いながらも問いかける。1年が誰もいない状況で1年に声を掛けられたなら、言葉の意味は伝わらなくても、意思は伝わるだろう。

 

 

「ねえ、あの子は?」

 

「あの子?」

 

 普通なら絶対に分からないような質問なのだが、花陽には分かる。さっき目的の人物の名前を言っていた事から、探しているのは――、

 

 

「西木野さん、ですよね。歌の上手い……」

 

 確かな確信の籠った声音で恐る恐る答える。

 

 

「そうそう! 西木野さんっていうんだ」

 

 やはり間違っていなかったみたいだ。

 

 

「はい。西木野、真姫さん」

 

「用があったんだけど、この感じだと、もう帰っちゃってるよねえ。だは~」

 

「音楽室じゃないですかー?」

 

 凛も花陽と同じ考えをしていた。

 

 

「音楽室?」

 

「あの子、あまりみんなと話さないんです。休み時間はいつも図書室だし、放課後は音楽室だし」

 

 そう、彼女、西木野真姫はいつも1人でいるのだ。誰かと喋るわけでもなく、誰かと仲良くするわけでもなく。友達という友達を作らず、いつも1人で、どこかへ行く。それが決まって音楽室なのだ。自分も何度か彼女の歌を聴いた事がある。だから歌が上手いのも知っている。

 

 

「そうなんだ……2人共、ありがとう!」

 

 そう言って、高坂穂乃果と名乗った先輩は音楽室へ行こうとする。

 何か一言、花陽が声を掛けようとしたその時――、

 

 

 そこへ、明らかに場違いな、異質な声が届く。

 

 

「おい穂乃果、何でお前はそういきなり飛び出していくんだよ。俺も着いて行くっつったのに置いてけぼりとか何? 陰で俺の事イジメようとしてる?」

 

「――え?」

 

 それは、男性の声だった。

 

 それは、男性というより男子の声だった。

 

 それは、この学校で唯一の男子生徒だった。

 

 それは、花陽にも凛にも見覚えのある容姿だった。

 

 それは、もう会えるはずないと思っていた姿だった。

 

 それは、かつて自分達を救ってくれたヒーローだった。

 

 

 

 

 

 

 岡崎拓哉。

 

 

 

 

 

 

 少年に救われた少女達は、まさかのヒーローとの再会を果たした。

 

 

「あっ、遅いよたくちゃん!」

 

 たくちゃんと呼ばれている少年に向かって、穂乃果が詰め寄る。たった今、少年が言った言葉通り、穂乃果が何かを言って教室から飛び出してきたのだろう。詰め寄られている少年は、え、俺が悪いの? 何かおかしくない? と眉を顰めながら困惑していた。

 

 恐らく2人は知り合いなのだろうと簡単に推測出来る。

 しかし、そんな事より、そんな事よりだ。見間違えじゃないなら、今目の前にいる少年は自分達を救ってくれた人だ。たくちゃんと呼ばれている事から岡崎拓哉なのだと判断も辛うじて出来る。

 

 なら何故彼は今ここにいる? こんな偶然があっていいのか? 凛の方を見ると、彼女も同じく硬直していた。彼女は拓哉の事になると少し人が変わる。それを知っている花陽はだからこそ今は自分が動くべきだと判断した。

 

 

「岡……崎……さん……?」

 

 色々な気持ちが混ざり合って緊張しているせいか、上手く声を出せず、やっとの思いで絞り出す。

 

 

「ん? あれ、お前らって確か……小泉と星空だっけか?」

 

 今まで穂乃果の相手をしていた少年の視線がこちらに向く。

 自分と凛の方を凝視して、数秒置いてから気付いた。気付いてくれた。覚えていてくれていた。

 

 

「そ、そうです……。あ、あの、覚えててくれたんです、ね……」

 

 緊張のせいでいつも以上に言葉が途切れ途切れになる。なのに、自分から拓哉へと話題を投げかける事に、何の躊躇いもなかった。

 

 

「んー、まあな。覚えてたって言っても会ったのつい最近だし、お前らの名前って結構珍しいからな。それも覚えてる要因の1つだと思う」

 

 そう言われて納得する。確かに自分達の名前は中々珍しいだろう。花陽、それに星空なんて名字もめったにない。だから覚えてる。覚えてる理由が何であれ、それが嬉しかった。

 

 

「そういや、あの日以降は大丈夫だったか? 何もなかったか?」

 

 あの日以降というのは不良に絡まれた日の事だろう。そそくさと帰って行ったせいかそこら辺の心配もしていてくれたというわけだ。

 

 

「は、はい。大丈夫でした。何もありませんでしたし……」

 

「そっか。それなら良かった。いやー、まさかこんな所で会うとはなー。偶然ってすげえな。ははっ」

 

 後の事を聞いて安堵したのか、目の前にいる拓哉は無邪気に笑い始める。こんな笑い方もするんだ……と内心微笑ましくなってたら、

 

 

「おーい、星空ー? お前も元気してたかー? おーい?」

 

 ずっと固まっている凛に思いっきり近づいて、凛の手をブランブランッと揺らしながら遊んでいた。これは非常にマズイ。凛が正気に戻ったらショートしそうだからだ。もうショートしているも同然なのだが、それ以上になったら困る。主に自分の緊張具合が今よりグレードアップしそうなのである!

