どうも、一日遅れの投稿です。
最近執筆時間が取れなくて……。
「このくらいならまだ何とかいけるか」
外に出ればより降っている雪の勢いを身に浴びる。
だが、まだこちらの方はそんなに積もっていないらしい。走れる余裕は充分にありそうだった。
「やっぱこのままじゃ寒いな……」
一応マフラーは巻いているが、言ってみればそれだけであとはいつもの学ランのままである。決して短くはない距離を走って行くのだから、走っていればそのうち暑くなると思ってコートは控え室に置いてきた。
(今は寒くても走ってりゃマシになるだろ)
自分に言い聞かせて軽く屈伸運動をする。
普段の拓哉なら寒がりで絶対こういう事はまずしない。しかし事が事というのもあるが、もはや性分なので今更やめるなんて選択肢もない。
「うしっ、行くか」
一歩を強く踏み出し、駆ける。
周りを見れば傘をさして歩く人がいたり、傘をささずともしっかり防寒対策として着込んだりしている人がほとんどだ。そう考えると学ランにマフラーのみの少年がどれだけ無謀なのかもはっきりと分かる。
幸い走っている今も足に雪を踏んでいる微かな違和感はあれど、走ること自体にさほど支障はないと思う。これが穂乃果達のいる付近になればなるほど酷くなっていくのを考えると、少し不安にもなる。
(いくら近道を使って走っていっても、車や電車を使わない限り時間はかかってしまう。ここら辺だって今は大丈夫でも戻ってくる頃に積もってない保証なんてどこにもない)
走りながらも周辺を見て考える。
何か少しでも時間を短縮できることはないかと。乗り物はほぼ絶望的だろう。交通状況が麻痺している中でそれを扱うのはもはや逆効果にすらなってしまう。
(マジかよ……。
いきなりの事だった。
確かに早く着くために全力で走ってはいるが、それでもまだ距離自体は半分もいっていない。だが既に、吹雪はそこまで来ていた。
滑って転ばないようにしながら全力で走るのは少々体に負担をかけてしまうが、転んでタイムロスしてしまうよりかはマシなのでそうするしかない。普段が普段なだけあって体力には相当自信があると自負している岡崎拓哉の特徴が幸いしている。
(このままじゃ行きは大丈夫でも戻ってくる時には完全に積もっちまう。考えろ……せめて走ってる最中に何も支障が出ない最適解を……)
道を曲がっては真っ直ぐに走り、また曲がっては真っ直ぐに走りを繰り返す。しかし走っているせいもあって上手く頭を回転させることができない。
当たり前のことだが、今拓哉の周りには走っている自分以外誰もいない。見知らぬ他人が歩いていたりするぐらいだ。
しかし、状況を再確認することはいつだって基本的な事でもあり、それと同時に気付く事だって当然ある。
(ここには誰もいない……そうか……! 誰もいないんじゃない。誰もいないから頼るべきなんだ!!)
自分のできる事には限界というものがある。
それは岡崎拓哉も例外ではない。自分の目の前に起きている事以外では何もできない。同じ問題が周囲で起きていると対応できないのと同じものだ。
なら、その役割を誰かにやってもらえばいい。
(頼む、出てくれ……!)
