ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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158.帰国

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かな光が瞼の裏から差し込んだせいで俺は目が覚めた。

 

 

 

 

 

「んっ……何だ……?」

 

 まだ覚醒しきってないせいで声も全然出ないが、何とか目を開いて元凶である光源へと目を向ける。

 そこには完全に閉じきっていない窓のシャッターから太陽の光が入り込んできていた。

 

 おのれ太陽め。人が寝てるときはもうすこし光を弱めんか。おかげで不完全な状態で目が覚めちゃったじゃねえか。

 こうなるならことりや凛みたいにアイマスクでも持ってくればよかったな。

 

 まあ俺は基本的に長時間寝るのが趣味なとこあるからこれは完全に二度寝コースである。

 何なら多少リクライニングしているとはいえ、やはり座ったままだと寝心地悪いし何度も目が覚めるから三度寝四度寝のフルコースまで取り揃えてやろうか。

 

 そんな前菜からメインまでのコースを考えながら光を遮るためにシャッターを閉めようとした時、隣で物音がした。

 

 

「んぅ……たくちゃん……?」

 

「(悪い、起こしちまったか)」

 

 俺の隣で寝ていた穂乃果が起きてしまったようだ。

 周りはまだ全員寝ているからできるだけ小声で話しつつ、このままにしていても悪いのですぐに閉めようとすると急に穂乃果から声をかけられた。

 

 

「(まって)」

 

「(ん? どうし―――ってうおっ)」

 

 振り返ると同時に穂乃果が俺の前まで体を寄せてきた。

 何をする気だこいつ。と疑問に思うも束の間。

 

 穂乃果は俺が閉めようとしたシャッターに手を掛け、何とそれを下げるのではなく上げた。

 もちろん、それはさっきまで微かな光しか差し込んでいなかったのにいきなりフルマックスの光量が視界に入り込んでくることを意味する。

 

 

「(何やってんだお前眩しいだろっ。これじゃ俺の二度寝ライフができないでしょうが)」

 

「(見て)」

 

 俺の睡眠を邪魔してまで言葉を遮りますかね普通。

 仕方なく穂乃果の言う通り窓の外へと視線を向ける。

 

 一瞬眩しさに目が眩むが、視界が徐々に慣れてきて鮮明になっていく。

 映し出されたのは、優雅に進んでいるのを実感させるようなスローモーションに流れていく雲、そこから軽く透けて見える青い海と澄みわたる空。

 

 

「(綺麗~)」

 

「(……だな)」

 

 悪態よりも先に素直な感想が漏れた。

 そういえば行く時は俺は真ん中の席だったから外の景色を見ることができなかったのを思い出す。

 

 初めて見る飛行機からの景色は、今まで見たことのなかった記憶を焼き付ける。

 気付けば眠気はどこかへ吹っ飛んでいて、新鮮な目の前の光景に目が釘付けにされていた。

 

 

「(ねえ、たくちゃん)」

 

「(何だ?)」

 

 穂乃果に呼ばれたことにより景色を見るのをやめて振り返る。

 

 

「(ライブ、楽しかったね)」

 

「(そうだな。見てるこっちとしても穂乃果達含めて良かったと思えるライブだった。それに、あそこでしか味わえない思い出も残せたし)」

 

 結論的に言うと、アメリカでのライブは大成功に終わった。

 場所はアメリカの象徴の一つとも言われているタイムズスクエア。そこでアメリカのテレビ局の大きな協力によって大掛かりなライブを実現することもできた。

 

 一番助かったと思ったのはテレビ局側に日本語が話せる通訳の人がいたことだ。

 いやほんと助かった。何をしてほしいとかどういう演出にするかも通訳の人がいなければできなかったかもしれない。

 

 

「(またいつか行こうね)」

 

「(……ああ。今度はちゃんと自分達で金を貯めて、思う存分好きに楽しめたらいいな)」

 

「(うんっ。いつか……()()()()()())」

 

 μ'sのライブは成功を収めた。

 これでラブライブ秋葉ドームへの開催に火が付くこともほぼ確定されたと言ってもいいだろう。

 

 第二回ラブライブで終わりと思っていたμ'sがまさかのアメリカでライブってだけでも充分良い経験にもなった。

 あとはのんびり春休みを過ごすだけかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたぜ日本!! 何だかんだやっぱ母国が一番落ち着くのは世の常だながっはっは!!」

 

「何で帰国して早々あんなうるさいのよあのバカは」

 

「何でも穂乃果によれば日本に着く数時間前に目が覚めてからずっと起きてたらしいですから。普段なら確固たる意志で二度寝三度寝する拓哉君が珍しいことをしたせいかもしれません」

 

「深夜テンションにでもなってんじゃないアレ」

 

 おいこら好き勝手言ってんじゃねえよ。帰国早々空港で男子高校生の涙が見たいのか貴様らは。

 俺のメンタルは時に豆腐よりも弱いんだぞ舐めるな。泣くぞ泣くぞ、ほぉ~ら泣くぞすーぐ泣くぞぉ~。心の涙が止まらない。

 

 

「あっ、ねえねえ、昨日の中継向こうでも凄い評判よかったみたい!」

 

「よかったにゃ~!」

 

「ドーム大会もこの調子で実現してくれればいいよねっ」

 

「「うん!」」

 

「評判良かったなら実現するだろ。何しろμ'sがアメリカでライブやったんだからな!」

 

「たくや君何だか親みたいだにゃ~」

 

