ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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144.部屋割り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ……うう……うぅっ……」

 

 ホテルの一室。

 とりあえずそこで全員集合できたのは良かったが、ベッドで嗚咽を漏らしながら泣いている少女がいた。

 

 正確には、岡崎拓哉の胸と腹の中間あたりに抱き付いて顔をうずくめている海未の姿があった。

 

 

「ご、ごめん! 絵里ちゃんに渡されたメモ写し間違えちゃって! だって英語だったか―――、」

 

「今日という今日は許しません!! あなたのその雑で大雑把でお気楽な性格が、どれだけの迷惑と混乱を招いていると思っているのですか!?」

 

 元凶(バカ)穂乃果の謝罪は当然受け入れられず、怒りのスーパー地球人と化した海未の口撃は止まらない。

 ちなみにガチで泣いているので拓哉の服は海未の涙で若干濡れている。

 

 

「まあ、ちゃんと着いたんだし」

 

「それは凛がホテルの名前を覚えていて拓哉君がすぐに電話をくれたからでしょう!! もし忘れられていたら今ごろ命はなかったのですよ! うああああ拓哉ぐぅぅぅん!!」

 

「大袈裟だにゃ……」

 

「それほど不安だったんだろ。英語が話せないから言葉も通じない、体格の差だってある。おまけにどこに行っても自分の知らない場所。女の子なら怖がっても無理ないさ。あーいよしよ~し」

 

 また腹辺りに抱き付いてきた海未の頭を撫でる。

 おいおいとひと昔前にあるような泣き方ではあるが、海未の怖がっている理由は本気も本気だから拓哉的に無視はできなかったりする。

 

 いくら武道や稽古、スクールアイドルをしてラブライブに優勝していたとしても、園田海未はいたって普通の女の子なのだ。

 好きな物もあれば嫌いな物もあって、平気なこともあれば怖いことだってある。

 

 どこにでもいる平凡な女子高校生だから、急に知らない土地にやってきて本来行くべき場所とは違う場所へ連れて来られたときの不安感は異常だったに違いない。

 要するに、海未の気の済むまで拓哉は頭を撫でないといけないのである。

 

 

「う、海未ちゃぁん。みんなの部屋見にいかない?」

 

 おいおい言いながら首を横に振る。

 

 

「ホテルのロビーも凄かったわよぉ」

 

 絵里の健闘も空しくまたも首を振る。

 

 

「じゃあ近くのカフェに……」

 

 やはり首を振る。

 

 

「あの、海未さん……? 気持ちも大変お分かりになりますが、せめてそろそろ泣き止んでくださると拓哉さん嬉しいかな~って。ほら、あなたの涙で俺の服がいよいよ大量におねしょしたみたいな惨状になってるか―――、」

 

 この日一番の拒否反応を示された。

 どうやら海未の中では慰めよりも自分の泣ける場所を手放さない気持ちのほうが大きいようだ、と仕方なく納得する少年。

 

 

「う、海未ちゃ~ん……機嫌直してくれないといい加減羨ま……げふんげふん。たくちゃんも困ってるようだし、ね?」

 

 一瞬抑えきれない本音が垣間見えたが、頭を撫でるのと自分の服の心配で肝心な部分を聞いていなかったクソ鈍感野郎。

 安堵すればいいのかちょっと腹も立つが、どうしたものかと考える。穂乃果の観点からすると、海未の目的が怖くて泣いているのか拓哉に抱き付くのが目的なのか曖昧になってきているところである。

 

 おそらく半々だろう。

 

 

「ねえ、気分転換におやつでもどう? カップケーキ買ったんだっ」

 

 そこに来るのがみんな大好き花陽ちゃんなのだった。

 いつでもどこでも彼女の行動は尊いに等しく、また優しい気持ちにさせてくれるようなほんわかオーラがある。

 

 そう、女の子というのは。

 どこにでもいる平凡な女子高校生というのは。

 

 

 

 おやつ、もしくはケーキ類に目がないのである。

 

 

「おお、花陽ちゃんナイス!」

 

「じゃあそれ食べたら明日からの予定を決めちゃいましょう」

 

「うん! 海未ちゃんも食べるでしょ!」

 

「ッ!」

 

 花陽のカップケーキ買ってきた宣言から実はケーキに目線を送っていた青髪少女は思わずドキリ。

 もちろん、頭を撫でていた拓哉は海未の顔の動きが分からないはずもなく、あれだけ怖い怖いと言っていた泣き顔が嘘のように真顔になっているのを見逃さなかった。

 

 

(待て。確かに今何だこいつ突然態度変わりやがってやっぱ女の子はケーキかケーキなのかと思ったけども。さっきまでの様子は本気で怖がってたしこれで結果的には俺の服ももう濡れなくて済むから一件落着なのでは。いいや、むしろ海未ほどギャップのある女の子を間近でしかも良い匂いする頭を撫でられて、且つ女の子の怖がる純粋な涙という聖水を大量に俺の服に染み込ませられたのは言っちゃなんだが役得というのでは……!?)

