ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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どうも、久し振りに前書き登場です。


今回は鈴木このみさんの『Love is MY RAIL』という曲を聴きながら読んでいただくと、より楽しめるかもしれません。





168.自分らしく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性シンガーと別れそのまま自室へ帰宅した岡崎拓哉。

 

 

 

 いつも通り健気におかえりを言ってくれた唯へ空返事とばかりに手を振り部屋に戻るやいなや無言でベッドへダイブ。

 色々あった、とまではいかないような短時間のやり取りではあったが、拓哉からしてみればあの短時間だけで数時間分の精神を使ったのではないかという謎の疲労が溜まっていた。

 

 そして、その短時間でありとあらゆる消耗を果たした結果。

 まるで何かに吹っ切れたかのように自分の気持ちを思うがままシンガーへ吐き出したわけだが……。多分アドレナリン的なものがやたらと分泌されたせいであんなことを言ってしまったのではないかと不要な推理をしたのち。

 

 

「(いや何言っちゃってんの俺ェェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!)」

 

 叫んだ。

 枕に顔を埋めて中にある羞恥を全て吐き出すように思い切り叫んだ。

 

 

(俺とあの人以外誰もいなかったからって何堂々と9人が好きとか言っちゃってんだバカなのか俺その場のノリと勢いで暴露しちゃう修学旅行の男子高校生並のバカなんだな俺思い返してみれば恥ずかしいことしか言ってなかったぞ俺ーッ!!)

 

 足をバタバタとベッドを蹴り殺す勢いで物音を出す男子高校生。

 いっそ殺せと大の字で道路に寝転びたくなる思いを全て言葉とベッドにぶつける。恐らく下の階まで物音が聞こえてると思うがこの際気にしていられない。

 

 

「……いや、ほんとバカ。俺って今世紀最大のバカかもしれん」

 

 逆に冷静になって過去の過ちを見直せば見直すほど、己の愚かさに嫌気がさしてきた。

 女性シンガーによって恋というものを自覚できたことは目覚ましいが、それと同時に羞恥という余計なものまで自覚してしまったことの方が大きい。

 

 自分を戒めることすらバカバカしいと思うほどの出来事。

 いよいよ何だか混乱してきそうになる。

 

 

(……それにしても、この先どうすっかなあ)

 

 このままでは本当に混乱しそうになったから自分の頬を思い切りぶん殴り平静を取り戻す。

 頬の痛みがじんじんと響く中、ようやく落ち着いてきた思考能力を過去ではなく未来のために浪費することにした。

 

 恋を知って、μ'sの9人が好きだと知った。

 当たり前の感情のようでいて、その実態は9股しているのと同じようなものであり自分が色んな意味でぶっ飛んでいるということも分かってしまった。

 

 

(ヒーローに憧れてるとか言っておいて複数人も好きな人がいるって、我ながら真逆のことをしているのでは……?)

 

 小さな頃からヒーローに憧れて育ってきたくせにこれとは、もはや正義もクソもあったもんじゃない。

 だがしかし、時すでに遅しとはまさにこのことで、好きになってしまったものは仕方ないのである。

 

 

(それでも、俺はあいつらが好きって分かっちまった。だったら、誰に何と言われようと貫き通すしかない)

 

 自分の想いは自分で決める。

 他人の意見なんか知らない。

 

 誰かのレールに乗らされてはダメなのだ。

 我が道をどこまでも真っ直ぐに行ったその先に信じたゴールがあるのだから。

 

 

(とはいえ、うん、何だ、やっぱ恥ずかしいな。これから穂乃果達に会うときどういう顔して会えばいいんだ)

 

 自分の決めた道だとしても、簡単でないことは自分でも分かっているつもりだ。

 とどのつまり、恋愛初心者男子岡崎拓哉はスタート地点でさっそく躓いて転んでいた。

 

 いつも会っている人を好きになり、それを知って、後日その人と会えばどういう顔をすればいいのか分からない。何ならいつもどんな顔をしていたのかすら朧気になりつつある。

 いつもと同じと強く思えば思うほど、いつもとは違う顔になってしまうのが人の性というものだ。

 

 

(……、)

 

 一瞬。

 告白の二文字が浮かんだが、それはどうなんだと思い留める。

 

 

(いやいや、告白っつったってどうすんだよ。誰か1人ならまだしも、9人に告白ってのは色々とどうなんだ。告白成立以前にドン引きで全員にフラれるかフラれた直後に回し蹴りが来てもおかしくないぞ。あれ、もしかしてこれ詰んでる?)

