「やっぱ捕まってたか」
「どうして分かってて助けてくれなかったのたくちゃん!?」
「いや待ち合わせは部室って言ってたし俺は無事に着いたからお前の犠牲は無駄にしなかったぞ」
「それ見捨ててるとも言えるくない!?」
ふむ、確かにそうとも言う。
ヒデコ達の連携プレイは下手すると俺達より凄いんじゃないかと思うほど息が合っている。だから穂乃果が捕まるのは時間の問題だと思って俺は部室へ先に来たわけだ。
絵里達には何があったのかと聞かれたけど、特に何もないと言った。
穂乃果が来たら全部言うと思ったしな。こいつもまあヘトヘトになりながらもちゃんと部室に来れたってことはヒフミトリオから難を逃れたのだろう。
「私イスに縛られて口までテープで塞がれたんだからね!」
「やり口が誘拐犯と変わらないねそれ……」
何それ詳しく。個人的には大いに興味あります。
いや別にそういうプレイが好きとかじゃないから。ちょっと興味があるだけだから。そういう薄い本系みたいなことに健全な男子高校生というものは惹かれるものなんです。
「気持ち悪い」
「おい、シンプルな言葉ほど人を傷つけるナイフはないぞ。言葉遣いには気を付けろ真姫」
うっかり自殺しそうになっちゃったぞ。
そんな変な顔してた俺? 男の本能って危険だなって強く思いました。
「うぅ~、ヒデコ達しつこかったな~……」
「あいつらも友達に言われて迫ってたっぽいし、ある意味被害者かもしれないな。手段は加害者だけど」
「みんな次のライブがあるって思ってるんだなあ」
「これだけ人気があれば当然ね」
「μ'sは大会をもって終わりにすると、メンバー以外には言ってませんでしたね」
そう、ラブライブが終わればμ'sを解散すると決めたのは紛れもない穂乃果達自身だ。
みんなで話し合って決めて、涙を流してまで覚悟した決断だった。
ただ、それはあくまで穂乃果達の中でしか決めていないこと。
俺達以外の人には、μ'sは解散すると一言も言っていなかった。
「でも、絵里ちゃん達が3年生だっていうのはみんな知ってるんだよ? 卒業したらスクールアイドルは無理だって、言わなくても分かるでしょ?」
「言わなくても分かるっていうのは親密な関係だからであって、そうじゃない人達には分からないものなんだよ。だから今でも次のライブがあるって信じてる人がたくさんいるんだ」
「多分、見ている人にとっては、私達がスクールアイドルかそうじゃないかってことはあまり関係ないのよ」
言わなくても伝わるなんて言葉があるが、実際あれは少し嘘だ。
もしそれが本当なら、今こうしてμ'sのライブのコメント欄に次のライブへの期待がコメントされているわけがない。
穂乃果達が解散するとファンの人達に言わなかった、伝えなかった結果が今の現状を招いているのは事実。
勝手に期待されているのは良い気分じゃないかもしれないが、それを伝えようとしなかった俺達にも責任はある。
「実際、スクールアイドルを卒業してもアイドル活動をしている人はいる。ラブライブには出場できないけれど、ライブをやったり、歌を発表してる人はたくさんいるから」
「そういう人達を知ってるから、絵里達が3年だと分かっていてもμ'sはアイドル活動を続けていく。そう思ってる人が多いんだろう。ラブライブ優勝までしたから尚更な」
「そっか……」
「では、どうすればよいのでしょうか」
どうすればいいのか。
そんなこと、誰もが薄々分かっていると思う。
だけど、それを口にするのは何となく憚られてしまうのだ。
大会で終わったはずのμ'sは予想外な依頼があって、これからのラブライブのために海外でライブをした。そこで物語は完結したはずだった。
しかし、周囲はそれをさせてはくれずに余計に盛り上がっていく。
