ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~   作:たーぼ

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明けましておめでとうございます。
今年もこの作品共々よろしくお願いいたします。

山合宿編最後です!


では、どうぞ。




90.答え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、拓哉くん」

 

「おう、花陽か」

 

 

 

 

 

 テントの外で美味しい空気を吸っていると花陽が戻ってきた。

 ちなみに俺の穂乃果に対する絶叫は、ことりに後ろから抱き付かれて止められるという大変役得な感触を味わえたので満足しております。素晴らしきかなおっぱい。

 

 

 

 ちなみに穂乃果はまだ寝ている。いつまで寝れば気が済むのだろうかあいつは。夜寝れなくても知らんぞ。……いや、あいつは昔からどれだけ寝ても夜は眠ろうと思えばいつでも寝れるヤツだったな。地味にすげえ。

 

 

「花陽ちゃん、お帰り~」

 

「ただいま、ことりちゃん。調子はどう?」

 

 テントから出てきたことりが笑顔で迎える。仕事からの帰りをこんな新妻に迎えてほしい人生だった。これだけで俺はきっと昇天して成仏するだろう。何せ相手は天使なのだ。喜んで召される。

 

 

「うんっ、一息ついたら少しイメージが湧いてきたよっ。……あれ、それは?」

 

「花、か?」

 

「……綺麗だなって思って。同じ花なのに、1つ1つ色が違ったり、みんなそれぞれ個性があるの。今回の曲のヒントになるといいなっ」

 

「ありがとう、花陽ちゃん!」

 

 確かに同じ種類の花となれど、多少色の濃さが違ったりほんの少し形が違っているのも多いのはよく見る。だが、そんないつも見ているから気付けなくて同じように見えるものでも、少しの違いさえ分かってしまえば印象も徐々に変わってくるというものだ。

 

 同じ女子高生。同じグループ。だけど見た目はもちろん性格もバラバラなμ's。まとまっていないようでまとまっている。それもそれぞれがちゃんと個性を持っているからだ。この花のように、同じ(グループ)なのに色や形が変わっているように。

 

 

「そういえば、穂乃果ちゃんは?」

 

「……あ、あはは~、穂乃果ちゃんなら……」

 

「寝てるよ、その中でぐっすりとな」

 

 リーダーが真っ先に戦力外になってどうすんだまったく。寝れるなら俺だって寝たいくらいだってのに気楽なもんだこいつは。

 

 

「まあ、この山の空気も美味しいし、運動したあとなら風だって心地良いから眠くなっちゃうのは、分かるかな」

 

「にしても寝すぎだろ穂乃果の場合は……。いつ寝ても気持ち良さそうにしか寝ないからな、ある意味すげえわ」

 

「……、」

 

「……ことり?」

 

 ふと急にだんまりを決め込んだことりが気になって声をかける。何だか目がウトウトしているように見えたのは気のせいだろうか。

 

 

「……ふぇっ!?あ、うんっ、穂乃果ちゃんが眠くなっちゃうの、私も分かるな~なんて……」

 

「ことりも花陽も分かるのか……」

 

 何だ、女の子は山に来たら眠くなる作用でもあるのだろうか。……穂乃果の場合は常にだと思うけど。でも確かに女の子はこういう爽やかな場所に来ると寝転んだりしたくなるのかもしれない。それでそのまま気持ちよくうたた寝するとか。

 

 

「た、たっくん!そろそろ海未ちゃん達のところに行く時間じゃない?時間的にも今から行った方がいいと思うんだけどな~……」

 

「ん?ああ、それもそうだな。じゃあそろそろ俺は行くわ。……必要なら穂乃果起こしてから行―――、」

 

「大丈夫っ!大丈夫だから、行って?あとは私達で進めるから!」

 

「お、おう……?」

 

 何だか背中を押される形で急かされてしまった。もしかして気を遣ってくれてるのだろうか?……あれ、何かことりがぽけ~っとしてない?気のせい?アイデアでも浮かびそうなのだろうか。

 

 

「拓哉くん、凛ちゃん達はあそこら辺を登って行けば大丈夫だと思うよ」

 

「ん、おう、分かった。んじゃまたな」

 

 まあ大丈夫だろ。最悪穂乃果1人寝ていてもことりと花陽の2人ならしっかりしているし心配の必要もなさそうだ。軽く手を振ると花陽も手を振って返してくれた。ことりは……あれ目開いてんのか?目閉じながら手振ってない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何故か俺は山を歩いている。

 

 

 

 

 いや、少し表現が違うか。

 正しくは山を登っている。……何で?

