ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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133.言葉の意味

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでやり残したことはないわね」

 

「うん」

 

 

 

 あれから俺達は神田明神に来て参拝していた。

 意外にもみんな俺の提案に何も言うことなく賛成してくれたからスムーズに来れた。

 

 

「こんなにいっぺんにお願いして大丈夫だったかなー?」

 

「平気だよ! だってお願いしてることは一つだけでしょ?」

 

「え?」

 

「言葉は違ったかもしれないけど、みんなのお願いって一つだった気がするよ!」

 

「……そうだな」

 

 こうやって確信を持って言えるのが穂乃果の強みだ。

 そしてそれは決して間違ってはいないとも思ってる。実際みんなの願いは一つだけだっただろう。

 

 

「じゃあもう一度」

 

 巫女をやっている希の言葉で全員が声を揃えて言った。

 

 

「「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」」

 

 深く祈る。願う。誓う。

 それぞれの言葉は違えど、原点は同じ。

 

 始めた順番やきっかけは異なっていても、揃ってからはみんな同じ思いでμ'sを続けてきた。

 だからこそ分かる。だからこそはっきり言える。

 

 やはりμ'sはこの9人なんだと。

 頭を上げると穂乃果達の表情も微笑んでいるのが見えた。そしてその視線は突然俺に向けられることにもなった。

 

 

「ところでたくちゃん。気になったんだけど何でいきなり神社に行こうって言ったの?」

 

「そういえばそうね。拓哉が願掛けってあんまりイメージないかも」

 

 おいどういうことだそれ。俺だって願掛けする時くらいあるぞ。何なら四六時中アニメの世界に入れないかな入りたいな入れさせろって神様に訴えてるまである。確実に無理な願いだから多分神様も困ってるレベルで訴えてんぞ。

 

 

「ねえねえ何で何で~?」

 

「うるせえジリジリ近寄ってくんな近い、近いから」

 

 くそう、仄かに女の子独特の甘い香りがするぞ穂乃果だけに。さっきまで練習してたのに何だこいつ。体内で消臭剤生み出してんじゃないだろうな。女の子はこうして汗かいたあとのケアも忘れないとよく聞く。なるほど拓哉勉強になった。

 

 

「なーんーでー!」

 

「……あー、まあ何だ。ある意味ここは俺にとって始まりの場所なんだよ」

 

「始まりの場所?」

 

 これ以上近づかれると面倒なので仕方なく理由を話す。

 穂乃果の額に手を当て離すと少しムスッとしたのには何も言うまい。

 

 

「俺が初めて音ノ木坂学院に向かう途中、ここに寄ったんだ。せっかくだから参拝でもして行こうかなって」

 

 約1年前の記憶だった。

 それなのにもう懐かしいような感覚に思えてしまう。

 

 

「そこで願ったんだよ。学校生活が上手くいきますように、素敵な出会いがありますように、とかさ」

 

 正確にはまだ1年はたっていない。だけど、そのあいだに色んなことがたくさんあった。

 下手すれば人生の中で一番濃密な1年だったかもしれないほどに。

 

 

「そしたらさ、本当に素敵な出会いがたくさんあったよ。穂乃果達とは学校でサプライズの再会したし、気付けば真姫達1年や絵里達3年とも巡り合えた。アイドル研究部に入ってμ'sの手伝いをするようにもなって学校生活も楽しかった」

 

 俺からすればどれも大事な思い出の一つ一つだ。

 何ものにも代えがたい、宝のような日々。最近ふと思うようになった。俺は、このμ'sと一緒に過ごしてきた学校生活が大好きだったんだって。

 

 

「だからかな。明日が本選。最後のステージ。だから、俺の始まりの場所に来たかったのかもしれない。……まあ、お前らには関係ないかもしれないけど」

 

 結局は俺のわがままでここに来たかったわけなのだが、手伝いの分際で何を言ってるんだとか思う。

 私情で明日本番のこいつらを連れ回すのはよくないよな。

 

 

「ううん、そんなことないよ」

 

「え?」

 

 だから、穂乃果達の顔を見て驚いてしまった。

 

 

