「ねえ拓哉君」
「ん、何だ希」
何とか穂乃果達と合流した拓哉とにこはとりあえず安堵して、また各自で好きなように色んな店や観光場所を好きに見ていた。
それを少し離れたベンチに座って眺めていた拓哉に希が話しかける。
「にこっちとの靴選び、楽しかった?」
「楽しかったって聞かれてもなあ。俺はただにこに付き添っただけだし、そもそも靴買うだけなのに楽しいとかあんのか?」
質問に質問で返してしまう。
楽しかったかどうかで答えるとなると、正直楽しいわけではなかった。
女の子とはいえ年上の少女をおんぶしながら店内に入るのは中々恥ずかしかったし、結局いつも通り言い争いになったりもした。
最後には機嫌も良くなってはいたが、結果論と言ってしまえばそれまでだろう。
にこの気持ちなんて分かるはずもなく、自分が楽しかったのかなんて余計に分からないのが本音だ。
「楽しい人は楽しいんとちゃうかなあ。にこっちも今は笑ってるし、決して楽しくないとは思ってなさそうやけど」
「うーん、まああいつが楽しかったんならそれでいいけど」
「ふふっ、可愛らしい靴やん」
含みある笑みを浮かべて希はにこへ視線を向けながら言う。
穂乃果や絵里と喋りながら歩いているにこは数十分前より機嫌が良さそうに見えなくもない。
ほんの少しだけ視線を下に下げると、にこの靴は新品な物へと変わっている。
白を基調としていて少しだけピンクが入っているシューズだった。
「あれってにこっちが自分で選んだん?」
「いいや、選べって言われたから俺が選んだよ。……まあできるだけ似合う物を選んだつもりだけど、変か?」
「ふーん……」
拓哉の言葉に希はにこの方を見ているだけだった。
その顔はいたずら好きな少女のような顔にも見える。そんなある意味元凶の少女は拓哉に顔を向けて言い放つ。
「じゃあ今度はウチともデートしてねっ」
「ぶっ!? い、いきなり何言ってんだ! デート!? 何それ美味しいの!?」
「確かに美味しい人には美味しいかもな~。にこっちとは上手くデートできたみたいやん?」
「あれはデートじゃないだろ!? デートってのは付き合ってる男女がするものであって非リア充の俺には無関係すぎるものだから……あれ、何だか悲しくなってきたぞ」
「別に付き合ってるカップルだけがデートするわけじゃないんやけどなあ」
好きな異性を誘ってどこかに出かける。これも一種のデートに入るのだろうが、そこの認識は人それぞれだろう。
少なくともにこは拓哉とのあの時間をそう思っていたのに違いないが。
「それで、ウチとはデートしてくれるん?」
どこまでもイタズラ好きな笑みを浮かべながら希は言う。
ほんのりと頬を染めながら言ってくる様はまさに演技力抜群の女優並に男性を勘違いさせるほどの威力を持っている。
「だからデートじゃないってのっ。……ま、まあ……どこか出かけるくらいだったら付き合ってやるよ……」
プイッと首を横に振りながらあからさまに照れた表情で了承した拓哉に希は満足気な顔になった。
「うんうん、これで言質はとったからね。今更ダメとか言わせへんで~?」
「からかい上手の希さんかお前は……。た、ただし! 俺にもお財布事情というのがあるのでなるべく高いのはなしにしないとダメだかんな!」
「分かってるよー。別に拓哉君に奢らせるわけじゃないし、二人で楽しむってのが目的なだけやから」
「……お、おう……? ならいいんだけど」
何だかよく意味を理解していない少年だが、これが希の狙いでもあった。
からかう素振りを見せてデートに誘い、拓哉はただ希がからかってきてるだけだと思っていてにこのように自分が奢るのかと勘違いしていたところをただ普通に楽しむ。
そういう邪推な勘違いから純粋な目的を言われると変に納得してしまうのが人間である。
「それじゃウチもエリチ達と他のお店見てくるね」
応える前に希は去っていく。
パタパタと走り去っていく希を見ながら拓哉はベンチに座り直す。
「……デート……じゃ、ない……よな……?」
にことの時間が果たしてデートとなるものだったのか、希との約束がデートになるものなのか。
何とも言えないむず痒さを感じつつ空を見る。
「日も暮れてきたな……」
きっと、自分の顔が赤くなっているように感じるのは夕陽のせいだと思いたい、そう感じた。
そして、絵里達と合流する直前の希は密かに両手で小さくガッツポーズをやっていた。
(やった! これで拓哉君と二人でデートができる……!)