 

 海未の班は作詞をする班のはずだ。つまり作曲と同じようにどこかに移動してイメージを沸かすような事はあまりしなくていいはずなのだ。もちろん歌詞を書く際は色んな場所へ行ってふと出てきたフレーズをメモするという事はよく聞くが、それにしてもこの移動距離は異常だ。

 

 ちなみにこの山にはそこかしこに電波塔があるから携帯での連絡は簡単にとれる。西木野家は一体どこを目指しているんだろうか。この山地ほぼ全域に電波が届いているかもしれない。

 

 

 あるからにはそれを利用しない手はなくて、海未に電話をしたのだが出ず。その直後に海未からメールが来たがその文面には『電話は出られません。連絡があるならすべてメールでお願いします』とだけ書かれていた。いや電話くらい出ろよ……。

 

 希と凛に電話をしても出ずにメールすら来ない。作詞するだけなのに一体何をしているというのか。

 一応時々返ってくる海未からのメールで大体の場所を教えてもらいながら登山中である。……いや、というか、

 

 

 

「マジで何でこんなとこまで来てんだ俺……」

 

 思わず声が漏れ出てしまう。当初予想していたイメージと全然違うんだけど。作詞ってもっとゆっくりウォーキングでもしながらふと出てきたフレーズをメモするようなものじゃないんですかね……。

 

 気付けば陽も傾き始めていてもう夕方である。こりゃちょっと早く合流しないとまずいかもな。夜になっても合流できなかったらさすがの俺も1人じゃどうにもできないぞ。サバイバル経験はないです。

 

 そんなわけで移動スピードを上げていく。海未のメールによると、もうそろそろ合流してもいい頃だとは思うのだが、海未達のスピードは速いのだろうか。

 つうか結構な岩場が続いてんだけど。何これ、もはやちょっとした修行じゃねえか。大丈夫なのかあいつら?何も起きてないといいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と。

 岩場を進んでいた時だった。

 

 

 

 海未達がいた。

 それはいい。いいのだが。何か傾斜が半端ないんだがあそこ。むしろ垂直に近いと言った方がいいのではないだろうか。そんなとこを海未達は登っている。いや、登ろうとして凛が悲鳴を上げている。

 

 

「にゃァァァあああああああああああああああああああああッ!!」

 

「凛!!絶対にこの手を離してはなりません!死にますよッ!!」

 

「いやー!!今日はこんなのばっかりにゃーッ!!!!!!」

 

「ファイトが足りんよー!!」

 

「いや普通に危ねえよ!!死ぬ気かお前らは!?」

 

「あ、拓哉君。いつの間に来てたん?」

 

「たった今あそこから不安定な足場を無視して全速力でダッシュしてきたんだよ!!」

 

 何でこんな状況になってんだこいつら!作詞するはずだよな!?何がどうなったら作詞から登山修行に目的が変わるんだッ!やっぱこの班不安だったの当たってたじゃねえかちくしょーう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか全員で登りきる事ができた。

 作詞作りで死に掛けるなんて思ってもいなかった。川にダイブした時よりちょっと覚悟したぞ。

 

 

「雲がかかってきた……。山頂まで行くのは無理やね……」

 

「そんな……ここまで来たのに……!」

 

 山頂まで行くつもりだったのかよ持たねえよ合宿終わっちまうよ。

 

 

「うぅ~……酷いにゃ!凛はこんなとこ全然来たくなかったのにー!!」

 

 まったくの同感である。

 何が悲しくて合宿で登山しなくてはならないのか。

 

 

「仕方ありません。今日は明け方まで天候を待って、翌日アタックをかけましょう。山頂アタックです!!」

 