「たくちゃんの大事な場所がここなら、私達の大事な場所だってここだよ」

 

「何だそりゃ。どういう理屈だよ」

 

「神田明神。ここは私達にとっても思い出がたくさん詰まってる場所ってこと。忘れたとは言わせないよ? ここで私達はファーストライブ前夜の時も来たし、練習の時だってここを使ってたんだもん。大事じゃないはずないよ」

 

 忘れるはずもない。忘れるわけがない。

 だってずっと俺は穂乃果達をそばで見てきたんだから。

 

 

「そうやね。それに、ウチが拓哉君と初めて会ったのもここやったしねえ」

 

「そういやそうだな。あの時はいきなり背後から声かけられて驚いたのを覚えてるわ」

 

「ふふっ、それと事あるごとに拓哉君がウチにプロポーズしてきたのもね」

 

「「「「「「「「ほーう……?」」」」」」」」

 

「ちょっと希さん? 確かにそんなこともあったけど今それ言う必要ある? とりあえずそこの猛獣化した8人を止めてくださいますと助かるのですが! い、嫌だ、本選前日にセクハラ発言で一発退場なんて嫌だー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、今度こそ帰りましょ」

 

「うん、明日!」

 

 何て爽やかな表情をしているのだろうこの子達は。神社に1人ぶっ倒されている男子がいるという何気にシャレになってない事態が起きているのに何故こうも平然としているのだろう。いや、実際暴行はされていないが罵倒の嵐で拓哉さんがメンタルごと勝手に吹っ飛ばされただけなんですけどね。

 

 

「……、」

 

「もう、キリがないでしょ?」

 

「そうよ、帰るわよ」

 

「行こっか」

 

「うん、じゃあね。ほら行くよたくちゃん。すぐ立つ」

 

「はい」

 

 何だろう。この嫁に尻に敷かれているような感覚。

 世間の夫は愛した人にこうした扱いを受けているのか。世知辛いなこの世の中も。

 

 

「というか花陽のヤツ、大丈夫かねえ」

 

「真姫ちゃんと凛ちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど……」

 

「気にならないと言えば、嘘になっちゃいますね……」

 

 他のみんなは一応割り切ったようには見えるが、多分それを隠しているだけだろう。

 花陽だけが割りきれず、素直に表情に出てしまっていた。だけど、1人がそうしていると、不思議なことにそれは伝染していくものだったりする。

 

 

「……まだみんな、残ってるかな……」

 

「穂乃果?」

 

「ごめん。一回だけ、戻ってみたい……」

 

 返事も聞かずに穂乃果は来た道を戻って行ってしまう。

 そうなれば当然海未もことりも、もちろん俺も着いていかずにはいられない。

 

 これは俺の予想だが、穂乃果がああ言ったんだ。

 多分、他のみんなもいると思う。何だかそんな予感しかしない。

 

 

 

 

 

 

「あれ、みんな……」

 

「穂乃果ちゃん、どうしたの?」

 

 やっぱりいた。

 帰ると言っていたにこまでもめっちゃ普通にいた。

 

 

「あはは……何かまだ、みんな残ってるかなって……」

 

「だよね!」

 

「どうするの。このままじゃいつまでたっても帰れないわよ」

 

「真姫の言う通りだ。まだ日が短いんだから解散するなら早めに越したことはない」

 

「そうだよね」

 

 だからといってこのまま解散すれば何だか腑に落ちない感もあるが、それはそれと思うしかない。

 

 

「朝までここにいる?」

 

「こんなとこで朝までいたら補導されるに決まってんだろ」

 

 まだ俺達は補導される年齢だからもちろん却下。コート羽織ってるとはいえ中は思いっきり制服だし。

 本選前に変な騒ぎを起こすのは以ての外である。

 

 

「……あ、じゃあさ! こうしない!?」

 

「一応聞くだけ聞いてやる」

 

 こういう時の穂乃果の提案は良い時と悪い時がある。

 経験上俺は知っている。何だか嫌な予感しかしないし、それを俺が感じたら絶対に当たってしまうことも。

 

 

「みんなで学校でお泊まり会しようよ!!」

 

「はい却下」

 