走りながら携帯を片手に取る。
家族とμ's、あとは数えるほどしか番号登録されていない少し寂しい気持ちを抑えて中から一つの番号にかける。
それは、意外にもすぐに出てくれた。
『はいはーい。これまた珍しい人から電話がかかってきたね』
「悪い、取込み中だったか」
『いや、まあちょっと様子見をね。で、どうしたの?』
「ヒデコ、そこにフミコとミカもいるか?」
電話の主、ヒデコは確認するまでもなく即答した。
『うん、2人ともいるよ。ついでにボランティアで手伝ってくれてた友達もね。こっちはもう吹雪が凄いことになっててさー』
「ボランティア……?」
『そうだよ。10人ほどだけど、学年はバラバラ』
「……そうか、なら丁度よかった」
『ん? 何々、どうかしたの?』
一か八かの電話だったが不幸中の幸いだったのか、ヒデコ達は今吹雪のせいで校舎の中から外の様子を見ているらしい。周りには何人かボランティアもいるとのこと。もう、これ以外に打てる手はない。
既にこっち方面でも吹雪の勢いは強くなっていっている。ましてやヒデコ達のいる場所はもっと荒れているに違いない。
そんな中でこんな事を言うのはとても心苦しいが、重い口を開けるしか少年はできなかった。
「……そっちの状況も分かってるつもりだ。どれだけ吹雪が荒れているか。そのせいで身動きができないか。……だけど、俺が考えうる中で最善の手はもうこれしか思い浮かばなかった。だから、だから……」
こんなこと言うのはこちらの身勝手かもしれない。
ある意味自分よりも酷な事をさせてしまうかもしれない。
だから。
なのに。
「頼む。みんなの力を貸してくれ」
『『『もちろん!!』』』
「こんな吹雪の中危険だってのは分かっ……え?」
あまりにも綺麗な即答に理解が追いつけなかった。
しかも聞こえた声はヒデコだけではない。
「俺が言っといて何だけど、もうちょっと戸惑いとかそういうの、ないのか!? というか今ヒデコ以外にも声が聞こえたんだが、もしかして……」
『ふふん、そんな事だろうと思ってスピーカーにしておきましたー!』
こんな時にもお気楽な声で笑う相手に走りながらも軽く溜息が出てしまう。いや、こちらとしてはもっと重視すべき問題があるのだが。
「いや、それよりもだ! 俺まだ詳しいこと何も言ってないのにいきなり承諾とか正気かお前ら!」
『頼んできたのはそっちなのに何でそういうこと言うかなー。ま、答えなんてとてもシンプルなもんだよ拓哉君』
「はあ? どういうことだよそれ」
『こんな緊急事態の時に拓哉君が私達に頼み事してくるってことは、穂乃果達の事以外で考えられないもん』
「………………………………………………………そ、そうか」
図星すぎて少し恥ずかしくなってしまう。顔が赤くなっているのはきっと走っていて体が温まってきたからだろうと信じたい。
『よし、じゃあ本題。私達は何をすればいいの?』
「……これは俺だけじゃ絶対にできない事だ。俺よりも長く音ノ木坂にいて、ロクに女友達もできない男1人より、ヒデコ達だからこそ頼めること」
『私達だからこそ?』
ある意味一か八か。確証も確信もない。だが頼れるのはもうこれだけ。
であれば、それに全力をかける。
「それを今から説明する」
『なるほどね』
「いきなりこんな事言って悪い。できそうか?」
『ふっふっふーん、愚問だよ拓哉君』
説明を終えて聞けば、ヒデコは不敵な笑みを浮かべて気楽に言った。
『できそうかじゃないよ。やるんだよ』
「……、」
『拓哉君が必死になって考えだしたのがそれなら、私達は全力でそれをお手伝いさせてもらう。簡単なことでしょ?』
まるで自分に言われているような感覚にさえなった。
例えそれが最善でも最悪でも、それがその人のためになるなら迷わず拓哉はできるできないという問題ではなく、やり遂げる事を最優先に動くだろう。
「……本当にいいんだな?」
『最初に言ってきたのはそっちでしょ? それにようやくこの日が来たんだもん。張り切らないわけにはいかないでしょ!』
「この日? 最終予選のことか?」
『あー、まあ、それもあるんだけどね。本質はもっと別のとこかな』
「何だよ?」
信号が赤になり一応立ち止まって聞いてみる。
『やっと、私達が穂乃果達や拓哉君のことを助けられるんだなって』
「…………は?」
返ってきたのは予想外の言葉だった。
思わず聞き返すが、今度はフミコがそれに答える。
『ほら、穂乃果達はもちろんμ'sとしてこの学校を救ってくれたでしょ? そして拓哉君もその一端に間違いなく関わってきた。でも私達はいつもステージの準備とか、やってきたのはいつも雑用だけ』
「違う。そんなことない。お前達はいつも穂乃果達のために積極的に手伝ってくれたじゃねえか!」
『そういうことじゃないよ』
次はミカ。
『積極的に手伝ってはいた。人手も多い方がいいし、学校に来て間もない拓哉君がどこにあるか知らない荷物を探すのも私達がやってきた。……でも結局はそれだけ。拓哉君みたいに穂乃果達のために体張って一緒に辛い思いをしてきたわけじゃないもん。どこまでも学校を救ったのは、μ'sと拓哉君なんだよ』
「でも、お前達がいなけりゃ俺達は……」
『なーに悲観的になってるの! 別にこれは重い話をしてるわけじゃないよ。私達がどうしてもやりたいって思ったことだから納得してもらいたいだけ。ねえ、拓哉君。今までみんなは凄く頑張ってきた。そして最終予選まで辿り着いた』
最後は、ヒデコ。
『いつもμ'sのそばにいた拓哉君と、ステージに立つ時しか手伝えない私達では立場も違う。だからね、これは私達が勝手に抱え込んでた願いだよ。私達3人だけじゃない。ここにいるみんなもそう。学校を救ってくれた拓哉君達にお礼がしたいの』
「お礼……?」
『学校を救うなんて、普通に考えてみればそう簡単にできる事じゃない。でもそれをやってのけたのは間違いなく穂乃果達。なら、それにお礼するのも当然だよ。だから穂乃果達や拓哉君が困ってる時は、今度こそ私達が助ける番なんだってね』
学校を救った。言うだけなら簡単だが、達成するのは非常に難しい。
そんな偉業をやってのけ、音ノ木坂のヒーローとなった彼女達ではあるが、もしその彼女達が困難に陥ったら? その騎士までも1人じゃ限界なとこまで来ていたら?
