沈黙という沈黙が続いていた。
それもそのはず。
この学校で1番偉いであろう人がいる理事長室にデスメタル化したμ'sがいるのだから。
こんなふうにシリアスっぽく言ってみるが、目の前の光景があまりにもシュールすぎてシリアスギャグみたいな感じになっている。元女子校にあるまじき姿してんなこいつら。
「……説明してもらえるかしら?」
「え……えっと~……」
沈黙を破ってくれたのはもちろん理事長の陽菜さん。
さすがの陽菜さんもこいつらの姿を見て呆れを感じているようだ。
「何だっけ?」
「覚えてないんですか……!?」
小声で穂乃果を叱る海未だが、その姿で言っても何だか怖さが逆に感じられない。
ちなみに一応俺も同じ部活に所属しているので同伴してはいるが、唯一デスメタだけは反対したのに数で圧されたから仕方なく一緒にいるだけだ。
「理事長、違うんです! ふざけていたわけではないんです!」
「ふざけてただろ」
「そうなの! ラブライブに出るためには、どうしたらいいかって事をみんなで話し合って……」
「今までの枠に囚われていては、新しい何かは生み出せないと思ったのです!」
何かそれっぽい事を言ってるが、他の生徒が怖がってちゃ応援もしてくれないと思うのは俺の気のせいだろうか。イメージが違いすぎても変に迷走してしまいそうでならない。
「そうなんです! 私達本気だったんです! 怒られるなんて心外です!」
「そうですそうです!」
「うわあ!」
このバカ2人はただ怒られたくないだけだな。あとそこのリーダー鎖落としてんじゃねえ。ジャラジャラうるさいぞ。おまけに説得力もねえぞ。
「と、とにかく! 怒られるのは納得できません!」
「……、」
そこまでして怒られたくないのかお前は。……まあ、ただでさえ普段海未や家で桐穂さん辺りに説教されてるのに理事長からも説教されるとなると色んな意味でやばいもんな。ほぼ自業自得だけど。
「……で、岡崎君はこれについて何か言うことはあるの?」
まさかの俺に振ってきますか陽菜さん。だがしかし、そうなる事は想定済みな拓哉さんである。ちゃんと自分だけが逃れられる言い訳を考えているのだ。
「はい。まず俺はこれをやる前に反対だと言って止めました。だけどこいつらはそれを聞かずに突っ走った結果、関係ない生徒を怖がらしてしまった。俺は止めとけとあれほど言ったのに……。ということで俺はこれに限っては関係ないのでここから出て行ってもよろしいでしょうか!!」
「あー! 1人だけ逃れようとしてるー! そんなのズルいよたくちゃん! 私達は一蓮托生連帯責任の仲でしょ!? 死なば諸共だよ!」
「ええいやかましい!! こんな時だけ無駄に難しい言葉使ってんじゃねえどこで覚えたこのド阿呆! 俺の制止をちゃんと聞かねえからこうなったんだろうが! 怒られる道理がないのは俺の方だからな!! やってらんねえ、こんなとこにいられるか! 俺は部室に戻らせてもらう!!」
「綺麗に死亡フラグ立たせたところ悪いんだけど岡崎君」
「はい?」
すでに扉の方へ歩いていたせいで陽菜さんの声を背中で受け止める形になってしまった。
理事長の制止の声に素直に止まる。ここで無視なんてすれば説教よりおっかない事になってしまう可能性もあるからだ。
「μ'sの手伝い上、この子達が言う事を聞かなかったのだとしても、この姿を見てもっと強引に止めるべきだったとは考えなかったのかしら? あなたの事だから少し考えれば分かることよね?」
「……、」
死亡フラグなんて立たせるもんじゃないと本気で思ってしまった。矛先が完全に俺に向いてらっしゃる。おかしい、俺自体は何も悪いことはしていないのに。
「ほーら言ったじゃん! 連帯責任だって! それに私達はこれで本気でいけると思ってたんだからおかしいことなんて何もないんだよ!」
「じゃあ最終予選はそれで出るということね」
「え」
「それならば今後その姿で活動することを許可するわ」
