ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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148.乙女達の戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい、みんな。期間は今日と明日しかないの。そのあいだに各自拓哉へのアプローチを大なり小なりすること。それによって拓哉が少しでも私達を意識するようにさせるの。分かったわね」

 

 絵里の言葉にメンバー全員が頷く。

 周りに人がいるにも関わらず、まるでサッカーの試合が始まる前の円陣を組んでいるかのような雰囲気を漂わせて作戦を確認していた。

 

 いいや、結局のところ作戦というほど策など全然ない。ぶっちゃけアプローチできそうならどんどんやっちゃえ精神であって、ただただお互いを鼓舞しているだけに過ぎなかったのである。

 

 

「おーい、いくら自由の国だからって船の上で円陣組むスクールアイドルはどうなんでしょうかと拓哉さんは問いたいんだけど。ところで何してんの?」

 

「「「「「「「「「ひいっ!?」」」」」」」」」

 

 一緒に来ているのだからいるのは当然だが、こんな話をしているときに声をいきなりかけられるとおっかなびっくりしてしまうのが恋する乙女達なのだ。

 とりあえず肝心の話は聞かれていなかったらしい。小声で話していたのが幸いした。

 

 ここは船上。

 まずはアメリカと言えばここだろうと、満場一致となった観光名所へ向かうために移動中。そこで日本人の女子高生達が謎の円陣を組んでいるのだから怪しさしか感じられない。

 

 昨夜、自分達の惚れた相手が目の前にいる不審な視線を送ってくる少年だと確認し、これからどうするべきかを話し合った。

 そしてその結果が、せっかくアメリカに来たんだからここでいっちょ拓哉へアプローチして好感度上げようぜ大作戦に発展したのである。

 

 どこで踊るかの候補として街を見るのが本来の目的だが、観光もやはり含まれているのが今回の依頼だ。

 つまり、拓哉は候補と観光目的、μ'sは候補と観光とアプローチが目的に入っている。

 

 何気に一番最後のが最高難易度だと穂乃果達は初めから分かっているらしい。

 今までの経験からその難しさというのを、バカを見るような目で見てくる少年に嫌ほど思い知らされているのだから。

 

 

「アメリカに来て舞い上がるのは分かるけど、もうちょっと自重はしてくれよ。日本(あっち)の常識がアメリカ(こっち)で通じるとは限らないからな」

 

 別に船上で円陣組むのがこちらの常識とは思っていないというツッコミはしないでおく。

 とりあえず話をそらすために言い訳をどうしようかと9人が考えていると、幸いにも話をそらしたのは少年からだった。

 

 

「まあいいや。それよりほら、見えてきたぜ」

 

 視線で促してきた方向へ目をやる。

 すると、アメリカの象徴と言っても過言ではないオブジェが見えた。

 

 

「うわ~、おっきいにゃー!」

 

「あれが……自由の女神……!」

 

 右手に松明を掲げ、左手に銘板を持った女性の像。

 世界的にも有名でアメリカの象徴と謳われる物。自由の女神像が姿を現した。

 

 

「実物を見るとやっぱでけえな」

 

 船から降りて近くで見るとやはり存在感は増す。

 これが長年アメリカのシンボルとして親しまれているのなら余計そう思えてしまう。

 

 

「撮って撮ってー!」

 

「何か穂乃果ちゃん、ヒーローみたいっ」

 

「おおう、ならたくちゃんも一緒に撮ろうよ!」

 

「え、いや、俺は別に……って引っ張るなって!」

 

「何恥ずかしがってんの! ほらほら、ポーズポーズ!」

 

 穂乃果の笑顔とカメラを構えることりのキラキラ笑顔のせいで渋々、自由の女神と同じポーズをとる。

 そしてことりがカメラを撮ろうとする瞬間、突然穂乃果が拓哉の方へ飛びついてきた。

 

 

「えーい!」

 

「なっ、おま」

 

 ことりがシャッターをきったと同時に飛びついたため、写真を確認すれば決定的瞬間を見事に捉えていた。

 

 

「いきなり危ねえだろうが! というか結局ポーズ取れてないじゃん! 思いっきり崩れてんじゃん!」

 

「……!」

 

「……!」

 

「ねえ、何で2人して無言でグッジョブしてんの。何の意味なの、どういう意味なのそれ。弱み握った的なやつじゃないよね」

 