真相を知る者と知らない者では見方も考え方も異なってくるものだ。だからこそ迷う。だからこそどちらの考えも大事にしたい。
だって、どっちも大事なんだから。
μ'sを終わらせると決めた穂乃果達の決断があったから優勝まで頑張れた。
μ'sを応援してくれた人達がいたから優勝まで諦めずに支え合ってこられた。
どちらもμ'sを想ってのこと。
穂乃果達本人も、ファンの人達も、たとえ目先のことしか見えていなくても、考えていなくても、両者はμ'sのことを考えている。
両方を無下にするわけにはいかない。
自分達の意見を曲げたくないし、ファンの期待を裏切るような真似だってしたくない。
だから、薄々分かっていても口に出せない言葉がμ's本人達にはある。
であれば、μ'sじゃない俺ならその代わりをしてやれる。
「やるしかないんじゃないか。ライブを」
「……ライブを?」
「ああ。みんなの前でもう一度ライブをやって、今度こそμ'sは終わるとちゃんと伝える。ライブに成功して注目されてる今、それが一番の方法だと思う。お前らも薄々は分かってるんじゃないのか。これが最善だって」
既存の曲でもいい。
それでもファンなら喜んで聴いてくれるに違いないし、穂乃果達の言葉もちゃんと受け入れてくれるはずだ。
「うん、そうやね。ウチも拓哉君の意見に賛成」
「希ちゃん?」
「それに、ちょうどふさわしい曲もあるし」
「ちょっと!」
希へ抗議の視線と言葉を向ける真姫の態度で何となく察することができた。
「真姫、お前……」
「そんな曲があるの?」
「希!」
「いいやろ。実は真姫ちゃんが作ってたんよ。μ'sの新曲を」
「ほんと!?」
さすがにこれには俺も驚いた。
いつの間に作曲してたんだ真姫のヤツ。何だかんだ熱入ってたのかこのツンデレ娘。可愛いとこあるなこのやろう。
「でも、終わるのにどうして?」
「……大会で歌った曲が最後かと思ってたけど、そのあと色々あったでしょ。だから、自分の区切りとして一応……。ただ、別にライブとかで歌うとかそんなつもりはなかったのよ」
そう言って真姫はポケットから音楽プレイヤーを出した。
穂乃果とことりが最初に片方ずつイヤホンを耳に付けて曲を再生する。
「これ……」
「良い曲だね……!」
「いいな~! 凛も聴きたーい!」
「私のソロはちゃんとある!?」
作詞もパート分けもしてないんだからソロあるとかまだ分かるわけないでしょうが。
「聴いて。凄く良い曲だから!」
「凛も凛も~!」
「はい」
「おぉ~!」
穂乃果もことりも、にこも凛も、表情を見る限りとても好印象に感じているようだ。
……俺もちょっと聴きたくなってきたな。
「私も早く聴きたい!」
「おっ、エリチもやる気やねえ」
「そ、そういうわけじゃないわよ……」
せっかちかっ。可愛いかよこの卒業生。
今更照れずとも結構子供っぽいとこあるのはみんな知ってるんだからこの際もっと子供っぽくしてようぜ。高校の卒業生が子供っぽいってちょっとアレだけど、絵里なら何か納得できるのは何故なんだろうか。
「海未ちゃん、これで作詞できる?」
「はい、実は私も少し書き溜めていたので」
「私も、海外でずっと衣装見てたからアイデアが出てきたかもっ」
海未も歌詞書き溜めてたのか。ことりまですぐアイデア浮かんでるし。
μ'sの作詞作曲衣装組気合い入りすぎでは。山合宿のときのスランプとか今じゃもう考えられないな。
「ほら、たくちゃんも聴いてみて」
「ん、ああ」
穂乃果に渡されたイヤホンを耳に付ける。
色んな女の子が付けたあとのイヤホンって考えると何だかイケナイ気分になりそうだが、俺もまだ命が惜しいのでそんな煩悩はすぐさま消し飛ばす。
耳に集中して曲を聴くと、優しい音がスッと入ってきた。