結論的に言うと、結局はこれだった。
それを助けるのが、まさに音ノ木坂に通っている生徒達だ。
『さあ、今回は私達に任せなさい拓哉君。学校のために必死に頑張るあなた達を見てきて、変わらない人なんていないんだって事を証明してあげる』
電話越しにでも聞こえる。ヒデコの後ろの方から喋り声が。誰かに電話をかけ、違う人もまた誰かに電話をかけ。
『ヒーローに救われた人達が、ヒーローにならない道理なんてどこにもないんだってね!!』
「……ああ……ッ!」
全面的な信頼を委ねる。
心配は必要ない。
顔に当たった雪が溶けてからなのか流れそうな雫を腕で拭き取る。
周りに誰もいなくて安心した。吹雪の中走って涙を拭いている男子がいれば、制服からすぐ特定されてネタにされるに違いない。
今までやってきたことは、決して無駄ではなかった。
それが分かっただけで、走りにくい地面さえ厭わずに強く足を踏みつけて行ける。
――――――――――――――――――――
「そんな……」
海未の声が漏れる。
説明会が終わって校舎の出口に来てみれば、外の景色は容赦なく猛威を振るっていた。
説明会に来ていた人達も帰るのを一旦やめて今は校舎内で待機している。
しかし、穂乃果達に時間の余裕は与えられていない。本番までに会場に着かなければならない。なのに、交通手段が止まっている以上、下手に動けないのも事実。
「……走っていくしかない」
「穂乃果ちゃん!?」
だけど、ここで動かなければ何をしたって状況は変わらない。ここで立ち止まっているだけじゃ、最悪な結末しか待っていない。
そんな状況を変えるためには、やはり自分の足で走っていくしかないと穂乃果は判断した。
「開演までまだ1時間ある。急げば間に合うよ!」
「でも、外は……」
「今は考えてる時間はありません」
ことりが逡巡する中、最終的な判断を下したのは海未だった。
そうでもしなければならないから、多少無理はしても動く必要がある。
「雪かきしたのに、もうこんなに……ッ」
「しかも激しくなってる……!」
「これでは例え走っていっても、間に合うかどうか……」
荷物を持ってくる短時間。
それだけで自然の暴力は簡単に牙をより凶暴化させていく。雪が横殴りのように吹雪き、風はもはや寒いというより冷たいほどにまでなっていた。
「……行こう、穂乃果ちゃん」
「ことりちゃん……」
これだけの自然現象を目の当たりにして、それでも優先すべきものがある。危険だとしても、諦めきれない思いがある。
それだけで揺るがない気持ちは往々にして固く強固なものである。
「死ぬ気でやれば怖くなんかないよ! いつもこういう時はたっくんが体を張って私達のために無理をしてきてくれた。だったらたっくんの思いもここで無駄にするわけにはいかないもん! それに、私達だってこの日のために頑張ってきたんだよ。やれるよ!」
「ことりちゃん……」
「ことり……」
いつも最終的な決定権はみんなに譲って従ってきたことりが、ここにきてハッキリと自分の主張を大きく声に出した。
「みんなが待ってる」
その一言で、穂乃果の表情が変わった。
「……行こう」
言った途端、穂乃果は先陣をきって外へ飛び出していく。正面からの向かい風を傘で防ぎながら進んでいくが、あまりにも強い風のせいで上手く進めない。
「穂乃果!」
「うわっとと! 冷た~!!」
「穂乃果ちゃん!」
いきなり横向きになった風でバランスを崩し尻もちをついた。
ことりも海未もそれをきっかけに外へ出るが。
「雪が足に纏わり付いてッ……」
今もどんどんと積もっていく雪のせいで思うように足を前に出せない。何とか歩けるが、走るのは女の子にはキツいほどだった。
「くッ……」
またも正面からの向かい風に変わった吹雪が容赦なく襲い掛かってくる。
それでもゆっくりではあるが、確かな一歩を踏み込んで進める。
傘を前に傾けていても完全に雪を防げるわけでもなく、吹雪いている雪が次々と持ち手になっている手袋へ付着し浸透していく。ただでさえ吹雪のせいで手袋もあまり意味を成していないのに、そこへ雪が侵食して余計手袋が冷たくなっていくのはもはや苦痛とまでなっていた。