「まだ行くの~!?」

 

「当然です!何しにここに来たと思ってるんですか!!」

 

「作詞に来たはずにゃ~……!!」

 

「……ハッ!?」

 

「まさか忘れてたの!?」

 

「おい……海未……?」

 

 今完全に思い出したような顔と口ぶりだったよな。まじで登山楽しんでたよな。1人だけレッツ登山トライ気分満々だったよな。完全装備だもの。自分だけ登山しにきたかのようなフル装備だもの。確実に1番浮かれてるんだもの。

 

 

「そ、そんな事ありません!山を制覇し、成し遂げたという充実感が創作の源になると私は思うのです!」

 

 こいつ今思いっきり即興で嘘言いやがったな。凛は誤魔化せても幼馴染の俺は誤魔化せないぞ。主にお前の頬に流れている汗が冷や汗だって事は既に分かっているんだからな。

 

 

「まあまあ海未ちゃん。気持ちは分かるけど、ここまでにしといた方がいいよ」

 

「ですが……」

 

「山で1番大切なのは、何か知ってる?チャレンジする勇気やない、諦める勇気。分かるやろ?」

 

「希……」

 

 やっとまともな事を言ったか。希は真面目な時は納得させるかのような言葉を出してくれるのに、普段は面白がってノッてくるからタチが悪い。でもまあ、だからこそ真面目になると分かりやすい事もある。今の希がそう言うなら本当なんだろう。

 

 

「凛ちゃん、拓哉君、下山の準備。晩ご飯はラーメンにしよ」

 

「ほんとぉ!?」

 

「下に食べられる草がたくさんあったよ。拓哉君も手伝って」

 

「え、あ、おう」

 

 突然の指名に返事が少し遅れた。食べられる草がたくさんあったって、登山中に見つけたって事だよな?岩場にはそんなに野草はなかったから森の中だろうか。

 にしても、

 

 

「それにしても、こんな事まで詳しい希って……」

 

「謎にゃー」

 

「博識ってレベル超えてないかあいつ……。まじでスピリチュアル少女って言われてもそろそろ納得してしまいそうだぞ……」

 

 そう言いながら3人で希を追いかける。

 ……そういえば下山に晩飯の準備って事は、あのそれなりに険しい岩場を今度は下っていかないといけないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はあ……はあ……」

 

 最初に言っておくが決して興奮しているわけではない。

 希にこき使われ色んな野草を取りに行かされた挙句、まあ当然と言えば当然なのだがラーメンを3人前しか持って来ていないと言われ何も食べないまま1人で山を下りている最中なのだ。

 

 山の夜は危険だからあまり出歩かない方が良いのだが、ある程度は下山もしたし真姫んとこの私有地だから害獣もいないだろうと思っての事だ。というかあの班にいるとまた疲れそうで内心ちょっとだけホッとしているのは多分気のせいだろう。

 

 

「……ん、あれは」

 

 歩いていると先の方からオレンジのような灯りがぼうっと見えた。

 あの方向は確か……、

 

 

 

「よお、やっぱ絵―――、」

 

「びゃァァァああああああああああああああああッ!?」

 

「……、」

 

「ああ、拓哉か。気にしないで、どうやら絵里は暗いとこが苦手というか、臆病らしいから」

 

 いやそれにしてもだろ。いきなり声かけた俺も悪いと思うが、さすがにここまで涙目になって怯えた目で見られると傷付くぞ。……そういや合宿の時に苦手って言ってたな。

 

 

「それで、何しに来たの」

 

「海未の班にいるのは色んな意味で疲れるから帰ってきたとこだ。直球で言うと腹減ったから撤退」

 

「自分の欲に忠実ね……」

 

 そりゃそうだ。目の前でラーメンの匂いを漂わせられたら男の俺への精神ダメージが大きすぎる。食欲の獣になるとこだったんだからな。男子高校生の食欲を舐めてはいけない。

 

 

「う、うぅ……」

 

「あー、ほら、せっかくさっき出てきたのに焼き芋持ったまままたテントの中に戻っちゃったじゃない」

 

「え、俺が悪いの?全体的に俺が悪者扱いなの?というか何焼き芋食ってんだ俺にも食わせろ」

 

「嫌よ。だって3本しか持ってきてないんですもの。食べたかったらさっさと別荘に戻ることね」

 

「う、うわああああああああああああああああんっ!!覚えてろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 ちくしょう、どいつもこいつも俺のだけ用意してないの酷すぎだろ!せめて魚肉ソーセージ1本くらいは持っててくれてもいいんじゃないの!拓哉さんだけ飯テロ喰らいすぎてもうグロッキー状態なんですからね!!

