夕陽が空をオレンジに焼いているかのような景色が頭上で広がっていた。
屋上。
穂乃果達に大事な話があると言われた拓哉は、穂乃果に言われるがまま屋上に着いて行った。
屋上までの道のりなんて何度も行き来してきたはずで、そのたびに彼女達の談笑が耳に入ってきていた記憶がある。
それなのに今日はいつものような談笑はなく、何なら足音だけが校内に高く響き渡っているような錯覚さえ覚えた。
まるで異質。
まるで異常。
屋上に着き、穂乃果達は拓哉の前に並んだ。
その表情は部室で見たものとまったく一緒だった。9人がいつになく真剣な顔でこちらを見ている。しかし、同時にその瞳は震えているようにも感じた。
何かに怯えるような、怖がっているような、だけど覚悟を決めた瞳。
彼女達がいつもライブの始まる直前にするような瞳であった。それほどまでの目をして、いったい何があるというのか。
(大事な話って何だ……? ライブのことか? いや、それなら屋上じゃなくて部室でもよかったはずだ。だとすると、やっぱり何かやらかしたのか? ダメだ、何も覚えてない。いよいよ分かんねえぞ……)
どれだけ考えても推測の域にすら立たせてくれない。
思い当たる節も記憶もない。彼女達全員が自分に用があると言われて、真っ先に何かやらかしたと思うのは日頃の行いのせいか。単なる馬鹿野郎の思考であった。
しかし、穂乃果達の顔を見れば当然おふざけではないことも分かる。
改めてそれが普通ではないことを思っても、もう決めたことだ。
穂乃果達の
「たくちゃん、私達ね、たくちゃんに
「あ、ああ」
部室で言ったことをもう一度、穂乃果が再確認のために言った。まるで自分達にも再び確認するかのように。
自分の話のインパクトには及ばなくとも、これだけの覚悟をした瞳を向けられるとさすがに拓哉も動揺してしまう。
そこでふと視線を横へ向けると、いつも見慣れている屋上から夕陽が沈もうとしている最中だった。
音ノ木坂学院自体が割と高所にあるため、景色は良いことも知っている。実際第二回ラブライブ本選前夜に学校に泊まったとき、ここに来て街灯りの景色だって見たのだ。
そう、景色がいい。夕方とあってそれはもうムード的にも最高。実にロマンに溢れている空間がこの場所を支配している。
アニメやマンガが好きとだけあって、拓哉はこういうシーンもたくさん見てきた。こういうときのお決まりは大抵告白の流れと相場が決まっている。
つまり、岡崎拓哉はこの屋上で、夕陽で景色が彩られているこの場所で告白をしようと決めていたのだ。
まさに今のこの状況がうってつけの状態。マンガで何度も見てきたような状況で、自分が告白しようとしていたのに何故逆に自分が呼び出されて話があると言われたのか。
岡崎拓哉もただのバカではない。
ここまでのお決まりの状況が重なって、先ほどのように推測の域にすら立てないような者ではない。
(まさか……やっぱり穂乃果達は俺の好意に気付いてたのか……? 俺も恋を自覚してから何だか露骨に態度変えちまうことがあったし、そういうのに女の子は鋭いっていうのは本当だったのか。だから、こうしてわざわざ完璧な状況に俺を連れてきた……!? まどろこっしいことは無しにして男ならド直球に告白してこいって腹の据わった女の子達からの挑戦状だったっていうのか……!?)