 

「いただきます」

 

 一人長考している変態少年など意にも介さず、女神達は話を進める。

 顔は真顔でも1年近く一緒にいると何を考えているのかくらい少しは分かる。

 

 というより、『初恋』を知ってしまった彼女達の探求心はたまに変なところへいくようで、想い人の顔を観察するうちに大体のことは分かるようになったと言ったほうが正しいのかもしれない。

 つまり、今あのバカ唐変木が考えていることがロクでもないことを知っている。

 

 

「ほら花陽ちゃん達の部屋に行くよ変たくちゃん」

 

「……あ、ああ、分かった。……ん? ねえ今変なあだ名で俺のこと呼ばなかった? 絶対呼んだよな? 変態とたくちゃんを足して略したな今!?」

 

 穂乃果から否定も肯定の言葉もなく、あえなく無視というかたちで部屋一人残される男子高校生。

 思春期男子にありがちな妄想も仕方ないはずなのだが、それが通じるほど世の中は甘くないのだった。

 

 いつまでも嘆いているわけにもいかず花陽達の部屋までそそくさと移動すると、既にカップケーキは配られている。

 花陽からケーキを受け取り一口パクリとしたところで思い出した。

 

 

「なあ、そういや俺の部屋はどこなんだ? 海未達迎えに行ってたから俺だけ自分の部屋分からないままなんだけど」

 

「……あ、あー、それね……そのことなんだけど……」

 

「?」

 

 珍しく絵里がバツの悪そうな顔でしどろもどろになっている。

 一緒にオファーされたんだし隣の部屋かなと思っていたが遠かったりしたのだろうか。

 

 と。

 そんなお気楽な思考は次の一言で押しつぶされることとなる。

 

 

「あちら側の手違いというか、スクールアイドルのお手伝いだからって拓哉を女の子と勘違いしてたのかは分からないけど……私と穂乃果とにこ、そして拓哉……どういうわけかあなたも私達と同じ部屋らしいの」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」

 

 ドラマやアニメで驚きのあまりスプーンやフォークを落としてしまう演出は見たことあったが、まさか現実で本当にフォークを落とすとは思わなかった。

 カラーンと、落とされたフォークを拓哉の代わりに慌てて花陽が拾う。

 

 部屋割りの話をどうも中々始めないなとは思っていたが、衝撃の真実を突きつけられた。

 頭の整理がおぼつかない中、それでも分かることだけを順番に並べていく。

 

 スクールアイドルの手伝いなんだからどうせ女の子だろうと勘違いされ、よりによって泊まる部屋が一番人数多くて、純情健全思春期男子高校生が3人の女子高生と同じ部屋で寝泊まりする。

 

 これで整理はついた。

 その上で、やるべきことはただ一つ。

 

 そうと決まれば即行動。

 足をドアの方へ向けて歩き出す。

 

 

「どうしたのたっくん?」

 

「決まってるだろ」

 

「?」

 

 可愛らしく首を傾げることりを見ずにドアノブに手をかけて少年は言った。

 

 

「ロビーに行ってくる。戦争だ」

 

「穂乃果! 凛!」

 

「ストップストーップたくちゃん! それはダメ! 戦争なんて言っちゃダメだから!!」

 

「うるせええええええーッ!! どう見たって名前見りゃ男だってことぐらい分かんだろ! なのに俺を女の子と間違えるたあ良い度胸だこんちくしょう!! 日本語が通じなくたってジェスチャーでぶん殴ってやらぁ!!」

 

「問題事は起こさないって唯ちゃんに約束したはずだにゃー!!」

 

 顔が鬼のような形相になっていてもはやあれは本当に岡崎拓哉なのか疑いたくなるが、どっちにしろ止めるほかない。

 にしても変態的思考はしても女の子と同じ部屋はいけないと思っているのはちょっとした矛盾ではないかと少数のメンバーが密かに心の中でツッコむ。

 

 女子には分からない男のロマンある妄想と下手すると犯罪を犯してしまいそうな実行は違うとだけ分かってほしい。

 

 

「あと何故かベッドはハネムーン仕様になってるらしいわ」

 

「確信犯じゃねえか!! 分かっててそんなことしたのかこっちのお国連中は!? 日本とアメリカじゃロマンや男女の恋愛観にズレが生じるの分かってねえなあいつら!!」

 

「こっちじゃサプライズみたいに思われてるのかもね」

 

「余計なお世話ッ!!!! 男子高校生の純情さ舐めんな!!」

 

 未だにギャーギャー騒ぐ拓哉を必死に抑える穂乃果と凛。

 女の子2人に抑えられたら無理に離すこともできず、無意識に乱暴な素振りは見せないあたり徹底している。

 

 それを見かねた絵里は、ケーキを食べてすっかり元通りになった海未に命じた。

 

 

「海未、拓哉を静かにさせてちょうだい」

 

「すみません拓哉君」

 

「普通に考えて男一人に対して女の子が三人とかおかぶべらぁっ!?」

 

 静かな謝罪からの見事な踵蹴りが拓哉の頬を狩った。

 簡単に言ってしまえば、海未が蹴って拓哉が無駄に大ダメージ喰らって気絶となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拓哉が残した食べかけのケーキは私がいただこうかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 パクリと。

 クォーター美人はクォーター美人らしく、上品に食べかけのケーキをいただいて事態は収束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


手違いなのかわざとなのか、部屋が同じにされてしまったわけですが、どうなるのかは次回になります。
こういうことに関しては岡崎は徹底しているのでw


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!






謎の女性シンガーについてはどうするかまだ迷ってたり。

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