からかっているように見えていたが、実際のところはそう見せているだけだったのだ。
内心希も不安が入り混じっていた。
わざとからかうようにデートに誘いながらも断られたらどうしようかと。
結果的に上手くいったが、正直希自身頬を染めていたのは演技でも何でもなく本気の照れだった。
いつだって計算高く、いつだって全てを知っているようなスピリチュアル少女だって、自分の恋の行方を占うことも知ることもできないただの女の子である。
だから楽しい。だから不安にもなる。だから頑張れる。
不安定な未来を確実にするために、少女はまた一歩を踏み出していく。
―――――――――――――――――――
目の前に広がっているのは視界いっぱいに光が溢れている夜景だった。
「「「「「「「「「わぁ~……!」」」」」」」」」
「まさに大都会って感じだな」
日も暮れ始めてきたところを境に移動を始めて、街を見下ろせるビルの屋上までやってきていた。
まだ若干夕陽が見えるものの、それが逆により幻想的な景色を彷彿とさせる。
「さすが、世界の中心……」
「綺麗やねえ。ライブのときもこんな景色が使えたら最高なんやけど」
そう思えるほどに、いっそ神々しささえ感じた。
眩い光量でありながら目を釘付けにされてしまう。まるで夜空の星々を地上に反映させているようにも思えるビル群は、夜に変わりつつある街を照らし続けている。
「何かどこも良い場所で、迷っちゃうね」
「そうですね」
アメリカに付いた当初の海未はずっと警戒心と不安を隠すことなくオーラとして纏っていた。
けれど今はそんな不安はどこへやらとでも言いそうな表情で言う。
「最初は見知らぬ土地で自分達らしいライブができるか心配でしたが」
「案外良いもんだった。だろ? 俺もそう思ったし」
「……ええ。本当に」
不安がないかと聞かれればないとは言い切れなかった。
多少の不安や懸念は当然あって、自分以外がか弱い女の子だからという心配もあったが、いざ街を見て回れば何の心配もいらなかった。
都会特有の明るさ、人々の喧騒、どれだけ見ても飽きないほどある店や名所。
国は全然違うのに、何だか既視感を感じていたのは何故だろうか。
「……そっか」
「凛?」
街を見下ろしながら呟く凛に全員が視線を向ける。
「分かった……分かったよ! この街に凄くワクワクする理由が!」
「ワクワクする理由?」
「この街ってね、少し秋葉に似てるんだよ!」
「この街が?」
「秋葉に?」
「……そうか」
凛の言葉に、拓哉はただ一人納得したように声を上げる。
そう考えると色々腑に落ちた。
「楽しいことがいっぱいで、次々と新しく変化していく! 街の雰囲気も、そこにいる人達の喧騒も似てるんだよ!」
「……うん、実は私も少し感じてた! 凛ちゃんもそうだったんだね!」
「うん!!」
ことりも薄々感じていたらしい。
いいや、多分、言わなかっただけで穂乃果達は分かっていたのかもしれない。
規模も数も全然違うのに何故か既視感や何かに似ていると思ったのは、自分達のホームと酷似していたから。
拓哉が既視感を感じていたのに穂乃果達が感じていないはずもない。
(そうか。凛が先に言うようになったか……)
いつもならこういうことは真っ先に穂乃果が言うのが常だった。
気付いたことや感じたことを素直に口に出すのは、いつだって率先してきたのはリーダーの穂乃果だ。
けれど、絵里達が卒業したらリーダーは穂乃果から凛になる。
凛にそういった自覚が今あるのかはまだ定かではないが、何だか感慨深くなった。
世代というものは必ず変わるものだ。
その瞬間を、その前兆をひしひしと感じたまま拓哉は再び夜に呑まれつつある街を見下ろした。
「言われてみれば、そうかもね。何でも吸収して、どんどん変わっていく」
「だからどの場所でもμ'sっぽいライブができそうって思ったんかな」
贅沢な選択肢であって、幸せな悩みというのが当てはまるのかもしれない。
候補もたくさんあって決め所に欠けるのは避けたいが、どうせなら自分達が一番輝けるところで歌いたいのが本音だろう。
今日には歌う場所を決めておかなければ明日の本番に支障をきたしてしまうという焦りはない。
今の穂乃果達を見る限りそんな心配は杞憂でしかないだろう。
「さて、そろそろ夕飯でも食べに行くか。そこでライブをどこでするか話し合おうぜ」
「そうね。夜のうちにテレビ局の人に電話して明日のセッティングの準備してもらわないといけないし、そうしましょうか」
メンバーの顔をそれぞれ見れば分かる。
きっと、場所は案外すぐに決まりそうだと。
少年少女達は、どこか秋葉と似ているアメリカの街を見下ろすビルを後にする。
さて、いかがでしたでしょうか?
希はやはり策士……けれど乙女。という感じですね。
そろそろ謎の女性シンガーが出てきそうかな~と。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
ぷちぐるラブライブを事前登録していたものの、配信されてからまだインストールすらしていない弱者です←