「何で!?」

 

「当たり前だろ! 学校に泊まるなんてそんなもんいきなり申請できるわけないだろうが! それにもし許可が下りたとしても食事と風呂、寝巻きの用意とかどうすんだ!」

 

 学校でお泊まりイベント。

 それだけならアニメやマンガでよくある定番イベントの一つだが、現実でやるとなると結構面倒だったりする。

 

 学校に風呂なんて宿直室にあるかないかで、食事なんてわざわざ買い物しなければならない。寝巻きや布団の用意なども自分達でするとなると、意外と手間がかかるしオススメとは言えないものだ。

 

 

「いいわね学校でお泊まり会」

 

「元生徒会長ォォォおおおおおおお!?」

 

「拓哉の懸念も分かるけど、実際のところ問題自体はないわ。布団も学校にあるし、寝巻きは各自家から持って来ればいい。学校に戻るあいだに買い物係を決めていれば手間も省けるし、お風呂は家で入ってきてもまだ肌寒い季節だし特に気にする必要もないわ」

 

 さすがは元生徒会長である。学校のことを完璧に把握しておられる。

 確かにそれなら問題の解決はほとんど達成される。

 

 

「あとは理事長に申請してみないことには分からないけど」

 

 そう。これである。

 泊まるまで手順で必ず訪れる必須条件。

 

 それが理事長への申請許可だ。

 これが通れば泊まれる。通らなければ泊まれない。

 

 何なら理事長権限で全てが決まるのだが。

 

 

「家に帰ったら私がお母さんに聞いてみるよ」

 

 そこで理事長の娘の登場だ。

 うん、理事長の娘が味方ってだけで無駄に心強いな。ことりなら理事長の次に権限持ってそうだもん。

 

 

「普通なら合宿申請は2週間前に提出しなければいけないけど、ことりが頼んでくれたら理事長も許してくれそうね」

 

「それ元でも生徒会長が言っちゃいけないやつだろ」

 

 何はともあれ一時的ではあるが問題の解消はできた。

 あとは家に帰ってことりからの連絡を待つだけだが、ここで一つ言っておくことがある。

 

 

「はあ、まあいいや。これでもし申請が許可されたらお前達は学校に泊まればいいよ。だけど俺は泊まらない」

 

「うわっ! 何でたくちゃん!」

 

 うわっって何だうわって。

 そんな簡単なことも分からないのかこいつは。

 

 

「いいか。うちの部室には広い部屋もあるからそこに9人は寝れるだろう。けど俺は寝れない。理由は簡単。俺が男だからだ」

 

「何が問題なの?」

 

「そうだよ。たっくんも一緒に寝ればいいのに」

 

 めっちゃ純粋な目で見てくるなこいつら。

 おかしい、いくら幼馴染だからって男女の区別くらいはつくと思っていたのだが、もしかして俺男として見られてない説あるなやっぱ。

 

 

「だーから、俺は男! お前らは女の子! しかも9人だ。それに思春期の男女が同じ空間で寝るとか論外だろ! 女子高生の寝巻きとかほとんどの男が絶対喰い付いてくるようなイベントを俺がはいそうですか一緒に寝ますとか言って寝ると思うか!?」

 

「「うん」」

 

「海未! もしかしてここは二次元の可能性がある!!」

 

「ないです」

 

 はっきり言われた。

 だとしても、だとしてもだ岡崎拓哉。

 

 健全な男子高校生が健全な女子高生9人の寝巻きを見て一緒の空間で寝るのは果たしてどうなのだろうか。夏合宿の時はまだ別の部屋だったから良かったが、今回はそうにもいかない。ここは何としても自宅で平穏なベッドで寝るしかないじゃない!