 

 考えれば考えるほど明るい未来が見えなくなって暗闇の暗雲が立ち込めてならない。

 人として終わるか社会的に終わるかの二択か、そのどちらも背負っての死か見えてこないという絶望感が凄まじい。

 

 

(……、)

 

 これまで穂乃果達を導いてきた岡崎拓哉でさえ、この問題に関しての答えが見えてこない。

 伊達に恋愛初心者の称号を持っているわけではないのだ。

 

 と、ここでポッケに入っている携帯を取り出し、ある番号まで画面を展開させる。

 

 

(…………、)

 

 本当に、本心で、紛れもなく本気で嫌だが、嫌悪感丸出しでその番号への発信ボタンを押す。

 この問題に関して確実に一番頼りになると同時に、一番頼りたくない人物。

 

 そいつはワンコールで出た。

 

 

『はいはーい♪ あなたがこよなく愛するラブリーでスイートな後輩桜井夏美でぇーっす☆』

 

 2重の意味でブチッと。

 最後まで聞き終わる前に容赦なく電話を切った。

 

 恥ずかしさから一転、一気に苛立ちへと変換されたこの気持ちをどこにぶつけてやろうかと思った矢先、今度はこちらの着信音が鳴り始める。

 誰からだろうという疑問は一切なく、たった今電話を切った相手からだと画面の名前を見てため息一つ。一応通話ボタンを押す。

 

 

『そっちからかけてきておいて何で切っちゃうんですかー!』

 

「いや、何かイラッてしたから」

 

『正直すぎて普通に謝りそうになりました今』

 

 普通に謝れよというツッコミは1ミリ単位で残されていた温情によって仕舞っておくことにした。

 

 

『それでそれでっ。珍しく先輩から電話きたんで浮足立って超気になってるんですけど、何かあったんですか?』

 

「……あー、やっぱ何でもねえわ。悪い、切るわ」

 

『ちょいちょいちょいちょい!!』

 

 やはりこの後輩に聞くのは一番精神が擦り減りそうな気がしてならない。

 というか絶対めんどくさいことになると拓哉のセンサーが警戒レベル5まで達しているレベルだった。

 

 

『先輩から電話なんて普通はあり得ないので、やっぱり何かあるんですよね。μ'sのみんなには話せないようなことが』

 

「……ほんと、お前はよく俺を理解してるな」

 

 こういうときだけ鋭い後輩に若干恐れを感じながらも、桜井夏美という少女は岡崎拓哉を理解している数少ない人物の1人でもあることを忘れてはならない。

 普段があざとくふざけているように見えてみても、それは決して天然ではなく計算して作られているものだ。

 

 ゆえに、よく人間というものを見ている。

 もっと言えば、1人の少年のことをずっと見ていたから分かる。

 

 

『どれだけ先輩の背中を見てきたと思ってるんですか。あたしをあまり見くびらないでください』

 

「たったの一度も見くびったことなんかねえよ……」

 

 あざといと計算して作られたキャラの後輩がずっと自分の後ろを着いてきていたのだ。

 その徹底ぶりと辛抱強さは拓哉が一番分かっている。だからこそ、夏美の観察眼と理解振りは熟知しているつもりだ。

 

 この後輩に恋の相談など厄介に厄介な話を持ち掛けるようではあるが、ここまで来てしまえばもうなるようになれだった。

 頭をブンブンと割り切るように振り、少年は切り出した。

 

 

「お前に相談がある」

 

『どんと来い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高坂穂乃果もまた自室にいた。

 

 

 

 

 

 

 女性シンガーとのやり取りを経て、少女も一つの答えを導き出した。

 μ'sの存続なんて、悩む必要もなかったのだと改めて思い知った。きっとみんな同じ答えだから。

 

 

(それは明日みんなで確かめよう)

 

 そしてもう一つ。

 女性シンガーとのやり取りの中にこんなのがあった。

 

 

『好きな人がいるなら迷ってる暇はないよ』

 

『え?』

 

『時間は今も平等に進んでる。後からああしておけば良かったこうしておけば良かったって思っても絶対に戻ってこないの。あなた達9人はもうすぐバラバラになっちゃうんでしょ? だったら、行動は早めにしといた方がいいよ』

 

『……でも……たくちゃん、きっと困っちゃうと思います……』

 

