~真・最終章~
プロローグ
141.最後の軌跡へと
かつて、こんな出来事があった。
まだ少年少女達がスクールアイドルというのを無知でいて、また存在すらもしていなかったような幼き頃。
見た目年齢小学生低学年の幼馴染達は、夕方の公園にいた。
ただいつもと違ったのは、片方の髪をサイドに結んでいる明るい茶髪の少女が裸足であることだ。
鬼ごっこやかくれんぼとは違う。他の子供達はとっくに帰っており、残っているのは幼馴染のみ。
アッシュグレーのような髪に名前の通りトサカにも見える特徴的な髪型をしている少女や、木の後ろから人見知り発揮中の青みがかったロングヘアーの少女。
そして、同じく裸足で大きな水溜まりに足を付けている茶髪のツンツン頭の少年が見守る中、茶髪の少女が走り出す。
『穂乃果ちゃん!』
そう呼ばれた少女はお構いなしに走る。
目の前には子供が飛び越えるには少し大きすぎるかもしれない水溜まり。それを、飛び越えるために。
『たああああああああッ!!』
大きくジャンプする。
ハンマー投げのように投げる時に大きく声を上げるのと同じ原理を利用した結果。
『うわぶっ!?』
『ぐぇあっ!?』
失敗を見越した少年が少女を支えようとして盛大に仲良くボチャンした。
『冷たー!?』
『穂乃果ちゃん! たっくん!』
駆け寄ってきたトサカ少女南ことりの目の前には、穂乃果と呼ばれた少女に下敷きにされている少年岡崎拓哉の姿が映し出されている。
『冷たいのは俺の方だっての! 仕方なく裸足になってまで危ないから側で見ててやろうと思ったら案の定だよ! とても冷たい!!』
『むぅ~……何で……なんでなんでなんで~!!』
『うるせえええええ!! とりあえず早く降りろやこのバカ!! 泥人間になる、俺泥人間になっちゃうから!』
拓哉の上で地団駄を踏む穂乃果に怒鳴り散らす。
実際あのまま拓哉が下敷きにならなかったら後頭部を強打していたかもしれないと思うと、案外泥水だけの被害になったのは幸いだったと思う。
『やっぱり無理だよ……帰ろう?』
『大丈夫だよ! 次こそできる!』
『その自信は長所だけど成功しない限り俺が犠牲になるの忘れるなよ』
さっさと定位置に戻った穂乃果には聞こえていなかったらしい。
あとでしばくと決意した拓哉はまた水溜まりの上に立つ。結局穂乃果がやめない限りこの役目は自分がこなすしかないのである。
『行くよ!』
同じように走り出す。
意外と惜しいところまで飛んでいたが、それでも前回と同じようならまた失敗するだろうと思ったときだった。
どこからか歌声が聴こえてきた。
音楽教室からの歌声かもしれない。
帰宅途中の子供達の歌声かもしれない。
親との買い物帰りに一緒に歌っているのかもしれない。
とにかく、楽しげな歌声が穂乃果の耳に入ってきた。
あとはもう無自覚だった。
一度聴こえてきた歌声は自然と穂乃果にリズム感を与える。
走るテンポにリズム感が加わってスピードが変わった。
誰かが言った。
リズムというのは、意外と何事にも当てはめられるものだと。
サッカーでパスを次々と繋げていくように、野球で連続打者が出るように、一連の動作にはリズムが関わってくるものは多い。
ただがむしゃらに走っていた先程とは違い、足取りも自然になった穂乃果を見て泥水まみれの少年は思った。
(いける)
子供ながらの勘が働いた。
いつでも支えられるように構えていたが、いつの間にか観客と同じような感覚で行く末を見守る。
飛んだ。
それはもう綺麗に。
先ほどよりも高いジャンプは、そのまま穂乃果の小さな体を水溜まりの向こう側へと導く。
いっそ美しいとさえ思えるそのジャンプは、ことりや海未、拓哉でさえ見惚れさせるものだった。
無理だと思われていたジャンプを、乗り越えて見せた。
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まだμ'sが音ノ木坂学院を廃校から救い出し、ラブライブで優勝するその数年前の話。
奇しくも、もうその時点から軌跡の物語は始まっていたのかもしれない。
さて、いかがでしたでしょうか?
真・最終章『劇場編』のスタートです。
プロローグなので短いのはご了承ください。
このまま少年少女達の“最後の物語”をご覧くださいませ!
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
では、新たに高評価(☆10)を入れて下さった
うぉいどさん
鏡黒さん
湊@真くん大好きさん
計3名の方からいただきました。
真・最終章へのモチベブーストにさせていただきます。本当にありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
さあ、劇場編で何話まで続くのか。