 

 

「ねえ拓哉」

 

「何だ部長。俺は今どうにかして平和に暮らそうと思案中なんだが」

 

「私達は広い部屋で9人で寝るから、拓哉はいつも会議してる部屋で寝るってのはどう?」

 

「……、」

 

「ほら、あそこなら机とイスをどければ1人分くらいは寝れるスペースもできるはずでしょ? ねえ絵里」

 

「いや、あの」

 

「そうね。それなら拓哉が心配してるような一緒に寝るってことにもならないし問題はないと思うわ」

 

「ちょ、まっ」

 

「よしそれで決定ー!!」

 

 おかしい。俺が何も言ってないのに勝手に決まっていく……。

 いや、知ってた。知ってたさ。会議用の部屋でなら寝れるとは思ってたさ。

 

 けどね、違うのよ。どこにでもいる平凡な高校生たる拓哉さんが思ってることはそういう問題じゃないってことでしてね?

 何か、こう、あるじゃん。羞恥心とか高校生ならではの思うところってあるじゃない。君らにはどうしてそれがないのかな!

 

 

「拓哉」

 

「……はい」

 

「穂乃果達はまだ幼馴染だし恥ずかしくないかもしれないけど、そうじゃない私達だってちょっとは恥ずかしいのよ?」

 

 なら何で勧めてきたんだという野暮なツッコミは本当に野暮になるのかな。

 

 

「でもそれ以上に、私達は拓哉を信用しているの」

 

「……いや、それを言うのは、反則じゃないか?」

 

「ふふっ、そうかしら。じゃあ言い方を変えてあげる」

 

 それ以上に反則な言い方はないと、その時の俺なら思っていただろう。

 だけど、このクォーター美少女はいとも容易く超えてきた。

 

 

「拓哉になら、別にパジャマくらい見せてもいいって思ってるのよ」

 

「……なっ」

 

「エリチが大胆発言してるよにこっち……」

 

「積極的になったわね絵里も」

 

 背後で希達が何か言っているが、今の俺には聞こえていない。

 こいつ、今何と言った?

 

 パジャマくらい見られてもいいならまだ分かる。見られてもどうも思っていないという捉え方だってできるのだから。

 けれど、見せてもいいって何だ。そんなのまるで、俺だけには見せてくれるんじゃないかって捉え方をしてしまうじゃないか。

 

 

「たっくん大丈夫?」

 

「ふむ、これは相当メンタルにダメージが入っている様子ですね」

 

「仕方ないなー。じゃあ私達はたくちゃん連れて帰るから、みんなまたあとでね!」

 

 穂乃果と海未に首根っこを掴まれて引きずられる。

 そんなことをされながらも俺の頭の中は空っぽのようなものだった。

 

 

「……絵里には負けないんだから」

 

「あら、真姫まで火が付いちゃった?」

 

「おー! かよちん、これって所謂女の勝負ってところかにゃー!」

 

「凛ちゃんはもっと危機感持ったほうがいいと思うよ……」

 

 遠くで喋っている絵里達の会話もろくに聞こえない。

 今は絵里の言葉の解釈を練るので精一杯なのだ。

 

 

「うーん、やっぱ幼馴染だからって別に有利なわけでもないのかなー?」

 

「けど普通の人達よりも近い関係っていうのは有利だと思うけど」

 

「私達ももっと意識されるように努力するべきなのかもしれませんね」

 

 そうだ。

 絵里はクォーター。だからあの時ちょっと日本語を間違えたに違いない。そうだ、きっとそうなんだ。

 

 いや~、日本語って難しい。

 少し言い間違えれば意味も変わってしまうのはいただけない。

 

 俺じゃなければ絶対勘違いして告白してからのカウンターハラショーパンチでやられるところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルズルと、俺のことで話し合う幼馴染3人の言葉も入ってこないまま、俺は絵里の言葉の意味を結論付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか俺も一緒に泊まることが決定しているのも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


岡崎にとっての始まりの場所。
それが神田明神です。何気にずっと最初から張っていた伏線をここで回収できて満足。
2年以上も執筆してれば張っていた伏線も忘れがちになるから危ない危ない。

次回はいよいよお泊まり会。
アニメ準拠で進みつつ、いつものオリジナルでただでは終わらせませんぜ!



いつもご感想高評価ありがとうございます!!


では、新たに高評価(☆10)を入れてくださった


koudorayakiさん


最近高評価が少なくて悩んでいたところに救世主!本当にありがとうございました!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!




『悲劇と喜劇の物語』のほう、来週更新できるように頑張ります。

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