 写真を見てお互いの健闘を讃えている2人に疑問と不安しか感じない。

 きっと何かあったときこれを見せられてセクハラと言われたくなければ言うこと聞けとか言われるんじゃないか、と恐怖に苛まれるだろう。実際そんなことは絶対にないが。

 

 

「良い写真が撮れたね、たくちゃん!」

 

「めっちゃいい笑顔なんだけど。何だか不安が襲ってくるのは何故なんだろう」

 

 もう一度写真を見ると、まるでカップルのように見えなくもない感じがして微かに気恥ずかしさを感じてしまう。

 そして、それを見逃さない穂乃果であった。

 

 

「何々~? どうしたのたくちゃ~ん? もしかして~、照れてる?」

 

「う、うるせえっ。別に照れてないっての」

 

 できるだけポーカーフェイスを装ってみるが、そこはやはり長年の幼馴染。

 拓哉が意地張ってるくらいは軽くお見通しなのだ。けれど、意外と好感触だったので無理に突かずそこはあえて放置していく。

 

 

「た、拓哉君、今度は私と撮りましょう!」

 

「え? 写真くらい一人で写っても大丈―――、」

 

「一人だと何となく恥ずかしいしせっかくの思い出の写真ですし撮りましょう!!」

 

「恥ずかしいからってそこまで必死になることか……?」

 

 とは言っても海未が握ってきた手を離してくれそうにないので隣に立って花陽に撮ってもらう。

 パシャリと音がすると、そそくさと写真を確認しに行く海未。

 

 花陽に見せてもらうと、いきなり顔がボンッと赤くなりながらもギリギリ聞こえる声でお礼を言っていた。

 一応拓哉も確認させてもらうと、自由の女神像を前にして全然自由っぽくない表情の二人が写っている。

 

 

「観光で思い出の写真のはずなのに何でポーズも何もしてないんだ俺達は」

 

「さ、さあ……」

 

 自分達の疑問を呟いても花陽からは当然何も返ってこない。

 ピースでも何でも写真ならポーズをとるはずなのだが、最近は撮る方が趣味になっている拓哉と恥ずかしがり屋の海未では撮られる際のポーズがまったく分からない。

 

 

「でも、何だかこうして見てみるとあれですね」

 

「「?」」

 

 写真を見つめながら花陽が呟くのを拓哉と海未が見る。

 分かって言っているのか、それとも無自覚で言っているのかはおそらく花陽本人にしか分からないだろうが、大人しめな少女は言った。

 

 

「まるで新婚夫婦の初々しい写真というか、家族写真みたいな」

 

 言った瞬間、隣の海未がボンッと爆発した。

 これで二回目の爆発なわけで、さすがの拓哉も先ほどの穂乃果とのこともあって動揺を隠せない。

 

 

「い、いやいや、新婚夫婦ならもっと笑顔のはだし、家族写真でももうちょっと笑ってると思うぞ……?」

 

「確かにそうかも……。いやでも拓哉くんと海未ちゃんならあり得るかなって」

 

「何かやけにいつもより饒舌じゃありませんこと花陽さん?」

 

 アイドル好きを拗らせた時とまではいかないが、不思議と普段より言葉が出てくる花陽。

 そろそろ控えてくれないと隣の海未がそのまま蒸発しそうでならない。あまりの赤面っぷりに拓哉とそう見られてると言われても否定の言葉が出てきていないのが証拠だろう。

 

 結局、強引に話を逸らすことにした。

 

 

「ええい、大体ここは観光したしそろそろ移動するぞ小娘どもー! 穂乃果とことりは海未の回収よろしく!!」

 

 多分自分が今の海未に触れるととんでもないことになりそうなので同じ幼馴染に任せておく。

 何だか今日は変に動揺することが多いなと感じつつ、そそくさと次の場所へ移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで時間的に先に昼食を食べにきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、俺がトイレ行ってるあいだに何があった。何でテーブルの上にあり余るほどの皿が並んでるんだ。しかもパンケーキやらチーズケーキがあることからして犯人はことりと見た!」

 

「はぁ~幸せ~」

 

「話聞いてないなこの子は!!」

 

 目の前のチーズケーキに虜になっていることりは恍惚とした表情を浮かべている。

 拓哉の推理に見向きもしないが、おそらく、いいや確実にことりが犯人だろう。

 

 甘いものは割と好きな方ではあるが、男子高校生的に甘いものばかりの昼食はさすがにちょっとキツかったりする。

 しかしここで何か追加注文したところでテーブルの上に置く事はできない。

 