 

 

 

 負け惜しみの言葉だけを叫んで俺は別荘へ逃げ帰るように走り出す。

 その瞬間、テントの中から絵里の短い悲鳴が聞こえた事は忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時間が進むのは意外と早かった。

 それもそうだろう。

 

 

 今この別荘に拓哉以外はいない。

 メンバーはそれぞれ班に分かれて外で作業をしているのだからと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

「……っ、んぁ?」

 

 下の方からピアノのメロディが聴こえると同時に目が覚める。

 夕飯を食べ終わってから自分用に用意されていた部屋のベッドで寝てしまっていたのだろう。

 

 時計を見ればもう深夜を指していた。

 この時間に作業しているのは褒められた事ではないが、寝起きの拓哉でも分かるほどに聴こえてくるピアノの音は綺麗なものだった。ピアノを弾く人間なんて1人しかいない。

 

 うるさくしないようにゆっくりと部屋を出て階段を下りていく。

 やはり真姫がピアノを弾いている。そして、その他にもメンバーはいた。

 

 

(海未、ことりも……)

 

 作曲、作詞、衣装、その担当をしているメインの3人が今、真剣に、けれど悩みの顔も見せずスラスラを手を進めている。

 昼とは明らかに違うのは表情が示していた。

 

 3人の中にあった悩みはもう解決したのだろう。

 1人1人ではどうにもならなかったかもしれない。ずっと悩んでいただけだったかもしれない。だけど、それも仲間がいるなら違ってくる。自分じゃ解けない問題を解いてくれる。

 

 

(……やっぱ強くなってるじゃねえか、みんな)

 

 素直に拓哉はそう思う。

 以前とはまるで違う。そう思わせてくれるかのように彼女達は、μ'sは成長している。これまでのように拓哉が必要以上の介入をせずとも、自分達でできる事はちゃんとできている。

 

 心配もあった。

 A-RISEにも負けないなんて自分の過信だったのかと思ってしまった時もあった。

 でも、それも過信ではなくなってきたのかもしれない。

 

 危機感よりも安心感の方が大きくなっているのが分かる。

 絶望よりも希望の方が満ちてきたと確信しているのもある。

 

 それぞれの答えが出ているのならそれでいい。

 今はそれを見なくても、その答えはステージで出してくれるだろうと思ったから。

 

 

 

 もう何も、言葉はいらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 岡崎拓哉はあえて真姫達に姿を見せず、ずっと物陰で腕を組みながらメロディを聴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝になって他のメンバーが別荘に戻ってくると、そこには気持ち良さそうに寝ている真姫達3人と、3人に毛布を掛けてから移動したのだろう。

 すぐそばにある椅子に座って静かに本を読んでいる拓哉の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果達が戻ってきたのを確認すると、本を閉じて立ち上がった少年は3人の少女が起きないよう、静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から忙しくなるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さて、いかがでしたでしょうか?


山合宿編はこれにてお終いです。
次回からはアニメで言うと3話『ユメノトビラ』ですぜ。


まず本当なら2日の月曜に更新したかったのですが、やっぱ年末年始は忙しいですね、時間がありませぬ←
そんなわけでちょいと遅れた投稿になりましたが、総合でいうと101話目です。
今年の抱負は2期の折り返し地点までは書く事!!


いつもご感想高評価ありがとうございます。
これからもご感想高評価お待ちしております!!




11日で2周年ですけど、特に何も予定していません←
1周年だけでいいかなと(笑)
むしろ2年続いてる事に自分で驚愕しています……。

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