ただの大馬鹿野郎だった。
絶妙な勘違いが炸裂していた。やはり鈍感は恋を自覚しても鈍感だったらしい。ようやく推測の域に立ったものの、見事に外している。
だがしかし、ここで開きかけた拓哉の口に自分で待ったをかける。
もし穂乃果達が本当に拓哉の好意に気付き、わざわざ完璧な状況に案内してまで告白してこいと思っているならば、どうして自分達から
それとは別の理由があるとしたら。
若干の迷いがあるのか、何故だかまだ中々口を開かない穂乃果達を前に、拓哉は先に言っておくことにした。
「ちょうどいい。
突然の言葉に、今度は穂乃果達が動揺してしまう。
ようやく覚悟を決めた途端に予想だにしない発言が飛んできたから。これから一世一代の告白をしようとしているのにその相手からも話があると言われると、嫌でも期待してしまう。
結論を言えば、予定変更。
岡崎拓哉は今日ここで告白することにした。
彼女達を思ってライブが終わってから告白しようとしていたが、彼女達がこんな状況を作ってくれて告白してこい(推測がまず間違っているのだが)と示してくるならば、それに応えないわけにはいかない。
(好意に気付かれた以上仕方ない。フラれることも確定してるようなもんだけど、それでもいい。こいつらの俺への評価が下がっててもいい。とにかく、俺は俺の気持ちをぶつけるんだ。それが穂乃果達に対するクズな俺ができるせめてもの贖罪になるなら、殴られたって構わない)
かくして、思い違いが思い違いを呼び起こした結果。
告白合戦が始まろうとしていた。
もう迷わない。
これまでずっと隠してきた気持ちを、押し込んでいた勇気を解放するときがきた。
μ’sのリーダー、高坂穂乃果が一歩前に出る。
重い一歩だった。その一歩を踏み出すために何年待っただろうか。たった一歩を踏み出すのが怖くて、迷い続けて、それでも少年に対する気持ちは絶対不変であった。
また震えそうになる体を気力で抑え込む。
自分は一人ではない。背後には8人も同じ気持ちを抱いている仲間がいる。
だからこそ、あまりにも重い一歩を前に進めることができた。正面にいる少年の顔は、先ほどまで動揺していた感じがあったが今はもう元に戻っている。むしろ、少年も何か覚悟を決めたような表情だった。
いつも見慣れている少年の顔。平凡でありながら、困っている人がいたら迷わず手を差し伸べる普通の男子高校生。
不思議と、抑え込んでいた震えが自然と止まっていた。真剣な少年の顔を見て安心感さえ覚えたからなのかは分からないが、これなら言える。
積年の想いを伝えられる。
頭で考えるよりも先に、勝手に口が開いた。
「小学生の頃だったかなあ。毎日のように日が暮れるまで遊んで、家が近いから何度も一緒に帰ったりしたよね。家族ぐるみで仲も良かったし、実際一番仲良かったのもたくちゃんだったと思う」
突然過去を振り返るように話す穂乃果を、拓哉はただ黙って見ているしかできなかった。
動揺している素振りはもうなく、いっそ昔話を聞かせるような口調で穂乃果は話す。
「たくちゃんはいつも私達のことを一番に考えてくれて助けてくれたりもしたよね。けど、自分のことをこれっぽっちも考えないからたまにケガとかしちゃって怒られて……。でもね、私はそんなたくちゃんだから……隣にいたいって何度も思ったんだ」
「ほの、か……?」
「年齢とか関係なく誰かが困ってる時、誰かが助けを必要になった時、必ずたくちゃんは真っ先にそこへ走っていく。心配するこっちの身にもなってほしいって何回も思ってたりしたし、それと同時にそれがたくちゃんの魅力であって原動力なのも知ってるから、どうしようもなくかっこよく見えた」
いきなりこんなことを話されてどんな反応をしていいかも分からず、自分の話とかよりも穂乃果の話に引きこまれてしまう。
「その時からなのかな。……うん、そう、きっと小学生の頃からずっとなんだよ。今日この日まで、長かった。離れてた時期も、ずっと想ってた。この気持ちに変化なんてあり得なかったの」
