今回から矢澤家編です。
といってもまだ導入回みたいなものですが。
「それにしても、生々しい夢だよね……」
「本当に……」
「ていうかさ……」
あの予備予選ライブから数日後の事、俺達はいつも通り音ノ木坂学院のアイドル研究部の部室にいた。
緊張と気を引き締めていたあの日までを思って、A-RISEとのライブが終わってからの練習はいつもより軽めにしていたおかげか、メンバーの疲労も今ではすっかり回復している。
「今夢と同じ状況だしーッ!!」
「ちょっとうるさい穂乃果、今モノローグってるから」
「モノローグってるってどういう事!?」
「こういう事だ」
「どゆこと!?」
説明しても穂乃果の事だからきっと分からないだろうと思ってスルーさせてもらう。
そして、日にちもたって今日はいよいよ予備予選の結果発表なのである。
予備予選突破か落選か、それが今日で分かるのだが、先程穂乃果から聞いた話によるとだ。今日穂乃果が見た夢で今のこの状況が夢で見た光景と一致しているらしい。
ちなみに夢では最後の最後で落選したとか。……HAHAHA、まさかねー。
「あー……たくちゃんとのこの会話も夢のままだよ~……」
まじでか、正夢って本当にあるのな。1番当たってほしくない正夢だけど。
「ど、どこが同じ状況だって言うのよ……」
「終わりましたか? 終わりましたか……!?」
「そうやねえ……カードによると……」
「ダメだよ~! このままじゃ正夢になっちゃうよ~!!……そうだ! にこちゃん、それ一気飲みして!」
「何でよ!」
「何か変えなきゃ正夢になっちゃうんだよ~!!」
それほどまでに夢と一致しているのか。これじゃ何を言っても変わらないかもしれない。……いや、待てよ? 夢で見た光景と分かっていて話をするならば、この状況にまったく関連のない事すれば正夢とかけ離れて解決するんじゃ……。
「よし穂乃果、俺に任せろ。正夢になんか絶対にさせねえぞ。今から俺がここで腹太鼓ブレイクダンスをす―――、」
「セリフが夢と一緒だし普通に気持ち悪いし見たくないからやめて」
なるほど、関係ない事しようとしても変わらないのか。普通に今心に重症を負っただけだった。夢の中の俺もきっと同じ傷を負ったんだろう。夢も現実も報われなさすぎではないですかね拓哉さん。
「来ました!!」
突然な花陽の声ににこと真姫と海未以外はすぐに反応した。
にこに至ってはイチゴオレを握りつぶして中身がブシャアと飛び出ている。あとで拭くように。
「最終予選進出……1チーム目は、A-RISE……」
俺もさすがに気になってみんなと同じようにPC画面を覗き込む。
大丈夫だろうと思ってはいてもやはり結果発表となると緊張して気になるのは人間の性だろうか。例えるなら、入試試験などで自己採点して満点だとしても、いざ結果発表となったら緊張と不安が押し寄せてくるような感覚だと思う。
A-RISEは、まあ確定だろうと思っていたから何も思わない。実際に生でライブを見て驚かされたのは事実だ。あれほどの実力なら突破するのは必然だと思っている。……正直、今のμ'sの実力でも勝てないだろうと思わされた。
「2チーム目は、EAST HEART……! 3チーム目は、Midnight cats……!」
「ダメだよ……。同じだよ……」
「大丈夫だ穂乃果。自分を、μ'sを信じろ」
「うぅ、たくちゃん……」
映像で見たが、EAST HEARTもMidnight catsもライブを凄かった。映像でも分かるぐらい引きこまれて魅力的だったと言える。
だけど、それを言うならμ'sだってそうだ。映像でも見ても引きこまれるし、何より9人もいながらまとまっている歌声やパフォーマンスもある。他のグループにはなくても、μ'sにしかないものがある。
それさえ信じていれば、絶対に。
「最後、4チーム目は……み、」
「み?」
「みゅ~……ず」
「「「「「「「ず?」」」」」」」
超えられる。
「音ノ木坂学院高校、スクールアイドル、μ'sです!」
「μ'sって、私達、だよね……? 石鹸じゃないよね?」
「当たり前でしょ!」
「凛達、合格したの?」
「予選を突破した……?」
各々が目の前の事実を口にして現実か確かめる。
これで穂乃果の言っていた夢も正夢でなくなったわけだ。
「だな。少しヒヤヒヤもしたけど、お前らμ'sは見事予備予選突破だ。これでもっと前に進めるぞ」
「「「「「「「「や、やったー!!」」」」」」」」
突然声を上げると同時に、ほぼ全員が部室から飛び出て行ってしまった。大方友達とかに言いに行ったんだろう。部室に残っているのは俺と未だに耳を塞いで目を瞑っている海未だ。結果聞く気あるのかこいつは。