何ということでしょう。さすが理事長、ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。
「そして岡崎君も、こんな姿になってしまったのは私は残念だけど、この子達の手伝いとしてこれからも頑張ってねっ」
おかしい、笑顔なのに目が笑っていない。陽菜さんってこんな怖いオーラ放つような人だったっけ。というか勘弁してくれ。こんな格好したヤツらの手伝いなんてさすがの俺もしたくない。もししたら下僕みたいに見えそう。
陽菜さんの言葉を聞いて穂乃果達も顔が引き攣っている。おそらく穂乃果や凛が怒られるのは心外などと言ったから、あえて認める事で自分の過ちに気付かせたのだろう。陽菜さん恐るべし。
もちろん、俺もμ'sもそんなのは御免だ。
てなわけで取る選択肢は1つ。
「「「「「「「「「「すいませんでした!!」」」」」」」」」」
全力の謝罪である。
―――――――――――――――――
「どうしてこうなるの!?」
いつも通っているファミレスで、1番ににこの声が店内を占領した。
「そうです。もっと真面目にインパクトを与えるためにはどうしたらいいか話していたはずです!」
「最初は海未ちゃんだよ! 色んな部活の格好してみようって!」
「それは……ですがそのあとは穂乃果達でしょう!?」
「いい加減にしろテメェら! 何でいちいちこんなくだらねえ事で揉めなきゃならねんだ」
俺の一喝で何とか収まるが、それでも釈然としない表情になってしまう。
「みんなでやろうって決めたんだし……」
「責任の擦り付け合いしててもしょうがないよ」
まったくだ。インパクトを求めるのは悪くないが、どうも今回はみんな空回りしているような気がする。何だか努力が違う方向へいっているような、そんな感覚だ。
「それより今は具体的に衣装をどうするか考えた方がいいんじゃない?」
「そうだね……」
衣装と聞いて、みんなの視線は当然のようにことりへ向けられる。
「一応考えてはみたんだけど、やっぱりみんなが着て似合う衣装にしたいって思うんだ。だから……あまりインパクトは……」
「でもそれじゃA-RISEには……!」
ことりの言い分も分かる。インパクトを求めるあまり、奇抜な衣装にしたところで客に与える印象はどちらかというと困惑の方が大きいかもしれない。個人的な意見としては、μ'sにそういう変なインパクトは必要ないんじゃないかとも思っている。
変わるという事は決して悪いことではないが、変わりすぎてもおかしくなるだけだろう。急な路線変更というのは迷走に陥りがちなイメージが多いように。だから今回はメンバーの意見がいつもよりぶつかっている。
もう一度冷静になる必要があるな。
「仕方ない。とりあえず今日はこれで終わりにしておこう。だけど準備は進めておかないといけない。というわけでことり、にこ、花陽はことりのイメージしている衣装を作ってもらう。本番はすぐだ。そろそろ気合いも引き締めとけよ」
「ちょ、何で私まで―――、」
「つべこべ言わずに手伝え。一蓮托生ってやつだ。ことり、俺も家に行ってもいいか?」
「うん、たっくんならいつでも大歓迎だよ」
「助かる」
―――――――――――――――――
実際のところ、本番は明日だ。
曲や振り付けは出来ているが、衣装がまだなのは問題だろう。
インパクトを求めすぎた結果、ことりの作業が追われる羽目になっているのは俺達の責任でもある。
だけど衣装作りともなると、できる者とできない者がいるのも事実。ならいつも家で妹達のために家事をやっているにこと、意外と家庭的な花陽ならことりの作業を手伝えると思ったからだ。
今頃2人はことりの家で衣装作りを手伝っているだろう。
俺も親父と2人で暮らしてた時は家事全般やっていたから裁縫も少しくらいならできる。というかあの3人からしたら足手まといになるから手は出さない方がいいかもしれないが。
そんな俺は今コンビニ帰りだ。