まるで舞台か何かかと思ってしまうような空気だった。
自分から口を開くのが憚られてしまうような、そんな空間。
次に一歩。
前に出たのは南ことりであった。
「私には最初、友達と呼べるような人が一人もいなかった。周りが私を避けて、ずっと一人ぼっちだった私に声をかけてくれたのはたっくんだったね。穂乃果ちゃんも一緒にいたけど、直接手を差し伸べてくれたのはたっくんだった」
ことりとの過去を思い出す。
彼女はいつも一人だった。周りとどうしても距離があった少女を、少年は見過ごせなかった。だから手を差し伸べた。一緒に遊ぼうと。
「それだけで私はとても救われた気分だった。たっくんにとっては些細なことだったのかもしれないけど、私には充分すぎるほどの救済だったんだよ? それからたっくんはずっと私と一緒に遊んでくれた。一緒にいてくれた」
誰かにとっては些細なことが、違う誰かにとっては大事なことに繋がることもある。
きっかけというものは人それぞれなのだ。それが、誰かを好きになるということにだって。
「私が留学しそうになった時も、心の奥底では止めてほしいって思ってた……。それを、たっくんや穂乃果ちゃんが止めてくれたとき、本当に嬉しかったの。本音を言えって言われてちゃんと言うことができたのも、たっくんも真剣に私を見てくれたからなんだよ」
少女達は留まることを知らない。
次の一歩は、園田海未。
「私が恥ずかしがりで、公園にいるときもずっと木の後ろで隠れていた時、声をかけてくれたのは拓哉君でした。家で武術を習っているとはいえ、その時の性格までは矯正できませんでした。だから、拓哉君は私の恩人でもあるんです」
ことりと似たような雰囲気の彼女に声をかけたのは覚えている。
後ろに穂乃果とことりもいたが、基本的には拓哉がメインに海未を誘ったはずだ。
「そしてある日、私と穂乃果、ことりが上った木から落ちそうになった時、あなたは身を挺して私達を助けてくれましたよね。自分がクッション代わりとなって、3人の体重をたった一人で下敷きになりながらも助けてくれたこと、今でも鮮明に覚えています……」
穂乃果達と再会したときに思い出した記憶だった。
自分が少女達のヒーローになると誓って、ヒーローの真似事をしてきた。それで彼女達をちゃんと守れてきたのかは分からないが、今の彼女達を見ると少なくとも最低限は守れていると思う。
「所詮私は女性。どれだけ武術を学んだりしていても拓哉君からすればただ一人のか弱い女性としか見られていません。ですが、だからこそ、それでもいいと思えたのです。拓哉君になら、私は全てを預けられますので」
儚く、されど美しく大和撫子は微笑んだ。
夕陽で照らされる表情に見惚れながら僅かに息を呑む。
最初に穂乃果は私達と言った。
つまり、話があるのは幼馴染だけということではない。
次に出たのは小泉花陽。
「私と凛ちゃんが秋葉原で絡まれているとき、名前も知らない私達を助けてくれたのは拓哉くんでしたよね。利害とか関係なく無償の善意で、見ず知らずの私達を助けてくれた……」
初めて会った頃、花陽と凛はあからさまな男3人にナンパされていた。
そこで自分が知り合いの振りをして切り抜く作戦を実行したのを覚えている。
「凄い人だなあって思いました。また会えたらちゃんと話してみたいって、まさかそれがすぐ叶うなんて思ってもいなかったけど……。入部を迷ってた私に優しい言葉を投げかけてくれたり、拓哉くんのその優しさのおかげで私はここまで成長することができたんです」
そんな大したことは言った覚えもないが、花陽はしっかり覚えているようだった。
少年の花陽と向き合うその姿勢で、彼女がここまで成長したのは間違いない。
花陽の次に前へ出たのは星空凛。
「男の子が苦手だった凛だけど、たくや君に秋葉原で助けられてからそんなに苦手じゃなくなったことは今でも覚えてるんだ。初めて会った人に変な要求してくる男の人が嫌いで怖かったけど、それをそんなことないよって壊してくれたのがたくや君なんだよ?」
