「朝はいいね~」
「テンション上がるにゃー!!」
「で、何で朝っぱらから絵里さんはちょいと不機嫌になっておられるのでしょうかはい分かる人ー」
翌日。
午前中にやれるトレーニングはしておいて、午後から観光という名の踊る場所を決めるために街を散策するという話になったのは分かっていた。
誰も寝坊することなくランニングの開始場所に着き、拓哉も一緒に走るため準備運動をしていると目に入ったのだ。
穂乃果とにこをムスッとした瞳で睨みつけている絵里を。
「さあ。同じ部屋だったから何かあったんじゃない?」
「本人に聞けば早いか。なあ絵里、いったい何があったん―――、」
「拓哉は聞かなくていいの!」
「お、おう……」
きっと女の子特有の聞かれては困る類の話なんだと結論付けてこれ以上の追及はしないでおく。
寝言とはいえおばあちゃんっ子だということが判明してしまい、穂乃果とにこからずっとニマニマされていたのが原因だったなんて恋する乙女には到底話せない内容である。
「もう……行きましょ! 今日は午後から頑張らないといけないんだから!」
「? トレーニングはもちろんだけど、街の散策って特に頑張る必要はあんまりないと思うんだけど」
「いいからいいから! 行くよーたくちゃん!」
「押すなって。俺は一番後ろから着いて行くから先走ってろ」
些細な疑問は穂乃果に背中を押されることによってどこかへ吹っ飛んでいった。
女の子にとって珍しい街は男で言う冒険的なワクワク感でもあるのだろうか。
「大都会の真ん中にこんなに大きな公園があるなんて素敵~!」
「もう、いつまで話してるの」
「まずそこの警戒心むき出し大和撫子を引っ張り出す必要があるな」
視線の先には物陰から一人こちらを見ている海未がいた。
昨日の今日ではやはり警戒心はさほど埋まっていないように見える。しかし早めにトレーニングを終わらせないと着替えて街に出かけることすらできないので、仕方なく説得する。というより幼子を扱うように接してみる。
「ほーら海未~、こっちおいで~」
「……本当に、信じても、よいのですね……」
「なら俺からも質問を返そう。俺を信じるか信じないか、どっちだ?」
「信じます」
「ナイス即答。良い子だ」
あまりにもあっけなく出てきたのは意外だったが、事が早く進むのは非常に助かる。
そんなわけでランニングが始まった。
「それじゃ、出発にゃー!!!」
μ'sの次期リーダー、凛の言葉によって各々が走り始める。
「凛ちゃんはいつも元気やんなあ」
「あれぐらいじゃないとリーダーなんて務まらねえよきっと。穂乃果が穂乃果だし」
「それもそっか」
希と走りながら先頭にいる凛を見て思う。
穂乃果とはまた違った明るさを持っているゆえに、どこまでも突っ走っていきそうだがそこは花陽に任せようと他力本願していく。
(それにしても……)
一番最後尾で走りながら街や公園を見渡す。
寒すぎることも暑すぎることもなく、素直に走りやすいと思った。
周りは都会なのにここ周辺は自然がなっていて、走っているのに景色は飽きない。
だから自分達以外にも走っている人がたくさんいるのだろう。
(これなら候補も期待できそうだな)
どこで踊るかは穂乃果達の自由。
変に候補がありすぎても困るが、どこもないよりかは贅沢な悩みになっていいと思える。
元々スタミナには自信があったからか、特に疲れることもなくメンバーが全員止まっているところで休憩。
「うわー見てー! こんなところにステージあるにゃー!」
「コンサートとか開いたりするのかしら」
見れば白を基調としたステージが真横にある。
観客席もあることから、何かしたイベントや演奏会などがあれば使われているのかもしれない。
「ちょっと上ってみる?」
「今なら誰もいないしいいんじゃないか。俺はちょっと自販機で人数分のドリンク買ってくるから候補にするかどうか決めたらいいよ」
「たくちゃん私オレンジジュース!」
「全員スポドリだっつの」
これも手伝いとしての役割である。
さっき走って来た道のりに自販機があったのを見たからまたそこへ走って行く。
(英語はこれっぽっちも喋れないけど、それを抜いたら結構いいとこだよなあ)
まだ街をちゃんと見ていないのに些か早計すぎる結論だとは思うが、拓哉的には今のところマイナスなイメージはそんなにない。
買った飲料水を入れれる分だけウエストポーチに入れていく。