『いいんだよ。女の子は多少わがままでも、男の子を困らせるぐらいがちょうどいいの』

 

『困らせるレベルが高いような……』

 

『ともかく、彼なら受け入れてくれるよきっと。それとも、あなたから見て彼はそんなに優しくない人に見える?』

 

『そんなことありません!』

 

『そこまでハッキリ言えるなら大丈夫そうね。じゃあ、ちゃんと告げるんだよ。()()()()()()()を』

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って女性シンガーは去って行った。

 まるで自分達の気持ちが全て見透かされてるような感覚がずっとあったのを今でも覚えている。

 

 あの少年は間違いなく優しい。

 ドが付くほどのお人好しで、最後には誰もが笑っていられるハッピーエンドじゃないと納得できないような、そんな誠実な人間だ。

 

 だからこそ、その先の関係へ進みたいと思う気持ちと、進もうにも進めない気持ちが混じり合っていた。

 あの少年とずっといたい。けれどあの少年を困らせたくない。

 

 9人もの人から告白なんてされれば、きっと少年は悩んでしまう。

 自分達の好意が原因で少年が困るのは、穂乃果も他のメンバーも本意ではない。けど、確かに女性シンガーが言っていたように時間もそう長くはない。

 

 穂乃果からしてみれば小学生の頃からずっと秘めていた想いなのだ。

 ずっとこの想いを秘めてきた結果、少年に恋をする人が増え、その気持ちを分かち合う仲間すらできた。

 

 なのにあのバカときたら、いつも9人の女の子に囲まれながらも平然としていやがるのだろうか。

 自分を好いている者が9人もいるのに、割とアプローチをかけている者もいるのにあの鈍感野郎は気付く気配すら見せない。

 

 

(あれ、何だろ。だんだんムカついてきた)

 

 気付けば悩みよりも鈍感少年への苛立ちのほうが大きくなっていた。

 確か女性シンガーも言っていたではないか。女の子はわがままで男子を困らせるくらいがちょうどいいと。

 

 であれば。

 

 

(よし、困らせよう。一世一代の告白を9人でしてたくちゃん(あのバカ)を思い切り困らせてやる)

 

 今までの鬱憤を晴らすかのように困らせてやろう。

 あの少年にはむしろこれくらいしないと今までの自分達の苦労と割に合わない気がする。

 

 方針は決まった。

 9人で告白してしまえば逃げ道も完全になくせるというものだ。それをいつ決行するかはまた別の日に決めるとして、まずはそのためにも。

 

 

(明日、みんなに話そう)

 

 

 μ'sの行く末を決めなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最後まで自分らしく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやはや、まさかまさか先輩からそんな相談をされるなんて思ってもいませんでした』

 

「悪い。これに関してはもうお前しか頼りにできるヤツはいないんだ」

 

『あの先輩があの9人全員を好きになったなんて、さすがのあたしも度肝抜かれて携帯投げだしそうになりましたよというか投げだしていいですかね』

 

「やめろ」

 

 色々とぶちまけた。

 μ'sの9人が好きだということ。これから自分はどうすればいいのかということ。今までも恋をしてこなかったから何も分からないということ。

 

 それを聞いた夏美は夏美で思うところは当然あった。

 

 

(こいつめ。ようやく誰かを好きになることを知ったかと思えば9人好きになるとかどういう脳内構造してんですか。プレイボーイでももうちょっと健全な初恋をしてるでしょこんなの。というかあたしが先輩を好きだってことは未だに気付かないとかどうしようもねえなこの人!!)

 

 好きな人から好きな人への相談されるなどもうドロドロ少女マンガ一直線だが、夏美にとっては拓哉も真姫達もどちらも大事な人なのでそういうのは避けておきたい。

 沸き立つ気持ちを何とか押し殺しつつ、言葉を紡ぎだす。

 

 

『で、先輩がどうすれば9人と結ばれてイチャイチャハーレムエンドを迎えられるかって話ですよね』

 

「あながち間違ってないけど解釈によっては最悪な印象しか残らないからやめてくんない?」

 

『今更どう解釈しても最悪な印象しか残らないでしょうに……。この際開き直ったほうがいいですよ先輩(バカ)

 

「ねえ今ルビおかしかったよね。完全にバカって言ったよね。確実に俺を下に見てるよね」

 