いつもの語尾にネコの真似事はなく、そのトーンは普段の元気な凛からは想像もできないほどに乙女の声色をしていた。
慣れないギャップを感じながらも凛はそのまま言葉を紡いでいく。
「小学生の頃に男の子の言った言葉が原因で女の子らしい服を着れなかった凛に、普通の女の子なんだから女の子らしい服を着ていいんだって言ってくれたこと、この先もずっと凛は忘れないよ。ドレスを着たときも可愛いって言ってくれたもん。今まで接してきた男の子でたくや君だけが凛を可愛いって言ってくれたのも、忘れられるはずがないよ」
彼女に自信を付けさせるために言った言葉だが、それだってちゃんとした拓哉の本音だということを凛は分かっていたようだ。
少年がああいう時に言う言葉は基本的に噓偽りのない本音だと、少年の知っている者なら全員が知っている。
一瞬迷いを見せながらも前に踏み出したのは西木野真姫だった。
「さ、最初にμ’sに入ってくれって言われたときはただ鬱陶しいとしか思ってなかったけど、私の心の奥底では音楽をやりたいって気持ちがまだ残ってたのも事実だし、結果的に私に声をかけてくれたのは感謝してるわ」
やはりここはツンデレゆえか、言い方が少しツンツンしている。
どこか上からのような発言にも聞こえるが、今更気にするような拓哉ではない。
「それで、私がμ’sに入ってしばらくたったころ、お父さんにバレてやめろって言われたときがあったでしょ。自分でももうダメだって思って諦めていたのに、拓哉は問答無用に私の家に来てお父さんに立ち向かった。わ、私も途中から話は聞いてたけど、拓哉のおかげで私は勇気を出すことができて、お父さんも気持ちを変えてくれて今では以前よりも仲良くできてる」
それは拓哉もはっきり覚えている。
無謀と言われても仕方ないような啖呵を病院の社長に切ったのだ。胸倉まで掴んで乱暴な口調で怒鳴っていたのも忘れていない。
「当然だけど、私のためにあそこまでしてくれた人は拓哉しかいなかった。お父さんも拓哉を気に入ってて、今なら拓哉を病院のこう……えと……その……と、とにかく! 拓哉のおかげで今の私はここにいれるから、拓哉は私の恩人なの」
あの父親には感謝として永久無料治療権利を授かったが、できれば使いたくはないと思っている。
何だか外堀りを埋められそうな気がしてならない。
いっそ潔いと思える一歩を踏み出したのは東條希であった。
「思えば初めて会ったのは拓哉君が転校してきたときに神社で会ったときやんね。その頃からこの人は面白いんやなってずっと思ってたん。廃校の流れを変えてくれるのはこの人やって、カードもそう告げてたから。ウチの予想はばっちり当たってたってことやね」
母性溢れる笑みをこちらに向ける希は、むしろ無邪気さえ笑みに含んでいた。
初めての出会いが神社で、巫女姿をしていた希を思い出す。
「みんなの頑張りで進んでこられて、ウチがずっとしたかったわがままな願いを叶えてくれたのも拓哉君やった。ウチの自分勝手な願望に本気で協力してくれたら、そんなの……心が動かされて当たり前なんよ」
当初からμ’sを陰から支えてくれた彼女のわがままを叶えるなんて当然だろう。
それほどの功績を希は残してきたのだから。そんな少年からの言葉は、東條希の心を確実に揺らぐものだった。
ほんの少し困り眉をしながらも希の隣に立ったのは絢瀬絵里。
「最初はお互いあまり良い印象を持たなかったわよね。私はスクールアイドル活動を認めてなかったけど、あなたは真っ向からそれに立ち向かってきた。先輩に対して何の敬意もなかったけれど、今ではそんな態度をされてもおかしくなかったんだって思ってる」
金髪美人に声をかけられその人物が生徒会長と知ったときは驚いたが、μ’sの活動に対していつも立ち塞がってきた印象は確かに強かった。
拓哉にしては珍しく明らかな敵対関係と言ってもいい人物だったかもしれない。