 

 遊んでいる拓哉を止めようとした時、花陽以外の手が真っ先に拓哉の襟首を掴むのが見えた。

 

 

「たくちゃーん? 私着いていけてないから、ちょっと説明してくれるかなー? あとそれセクハラみたいなものだからね」

 

 笑っている穂乃果だった。ただし、その顔はいつもの穂乃果の笑顔とは程遠い笑顔だった。花陽にはいつもの笑顔が分からない。でも、今の穂乃果の笑顔は何というか、怖い。純粋にそう思っていた。

 

 

「あ、あの、穂乃果さん? 何故そのような笑顔でいて笑顔でないような顔をしていらっしゃいますのでございましょうか……?」

 

 かくいう拓哉も引きつった顔で穂乃果を見ている。あれは完全に畏怖している顔だ。人は笑顔で人を追い詰める事が出来るのかと、花陽は戦慄しながらも今の内に凛を復活させるために動く。今は拓哉達の方を見てはいけない。何となくそう思った。

 

 

「凛ちゃん、凛ちゃん。大丈夫……っ?」

 

「まあ待つんだ姫、まずはこの手を離そ――あれ? 君こんなに力強かったっけ? 一向に離れないんだけど。何で俺が逆に引き寄せられてるの? あれ?」 

 

 と、死角の方からそんな声が聞こえるが今は気にしない。とりあえず凛の体を何回か揺さぶる事で、何とか凛の意識が戻ってきた。

 

 

「……はっ! あ、れ……? かよちん?」

 

「良かったあ……もう大丈夫?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。それより、さ、さっきのって、お、岡崎さんだよね!?」

 

 本当に意識が戻って良かった。ただ硬直していただけなのだが、全く反応しないから結構本気で心配していた花陽だった。

 

 

「岡崎さんなら、あそこだよ……」

 

 凛の質問に答えるべく、声のする方に指を指す。あまり見たくはないが、凛も見るなら自分も見ようと、変な覚悟を決めながら拓哉達の方を見る。

 そこには、

 

 

「いやぁぁぁあああああああああッ!? 2人共説明するの手伝ってェェェえええええええええええええええええッ!」

 

 襟首を掴まれながら謎の室内に連れ込まれそうになっている拓哉がいた。

 それはもう情けない程に声を上げながら。

 

 

 

 

 

 

 

 結局。

 程なくして、花陽と凛が仲裁に入り、穂乃果に説明をした。自分達が知り合った経緯を。不良から助けてもらった事を。それを聞いた穂乃果は渋々ながら納得し、拓哉を解放したのだった。その間拓哉はと言えば、涙目で体育座りしていて何も説明しなかった。

 

 

「はあ……まあそんな事だろうとは思ってたけど。たくちゃんらしいねえ」

 

「ねえ、最初からそう思ってたんなら俺に恐怖植え付ける必要なかったよね? 軽くトラウマレベルだよあれ。女の子ってあんなにバカ力隠してんの? ちょっと勝てる自信なかったよ俺」

 

 らしくない様子で片手で頭を押さえる穂乃果に抗議する拓哉。軽く女性恐怖症になってもおかしくない恐怖を穂乃果に見せられたせいか、その顔は少し青ざめている。女子は怒ったらとてつもなく怖いのだ!

 

 

「あ、あの……!」

 

 そこで初めて、凛は拓哉に向けての言葉を発した。

 

 

「んぁ? おお、気が付いたか星空。なんかさっき固まってたみたいだけど大丈夫だったか?」

 

「は、はい。もう大丈夫です。そ、それより聞きたい事があるんですけど!」

 

「ん、何だ?」

 

 凛の言葉に、花陽もそれが気になった。一体何を聞こうと言うのだろうか。あの時のお礼を言うならまだ分かるが、聞きたい事というのは花陽にも分からない。だから凛の言葉を待つしかない。

 

 

「岡崎さんのこの学校についての噂なんですけど……」

 

 瞬間。

 周り一帯が空気的な意味で凍り付く。

 

 

「え? ………………………………………………………………………あ」

 

 拓哉も数秒固まっていたが、ようやく凛の真意が分かったようで、

 

 

「しまったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 文字通りの絶叫が響く。

 