ことりは昨日から作業を始めていたらしいが、それでも終わるのは夜になってしまう可能性はある。だから差し入れみたいな感じで軽く食べ物と飲み物を買っておいた。
ことりの家に帰って部屋に入ろうとした時だった。
「何で私達が衣装作りやってんの!?」
にこの愚痴みたいな声が響いた。
「みんなはライブの他の準備があるから……」
「よく言うわ。くだらない事で時間使っちゃっただけじゃない」
思わずドアに掛けようとした手が止まってしまう。
確かにその通りだと、少しでも思ってしまったから。
俺からしても、今思えばあの数々はふざけていたかのように思える。結局どれもがボツになってしまったのがその証拠でもあるのだから。
だけど、予想外にもそれを否定したのはことりだった。
「そんなに無駄じゃなかったんじゃないかな」
「はあ? どこが?」
「私は楽しかったよ。おかげで衣装のデザインのヒントももらえた」
「衣装係って言われて、損な役割に慣れちゃってるんじゃない?」
すぐに否定してやりたかった。
ドアを開いてにこの発言を取り消してやりたかった。
分かっている。にこが本心でそう言っていないって事も。にこも焦っているんだ。A-RISEにこれ以上差を広げられることに。だからつい言葉に棘があるように言ってしまう。
それでも、ことりがどう言うのか気になってしまう。
「私には、私の役目がある」
どこか芯の籠った声がした。
「今までだってそうだよ。私はみんなが決めたこと、やりたいことにずっと付いていきたい。道に迷いそうになることもあるけれど、それが無駄になるとは私は思わない」
無意識に強張っていた体の力が抜けていくような感覚がした。
「ここまで来るのに色んなことがあったよね。もちろん間違ったこともたくさんあった。でもその度にみんなが集まってそれぞれの役割を精一杯やり切れば、素敵な未来が待っているんじゃないかな?」
やはり、成長しているのはみんな一緒なんだ。
ことりだって例外じゃなかった。いつもやりたいことに付いてきていたことりも、自分の意志をちゃんと言えるようになっている。
この衣装係だってことりが進んでやってくれたことだ。
適材適所という言葉があるように、ことりは衣装、穂乃果はリーダー、海未や絵里はまとめ役と、みんなが自分を活かせる事をやっている。
俺が出ていっても、何も言う必要なんてどこにもなかったようだ。
心配は杞憂に終わったが、悪い気分ではない。
「安心した?」
不意に隣から声がした。
「希か」
そういや希もあとから行くとことりから聞いていた気がする。
視線を下に向けると希の手にも袋があった。考えていたことは同じらしい。
「そうだな。嬉しいような、少し寂しいような感じかな」
「父親か」
軽いツッコミを貰いながらも、やはり笑みは崩れない。
「これなら大丈夫だろ」
何も聞こえてこないということは、にこも納得したという事だろう。
「さあ、俺達もやれる事をしてやろうぜ」
「うん」
そう言って部屋に入る。
笑顔で迎えてくれることり達を見て、やはり安心感が芽生えてしまう。明日が本番なのに、さっきまで迷走していたのに。
ハロウィンイベント本番まで、あと1日。
さて、いかがでしたでしょうか?
理事長の目からは逃れられないぜ。
からのことりの聖母のような言葉です。あの事件があったから今がある、とも捉えられますね。道に迷いそうなら、誰かが引っ張ってやればいいのです。
次回ハロウィンイベント編クライマックスです。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!
現在、この作品の1話から順番にゆっくりですが編集して手直ししています。
初期と今では書き方が結構変わっているので、初期の方を今の書き方に寄せて読みやすいようにしている最中です。
ところどころ書き加えてる箇所もあるので、時間があれば読み直してみるのもいいかも?
誤字脱字などあれば報告してください~。