「だけど、そんな私をもあなたは見捨てないでいてくれた。過去の挫折が原因で立ち直れなかった私を、拓哉は底から引きずり上げてくれた。おばあさまの言葉の意味をちゃんと分からせてくれた。だから私は今、こうして踊れることがとても嬉しいの」
教室で上級生を相手にあんなに言い合ったのは初めてだったが、決して無意味なものではなかった。
目の前にいる彼女は、ちゃんと今も笑っていられるのだから。
最後に堂々と一歩を踏んだのは矢澤にこだった。
「まったく、アンタはいつも遠慮がなかったわね。スーパーで初めて会ったときも、学校で再会したときも、アンタはいつも私の心の中に土足で踏み込んできた。知り合いでも友達でもなかったのによ」
確かにそんなこともあった。スーパーのタイムセールで獣と化した主婦達の中へ入るのを躊躇っていたにこに、何の迷いもなく声をかけ代わりにボロボロになりながらも商品を取ってきたことがある。
怪しいと思われても仕方ないのにそれでも拓哉を信じたにこも相当だとは思うが。
「私一人だけだった部室に無断で来たと思ったら勝手に部長にするわ勝手にメンバーに入れるわで無茶苦茶にされたこと、忘れてないんだからね。……まあ、そのおかげで私は大銀河宇宙ナンバーワンアイドルになれたわけだけど」
孤独だったにこをどうしても放っておけなかった。
以前いた部員に去られたという過去を持っているにこを、もう一人にさせまいと思った結果なのだ。
「アンタがこころ達と会ってからあの子達も随分拓哉を気に入っちゃったし、事あるごとに拓哉と遊びたいって言うもんだからいい迷惑よねえ。私の姉弟まで虜にしちゃうんだもの。本当、アンタってズルい性格してるわ」
褒められているのかバカにされているのか分からないが、にこの顔を見るに悪くは思われていなさそうである。
これでμ’s全員が言い終えた。
まるで舞台演劇でも見ているかのような雰囲気が漂っている。
話があるというのは、こんな過去話をするためだったのか。いいや、それにしても穂乃果達の表情が真剣すぎる。
まだ『何か』があるとでも言っているような目だ。
それを何となくでも察した岡崎拓哉も、ただの鈍感だった以前とは一ミリ程度くらい成長しているのかもしれない。
彼女達の言葉を聞いて、拓哉の脳内は既にしっちゃかめっちゃかになっていた。
自分から告白するということも忘れ、μ’sからの話の真意すら分からなくなってきている。
どういう目的なのか。
過去を懐かしむだけの思い出話とは思えない。それこそ、こんなムードありきな場所で言う必要はないはずだ。
だからなのか。
次に穂乃果の出す言葉さえ意味が分からなかった。
「こういうことなんだよ、たくちゃん」
「な、にが……いったい何の、話をしてるんだ……? どうしていきなりこんな思い出話なんて……」
「それだけみんながたくちゃんとの出会いを、出来事を覚えているんだよ」
穂乃果の声を聞くたびに心臓が激しく脈打っているのが嫌でも分かる。
夕陽に照らされる女神はこんなにも美しいものなのか。
「ここにいる誰もがたくちゃんを大切に想ってるから、たくちゃんとの思い出を大事にしてるからこんなにもスラスラ出てくるの」
魔性の言葉とでも言うのだろうか。
言葉一つ一つに心まで奪われそうになってしまう。女性としての魅力が全力解放されているかのように錯覚しそうだった。
「何でか分かる? ……いや、たくちゃんはいつまでたっても鈍いから分かんないか」
まるでそれさえも愛おしいと思っているような微笑みだった。
μ’sのリーダー。代表を務める者としては満点中の満点を取る笑顔。これまで人を惹き付ける穂乃果の言葉はいくらでも聞いてきたが、今はそのどれも遥かに上回っていると思ってしまう。
「
「
「私達は話し合った。きっとみんなも同じ気持ちを抱いてるからって、言わなくても分かっちゃうくらいみんなと一緒にいた日々が多かったから。そしたらやっぱりみんな同じ気持ちだったんだ」
自分の知らないあいだにどんな話をしていたのか。
それは岡崎拓哉の想像の域をいとも簡単に超えてしまう。
