ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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108.個性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備が進んでいようがいまいが当日というのは必ずやってくるものだろう。

 

 

 

 事前にちゃんと準備を進めて余裕がある者がいれば、準備を怠り直前になって死ぬほど焦りながら超スピードで進めていく者もいる。

 

 

 

 かくしてμ'sはどちらかと言うと、後者に近い方かもしれない。

 

 

 

 

 何とか衣装を完成させ、いざ翌日の本番になってみると人の多さにまず圧倒された。

 テレビでも特集されるくらい近頃はこの行事が注目されているようだ。

 

 

 辺りにはカボチャのオブジェが置いてあったり、黒やオレンジの色をした風船も飾られている。

 極めつけは“人”だろうか。

 その行事をもっとも楽しむ事を目的とし、自らがそういうモノに扮してお祭り騒ぎをする。

 

 

 秋葉原は既にパレード状態のようにコスプレしている人で溢れ、テレビの取材も来ているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィンイベントが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「トリックオアトリートォォォおおおおおおおおッ!! やっほうはっちゃけてるー!? 凄い盛り上がりを見せているハロウィンイベントフェスタ! みんなも盛り上げてくれてるよー! それになんとなんと、今日はスクールアイドルのスペシャルライブも見られるよ! お楽しみにー!!」

 

 

 

 スマホのテレビ中継を見ると、いつしか穂乃果達にインタビューしていたレポーターがこれまたおかしいテンションで映っていた。

 それをそっ閉じしながら周りを見ても、やはり今日の秋葉はいつもと雰囲気が違うと思い知らされる。

 

 

「うう~いよいよライブ……緊張するね~」

 

「意外だな。お前でも緊張することがあるなんて」

 

 自分より少し前を歩きながら呟く穂乃果に拓哉が言う。

 実際今までライブは何回かしてきたが穂乃果が緊張すると言ったことはほとんどと言ってなかったからだ。

 

 

「なんか遠回しにバカにされた気がするんだけど……。だって今回はテレビのカメラも来てるし、こんな公の場でこれ以上ないくらいのお客さんもいるしね~」

 

 言われてふむ確かにそうだと拓哉も気付く。PV用のカメラと違い全国放送のカメラがあり、講堂でライブした時より動き回れる遥かに大きいステージというか道路。そして何よりスクールアイドルに興味があるのかないのか見当もつかないほどの客数。これじゃ海未じゃなくとも緊張するのも無理はない。

 

 

「でも楽しんでいきましょ。みんなもほら、楽しそうよ」

 

 隣を歩く絵里に促されるまま後ろを向く。

 そこには昨日までの不穏な空気は一切なく、ただこのイベントを純粋に楽しんでいるメンバーがいた。

 

 

「わあ~見てー! おっきいカボチャー!」

 

「ほんとだ~!」

 

「すごいおっきいー!」

 

 いつも一緒にいる仲間との何気ない日常。

 距離があったせいだろうか。たったそれだけなのに、客観的に見てしまった。

 

 その結果。

 岡崎拓哉と高坂穂乃果はある1つの結論に行き着く。

 

 

「どうしたの?」

 

「……インパクトがどうのこうのとか、この際それはもういいんじゃねえかな」

 

「え?」

 

「うん、私もそう思う」

 

「穂乃果?」

 

 拓哉と穂乃果の言葉に絵里は頭に疑問符を浮かべる事しかできない。

 そのままμ'sのリーダーはいつも通りの口調でいつも通り当たり前のことをただ述べる。

 

 

「絵里ちゃん、私このままでもいいと思うんだ。私達もなんとか新しくなろうと頑張ってきたけど、私達はきっと今のままでいいんだよ。だって、みんな個性的なんだもん」

 

「囚われ過ぎていたんだよ、俺達は」

 

 穂乃果のあとに拓哉が続く。

 

 

「普通の高校生なら似たもの同士が集まるものだけど、お前らは違う。時間をかけてお互いのことを知って、お互いのことを受け入れ合ってここまで来られた」

 

 ずっと『インパクト』というものに囚われていた。

 A-RISEにこれ以上差を広げさせないためには自分達も変わる必要があると。

 

 そのために普段やらない事をたくさんした。

 色んな部活の服を着た。自分達自身を入れ替えたりもした。絶対やらないであろうロックすぎる姿を披露した。だけど、そのどれもがしっくりとこなかった。

 

 何か原因があるのかとも思ったが、実際は違っていたのだ。

 そもそもの話、μ'sは今のままで変わる必要なんてどこにもなかった。

 

 

「それが1番の、お前達の特徴なんだよ」

 

 気付けば、他のメンバーもすぐ側まで来ていた。

 

 

「インパクトを求める事自体は悪くはない。だけど、もうμ'sは1人1人違う個性を持っている。それって言いかえればそれぞれ個性(インパクト)があるって事にもなる」

 

 

 

 1人は天然だが人を惹き付け引っ張っていける天性の持ち主。

 

 1人は恥ずかしがりではあるが真面目でいざとなるとちゃんとやれるまとめ役。

 

 1人は誰をも魅了する容姿と声を持ち、高校生とは思えないほどのクオリティーで衣装を作れる。

 

 1人はダンスを得意とし、クォーターという特有の特徴やプロポーションを持っている者。

 

 1人はアイドルを誰よりも敬愛し、且つ自分もそれに劣らずアイドルの高みを目指しながらそれを恥ずかしげもなく発揮できる者。

 