 μ'sを見守る側としては確かに保護者感あるな。

 うちの子達がすっかり大きくなっちゃって拓哉さんも嬉しい限りであります。

 

 

「ふう、エコノミーで往復ってこんな感じなのね……」

 

「自慢!?」

 

「違うわよ!」

 

「お二人さん、帰ってからも元気やね~」

 

 次行くとしたら是非とも真姫御用達の飛行機で行ってみたいものだ。

 多分飛行機代えげつないことになりそうだけど。俺だって飛行機で快適に眠りたい。

 

 

「そろそろバスが来るみたいよ。行きましょう」

 

「うっし、全員自分の荷物は持ったな? じゃあ出発だ」

 

 忘れ物がないかを各自確認していざ行かんと思った矢先。

 ふと視線を感じた。いや、というよりもこれは自分への視線ではなく、誰かに向けての視線だ。

 

 

「きゃあ~!」

 

「やっぱり可愛い~!」

 

 そういえばこの空間で唯一の違和感があった。

 ここは空港だ。俺達は例外だが、大人こそいれど普通ならこんなところに女子高生はいないはず。

 

 なのに周囲を見渡せばちらほらと、何ならたった今入り口からも女子高生達が入ってきてこちらを見ては密かにキャーキャー言っている。

 え、何これ、ちょっと怖いんだけど。

 

 

「穂乃果、知り合いですか?」

 

「ううん」

 

 どうやら誰も知っている人はいないみたいだ。

 というか俺も知らない。当たり前だけど、他校の女子高生に知り合いいたらそれはそれで問題ありそうだし。そういうのは桜井だけで間に合ってる。

 

 

「ほら~行きなよ!」

 

「やばー!」

 

「すごーい!」

 

「本物だよ~!」

 

 うん、やっぱこっち見てんな。

 思いっきり穂乃果達のこと見てんなこれ。何だ、俺達がアメリカにいるあいだにいったい何があった。

 

 

「どういうこと……?」

 

「すごい見られてる?」

 

「もしかしてスナイパー!?」

 

「何をしたんですか! 向こうから何か持ち込んだりしたんじゃないですか!?」

 

「ばばばばばバッカお前ら、おおお落ち着けって! あ、あれだ、まずはキャリーケースの中に入って過去にタイムスリップしてだな……」

 

「現実逃避してるやん」

 

 いやだっておかしいじゃん。こんなに見られることってあんまりないじゃん。

 あっちから帰ってきてすぐにこんな注目浴びるって絶対向こうで何かあったからじゃん。死ぬじゃん殺されるじゃん今流行りのJKグロイ系アニメのやつじゃん。あの子達全員魔法少女サイト見てる可能性あるって。

 

 

「あ、あのっ!」

 

「は、はい!?」

 

「サインをください!!」

 

「「……んん?」」

 

 思わず穂乃果と声が被ってしまった。

 見知らぬ女子高生が差し出してきたのは芸能人がよく書いてるようなサイン色紙。おいおい、まじかよ。

 

 

「あの、μ'sの高坂穂乃果さんですよね?」

 

「は、はい……」

 

「そちらは南ことりさんですよね?」

 

「はい……」

 

 や、確かにμ'sは第二回ラブライブ優勝したし知名度は以前より遥かに高い気がするけど、わざわざ空港まで押し寄せてサイン求めに来るまでだったか?

 

 

「そちらは園田海未さんですね!!」

 

「違います」

 

「え?」

 

「海未ちゃん!」

 

「何で嘘つくにゃー!」

 

 あまりにも即答すぎる拒否。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 ふむ、この子はμ'sの、その中でも2年である穂乃果達のファンってことかな。スクールアイドルでもグループはあるし、もちろんそれなら特に好きな推しってのがあるのも当然か。

 

 

「だって、怖いじゃないですか! 空港でいきなりこんな……」

 

「気持ちは分かるがメンバーいて今更違うって言っても意味ないと思うけどな」

 

「さっきまでキャリーケースでタイムスリップしようとしてたくせによく言うわね」

 

 うっせい黙ってろい。思い返せば中々に恥ずかしいことしてたなって今思ってるから。

 黒歴史の一つに追加されちゃったからもう構わないでっ。

 

 

「そしてそちらはマネージャーの岡崎拓哉さんですよね!?」

 

「いやいや、俺はマネージャーなんて大それたもんじゃなくてただの手伝……え?」

 

「もしよろしければ岡崎さんからもサインをいただいてもよろしいでしょうか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「ああん?」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ、これは困ったことになった。

 とりあえずヤンキーと化してしまったこの女神様達をどうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というか俺が一番この状況に対して疑問を抱いているのは誰に言えばいいのか。

 帰国早々俺の命が危ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


先週は更新できず申し訳ありませんでした。
震源地ではありませんでしたが、震度4は恐ろしかったです。初めて避難用のグッズを買いました。まだまだ油断は許されませんね。


話は戻してようやっと日本へ帰国。
すると見知らぬ女子高生達が穂乃果達を見て騒いでいる……と思ったらまさかの岡崎まで認知されているではありませんか。
話の展開上、これは面白くなってきましたよー!ぐへへ。


いつもご感想高評価ありがとうございます!!

では新たに高評価(☆10)をいれてくださった


蓮零さん


とても励みになるコメントをいただいて歓喜の乱舞です。本当にありがとうございました!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!





競馬の知識が皆無なのにウマ娘の最終回で涙腺崩壊しました。
ソシャゲ配信が待ち遠しいです。

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