「こんな手段は間違ってることくらいバカな私でも分かる。本当ならいけないことも、たくちゃんを困らせてしまうことも分かっちゃってる。だけど、だけどね。それでも私達は一緒がよかった……。いがみ合うような関係にはなりたくなかったの……」
少女達は、同じ少年に好意を抱いてしまった。
昼ドラさえ簡単に見下せるような相関図になってしまった。
だけど、少女達の絆はそれ以上に強固だ。何者にも変えられない。強固な想いと絆で結ばれている。
よって、少女達は決意した。
こんなことになったのなら、いっそのこと同じ手段をとろうと。
誰かが誰かを蹴落とすような真似は誰も望んでいない。少年にどれだけ迷惑がかかろうと、そんなのお構いなしの覚悟ならとうの昔にできている。
9人の女神は、それこそ女神らしく自分達のルールで想いを貫き通す。
少年の覚悟もそれ相応のものだ。
自分は最低だと決めつけた上で9人に想いを告げようとしている。
世間や常識を鑑みても、誰も肯定してくれる者はいないと断言できるほどの所業。
間違っているのは当然自分だけど、今更諦められない意地だってあるのだ。
対して、μ’sもほとんど同じ気持ちだった。
自分達が間違っていると分かってでも言ってやる。
何をどう捉えても正当化はできず、誰かに理解を求めようとしても受け入れられない。結局は仕方ないことと分かっていても、その『恋』を止めることなど誰もできないのだ。
僅かな時間差と言ってもよかったかもしれない。
少年の告白は予定変更されて穂乃果達の話が終われば言うつもりだった。
「残された時間はもうあまりないから。私達9人がμ’sでいられるのはもうすぐそこまでしかないから。終わってしまう前に、最後の私達を最高な形でちゃんとたくちゃんに見てもらいたいから。自分勝手だけど、言うね……」
だけど、それでも僅差で早かったのは結果的にμ’s。
長年、もしく一年の想いを募らせてきた彼女達はもう一歩、前へ踏み出す。
「私は、私達は……」
数年我慢してきた者もいれば、一年とない者もいる。
それでも少年を想う気持ちに強弱の差なんて一切ない。
どれだけの時間がかかろうとも不変であったこの気持ちに、いよいよケリをつける時がきた。
この言葉を言うのに時間というものは容赦なく進められていった。
だけど。
今だ。ようやっと、今。
胸に仕舞っていた溢れんばかりの気持ちを伝えることがようやくできる。
成功か否かはこの際どうだっていい。とりあえず、とりあえずでいいからこのどこまでも鈍感な少年に一泡吹かすための想いをぶつけてやろう。
9人で少年を見据える。
見つめられた岡崎拓哉はただ黙っていることしかできない。というより彼女達の言葉を待つほかない。
であれば言ってやろう。
この言葉を。
ある意味において、これから先の関係を覆してしまうかもしれない呪いにも似た禁句を。
「「「「「「「「「私達は、あなたの事が好きです」」」」」」」」」
不変であった想い。
不変であった関係。
それが、確かに変化しようとしていた。
さて、いかがでしたでしょうか?
まず、投稿が一日遅れてしまい申し訳ありませんでした。
ある意味この作品において一番大事な回のため、ちゃんと書き上げると決めた結果の遅れです。
次回も大事な回ですけどね。焦らしていくう!
穂乃果達のきっかけや出会いを混ぜつつ告白に繋げてみましたけどどうでしたでしょうか。
少年の告白よりも早かった少女達の告白。長年の想いをぶつけることにとりあえずは成功しましたね。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
まだ高評価(☆10)を入れていない方、これを機に入れてみてくださいね!それが自分のモチベに繋がるので!!あとやたら喜びます!!
もちろんご感想も待ってます!
初期の頃の話にそろそろ少し手を加えていきたい。
やはり最初期は文が拙くて自分でも変だなって思うことが多いので←
少女達の告白は少年に届いた。
そして、同じく想いを告げようとした少年は……。