「終わったのですか……終わったので―――、」
「海未」
「ひゃあっ!? た、拓哉君!?……あ、あれ、みんなは……?」
肩をポンと叩いたくらいで驚きすぎだろ。どんだけ緊張してんだ。
メンバーがいない事にポカンとしている海未をどうにかしたものかと思ったが、そこで放送室からの連絡が入ってきた。なるほどね。
「まあ、これを聞けばいいさ」
ピンポンパンポーンと学校の放送室特有の音と共に女生徒の声が学校中に響き渡る。
『たった今、我が校のスクールアイドル、μ'sがラブライブの予選に合格したとの連絡がはいりました』
大方、放送部に友達がいる真姫あたりが報告しに行ったのだろう。普段クールな真姫も走って出ていくくらい嬉しかったんだろう。
「……私達、予備予選を、突破……したん、ですよね……?」
「ん? ああ」
ふと海未を見ると、感極まってるというか嬉しさが込み上げてきているというか、小刻みに体が震えている。
「おい、海未? どうし―――おぅわっ!?」
「やりました……私達、やりました……予備予選突破する事ができましたよ、拓哉君……!!」
「おぇ? あ、ああ、おう、だな。ほんとよく頑張ったよお前達は」
いきなり猫のように飛びついてきた海未だったが、後ろが閉じられているドアだった事が幸いして何とか倒れる事なく受け止める事ができた。
……海未ならここからが本番だ~とか言いそうだったけど、まあ、嬉しいに決まってるか。何たって初めて予選合格したんだ。
「本当ならここで喜ぶなんて浅はかなのかもしれません。早すぎるかもしれません……。ですが、初めての……あのA-RISEと同じ地区での予選を突破できたのは、みんなが頑張ってきたからです……」
俺の背中に回されている海未の手が力を強めていくのが分かる。それだけで海未の気持ちも、どんどんと理解できた。
「……ああ、分かってるよ。まだまだ予選の予選だけど、それでも1回戦突破したようなもんだ。誰に何を言われようとさ、喜びたい時は好きに喜べばいい。それくらいの努力をお前達はしたんだ。だったら喜ぶ権利くらいあるに決まってるだろ?」
できるだけ優しく海未の背中に回してポンポンと背中を叩いてやる。小さい頃から妹の唯や、穂乃果達が泣いているのを見るとこうやってきたから慣れているといえば慣れている。歳的には中々勇気はいるけど。
「お前達が頑張ってきたのは俺が1番知ってる。予備予選だけど、予備予選だからこそ気合いも入れて山に合宿行ったんだもんな。全部見てきた俺だから言ってやる。今日は喜んでいい。これから頑張るのは今十分に喜びを噛み締めてからでいいんだ」
「はい……はい……!」
多分今の海未には俺に抱き付いてるという羞恥心よりも嬉しさの方が上回っているんだろう。じゃないと海未が俺にこんな事してくるなんて思えない。それにここに穂乃果達がいればそっちに行ってただろうしな。代役だけど、俺は俺で役得だと思おう。
……この状況誰かに見られたら中々にヤバイなこれ。
――――――――――――――――――――
ところ変わって屋上。
すっかりメンバーも練習着に着替えてスイッチを切り替えたようだ。
あのあと海未も落ち着きを取り戻したはいいが、顔を真っ赤にしてそそくさと離れてしまった。いつもなら殴るなり何なりしてくるから少し俺もやりづらさがあった。……殴られ慣れてる俺ってば一体……。
「最終予選は12月。そこでラブライブに出られる1チームが決定するわ」
「次を勝てば念願のラブライブやね」
「でも、A-RISEに勝たなくちゃいけないなんて……」
そう、予備予選を突破したのはいいが、最終予選でA-RISEとぶつかるのは確実だ。おそらくラブライブ決勝よりもハードルは高いかもしれない。それでも予備予選を突破した以上はやるしかない。
「今は考えても仕方ないよ! とにかく頑張ろう!」
「やれるだけの事をやって突破できたんだ。なら今度もやれるだけの事をやればいい」
「その通りです。そこで、た……拓哉君と絵里と話し合ったのですが、来週から朝練のスタートを1時間早くしたいと思います!」
おい海未さんや、何気にそこでどもるのやめてくださいませんかね。正面にいる穂乃果が疑問符浮かべてるしことりに至っては真顔で俺を見てきてるから。謎の恐怖が溢れすぎてるぞ。
「ええ~起きられるかな~……」
「これは絵里と2人で出した結論ですが、この他に日曜日には基礎のおさらいをします」
なん……だと……!? おい待てそんなの聞いてねえぞ俺。日曜まで練習あるとかさすがにそれはちょっとあんまりじゃないですかね!!