 つまり、まずはここに置かれている品を片付けなければならないということである。

 よって。

 

 

「ちくしょう絶対追加注文してやるもぐもぐ甘いものに負けないんだから!!」

 

 やけ食いに近い爆食。

 自分の目の前にあるパンケーキから片っ端に食べ進めていく。

 

 拓哉のやけ食いを合図に穂乃果達も食事を始めるが、どうしても拓哉の勢いに飲まれてしまう。

 そんなところで拓哉の隣に座っているオカンことにこが口を挟む。

 

 

「ちょっと拓哉」

 

「あん?」

 

「食べ方汚いわよ。虎太郎でももっと綺麗に食べるんだからちゃんと普通に食べなさい」

 

 下の姉弟達を日頃世話しているにこにとってこういうのはあまり見過ごせないらしい。

 こういうときは普段と違って母性に目覚める長女特有の能力を発揮している。

 

 

「ほら、急いで食べるからほっぺにクリーム付いてるじゃない。しょうがないわね」

 

「んぉっ」

 

 慣れたようにティッシュを持ち拓哉の頬に付いているクリームを拭いとる。

 カップルのような感じに見えなくもないその様子に穂乃果達はそれを凝視する。そしてクリームを拭いてもらった拓哉はにこをじんまりと見て言い放った。

 

 

「お母さん……」

 

「なーんで私の時だけ照れるでもときめくでもなく良い感じにならないで子供心に戻ってんのよアンタはー!!」

 

「何いきなり罵声の嵐を吹きかけてきてんだ! あまりにも自然なオカンっぷりに母性感じたのはそっちでしょうがよぉーもー!」

 

 やはり一筋縄ではいかないのが少年だった。

 やり取りは完全に親子のそれだったが、にこ的には一応アプローチのつもりだったらしい。現に穂乃果達は理解していたけれど、そこはこの少年がある程度気付くか気付かないかの問題であった。

 

 

「こうなったらこっちもやけよ! 拓哉、口を開けなさい。アンタのそこに私がこれを思い切りぶち込んであげるわ! すなわちあーんってやつよ!!」

 

「何か言葉の選びが色々とアレじゃないですかね!? というかちょっと待て! お前の持ってるスプーンにパンケーキが見当たらないんですけど。何なら大量の生クリームだけしか見えないんですけど!? フォークじゃない時点で完全に生クリームだけ食わそうとしてるな!!」

 

「このにこにーにあーんされるだけ光栄に思いなさいよバカ! こちとら割と勇気と覚悟決めてやってるんだからね!!」

 

「だったら無理にしなくてもいいだろうが! それにせめてパンケーキがいいという拓哉さんの言葉は受け入れられないんでしょうか!?」

 

「日本のお店でもないのによくこんな言い合いができるわねこの二人は……」

 

 軽く迷惑になっていないかと心配する絵里だが、幸いにもこの店は結構賑やかで誰も気に留めていない。

 かといってこのまま放置しておくのも得策ではないことも承知している。

 

 でも、今にこは決死の勇気をもってして(軽くやけになって暴走状態ではあるが)拓哉にアプローチしている。多分。

 それを無下にして止めることも何となく憚れてしまう。メンバーで協力し合ってアプローチするという結論になった以上、邪魔をするのは違うのではないかとも思っているのだ。

 

 

 しかし、そんな心配も次の瞬間に吹き飛んだ。

 というより、拓哉とにこのちょっとした戦いに終止符が打たれた。

 

 

「うるさいさっさとその無駄口閉じて大人しく口を開けなさいうおりゃー!!」

 

「その言い分は少し矛盾があるんじゃごぼぶりゅぁッ!?」

 

 

 口が開いている瞬間に、拓哉の口内に大量の生クリームが放り込まれた。

 勝者、矢澤にこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはやときめきもラブコメもあったもんじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、いかがでしたでしょうか?


2週連続一日遅れの更新でした。すません。
今回から穂乃果達のアプローチという名の戦いが始まりました。
と同時に岡崎の謎の不安と動揺の戦いの始まりでもありました!
果たしてどちらが勝つのか……(そういうのではない)


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!






実は数日前からタグを変更して『ハーレム?』から『ハーレム』、『ラブコメ?』から『ラブコメ』に変更してました。
気付いた方はいるのか。

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