『当たり前でしょ。分かってますか? 今先輩はあれだけあたしのことをあざといだの計算高い女だのとバカにしてたくせに、今の先輩は間違いなくあたしよりバカなことしてるの理解してます? なあおい、あァん?』

 

「全力で謝らせていただきます」

 

 とても言い返せるような説得力を今の自分に持ち合わせていないのをちゃんと理解している9股少年。

 これから先は夏美のことをあざといだのとか言える立場じゃなくなったかもしれない。何ならあざといのがまだ可愛いレベルのことを自分はしている最中なのだから。

 

 

『はあ……。もういいですっ。こうなったらとことん先輩の相談に乗ってあげますよ』

 

「それは冗談抜きに助かる」

 

(と言っても、もう相談乗らなくても先輩がさっさと9人に告れば即解決なんですけどねこれ。わざわざあたしが相談乗ってること自体がバカバカしいレベルなんですが。ほんとふざけてるなこの男は……)

 

 今まで自分がやってきたアプローチは全て空回りで終えたのに、いったい何がどうなってこうなったのかいまだに見えてこない。

 いっそ自分もここで告白すればいいのではないかという疑問にもぶつかるが、多分そう上手くいくようにはなっていないのが現実だ。

 

 それに。

 

 

(理由はどうあれ……先輩は言ってくれた)

 

 お前しか頼れるヤツはいない、と。

 他の誰でもない。紛れもなく自分自身が選ばれた。それだけ、たったそれだけなのに。悩みの件も自分にとっては最悪レベルなのに。

 

 好きな人からこうも頼られるとどうしても心が躍ってしまう。

 自分だけが選ばれたというそのちょっとした事実だけで、あざとい少女は本気になれてしまう。

 

 

(今更あたしが告白したところでどうにもならない。結局はいつもみたいに冗談に思われてお終いになるのは見えてる。何より先輩はあの9人が好きであたしを好きなわけじゃないから、フラれるのだって分かりきってる。最初から勝敗が分かってる試合をするのもバカだしね)

 

 今まで自分が作ってきたキャラのせいで初恋はたった今崩れ落ちた。

 勝負をする前に敗北したのと同じ。まさしく不戦敗。敗北者の烙印が押された。

 

 でも。

 だけど。

 

 

(どっちもあたしにとって大事な人達だから。あたしの力でみんなが笑顔になれるなら、全力でそこに連れてってあげなくちゃ。あくまで自分らしく先輩の背中を押すんだ。あたしの夢は、みんなに託す)

 

 どちらの事情にも詳しい後輩少女は、この問題に対しての解決手段が既に見えている上で言った。

 

 

『いいですか先輩。単刀直入で一直線に言います。一応異論や質問は受け付けますがあたしの答えはこれに限ります。μ'sのみんなにさっさと告白すべき! 以上!!』

 

「いやそれ投げやりに言ってないよな!? どうにでもなれみたいな感じで言ってないよね!? ちゃんと真面目に言ったのか!?」

 

『大真面目ですよ。そうじゃないと先輩の悩みに失礼じゃないですか。あたしはあたしなりに考えて出した結論がこれです。男なんだからハッキリしたほうがよろしいかと』

 

「う、うーん……でもなあ」

 

 正直みんなに告白するという選択肢なら、最初の最初に浮かんでいた。

 しかし拓哉はそれを最初に捨てたのだ。これでは穂乃果達に失礼ではないか。困らせてしまうのではないかと。

 

 そんな逡巡を繰り返す後に、夏美へ相談しようと決めた。

 夏美も拓哉の考えていることを分かっていて、それでも聞いた。

 

 

『ねえ先輩。それじゃいつまでたっても告白なんてできません。先輩も知ってるでしょ。今はもう春なんです。絵里さん達3年はもうすぐ音ノ木坂からいなくなるんですよ?』

 

「……あ」

 

 分かっているつもりだった。

 絵里達は既に卒業を済まし、最後を伝えるライブが終われば音ノ木坂から去っていく。

 

 では、告白もせずに去っていったらどうなるか。

 今まで以上に告白するチャンスは潰える。チャンスはもう数えるほどしか残されていないのだ。

 

 

『勝負はもう始まっていますよ。告白する前に負けるなんて嫌でしょ? ……あたしだって、勝負が始まる前に負けてしまう先輩なんて見たくありません。可能性なんてあってもなくてもいいんです。先輩は先輩らしく、自分のために前に進んでください。バカも突き抜けば清々しいんですからっ』

 

「俺は俺らしく、か……」

 