だがやはり10人分となると全部入るはずもなく、入らない分は両手に無理矢理数本持つことにした。
少し悪戦苦闘しながら戻ると、何やら穂乃果達と3人のアメリカ人女性が話しているのを目撃する。
拓哉が近づくあいだに話は終わったらしく、すれ違いざまに軽く挨拶されヘ、ヘローとだらしない英語が出てしまったのは仕方ないとしておこう。
変に絡まれていたわけでもなさそうだし、単純に何を話していたのか疑問に思った。
「あの人達と何か話してたのか? というか話せてたのか?」
「私はちんぷんかんぷんだったけど、希ちゃんが話してくれたよ!」
「相変わらずの万能巫女娘だな。で、何言ってたんだ?」
飲料水を穂乃果に渡していってもらいながら希に聞く。
すると希は拓哉の方ではなく、海未の方へ視線をやりながら言った。
「せっかく来たんだから、色んなとこ見て。だって」
「だって」
便乗するように絵里が続く。
なるほど、これは海未を見て言うわけだと思う。
「希ちゃん凄い!」
「さすが南極に行くだけのことあるにゃ」
さりげなくとんでもない事を凛が言ったような気もするが、その前に希の口が開いた。
「海外も悪くないでしょ?」
「それについては俺も同意だな」
「もちろん、注意も必要だけど」
「……そうかもしれませんね」
海未の表情が柔らかくなる。
これで心配はそんなにしなくてもいいだろう。街に出る前に不安が少しでも払拭されたのは大きい。
「よおーし! それじゃ練習しっかりやってから、この街を見に行こう!!」
穂乃果の元気な声でメンバーの気が引き締まる。
それを合図に拓哉も声をかけた。
「んじゃまずはこのステージで一曲踊ってみたらどうだ? 候補になる可能性があるなら、実際に踊ってみたほうが見栄えとか確認できるだろうし」
「それもそうね。拓哉には見栄えの方を確認してもらうことにしましょ」
「それじゃ凛ちゃん、お願いできる?」
「もっちろん、任せるにゃー!」
次期リーダーの凛が仕切る。
新年度が始まる前のちょっとした練習である。
およそ4分ほど即席で踊れる曲を踊った結果。
ステージを見ていた拓哉ははっきりと告げた。
「物足りないな」
「というと?」
「確かに悪くはないんだけど、周りが公園ってのもあって日本とそんなに変わらない気がするんだ。それに、実際に踊っているのを見るとステージが狭く感じる」
「あー、確かにそれは私も思っちゃったなあ」
アメリカという大都会に来たのにも関わらず、狭いステージで踊るのはどうしてもこじんまりした見え方になってしまう。
決して悪いわけではないが、これじゃ満足のいくライブができるのかと言われれば、自信を持って首を縦に振ることは難しいかもしれない。
「アメリカらしいといっちゃなんだけど、どうせなら少しでもこの国の象徴というか、有名なところで大きくステージを使ったほうが良い宣伝になるんじゃないかって個人的には思ってる」
「拓哉の言う通りね。せっかくテレビ局からの依頼なんだし、宣伝になるところで踊らないと広がるものも広がらないかもしれないし」
「まああくまで候補の一つとして考えておいてくれていいってことだよ。候補があるに越した事はないからな。贅沢は増やしてなんぼだ」
「練習なのにワクワクしてきちゃったね!」
こうして穂乃果が基本プラスに考えてくれるから他のメンバーもむしろやる気になってくれる。
やはりリーダー気質なんだなと思いながら、段々と午後に近づいてきている時計を見て時間を逆算していく。
「今からまたランニングでさっきのとこまで戻ってホテルで準備する時間を考えると……ちょうどいいか。よし、このまま戻って各自出かける準備をしよう。また頼むぞ凛」
「了解にゃー!」
はたまた凛を先頭にメンバーが後ろを着いて行くかたちで走っていく。
少し練習や走っただけで色んなことが分かった。
ということは街に出かければもっとたくさんの情報量があるはずだ。
不安と入れ替わるように期待が膨らんでいく。
「まだまだ何かありそうだな」
自然と、岡崎拓哉は表情が綻んでいた。
さて、いかがでしたでしょうか?
海外に来て初の練習です。
やはり日本ではない海外ならではの発見とかがあるんじゃないかと思って。
ちなみに作者も英語はさっぱりです。
次回が街なのでちょっと区切りよく短めになりました。
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