「あの、海未さん? 絵里さん? 熱心なのはとても良き事なのですが、日曜くらいはせめて休みを入れても良いん―――、」
「どうせ拓哉は家でゲームかマンガ見てるだけでしょ? なので拓哉の意見は却下」
「あァァァんまりだァァアァ!!」
思わずジョジョ的なエシディシ的な声を出してしまう。
俺にとってアニメゲームマンガを家でのんびりしながら見ている時が1番の至福の癒しだというのに……どうすればいいんだ……。
「これもA-RISEとぶつかる時のためを思っての事なの、分かって。ね?」
「おうよ。思う存分付き合ってやるぜ」
「ちょろいな拓哉君」
うるせえ聞こえてるぞ希。絵里に甘いボイスであんな事言われたら即答するに決まってるでしょうが。ずっと甘いボイス囁いていてほしいわ。するとほら、簡単に堕とされますよ拓哉さん。
「とにかく、練習は嘘をつかない。けど、ただ闇雲にやればいいというわけじゃない。質の高い練習を、いかに集中してこなせるか。ラブライブ出場はそこにかかっていると思う」
確かに絵里の言う通りだろう。
練習は嘘をつかないとはよく言うが、実際はそうではない。練習するにしても、どういう練習をするか、効率の良い練習は何かなど、頭を使って練習する事が前提条件に含まれている。
絵里はそこもちゃんと理解しているようだから安心できる。
俺の日曜日が失われるのは残念ではあるが、こいつらのためだと思えばまあ我慢もしようと思える。
「じゃあみんないくよー! みゅー―――、」
「待って!」
気合いの入った穂乃果が声を上げようとしたところでことりが制止する。
「誰か1人足りないような……」
言われてみんなが周りを見渡す。
俺も見渡してみる。……うん、いないね、あのツインテール。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん、絵里ち、花陽ちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん」
「全員いるよー!」
「なーんだ、では! 改めて!」
「いやいやちょいちょいちょいちょい」
何だこいつら普通に練習始めようとしてやがる。鬼か、さては新手のイジメだな? そんなの拓哉さんが許しません事よ!!
「何、たくちゃん?」
「にこ」
「……え?」
「矢澤にこ」
「「「「「「「「……、」」」」」」」」
「やざーわにーこ」
何故か、8人の顔が固まったような気がした。
「「「「「「「「にこちゃんッ!!」」」」」」」」
「よーしそこに直れ貴様らァァァああああああッ!! 大事なメンバーを忘れるなんてこの拓哉さんが渾身の説教してやらァァァああああああッ!!」
さて、いかがでしたでしょうか?
海未と絵里が可愛かったです。絵里に甘い囁きされたいですな。天に召されてもいい……。
来週から本格的に矢澤家編スタートです。
いつもご感想高評価ありがとうございます!!
これからもご感想高評価お待ちしております!!(重要事項)
最近色んな二次小説に手を出したいと思ってしまっている……。
ただでさえ執筆時間ないのに←