 いつも自分のために突っ走ってきた。

 他人の遠慮なんか考慮せず、誰かの心に土足で入り込んでは誰彼構わず救い上げてきた。

 

 結局。

 ここまで来ても岡崎拓哉は変わらない。

 

 恋を知ったところで、1人ではなく9人を好きになったところで、この少年は変わらない。

 どこまでも自分らしく、自分のために行動してきた彼に、今更ブレーキなど必要なかったのかもしれない。

 

 

「……そうだよな。自分らしく。俺は俺だ。桜井、ありがとな。やっぱお前に頼って良かったよ」

 

 初めての感情を理解して混乱していたのを気付かせてくれた後輩に感謝をしつつ、目標を見据える。

 夏美に言われた通り、時間はさほど残っていない。

 

 何せ今はμ's存続問題もあるし、最後のライブへの準備もある。

 タイミングを見極めないと色々支障が出るかもしれないのを考慮しなければならない。

 

 

『ふふーん、どれだけ先輩の背中を見てきたと思ってるんですか! あたしだって成長してるんですよーだ』

 

 本当は背中ではなく隣にいたかった、なんて言葉は言わない。

 自分はこれから少年を応援する立場だ。今までわがままを言ってきた分、もうそんなことは言えない。

 

 ただし、ただの敗北者で終わるつもりも毛頭ないのだって事実。

 大事な人達の笑顔を見られればいい。そんなことを思えるほど、間違いなく桜井夏美という人間は成長した。

 

 

『……先輩。頑張ってください』

 

「やれるだけのことはするさ。どうなるかは分かんねえけどな」

 

 少年からすればただの応援に聞こえただけかもしれない。

 少女の気持ちに最後まで気付けなかったが、それだって誰かに責め立てられるようなことじゃない。

 

 こういうこともある。

 仕方ないのだと割り切る。

 

 

『必ず、幸せを掴んでください』

 

 だからこそ。

 後輩少女の、ある意味決別にも似た言葉だった。

 

 岡崎拓哉だって何も全てを救えるような万能な存在ではない。

 救おうとした手で、零れ落ちていくものだって当然ある。

 

 だけど。

 それでも。

 

 無自覚だろうと、少年は決して絶望だけは与えない。

 

 

「何言ってんだ。お前こそ自分の幸せ掴めよ。人生は長いんだ。俺みたいにぶっ飛んだバカがいるくらいだし、桜井でも受け入れてくれるバカだって必ずいるさ」

 

『ッ……』

 

「今日は本当にありがとな。感謝してる。次会ったときは何か奢ってやるよ」

 

『……はい、期待してますね』

 

 通話を切る。

 もう相手の声は聞こえないし届かない。

 

 奇跡的に想い人から電話が来たかと思えば完全勝手に失恋し、色んな感情がごちゃ混ぜになりながらも相談にのった。

 結果的に失恋した途端応援するという変な立場になってしまったが、最終的にはこれで良かったんだと思えていた。

 

 そう、思えていたのに……。

 

 

(最後にあんなこと言われたら……諦めきれなくなっちゃうじゃないですか……あたしもバカになりたくなっちゃうじゃないですか……ッ)

 

 落ちた雫は、外で降っている雨か、自分の瞳から落ちたものか。

 どちらにせよ、天気も心も雨模様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先の少女の選択は、少女自身にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「告白するにしても、ちゃんと見計らないとな」

 

 成功か失敗かはこの際二の次でいい。

 まずは目標の達成を遂行しなければならない。

 

 しかし、まだ解決していない問題もある。

 女性シンガーはもう大丈夫と言っていたが、μ'sの存続について拓哉は何も知らない。

 

 目標はタイミングを計りつつ、まずは目先の問題へと目を向ける必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そんな心配もあまりしてないけど」

 

 

 

 

 

 

 

 完全に信頼しきった少年の優しい目が、雨空へと向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、いかがでしたでしょうか?


今回は岡崎、穂乃果、夏美。それぞれの自分らしさを貫き通してもらいました。
前書きで紹介した曲と相まって良い表現ができたかと思います。
こういうときに頼りになるのはあざとい後輩でしたね(笑)
そんな後輩少女はちょっぴりしんみりしましたが←

次回から映画本編へと戻る予定です。
恋愛イベントだけじゃ進められないのでね!


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!





オリキャラだけど、桜井夏美が好きだって人はここの読者に果たしているのだろうか。

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