「はぁ……ッ……まだ……!」
傘と吹雪をせいで視界をまともに捉えられていないからか、うまく距離感を掴めない。自分がどこまで進んだかも分かりづらくなっているのだ。
感覚としてはもう校門近くまで来ていると思うが、それも定かではない。
瞬間だった。
突如として吹雪の勢いが増して反射的に傘で防ぐが、うまく前に進めない状況になってしまった。
「諦めちゃダメ!」
「ッ……ことり、ちゃ……」
「せっかくここまで来たんだから!!」
これだけ風は強いのに、すんなりと声が聞こえる気がした。
それはことりだけではない。
「私もです! 2人の背中を追いかけてるだけじゃない。やりたいんです! 私だって、誰よりもラブライブに出たい!! 9人で最高の結果を残して、10人で笑い合いたいのです……ッ!!」
もはや望みも希望もほとんどない状態で、それでも本音を言わずにはいられなかった。ここまで来て諦めてたまるかと。
それは、誰よりも、穂乃果だって一緒に違いないのだ。
「……そんなの、私もだよ……。私もラブライブに出たい。優勝して、最後には泣いて……笑っていたいよ!! こんなところで立ち止まってる場合じゃない! 9人でステージに立って、10人で進んできたんだもん!! 諦められるはずないよ!!」
半ばやけくそで、こんなところで、不完全なμ'sままで最終予選を終わらせたくない。
希望がないなら自分で作るまで。
奇跡が起きないなら起こすまで。
このまま終わってたまるかと。
3人の気持ちが一つになった。
であれば。
ほんの少しも望みがなくても、希望すらなくても、奇跡が起きなくても。
ここまで諦めずに頑張ってきた少女達には、救いがあったっていいはずだ。
ここぞという大事な局面で報われないのは絶対に間違っている。
だから、これまで少女達に過酷な試練を与え続けてきた現実は、ここにきてようやっと味方した。
「よお」
途端に吹雪が弱くなり視界が鮮明になってきたところで、聞き慣れた声がした。
「よく言ったな」
階段を上がっている最中に聞こえた彼女達の紛れもない本音。
それはしっかりと少年にも響いていた。吹雪の中諦めずに会場へ向かおうとした彼女達の行動は、傍からすれば危険なものだったかもしれない。無謀であったかもしれない。
だけど、それが事実であろうとなかろうと、彼女達の思いだけは決して否定してはならない。
「……く、ちゃん……っ」
思わず声が震える。
諦めなかった。諦めきれなかった。でも、心のどこかでは不安になっていたのも事実。いつもそばにいてくれる少年がいないからこその不安があった。寒さに打ちひしがれそうにもなった。
寒さで体は震え、顔も赤くなり、けれど、心はもう安心しきっていた。
もはや本能のままに顔を上げて正面を向く。愛しい想い人へきちんと声を届けるために。
「たく……ちゃん……ッ」
瞳には涙が溜まり、感情を抑えきれそうにもなかった。
自分達に壁が立ちはだかったり、挫折しそうになったり、不安になったりすると、必ず駆け付けてくれるヒーロー。
そんな
「迎えに来たぜ。穂乃果」
さて、いかがでしたでしょうか?
最終予選編もこれを入れてあと2話。つまり次でクライマックスです。
この作品を書き始めてからずっと書きたかったシーンが書けて満足でした。吹雪を前に足を止めていたら颯爽と駆け付けてくれるヒーロー。
王道ゆえに、大好きです。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価(☆10)お待ちしております!!
先日感想数が700件を突破したので、どんどんくだされ!!
【告知】
自分と同じくハーメルンで『ラブライブ!』の小説を執筆されている薮椿さんの作品『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』との2回目のコラボが決定しました!
日程は9月8日(金)の予定です。
本編はちゃんと火曜に更新するのでご心配なく!!
ヒフミトリオかっけぇーの一言に尽きる。