 それと同時に花陽は凛の聞きたい事を理解する。この少年は自分達を助けてくれた。決して悪い人ではない。なら、何故あんな変な噂ばかり出てきてしまうのか。もしそれが事実なら、少しだけ、ほんの少しだけ、警戒しておいた方がいいのかなと思いながら。さっきの情けない姿を見て少しイメージダウンしたのは内緒だ。

 

 

「はあ……まさかここまで広まっているとはな……さすがにこいつらには言っておいた方がいいか。穂乃果、今度はこっちに説明するから手伝ってくれ」

 

 額に手を当て悩ましげに呟いた後、穂乃果に手伝いを求めた。

 

 

「先に言っておくとだな、その噂は全て事実だ。でもその事実が全てちゃんと伝わってないから変な事になっているんだよ。つまり事実だけど誤解って事」

 

 そこからはさっきの逆だった。

 今度は拓哉もちゃんと説明に参加して、自己紹介で先生と言い合いになったのは、ただ廃校で暗くなっているムードのクラスを明るくしようとした事、意識のない女子生徒を抱えて走ったのは、廃校のショックで倒れた穂乃果を保健室まで運んでいた事、教室で女子生徒3人を言葉で泣かしたのは、ちょっと良い事を言ったらたまたまそれで泣いてしまった事、図書室で泣かした女子生徒と騒いでたのは、幼馴染をからかってただ単にお仕置きされた事。

 

 それらを全て説明して、誤解されていた紐を1つずつ解いて、花陽と凛は安堵した。

 やはり拓哉は拓哉だった。噂のほぼ全てが拓哉の善行ではないか。良かれと思っての行動だったではないか。その全てが良い結果に繋がっているではないか。何も疑問に思う必要などどこにもなかった。むしろこんな噂にまんまと踊らされていた自分達がバカだと思うほどに。

 

 

「まあ、こんなもんだ。どうだ、これで変な誤解は解けたかな?」

 

「はい、すいません。岡崎さんを変に疑うような事を聞いてしまって……」

 

 本当に申し訳なく頭を下げる凛に、拓哉は優しい顔をしながら凛の頭に手を置いた。

 

 

「いいんだよ別に。誤解されてるよりマシだし。それにこの噂を流した奴にも別に怒ってはいないんだ」

 

「え、そうなんですか?」

 

 頭を撫でられながら顔を上げる凛に、拓哉はああ、とだけ言ってから、

 

 

「確かにその噂が流れたせいで、俺の評価は一部では下がってるかもしれない。でも、それをネタだと、ちょっと面白いヤツなのかと逆に興味を持ってくれる人もいたんだよ。そうやって教室にやってきてわざわざ覗いてくる人もいるんだ。それで後は評価を上げるか下げるかは俺の頑張り次第なわけ。少し喋って笑ってくれたら評価は上がったかなと思う。逆にずっと冷たい態度をされたら評価が下がったのかと思う。ま、今の段階では全員笑ってくれてるけどな」

 

 そうやって話す拓哉は、本当に噂を流した者に怒りはないのだろう。むしろそうして自分を見に来て、ちゃんと自分を見てくれる人がいる事に関して感謝していそうなくらいだ。

 ただ、それにしても変な噂しか流さないのよね……と、最後に嘆いていたのを忘れない。

 

 

「さ、この話はもう終わりにしよう。いつまでも話してたら気が滅入る。主に俺が」

 

 軽く両手をパンッと叩き、これでもう終わりと言わんばかりに話を打ち切る拓哉。これ以上は話したくないのだろう。

 

 

「さて、再会の挨拶も済ませたし、俺達はもう行くか」

 

「そうだね」

 

 拓哉の言葉に穂乃果が反応し、意外にも花陽もそれに反応した。

 

 

「お、岡崎さんも行くんですか……?」

 

「ん、まあな。俺はこいつらのスクールアイドルの活動を手伝ってるわけだし」

 

 それを聞いてやっと納得した。最初に拓哉が来た時、彼は穂乃果に向かって着いて行くと言っていた。これで辻褄が合う。納得したと同時に、驚愕もした。

 

「手伝ってる……?」

 

「ああ、俺はこいつと、あと2人いるんだが幼馴染でな、こいつらのために俺にも何か出来る事はないかって考えて、それでスクールアイドルの活動を手伝う事にしたんだよ」

 

 腑に落ちた。幼馴染がスクールアイドルをする。だから手伝う。とても分かりやすい理由だった。幼馴染だから、この人達は拓哉に支えてもらっているんだ。幼馴染だから、いつも困ったら助けてもらえるんだ。幼馴染だから、幼馴染だから、幼馴染だから、それはちょっと、

 

 

(ずるいなぁ……)

 

 嫌な考えをしてしまう。もし自分が拓哉と幼馴染だったら、小さい頃からずっと一緒にいれば、この性格も少しは変わっていたのではないかと。少しは自信も持てて、スクールアイドルをやろうと決心出来たのではないかと。