 1人は陰からでも表舞台でも誰かを支えられる包容力があり、何故か不思議な力でもあるのかと思うほどの強運と抜群の胸囲の持ち主。

 

 1人はお嬢様でもあり、ピアノコンクールでは毎回入賞するほどの腕もあって作曲すれば右に出る者はいないツンデレ姫。

 

 1人は語尾に何故かにゃーを付けて既にキャラ付けが出来ていて、運動神経はμ's内でも随一な女子力ナンバーワン娘。

 

 1人はお米を誰よりも愛し、アイドルの知識だけならば誰にも負けない守ってあげたくなるような声をした女の子。

 

 

 ともかく。

 これだけバラバラな個性を持ったグループはおそらくμ's以外にはいないだろう。

 9人もいるのに誰1人として個性が被っていないのは、それだけでスクールアイドルとしては大きい意味を持つ。

 

 

 

 であれば。

 

 

 

 

「μ'sは変わる必要なんてない。このままでも十分に戦っていける。1つ1つの経験はお前達を大きく成長させているんだから」

 

 

 このままでいい。

 変わらないμ'sでも、受け入れてくれる人はたくさんいるし、もっと増えていくに違いない。

 

 A-RISEにはA-RISEの良さがあり、μ'sにはμ'sの良さがあるのだ。

 そこに違いはあれど、力量の差はあれど、ここまでやってこれたのは間違いなくμ'sの頑張りがあったからだ。

 

 ならその思いに恥はなく、真っ直ぐに突き進めばいいだけの話。

 

 

 

「うん! 私も何も変わらない。これまでも、これからも変わらない。そんなμ'sが好き!」

 

 穂乃果の純粋な笑顔はいつも誰かの心に心地良く刺さる。

 故に。

 

 

「ええ、私も!」

 

 誰もが反対しない。

 

 

「そうね。私も無理に変わってキュートなにこにーが変になってしまうなんて考えられないし~」

 

「にこちゃんは元から変だけどにゃ~」

 

「ぬわぁんですってー!!」

 

 わーにゃーと相変わらず騒ぐ仲間を見て笑みを零す。

 そう、これがμ'sなのだと。

 

 みんな成長して変わっている。だけど、芯は変わらない。

 それさえ分かっていれば、まだまだμ'sは強くなれる。

 

 

「さあ、本番までもうすぐだ。着替えて準備に取り掛かるぞ」

 

 拓哉の声で全員が返事をする。

 これまでの苦労が嘘に思えるような雰囲気になっているのは、μ'sだけではない、その手伝いの少年もいるからという事を、少年は自覚していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Music:Dancing stars on me!/μ's

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったわよ。μ'sのライブ」

 

 突然、脇の方から声がした。

 

 

「……綺羅か」

 

 A-RISEの筆頭としてリーダー。

 綺羅ツバサが衣装姿のまま話しかけてきた。

 

 

「彼女達はまだ着替え中?」

 

「ああ。これでも一応警備中だ」

 

「挨拶に来たんだけど、まあ着替え中なら仕方ないか」

 

 不敵な笑みを浮かべるツバサに、されど拓哉は動じない。

 

 

「最終予選が楽しみね」

 

「相変わらず余裕そうだな」

 

「そうでもないわよ? 今のμ'sを見てたら分かるもの。あなた達はまた大きく成長している。それも凄い勢いでね。はっきり言って驚いてるわ」

 

「よく言うぜ。そんな表情には見えないが?」

 

 言葉ではどう言っても、どこかツバサには余裕があるように見えてしまう。それほどまでに風格があるのだ。

 

 

「まあ、私達の目に狂いはなかった。とだけ言っておきましょうか」

 

 そう言い残してツバサは去ろうとする。おそらくもう出番なのだろう。それなのにわざわざここに来たという事は、本当に挨拶をしに来ただけかもしれない。

 だが。

 

 

「まだμ'sはA-RISEに及んでいないのかもしれない。まだ勝てるところまで実力は上がっていないのかもしれない。まだ差が開いているのかもしれない」

 

「?」

 

 良い機会だと思う。

 A-RISEと戦っているのは、μ'sだけではないということを思い知らせてやる必要がある。

 

 

「でも、だけど」

 

「……、」

 

 かくして。

 μ'sの手伝いを自称する少年は、堂々とラブライブの王者に啖呵を切った。

 

 

「最後に勝つのはμ'sだ」

 

「……へえ」

 

 不敵な笑みはより深く、けれど何かワクワクしているようにも見て取れた。

 少年の言葉を聞いて、王者は再び歩を進める。

 

 

 

 

 

 

「当然、私達も負けないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 最後に言い残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 結局。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の物語は、ある種の茶番だったのかもしれない。

 

 

 

 

 変える必要のない個性を変えようと色々奮闘した結果、最後には元のがいいと選んだ。

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

 そこに意味はあったのかと問われれば、間違いなくあったと即答するだろう。

 

 

 

 あの過程があったから、今のままが最高なのだと思えた。

 変わる必要などないと思えた。

 誰かの成長が垣間見えた。

 

 

 

 

 ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけの茶番劇だっただろうとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この物語には、確かな意味があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


ハロウィンイベント編、これにて閉幕。
どれだけの茶番があったとしても、意味あるものだってきっとある。そんな物語がテーマの今回でした。
ちなみに自分はラ!楽曲の中でこの挿入歌はベスト10に入るくらい好きです。

次回は新章、ダイエット&生徒会混乱編!?
さてどうなることやら(笑)


いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
感想増えろ!高評価も!




最初が茶番ばかりだっただけに、終わりは意外とまともに。

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