どこまでも透き通ったその音は、いっそ体中を一瞬で温かく包み込んでくれるような錯覚さえ感じさせてくれる。歌はまだ入れられていないが、どこで歌うのかは何となく想像できる。
間違いない。
これは、最高の曲になる。
常々思ってはいたが、真姫の音楽センスには本当に驚かされる。
高校1年生にしてこんな曲が作れるなんて本人の才能と努力、そして真姫の音楽が大好きという純粋な気持ちがあってこそだろう。
それ故に優しく、心に響く曲に思える。
うん、やっぱりこの曲は良い。μ'sの最後としてはもってこいの曲だ。
「いいな、これ」
「でしょ!?」
「海未ちゃんもことりちゃんもああ言ってるし、考えることはみんな同じってことやね」
何だかんだみんなμ'sでまだ歌いたいという想いがどこかにあったんだろう。
だから曲も、歌も、衣装のアイデアも思い浮かべることができた。未練はないと言えば嘘になるかもしれないけど、その気持ちは間違いじゃないことだけは分かる。
「どう、穂乃果ちゃん。やってみない?」
「え?」
「μ'sの最後を伝えるライブ」
「……、」
「穂乃果?」
今の今までライブをやる流れだったのに、急に黙ってどうしたんだ。
μ'sのリーダーだから、他のメンバーと違って何か思うところでもあるのか。さすがに俺もそこまでは分からない。
「……何のために歌う……」
「……、」
そうか。
穂乃果は思い出している。
あの女性シンガーの人の言っていたことを。
自分達が何故歌ってきたのか、何が好きだったのか。あの時はまだその答えを知るには早かった。けど、その時期はもうすぐそこまで来ている。
あの人が言っていたことを俺達が理解するにはまだ何か足りないかもしれない。幾つかのピースがまだ嵌められていない未完成な状態かもしれない。
だけど、とりあえずは今出せる答えを、満点ではなく及第点の解答を出すほかないのだ。
「穂乃果」
「……あっ、うん。こんな素敵な曲があるんだったら、やらないともったいないよね! やろう! 最後を伝える最後のライブ!」
よし、これでひとまず当面のやる事は決まったな。
誰もが認知する。μ'sの最後のライブが。
「練習、キツくなるわよ」
「ウチらが音ノ木坂にいられるのは今月の終わりまで」
「それまでやる事は山積みよ!」
「時間も余裕があるわけじゃない。結局俺達のやる事は最後まで変わらない。やれることを最後までやり切ることだ。……やれるな、穂乃果」
「……うん!」
方針は決まった。
μ'sの最後を伝えるライブをする。
この9人以外でμ'sを名乗るのはダメだと決めたあの日から、本当に終わりを告げる時が来た。
だからこそ、悲しむよりも楽しまなくちゃいけない。
それが、いつだって穂乃果達がやってきたことだ。
楽しいから、好きだからやってきたことを、最後の最後で寂しい気持ちで終わらせるわけにはいかないのだ。
俺もできることは最大限に手伝わないとな。
そうやって全員の気持ちに気合いが入ったときだった。
そこに水を差したのは部室のドアから聞こえたノック音。
開かれたドアの先にいたのは。
「みんな、ちょっといい?」
「……お母さん?」
南陽菜。
ことりの母親にして、音ノ木坂学院の長とも言える役割を持つ人。
「理事長……?」
そんな人が、神妙な面持ちでやってきた。
さて、いかがでしたでしょうか?
最後を伝えるライブ。
つまり、終わりへの前兆が見えてきましたね。
だからこそ悲しむよりも楽しまなければファンにも失礼だろうと考えてます。
ところでこのまま続けば多分総合話数200いっちゃいそうですね(笑)
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
2日後は穂乃果の誕生日……。
スクフェスはもうログインしかしていませんが推しなので穂乃果限定ガチャ本気出します(ラブカ約250個)