腐った帝国を革命するため、革命軍が南方に本部を構えている。と、言っても私はそこに行ったことは無い。
私は生まれも育ちも帝都のスラム街で、帝都で暮らしてきた。
親の顔も知らないし、兄弟もいない。
いわゆる天涯孤独の身の上ってことだ。
だがそれは悲しいと思わないし、誰かに恥じることも悔いることもない。
私はこうして今生きているのだし、貧しくてもなんでも、生きることだけで面白いことがいっぱいなのだから。
スラムで生まれ育ったから、やはり権力を笠に着て虐げるような屑は総じて嫌いだ。いつのまにかそういう社会のクズ共を殴り殺している時に革命軍に声を掛けられた。
<あなたもこの国を変えてみたいと思わないか?>
<真に民たちが幸せに暮らせる国を作るために、革命軍に入ってみないか?>
そんな勧誘をされ、私はすぐに了承した。
自分が社会のドブさらいをすることで新しい国の役に立つなら、スラム街のみんなも暮らしやすい国になるなら・・・もちろん、自分の食い扶持を稼ぐためにもなる。
「ご苦労だったなレオーネ。任務の報酬だ」
「やった!ありがとね~」
「姐さん、貸してた金を返してくれない?」
ボスから受け取った給料に手を出そうとするラバックの手を掴んで強めに握る。
「あだだだだだっ!」
「だーめっ!私まだまだ借金あるからさー。次の給料もらったら返すよ」
「分かった!分かったから姐さんそんな握ったら俺指が折れぎゃあああああ!!!」
指は折れてないはず。ちょっとは手加減したのだ・・・風呂を覗いたときは半分本気でやるけどね。
ラバックもちゃんと仲間なのだからそのあたりを分かっているのだろう。
でも、こういうやりとりは結構好きだったりする。
「そんじゃ、私帝都に行ってくるよー」
「俺も貸本屋開けないとなー。革命軍の偵察部隊と打ち合わせもあるし」
「あたしもショッピングにでも行こうかしら」
「いってらっしゃいですー」
シェーレに見送られながら、ラバックとマインと共に帝都に向かう。
道すがらに雑談をしながら。帝都の広場で分かれた。
借金取りにお金を渡してから、残ったお金で賭博場へと向かった。本当なら賭博でパーッと稼ぎたかったが、いい加減に借金取りに渡しておかないと任務の時に支障があるかもしれないしね。
賭博である程度稼いで、ふらっと屋台に立ち寄った。
お腹も減ったし、お酒も飲みたい気分だ。眠たくなれば裏道で適当に寝ればいいだろう。
「ん?」
屋台に座っている人物に私は見覚えがあった。大きな河童の被り物をしていて、真っ赤なマントを付けている人物が屋台の前に座っていた。
「・・・よー」
「あぁ、レオーネ君か」
「天下のカッパーマンがまさかお酒を飲んでるとはねー」
「はは、そういう君こそこちらに来てもいいのかな?」
「あたしは今日はちゃーんと稼いだからね。自分のお金で飲むだけだよ」
被り物みたいな頭でよくもまぁお酒が飲めるものだ。
そんなことを思いながらすぐ横に座って、適当に自分もお酒やつまみを注文をする。
「いいのー?正義の味方がこんな場末の屋台でお酒飲んでさー」
「たまに飲みたくなるんだ。食べなくとも生きていける身体ではあるがな・・・こうして偶に飲み食いをしていないと、食べ方を忘れてしまいそうになる」
「ふーん・・・大変だね」
本当かどうかは分からないし、あまり突っ込んで聞きすぎるのも野暮な気がする。
千年前からいると言われてるし、本人もそう言っているらしいが・・・千年も生きる人間がいるのだろうか。
正義の味方だとかカッパーマンだとか言われてるが、体つきは人間のものと同じだし、頭は明らかに被り物めいている。
被り物の口が開いてお酒を飲んだりしているのは不思議だけれども・・・
「・・・前から聞きたかったんだけどさ」
「なんだね」
「もしかして頭の被り物とかスーツって帝具なの?」
「・・・帝具、とは違うね」
カッパーマンが少し間を置いて私の考えを否定する。
ボスやラバック達との間では「隠された帝具」だとか「帝具にならなかった不良品?」とか、まぁ色々考えていたのだ
「これは命の恩人がくれたものでね。ただ、これを着用する代わりに私は正義の味方になることを選ぶこととなった。自分では脱ぐことができなくなる呪いもあったがな」
「えっ、それって脱げないの?」
「あぁ。一つだけ方法はあるが、それ以外では脱げない。代わりにこうして正義の味方になれたのだから、私は満足だ」
「・・・正義の味方、ねぇ」
「幼い頃から憧れていてね。もちろん現実は厳しいが、それでも誰かを助けることができるならばかまわないさ」
お酒が入っているからか、それとも隠す気がないのか
こんなにも情報が入るとは思ってなかった。
「正義の味方なら、革命軍に入ろうって思わないの?」
「入らない」
「・・・なんで?今の帝国はクズが多すぎるし、正義の味方としてはやっつけなくちゃいけないんじゃないの?」
私の言葉にカッパーマンが私のほうへと視線を向ける。
「それだと帝国の者達を救えないだろう」
「帝国の奴らを救う?」
「正義の味方は、誰の味方でもない。だからこそ、平等に誰かを救うことができる。わたしにとっては帝国も革命軍も、救うべき相手だ。悪というのは組織に蔓延るものではない。誰しも心に抱えているものだ。組織で善悪を判断することは私にはできない」
「・・・本当に根っからの正義の味方ってやつか」
「・・・そんなものではないさ。私とて迷うことはある。間違っていることもあるだろう。それでも私は正義の味方になると決めたんだ。このスーツを着ている間は、ずっと」
そう言って、カッパーマンは立ち上がった。
「さて、私はそろそろ行くとしよう」
「もう行くの?」
「あぁ・・・話をしてくれてありがとう、レオーネ君」
「こちらこそ」
思ったよりも真面目だったというか・・・生きにくそうだなぁ
千年生きてきたというのも案外本当なのかもしれない
・・・でも、あのスーツを脱がすことができる方法が一つだけあるのか。どんな方法なんだろう。
ナイトレイドのアジトに帰ったら、またみんなで話してみよう
そう考えながら、屋台の店主に酒のおかわりを頼んだ。
ロッドバルト「更新がかなり空いていますが、まぁ不定期連載ですからね・・・わりと短く締めることも視野に入れているとかなんとか。まぁ、チート系キャラなんて勝つのが目に見えて分かってしまいますからね。なるべくはサブキャラメインでオムニバスにしたほうが良いでしょう。ではでは、次回もお楽しみに」