 

 もう絶対に、確実に、100%、未来永劫、あり得もしない事を考えてしまう。何て嫌な奴なのだろうか自分は。この高坂穂乃果という少女も、他の幼馴染の人達も何にも悪くない。度重なる偶然と奇跡があって、この少年と幼馴染になった。ただそれだけ。

 

 

 だから。

 なのに。

 

 

 羨ましいと、ずるいと思ってしまう。

 岡崎拓哉という少年の性格のような者は、この世界においては中々にいないだろう。彼と巡り合った者は、何かしらの形で救われている。幼馴染である彼女も、他の幼馴染の人達も、救われているはずだ。何となく、そんな確信が持ててしまう。

 

 なら、彼はもう一度、自分を救ってくれるんじゃないか? 自身の内を曝け出せば、彼はまた自分を救ってくれるんじゃないか? そんな考えを、すぐに切り捨てる。一緒だ。これじゃ何も変わらない。いつまでも弱い自分だ。誰かに甘え続ける自分の悪い性格だ。

 

 勝手に羨み、妬み、望み、期待し、諦める。いつもの流れだ。変えようと思っても変えられない。負の連鎖に流される自分に、もう抵抗すら感じる事もなくなってしまうのかもしれない。

 

 

「かよちん? ほら、岡崎先輩が呼んでるよ?」

 

 いつの間にか先輩呼びに変わってる凛の声に反応し、拓哉の方を見ると、顔がすぐ目の前にあった。

 

 

「……ひゃあっ……!?」

 

「うぉっと、悪い悪い。話かけてるのに反応しないからさ、さっきの星空みたいに固まってんのかなって思っちまったよ。実際固まってたけど」

 

 予想以上に近かった事に対し驚き、少し後ずさる。心なしか、少し顔が熱い気がするのは何だろうか。

 

 

「たくちゃん……。はあ……またか……」

 

「……ちょっと? 何分かりきった感じに溜息なんか吐いちゃってんの? お前にそれされると無性に腹が立つぞオイ」

 

 またやんややんや言い始める2人を尻目に、凛が様子を窺ってくる。

 

 

「かよちん、大丈夫?」

 

 さっきと全くの逆の構図に気付かないまま、返答する。

 

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「そっか、なら良かったにゃー」

 

 いつもの語尾に戻った凛を見て、調子を取り戻したのかと安心し、先程の考えを出来るだけ抹消する。今はこんな事考えるのはやめよう。花陽の大丈夫という声が聞こえたのか、拓哉が穂乃果との言い合いを切り、花陽の方に向かう。

 

 

「うっせほのバカ――おっ、大丈夫そうか。何か思い詰めた顔してたけど?」

 

 ほのバカって何さー! と後ろから穂乃果の声が聞こえるが、拓哉は完全無視だった。さっきのトラウマはどこへやら。

 

 

「す、すいません……ちょっと考え事してただけなので……」

 

 そう言う花陽は傍から見れば難しい、そして少し悲しげな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを、

 

 

 

 

 

 この少年が見逃すはずがなかった。

 

 

 

 

 

「……何を考えてたのか俺には分からないけどさ。でも、そんな悲しい顔すんなよ。何かあるなら、誰かに相談しろ。誰にも相談出来ないなら、俺に相談しろ。必ずとは言えないが、助けになってやれるかもしれない」

 

 普通なら、誰にも相談出来ないなら俺に相談しろなど言われようものなら、何を言っているんだと意味が分からなくなるかもしれない。しかし、何故かこの少年が言うと、不思議と説得力があるように聞こえる。

 

 それほど、彼は今までそれだけの事をやってきたのだろう。だから、『誰か』にの選択肢の部分に自分を入れず、完全なる『個』としての自分を分けて言う事が出来る。それに皆が救われる。

 

 だから、きっと、自分も……。

 

 

「……すいません。今は、まだ……」

 

 言えない。今はまだ。そこまで言ってくれるなら。

 こんな自分のためにそこまで言ってくれるのなら。今はもう少し自分で考えるべきだ。

 

 それでもダメなら、自分を見抜いてくれたこの人に、相談しよう。

 

 

「そうか。うん、それでいい。今はとりあえず自分で考えるんだ。考えて考えて考えて、それでも苦しくなったら、耐えられなかったら、俺の所に来い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで深く悩んでいた暗闇に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かな光が照らし出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは海未ちゃんとことりちゃんに報告だね」

 

「あの? 不穏な事言うのやめてくれません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




安心安定の予告詐欺☆

真姫は次回に持ち越しです。
ついでに言うと、もうちょいだけ花陽達との絡みがあります。




ふと思ったんですけど、この小説はアニメ準拠すぎて面白味があるのかな?と思う事もしばしば。
たまにオリジナルの話を挟む事も考えた方がいいのかな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。